表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/152

第四十七話「なんで石化病なんて病気があるんだよ…っ!」


 エリカが女王になってから二か月が経った。


 俺たちは王宮での新生活にも慣れ、平穏な日々を送っていた。

 エリカは女王としての職務をこなしながらも、家族との時間も大切にしてくれている。


 ルナは女王の側近として、外交や内政の補佐を行っている。その知識と魔法の技術は、この国の発展に大いに貢献していた。

 ミミも王宮で健やかに成長し、言葉もかなり流暢になってきた。


「タクヤにぃ、きょうは、なにする?」


 朝食の席で、ミミが俺に尋ねてくる。


「そうだな、今日は街を見て回ろうか」

「うん! ミミ、がんばる」


 ミミが元気よく返事をする。


 そんな平和な朝のひとときが、突然崩れ去った。


「タクヤさん! 大変です!」


 ルナが慌てた様子で食堂に駆け込んできた。


「どうしたんだ?」


 俺が立ち上がると、ルナが自分の足を指差す。


「これを見てください」


 ルナの左足の指先が、わずかに灰色に変色している。


「これは…」


 俺が驚いていると、エリカも駆けつけてきた。


「ルナちゃん、どうしたの?」

「足が…変なんです」


 ルナが震え声で答える。


「昨夜から、感覚がおかしくて」

「すぐに医者を呼びましょう」


 エリカが即座に判断する。

 王宮付きの医師がすぐに呼ばれ、ルナの診察を行った。


「これは…」


 医師が深刻な表情を見せる。


「ルナさん…席を外してもらえますか?」

「…わかりました」


 医師が伝えると、ルナにそう伝えた。

 ルナは不安そうに部屋から出ていった。


 そして、医師は言いにくそうな顔をする。


「どうでしたか?」

「石化病ですね」

「石化病?」


 俺が聞き返す。


「どんな病気ですか?」


 医師が重い口を開く。


「足の先端から始まり、徐々に全身が石のように硬くなっていく病気です」

「治療法はあるんですか?」


 エリカが必死に尋ねる。

 医師が首を振る。


「申し訳ありません。この病気に対する有効な治療法は…現在のところ見つかっておりません」

「そんな…」


 エリカが青ざめる。


「では、ルナちゃんは…」

「進行を遅らせる薬はありますが」


 医師が申し訳なさそうに続ける。


「根本的な治療は…」


 医師の言葉に、俺は絶望的な気持ちになった。

 ルナが…俺の大切な妻が…


「どのくらい時間があるんですか?」


 俺が震え声で尋ねる。


「個人差がありますが…」


 医師が躊躇する。


「通常、発症から三ヶ月程度で…」


 三ヶ月。

 あまりにも短い時間だった。


「そんな…」


 俺の足に力が入らない。


 その時、ルナが扉から顔を覗かしていた。そしてルナが俺たちを見て微笑んだ。


「どうでしたか?」


 ルナが明るく言う。


「どんな病気でもきっと治りますよね」

「ルナちゃん…」


 エリカが涙をこらえる。


「そうね、きっと治るわ」


 エリカがルナに嘘をつく。


「私が女王の権限で、最高の医師を呼ぶから」

「ありがとうございます、エリカさん」


 ルナが安心したような表情を見せる。

 だが、俺たちには医師の言葉の重さがわかっていた。


 現在の医学では治せない病気。

 それが石化病だった。

 その夜、俺たちはルナを除いてエリカの執務室に集まった。


 エリカ、俺、グロム、ガルド、透、ミア先生、そしてミミ。


「どうしましょう…」


 エリカが机に突っ伏す。


「ルナちゃんが…」

「本当に治療法はないのか?」


 グロムが悔しそうに拳を握る。


「何か方法があるはずだ」

「でも、医師がああ言うってことは…」


 透も落ち込んでいる。


「ルナちゃん…」


 ミミも状況を理解しているのか、悲しそうな顔をしている。


「ミミ、かなしい」

「みんな悲しいよ、ミミ」


 俺がミミを抱きしめる。

 その時、エリカが泣き崩れた。


「私のせいよ…」


 エリカが自分を責める。


「私がルナちゃんに無理をさせたから…」

「エリカのせいじゃない」


 俺がエリカを慰める。


「誰のせいでもない」


 だが、俺たちにできることは何もなかった。

 ただ、ルナの前では明るく振る舞い、彼女に心配をかけないようにするだけだった。


 みんなで泣き続けていると、突然執務室の扉が開いた。


「やっほ〜、久しぶり」


 聞き覚えのある声だった。

 振り返ると、そこには見慣れた人影が立っていた。


「ルビー!」


 俺が驚く。

 確かにルビーだった。相変わらずの飄々とした表情で、俺たちを見つめている。


「どうして…」


 エリカが涙を拭いながら尋ねる。


「どうしてここに?」

「血が恋しくなったから」


 ルビーがいつものように答える。


「でも、何やら深刻そうじゃない」

「実は…」


 俺がルナの病気について説明すると、ルビーの表情が変わった。


「石化病?」


 ルビーが考え込む。


「それなら、知ってる人がいるわ」

「え?」


 俺たちが一斉にルビーを見つめる。


「本当ですか?」


 エリカが身を乗り出す。


「ええ」


 ルビーが頷く。


「リオ・タカナシっていう女医者がいるの」

「リオ・タカナシ?」


 俺がその名前を聞いて驚く。

 小鳥遊莉央…間違いなく日本人の名前だ。


「転移者ですね?」


 俺が尋ねると、ルビーが頷く。


「そうよ。あなたたちと同じ世界から来た人」

「その人が石化病の治療法を?」


 グロムが期待を込めて尋ねる。


「ええ」


 ルビーが説明する。


「彼女がこの大陸に来てから、石化病の治療法が確立されたの」

「本当ですか!」


 エリカが立ち上がる。


「それなら、すぐにその人を呼んでください」

「でも、そう簡単じゃないの」


 ルビーが首を振る。


「彼女はエストリア大陸の奥地にある医療都市にいるから」

「医療都市?」


「『癒しの都市(ヒーリングポート)』って呼ばれてる街よ」


 ルビーが説明する。


「そこから動かないの」

「なぜですか?」


 透が尋ねる。


「患者がたくさんいるからよ」


 ルビーが答える。


「だから、こちらから会いに行くしかない」

「わかりました」


 俺が即座に決断する。


「俺が行きます」

「タクヤ…」


 エリカが心配そうに俺を見る。


「私も一緒に…」

「だめだ」


 俺がエリカを制止する。


「君は女王だ。国を空けるわけにはいかない」

「でも…」

「ルナのことは俺に任せてくれ」


 俺がエリカを説得する。


「必ず連れて帰ってくる」

「僕も行きます」


 透が申し出る。


「ルナさんには本当にお世話になったので」


 だが、透は途中で言葉を切った。


「でも…僕は…」

「どうしたんだ?」


 俺が尋ねる。


「実は…」


 透が困った表情を見せる。


「僕、もうこの世界に来てから一年以上経つんですが」

「それがどうかしたのか?」

「転移者には制限があるんです」


 透が説明する。


「一年以上同じ世界にいると、体に異変が起こる可能性があるんです」

「異変?」

「元の世界に帰れなくなる可能性があるんです」


 透が深刻な表情で続ける。


「だから、あまり遠出はできません」

「そうか…」


 俺も同じ制限があるかもしれないが、今はルナのことが最優先だ。


「わかった。トオルは残ってくれ」

「すみません」


 透が申し訳なさそうに頭を下げる。


「俺も行こう」


 グロムが申し出る。


「ルナには世話になった」

「俺もだ」


 ガルドも同意する。


「みんなで行こう」

「ありがとう」


 俺が感謝を込めて言う。


「それで、その街まではどのくらいかかるんですか?」


 俺がルビーに尋ねる。


「徒歩なら二ヶ月」


 ルビーが答える。


「でも、馬を使えば一ヶ月程度ね」


 一ヶ月…ルナの残り時間を考えると、一刻も早く行かなければならない。


「わかりました」


 俺が決意を固める。

「明日の朝一番で出発します」


「私も一緒に行くわ」


 ルビーが申し出る。


「道案内が必要でしょう?」

「助かります」


 俺がルビーに感謝する。

 その夜、俺たちは出発の準備を整えた。

 馬、食料、装備…すべてを王宮の資源で調達する。


「本当にいいの?」


 エリカが心配そうに俺を見つめる。


「危険な旅になるかもしれないのよ」

「大丈夫だ」


 俺がエリカを抱きしめる。


「必ずルナを治して帰ってくる」

「私、ルナちゃんのこと、ちゃんと看病するから」


 エリカが涙を浮かべる。


「だから、安心して行って」

「ありがとう」


 俺がエリカにキスをする。


 翌朝、俺たちは出発の準備を整えた。

 馬に跨り、荷物を積んで、いよいよ出発だ。


「気をつけて行くニャよ」


 ミア先生が見送ってくれる。


「タクヤにぃ、がんばって」


 ミミも手を振ってくれる。


「必ず帰ってくるよ」


 俺がみんなに約束する。

 最後に、ルナが俺のもとにやってきた。


「タクヤさん」


 ルナが俺を見つめる。


「お仕事、頑張ってくださいね」


 ルナは自分の病気のことを知らない。

 エリカが「タクヤは外交の仕事で遠出する」と説明したのだ。


「ああ、頑張ってくる」


 俺がルナを抱きしめる。


「君も体に気をつけて」

「はい」


 ルナが微笑む。


「お土産、楽しみにしてます」

「必ず買ってくるよ」


 俺がルナに約束する。


 こうして、俺たちは医療都市ヒーリングポートへの旅を始めた。

 俺、グロム、ガルド、そしてルビーの四人。

 ルナを救うための、命がけの旅だった。


「さあ、行きましょう」


 ルビーが先頭を切る。


「時間がないのよ」


 俺たちは王都を後にした。

 エストリア大陸の奥地にある医療都市を目指して。

 道のりは長く、危険も多いだろう。


 だが、ルナを救うためなら、どんな困難も乗り越える。

 そう決意して、俺たちは馬を走らせた。

 最初の数日間は、比較的平坦な道を進んだ。

 王都周辺は整備された街道があり、宿場町も点在している。


「順調だな」


 ガルドが馬上で言う。


「このペースなら予定より早く着けそうだ」

「でも、これからが本番よ」


 ルビーが警告する。


「奥地に入ると、道も険しくなるし、魔物も出る」

「魔物?」


 俺が尋ねる。


「どんな魔物がいるんですか?」

「色々よ」


 ルビーが説明する。


「エストリア大陸特有の魔物もいるし」

「具体的には?」


 グロムが興味を示す。


「『石喰いトカゲ』とか『風切りワシ』とか」


 ルビーが名前を挙げる。


「どれも厄介な相手よ」

「石喰いトカゲ?」


 俺が首を傾げる。


「文字通り、石を食べるトカゲよ」


 ルビーが説明する。


「でも、生き物の骨も大好きなの」

「危険じゃないか」


 ガルドが心配する。


「大丈夫よ」


 ルビーが自信を見せる。


「私がいるもの」


 三日目の夜、俺たちは小さな村で宿を取った。


「明日からいよいよ奥地に入るな」


 グロムが地図を確認する。


「道も悪くなる」

「覚悟が必要ね」


 ルビーが同意する。


「でも、必ず辿り着くわ」


 俺は部屋で一人、ルナのことを考えていた。

 今頃、彼女の病気はどの程度進行しているだろうか。

 足の石化は広がっているのか。


 不安で眠れない夜が続く。


「必ず助ける」


 俺が自分に言い聞かせる。


「絶対に助けるんだ」


 四日目、ついに奥地への道に入った。

 舗装されていない獣道を、馬で進んでいく。


「道が悪いな」


 ガルドが馬の手綱を握り直す。


「気をつけないと」


 その時、前方から何かの鳴き声が聞こえてきた。


「何の声だ?」


 俺が警戒する。


「魔物の鳴き声ね」


 ルビーが確認する。


「『風切りワシ』よ」


 空から巨大な影が降りてくる。

 翼を広げると三メートルはありそうな、巨大なワシだった。


「でかいな」


 グロムが武器を構える。


「やるしかないか」


 俺たちは馬から降りて、戦闘態勢に入った。

 風切りワシが空中から攻撃してくる。

 その爪は鋭く、翼から放たれる風の刃も危険だった。


「『血魔法・血の槍』!」


 ルビーが反撃する。

 血の槍が風切りワシの翼を掠める。


「『瞬間移動剣技・空中斬り』!」


 俺が瞬間移動で空中のワシに接近し、剣を振るう。

 だが、ワシは素早く回避する。


「厄介だな」


 俺が着地しながら呟く。


「『闘気拳・天空砲』!」


 ガルドが闘気を込めた拳を空中に放つ。

 闘気の波動がワシを直撃し、ワシは地面に墜落した。


「やったな」


 グロムが安堵する。


 だが、これは始まりに過ぎなかった。

 奥地に進むにつれて、魔物との遭遇は増えていく。

 それでも、俺たちは前進し続けた。

 ルナのために。


 三週間後、俺たちはついに医療都市ヒーリングポートの入り口にたどり着いた。

 街の外観は想像以上に立派で、まるで現代の病院のような建物が立ち並んでいる。


「ここが…」


 俺が感嘆する。


「すごい街ね」


 ルビーも感心している。


「あの医師、相当やるわね」


 街の入り口には大きな看板があった。


『癒しの都市ヒーリングポート』


『どんな病気も諦めません』


『院長 リオ・タカナシ』


 ついに、希望の医師に会うことができる。

 俺の心に、久しぶりに光が射した。


「行こう」


 俺がみんなに声をかける。


「ルナを救うために」


 俺たちは医療都市の門をくぐった。

 ルナの治療への希望を胸に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ