表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/152

第五十五話「密輸への道」

とっくに20万字を超えていました。びっくりです。それと、本編も50話超えで嬉しいです。

これからも応援お願いします


 エリカの女王としての任期が終わった日、俺たちは緊急の家族会議を開いた。

 生後一ヶ月のリオネルを抱いたルナが、心配そうに俺を見つめている。


「もう時間がない」


 俺が深刻な表情で切り出す。


「雪菜と透がいつ本格的に動き出すかわからない」

「そうね」


 エリカが頷く。


「私の女王としての権力も失ったし、この国にいても守りきれないわ」

「でも、どこに行くんですか?」


 フェリス先生が尋ねる。


「セリア大陸に戻るにしても、あそこも危険だニャ」

「ヴェリア大陸に行こう」


 俺が提案する。


「ルナの両親に会わせに行くんだ」

「私の両親に?」


 ルナが驚く。


「でも、私はあそこに戻るのは好きじゃないです」

「リオネルを見せれば、きっとみんなの態度は変わる」


 俺がルナの手を握る。


「君の両親だって、孫の顔を見たいはずだ」

「それに、エルフの村なら安全だろう」

「そうだな」


 グロムが賛成する。


「エルフの村は外界から隔離されている」

「雪菜でも簡単には見つけられないだろう」

「でも、問題があるニャン」


 フェリス先生が困った表情を見せる。


「ヴェリア大陸に行くには、お金がかかるニャン」


「どのくらい?」


 俺が尋ねる。


「エストリア大陸からヴェリア大陸に直接行く船は、一人金貨20000枚だニャン」

「20000枚!」


 俺が驚く。


「それが八人分だと…」

「16万枚か」


 ガルドが計算する。


「とんでもない金額だな」

「そんなお金、どこにもないわ」


 エリカがため息をつく。


「女王の地位を失った今、私にはもう資産がない」

「俺たちの貯金を全部合わせても、せいぜい1万枚程度だ」


 俺が頭を抱える。


「どうすればいいんだ?」


 しばらく沈黙が続いた。

 みんなが必死に考えているが、良い案が浮かばない。


「あの…」


 ガルドが恥ずかしそうに手を上げる。


「密航という方法もある」

「密航?」


 俺が振り返る。


「以前、俺がやっていた仕事だ」


 ガルドが説明する。


「正規の船に隠れて乗るんだ」

「でも、そんなことできるの?」


 エリカが心配する。


「見つかったら大変なことになるわよ」

「確かにリスクは高い」


 ガルドが頷く。


「でも、他に方法がない」

「それに、俺には昔のコネクションがある」

「コネクション?」


 俺が興味を示す。


「港町ポートリヴィアンに、昔の仲間がいるんだ」


 ガルドが思い出すように話す。


「ルーカスという男だ」

「今は真面目に船乗りをやっているはずだ」

「その人が助けてくれるかしら?」


 ルナが不安そうに尋ねる。


「俺とは義兄弟の契りを交わした仲だ」


 ガルドが自信を込めて言う。


「きっと助けてくれる」

「でも、赤ちゃんがいるのに密航なんて…」


 フェリス先生が心配する。


「リオネルが泣いたら見つかっちゃうかもだニャン」

「その点は大丈夫だ」


 ルナが微笑む。


「エルフの赤ちゃんは、人間より泣き声が小さいんです」

「それに、私が魔法で音を消すこともできます」

「そうか」


 俺が決断する。


「やってみよう」

「本当に?」


 エリカが確認する。


「危険よ」

「でも、他に方法がない」


 俺が仲間たちを見回す。


「みんな、覚悟はいいか?」

「当然だ」


 グロムが力強く頷く。


「俺たちは家族だからな」

「どこまでもついていくニャン」


 フェリス先生も賛成する。


「アタシも一緒に行くニャン」

「ミミも!」


 ミミが元気よく手を上げる。


「みんなと一緒がいい!」

「ありがとう、みんな」


 俺が感謝を込めて言う。


「それじゃあ、明日の朝一番にポートリヴィアンに向かおう」

 こうして、俺たちの密航計画が始まった。




◇◇◇




 翌朝、俺たちは最小限の荷物を持って王宮を後にした。


 エストリア大陸の港町ポートリヴィアンまでは、馬車で二日の道のり。

 途中、野宿をしながらの旅路だった。


「リオネルは大丈夫?」


 俺がルナに尋ねる。


「はい」


 ルナが赤ちゃんを大切そうに抱いている。


「この子はとてもいい子です」

「全然泣かないし、よく眠ってくれます」

「それは良かった」


 俺が安堵する。

 密航において、赤ちゃんの機嫌は重要な要素だ。


「それにしても」


 エリカが呟く。


「まさか密航することになるなんて」

「女王だった私が、犯罪者みたいになっちゃった」

「一時的なことですよ」


 ルナが慰める。


「ヴェリア大陸に着いたら、もう心配ありません」

「そうだニャン」


 フェリス先生も励ます。


「みんなで乗り越えればいいニャン」


 二日後の夕方、俺たちはポートリヴィアンに到着した。

 相変わらず賑やかな港町だ。

 多くの船が停泊し、商人たちが荷物の積み下ろしをしている。


「ルーカスを探そう」


 ガルドが先頭に立つ。


「確か『海風亭』という酒場によく出入りしているはずだ」


 俺たちは港の酒場街に向かった。

 リオネルを抱いたルナは、フードを深く被っている。

 赤ちゃん連れだと目立つから、慎重にならなければならない。


 海風亭は、港の船乗りたちで賑わう典型的な酒場だった。

 店内は煙草の煙と酒の匂いが充満している。


「ルーカスはいるかい?」


 ガルドが店主に尋ねる。


「ルーカス?」


 店主が眉をひそめる。


「ルーカス・ブルーウォーターのことかい?」

「そうだ」

「あいつなら奥の席にいるよ」


 店主が親指で奥を指す。


「でも、機嫌が悪いから気をつけな」


 俺たちは奥の席に向かった。

 そこには、日焼けした中年の男が一人で酒を飲んでいる。

 筋肉質で、いかにも海の男といった風貌だ。


「ルーカス」


 ガルドが声をかける。

 男が顔を上げると、驚いたような表情を見せた。


「ガルド?」


 ルーカスが立ち上がる。


「お前、生きていたのか?」

「ああ」


 ガルドが苦笑いする。


「なんとかな」

「隻眼になったのか」


 ルーカスがガルドの傷を見つめる。


「大変だったんだな」

「まあな」


 ガルドが頷く。


「でも、今は幸せだ」

「そうか」


 ルーカスが俺たちを見回す。


「で、こいつらは?」

「俺の仲間だ」


 ガルドが紹介する。


「家族みたいなものだよ」

「家族ね」


 ルーカスが興味深そうに言う。


「お前が家族を持つとは思わなかった」

「人は変わるものさ」


 ガルドが微笑む。


「ところで、頼みがあるんだ」

「頼み?」


 ルーカスが警戒するような表情を見せる。


「まさか、昔のような仕事じゃないだろうな?」

「その通り、密航だ」


 ガルドがストレートに言う。


「ヴェリア大陸まで運んでもらいたい」

「密航!」


 ルーカスが声を上げそうになって、慌てて声を潜める。


「正気か?」

「今は真面目にやってるんだ」

「そんなことはできない」

「頼む」


 ガルドが頭を下げる。


「事情があるんだ」

「事情って何だ?」

「命を狙われているんです」


 俺が説明する。


「正規の手段ではお金がかかりすぎて、逃げられないんです」


 ルーカスが俺たちを見つめる。

 特に、ルナが抱いているリオネルに注目している。


「赤ん坊もいるのか」

「はい」


 ルナが静かに答える。


「この子を安全な場所に連れて行きたいんです」


 ルーカスがしばらく考え込んだ。


「俺は今、貨物船『ブルーファルコン号』で働いている」

「明日の朝、ヴェリア大陸に向けて出港する予定だ」

「それじゃあ!」


 ガルドが期待を込めて言う。


「いや、待て」


 ルーカスが手を上げる。


「簡単じゃない」

「船長は厳しい男だし、他の船員たちもいる」

「見つかったら、俺もクビになる」

「それは…」


 俺が困る。


「でも」


 ルーカスが続ける。


「お前との義理がある」

「やってみよう」

「ルーカス!」


 ガルドが感激する。


「ありがとう」

「礼はまだ早い」


 ルーカスが釘を刺す。


「成功してから言ってくれ」


 ルーカスが計画を説明し始める。


「明日の朝早くに、倉庫街の第三倉庫に来い」

「そこから荷物に紛れて船に乗り込む」

「荷物?」


 エリカが不安そうに言う。


「大きな木箱を用意する」


 ルーカスが説明する。


「その中に隠れてもらうんだ」

「赤ん坊がいるから、空気穴は多めに開けておく」

「でも、絶対に声を出すな」

「船が港を出るまで、完全に静かにしていろ」

「わかりました」


 俺が頷く。


「他に注意点は?」

「食事と水は持参しろ」


 ルーカスが続ける。


「最低でも四ヶ月は必要だ」

「それと、もし見つかったら、俺のことは知らないと言ってくれ」

「当然だ」


 ガルドが約束する。


「迷惑はかけない」


 その夜、俺たちは港近くの安宿に泊まった。

 明日への不安と期待で、なかなか眠れなかった。


「大丈夫かな」


 エリカが心配そうに呟く。


「見つかったらどうしよう」

「きっと大丈夫」


 ルナが赤ちゃんを寝かしつけながら言う。


「リオネルもいい子にしてくれるはずです」

「俺たちなら乗り越えられる」


 俺が仲間たちを励ます。


「今まで、どんな困難も一緒に乗り越えてきたじゃないか」

「そうニャン」


 フェリス先生が頷く。


「アタシたちは無敵だニャン」

「ミミもがんばる!」


 ミミが小さく拳を握る。

 翌朝、まだ暗い中を俺たちは第三倉庫に向かった。

 ルーカスが大きな木箱を用意して待っていてくれた。


「これに入ってくれ」


 ルーカスが木箱を指す。


「思ったより大きいね」


 エリカが安堵する。


「なんとか入れそうだ」


 俺たちは慎重に木箱の中に身を潜めた。

 リオネルを抱いたルナを中央に、他のメンバーがその周りを囲む。


「息苦しいけど我慢するニャン」


 フェリス先生が小声で言う。


「リオネル、いい子にするのよ」


 木箱の蓋が閉められ、俺たちは暗闇の中にいた。

 しばらくすると、箱が持ち上げられる感覚がある。

 恐らく、船に運ばれているのだろう。


「静かに」


 俺が仲間たちに囁く。

 ガタン、ガタンと揺れながら、俺たちは運ばれていく。

 そして、船の甲板に置かれたのか、海の匂いが強くなった。


 船員たちの声が聞こえてくる。


「この箱は何だ?」

「工芸品の輸出だそうです」


 ルーカスの声だ。


「ヴェリア大陸で高く売れるものらしい」

「そうか」


 船員が納得したようだ。


「じゃあ、船倉に運んでくれ」


 再び箱が持ち上げられ、船の内部に運ばれた。

 暗い船倉に置かれた俺たちは、じっと息を潜めて待った。

 やがて、船のエンジンが始動する音が響く。


「出港だ」


 俺が小声で報告する。

 船がゆっくりと動き始めた。

 港を出るまで、あと少しの我慢だ。


 リオネルは母親の腕の中で、静かに眠っている。

 本当にいい子だ。

 一時間ほど経った頃、ルーカスが木箱を開けてくれた。


「大丈夫か?」

「なんとか」


 俺たちがほっと息をつく。


「もう港からは十分離れた」


 ルーカスが安堵する。


「あとはヴェリア大陸まで四ヶ月の航海だ」

「ありがとう、ルーカス」


 ガルドが感謝を込めて言う。


「本当に助かった」

「礼はまだ早いって言っただろう」


 ルーカスが苦笑いする。


「ヴェリア大陸に着くまで、気は抜けない」


 こうして、俺たちの密航は成功した。


 少なくとも、第一段階は。




◇◇◇




 四ヶ月航海は、思った以上に順調だった。


 ルーカスが食事を運んでくれるし、他の船員たちも船倉には近づかない。

 リオネルも機嫌良く過ごしてくれている。


「もうすぐヴェリア大陸よ」


 エリカが期待を込めて言う。


「ルナの故郷ね」

「はい」


 ルナが不安そうに頷く。


「でも、私を受け入れてくれるかしら」

「大丈夫だ」


 俺がルナを励ます。


「リオネルがいるじゃないか」

「孫の顔を見れば、みんなも態度を変えてくれる」


 四ヶ月後の朝、ついにヴェリア大陸の港に到着した。


「着いたぞ」


 ルーカスが知らせてくれる。


「でも、下船は慎重にしろ」

「港には役人がいる」


 俺たちは再び木箱に隠れて、港に運ばれた。

 そして、人気のない倉庫で箱から出た。


「やっと着いた」


 俺が深呼吸する。


「ヴェリア大陸か」

「空気が違うニャン」


 フェリス先生が感想を言う。


「なんだか、魔法の匂いがするニャン」

「エルフの大地ですから」


 ルナが説明する。


「魔力が濃いんです」

「ルーカス」


 ガルドが古い友人に別れを告げる。


「本当にありがとう」

「いいってことよ」


 ルーカスが手を振る。


「お前が幸せそうで何よりだ」

「今度会う時は、正規の手段で来いよ」

「約束する」


 ガルドが笑う。


 俺たちは港を後にして、エルフの村を目指した。

 ヴェリア大陸は、確かに他の大陸とは違う雰囲気があった。

 森が深く、空気が澄んでいる。

 そして、魔法の気配が濃厚だ。


「懐かしい」


 ルナが故郷の空気を吸い込む。


「やっぱり、ここは私の生まれた場所ね」

「村まではどのくらい?」


 俺が尋ねる。


「徒歩で一日ほどです」


 ルナが答える。


「でも、途中でエルフの巡回兵に会うかもしれません」

「巡回兵?」

「エルフの領域を守っている兵士たちです」


 ルナが説明する。


「外部の人間を警戒しているので」

「でも、私がいれば大丈夫だと思います」


 案の定、夕方に巡回兵と遭遇した。

 エルフの戦士が三人、俺たちの前に現れた。


「止まれ」


 その中の一人が命令する。


「ここはエルフの聖域だ」

「人間は立ち入り禁止である」

「お待ちください」


 ルナが前に出る。


「私はルナ・ムーンライト」

「ムーンライト家の娘です」


 エルフの戦士たちが驚いたような表情を見せる。


「ルナ様?」


 その中の年配の戦士が確認する。


「本当にルナ様なのですか?」

「はい」


 ルナが頷く。


「セドリック」


 ルナが戦士の名前を呼ぶ。


「私のことを覚えていますか?」

「もちろんです」


 セドリックが深々と頭を下げる。


「でも、なぜここに?」

「里帰りです」


 ルナがリオネルを抱き上げる。


「この子を、両親に見せたくて」


 セドリックがリオネルを見つめると、目を見開いた。


「これは…ハーフエルフの赤ちゃん?」

「はい」


 ルナが誇らしげに答える。


「私の息子、リオネルです」

「おめでとうございます」


 セドリックが心から祝福する。


「美しい赤ちゃんですね」

「ご両親もお喜びになるでしょう」


 こうして、俺たちはエルフの案内を受けながら村に向かった。

 久しぶりに来たエルフの村は、想像以上に美しかった。

 木々と調和した建物群、清らかな川、そして空気中に漂う魔法の輝き。


「すごいな」


 俺が感嘆する。


「やっぱり夢の世界みたいだ」

「私の故郷です」


 ルナが嬉しそうに微笑む。


「みんなに紹介するのが楽しみです」


 村の中央に、一際大きな建物があった。

 ムーンライト家の屋敷だ。


「着きました」


 ルナが深呼吸する。


「私の実家です」


 俺たちは緊張しながら、屋敷の門をくぐった。

 果たして、ルナの両親はこんな大世帯を受け入れてくれるだろうか。


 そして、リオネルを孫として認めてくれるだろうか。

 すべては、これからの出会いにかかっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ