第五十七話「いつの間にこんな実力差がついたんだろうか」
古代樹の守護者が俺たちの前に立ちはだかっている。
樹齢数百年はありそうな巨大な木の化物で、太い幹から無数の枝が伸び、それぞれが武器のように動いている。
「気をつけて、タクヤ」
エリカがルナライトを構える。
「あれの攻撃パターンを見極めましょう」
古代樹の守護者が最初の攻撃を仕掛けてきた。
太い枝が鞭のように俺たちに向かって振り下ろされる。
俺は慌てて瞬間移動で回避しようとしたが―
「遅い! 『月光剣技:宵月』!」
エリカが俺の前に出て、ルナライトでその攻撃を受け流した。
月光が走り、枝が切断される。
そのスピードと技術に、俺は唖然とした。
「エリカ…」
「ボーッとしてないで!」
エリカが俺に叫ぶ。
「左から来るわよ!」
言われて振り返ると、確かに別の枝が俺を狙っている。
俺は急いで瞬間移動で距離を取った。
しかし、エリカの動きは俺よりもはるかに早く、正確だった。
彼女は守護者の攻撃を完璧に読み取り、最小限の動きで回避し、反撃している。
俺はその動きについていくのが精一杯だ。
「火の魔法よ!」
エリカが指示する。
「あの幹の中心を狙って!」
「『火魔法:ファイヤーボール』!」
俺は言われた通り炎の球を放つが、狙いが微妙にずれてしまう。
エリカが舌打ちした。
「もう一度!今度はもっと集中して!」
「『火魔法:パイロブラスト』!」
俺は必死に魔法を唱え直す。
今度は何とか命中したが、威力が足りない。
「弱すぎるわ」
エリカが呟く。
そして彼女自身がルナライトに魔力を込めて、巨大な月の刃を放った。
「『月光剣技奥義:蒼月疾斬』!」
その一撃で、守護者の幹に深い傷が刻まれる。
「すげぇ…」
俺は感嘆せずにはいられなかった。
エリカの実力は、俺が思っている以上に高い。
Aランク冒険者としての実力を、まざまざと見せつけられている。
一方で俺は、まだCランクの実力しかない。
俺もエリカは同時に冒険者になったはずだ。
それなのに、いつの間にか開いた差は想像以上に大きかった。
「タクヤ、集中して!」
エリカの声で我に返る。
守護者が怒り狂って、無数の枝を一斉に振り回している。
俺は瞬間移動を連続で使って回避するが、魔力の消耗が激しい。
息が上がってきた。
「くそ…」
俺の動きが鈍くなったその時、一本の枝が俺の頬を掠めた。
鋭い痛みが走り、血が流れる。
「タクヤ!」
エリカが俺を庇うように前に出る。
しかし、俺は諦めなかった。
エリカに迷惑をかけるわけにはいかない。
俺だって、彼女の役に立ちたい。
「まだだ!」
俺が気力を振り絞る。
瞬間移動で守護者の死角に回り込み、今度こそ確実に炎の魔法を放つ。
「『瞬間移動剣技:火遁疾斬』!」
狙いは守護者の根元。
そこが一番脆そうに見えた。
炎が根に燃え移り、守護者が苦しそうにのたうつ。
「今よ! 『月光剣技奥義:幻月葬牙』!」
エリカが最後の一撃を放つ。
ルナライトの月光の刃が、守護者の幹を貫いた。
古代樹の守護者がゆっくりと倒れていく。
「やった…」
俺が膝をついて息を整える。
頬の傷が痛むが、勝利の達成感の方が大きい。
「お疲れ様」
エリカが俺の傷を心配そうに見る。
「大丈夫?」
「かすり傷だ」
俺が立ち上がる。
「それより、エリカの実力に驚いた」
「やっぱりAランクは格が違うな」
「そんなことないわ」
エリカが首を振る。
「あなただって、最後はちゃんと活躍したじゃない」
「あの炎の魔法がなければ、私一人では勝てなかった」
エリカの優しさが身に染みる。
俺の実力不足を責めるどころか、励ましてくれている。
「ありがとう、エリカ」
俺が心から感謝する。
「君がいてくれて良かった」
「私も」
エリカが微笑む。
「あなたと一緒に戦えて嬉しかった」
守護者の奥に、宝物庫があった。
そこには確かに『生命の首飾り』があり、他にも貴重な魔石や武器が眠っている。
「すごい財宝ね」
エリカが目を輝かせる。
「これを売れば、当分お金には困らないわ」
「そうだな」
俺が戦利品を袋に詰める。
「まずは村に戻って、換金してもらおう」
迷宮から出ると、外はもう夕方だった。
ヴェリア大陸の美しい夕日が、森を染めている。
「綺麗ね」
エリカが俺の腕に寄り添う。
「こんな夕日、久しぶりに見る気がする」
「確かに」
俺もエリカの温もりを感じながら答える。
「最近は戦いばかりで、こういう平和な時間がなかった」
「今夜は」
エリカが上目遣いで俺を見る。
「二人だけで食事でもしない?」
「二人だけで?」
俺の心臓がドキドキする。
「でも、みんなが心配するんじゃ…」
「一晩くらい大丈夫よ」
エリカがいたずらっぽく微笑む。
「せっかく稼いだお金で、美味しいものを食べましょう」
村に戻ると、俺たちは戦利品を商人に売却した。
予想以上の高値で売れ、金貨袋が重くなる。
「こんなにもらっていいのかしら」
エリカが嬉しそうに言う。
「久しぶりにお金持ちになった気分」
「たまにはいいだろう」
俺が笑う。
「今夜は贅沢しよう」
俺たちは村で一番高級なレストランを予約した。
エルフの料理は野菜中心だが、魔法で調理されているため絶品だ。
「美味しい」
エリカが幸せそうに微笑む。
「こんなに贅沢な食事、いつぶりかしら」
「俺もだ」
俺がワインを口に含む。
エルフのワインは、まろやかで深い味わいがある。
「エリカ」
俺が改めて彼女を見つめる。
「今日は本当にありがとう」
「何を急に」
エリカが首を傾げる。
「迷宮で、君に助けられてばかりだった」
俺が正直に言う。
「俺の実力不足を痛感したよ」
「そんなこと」
エリカが俺の手を取る。
「気にしなくていいのよ」
「でも…」
「タクヤ」
エリカが真剣な表情で言う。
「あなたは私より強いものを持ってる」
「強いもの?」
「優しさよ」
エリカが俺の目を見つめる。
「あなたの優しさは、どんな魔法よりも強力」
「みんながあなたを慕うのは、その優しさがあるから」
「私だって、あなたのその優しさに救われた」
エリカの言葉に、俺の胸が温かくなった。
「ありがとう」
俺がエリカの手を握り返す。
「君にそう言ってもらえると、自信が持てる」
「本当のことよ」
エリカが頬を染める。
「それに、あなたと一緒にいると安心するの」
「どんなに強い敵が相手でも、あなたがいれば大丈夫って思える」
俺は改めて、エリカへの愛情を確認した。
彼女は美しく、強く、そして何より俺を愛してくれている。
「エリカ」
俺が彼女の名前を呼ぶ。
「俺も君を愛してる」
「心から」
「私も」
エリカが涙ぐみながら微笑む。
「あなたを愛してる」
俺たちは手を繋いで、星空の下を歩いた。
ヴェリア大陸の夜空は、他の大陸よりも星が美しい。
まるで宝石をちりばめたようだ。
「綺麗ね」
エリカが空を見上げる。
「こんな夜に、あなたと一緒にいられて幸せ」
「俺も」
俺がエリカを抱き寄せる。
「君と一緒なら、どこにいても幸せだ」
俺たちは宿に戻り、久しぶりに二人だけの夜を過ごした。
◇◇◇
―ルナ視点―
私は庭で、ミミが現地の子供たちと遊んでいるのを眺めていました。
リオネルを腕に抱きながら、微笑ましい光景を見守っています。
「ミミちゃん、上手ね」
エルフの少女がミミに声をかける。
「この遊び、初めてなのに」
「ミミ、がんばる!」
ミミが元気よく答えます。
エルフの子供たちとすっかり仲良くなって、言葉の壁も感じさせませんり
子供同士の友情は、本当に純粋で美しいです
「ルナ」
母が私の隣に座ります
「ミミちゃん、いい子ね」
「はい」
私が頷きます。
「あの子は本当に素直で、みんなに愛されるんです」
「タクヤさんの影響かしら」
母が優しく言う。
「あの方も、とても優しい目をしてる」
「そうですね」
私がリオネルを見下ろします。
この子も、きっとタクヤさんのような優しい人に育つでしょう。
「ねえ、お母様」
私が母に話しかけますり
「私、今とても幸せなんです」
「そう」
母が微笑みます。
「それが何よりね」
「タクヤさんがいて、エリカさんやミミちゃん、みんながいて」
私が幸せを噛みしめます。
「この子も生まれて、家族も受け入れてくれて」
「本当に、夢のようです」
庭で遊ぶミミを見ながら、私は想像します。
いつか、ミミと私の子供が一緒に遊ぶ日を。
そして、エリカさんの子供も一緒に。
みんなで大きな家族になって、子供たちが笑い合っている光景を。
「きっと素敵でしょうね」
私が呟きます。
「何が?」
母が尋ねます。
「みんなの子供たちが、一緒に遊んでいる姿」
私が夢見るように言います。
「ミミちゃんと、リオネル、それにエリカさんの子供も」
「きっと賑やかで、温かくて」
「そうね」
母が頷きます。
「きっと素晴らしい光景になるでしょう」
「でも、まずはエリカさんに赤ちゃんが生まれないとね」
「はい」
私が頷きます。
エリカさんも、きっと素敵なお母さんになります。
強くて美しくて、でもとても優しい。
タクヤさんとの子供は、きっと愛情いっぱいに育つでしょう。
「あら」
母が何かに気づきます。
「ミミちゃん、すっかり人気者ね」
見てみると、エルフの子供たちがミミを囲んで、何やら楽しそうに話しています。
ミミは相変わらず元気いっぱいで、みんなを笑わせいますり
「本当ですね」
私が微笑みます。
「あの子は、どこに行っても愛されるんです」
「それは、彼女の心が純粋だからよ」
母が言います。
「純粋な心は、どんな人にも伝わるものです」
その通りだと思いますり
ミミの無邪気な笑顔は、見ている人みんなを幸せにしてくれます。
私たちの家族に来てくれて、本当に良かったです。
「お母様」
私が改めて言います。
「私、本当に幸せです」
「こんなに幸せでいいのかって思うほど」
「それでいいのよ」
母が私の肩に手を置きますり
「あなたは長い間、辛い思いをしてきたのだから」
「今度は、幸せになる番よ」
母の言葉に、私の目に涙が浮かびました。
昔の私には想像もできなかったです。
こんなに多くの人に愛され、大切にされる日が来るなんて。
タクヤさんに出会えて、本当に良かったです。
あの人が私の人生を変えてくれました。
暗闇だった私の世界に、光をもたらしてくれました。
「ルナねぇ」
ミミが駆け寄ってきます。
「見て、見て」
ミミが小さな花冠を差し出します。
「エルフのお友達が作ってくれたの」
「素敵ですね」
私がミミの頭に花冠を乗せてくれます。
「とても似合ってる」
「えへへ」
ミミが嬉しそうに笑います。
そんなミミを見ていると、心が温かくなります。
この子の笑顔を守りたいです。
みんなの笑顔を守りたいです。
私たちの幸せな日々を、ずっと続けていきたいです。
リオネルが私の腕の中で、小さく声を上げます。
この子も、みんなに愛されて育つでしょう。
たくさんの愛情に包まれて、優しい子に。
「大丈夫ですよ、リオネル」
私が息子に語りかけます。
「あなたには、たくさんの家族がいるから」
「みんなが、あなたを愛してくれるから」
夕日が西の空に沈んでいきます。
美しい一日の終わりに、私は改めて思います。
今、私は最高に幸せです。
この幸せが、ずっと続いてくれることを祈りながら、私は家族の帰りを待っていました。




