第四話「偶然って恐ろしい」
毎日投稿しようと頑張っていたのですが、昨日は寝てしまいました。本当にすみません。
できれば、作品を評価していただくとモチベに繋がります。
ギルドの受付で、俺たちは初任務の説明を受けていた。
「それでは、お二人の最初のお仕事はこちらです」
受付嬢が差し出した依頼者を見て、エリカの表情が曇った。
「えっと…迷子のペット捜索?」
「はい。商人のグラハム様の愛猫『ミーちゃん』が行方不明になりまして」
俺は内心ほっとする。
戦闘の必要がない任務だ。これなら安全だろう。
「でも…私たち、もっと格好いい任務ができると思っていたのに」
エリカが小声で呟く。
「魔物退治とか、盗賊討伐とか…」
「Fランク冒険者の最初の任務としては適切です。まずは経験を積んでいただかないと」
受付嬢が丁寧に説明する。
「報酬は銀貨5枚。期限は1週間です」
「わかりました」
俺が代表して依頼を受ける。
ギルドを出ると、エリカが肩を落とした。
「猫探しかぁ…なんだか拍子抜けしちゃった」
「でも、大切な任務だよ。きっとグラハムさんは心配しているはずだがら」
「そうね…タクヤはやさしいのね」
エリカが少し元気を取り戻す。
実際のところ、俺は戦闘任務じゃなくて本当に安堵していた。
魔物と戦うなんて、考えただけで足がすくむ。
依頼人のグラハムという商人の家を訪れると、恰幅の良い中年男性が出迎えてくれた。
「おお、冒険者の方々ですか! ありがとうございます!」
「ミーちゃんについて詳しく教えてください」
「はい! ミーちゃんは白い毛に黒いぶちがある猫でして、人懐っこいんです」
グラハムが涙ながらに説明する。
「三日前の夜から帰ってこないんです。いつもなら夕方には戻ってくるのに…」
「最後に見かけた場所は?」
「街の東側の森の入り口辺りです。あの辺りでよく遊んでいるので…」
森…また森か。
俺は心配になる。
「わかりました。すぐに探しに行きましょう」
エリカが力強く答える。
街の東側の森に向かいながら、俺は考えていた。
猫を探すのに1番効率的な方法は何だろう?
前の世界で見たテレビ番組の知識が蘇る。
動物の捕獲方法について特集していた番組だ。
「エリカ、ちょっと街に戻って道具を買ってこない?」
「道具?」
「網と縄、それから木の棒を何本か」
「何に使うの?」
「罠を作るんだ。中が通りそうな場所に仕掛けておけば、効率よく捕まえられるかもしれない」
「さすがタクヤ! 頭いいのね!」
エリカが感心してくれる。
これも前の世界の知識のおかげだ。
必要な道具を揃えて森に戻り、俺は罠作りに取りかかった。
まずは猫が通りそうな獣道を探す。そこに落とし穴を掘る。
「うわぁ、タクヤすごい! こんなに上手に穴が掘れるなんて!」
「前に…似たようなことをやったことがあるんだ」
嘘じゃない。前の世界では家庭菜園をやったことがある。
穴の底に網を設置し、上に薄い木の枝で偽装する。
その上に猫の好きそうな匂いの餌を置く。
「これで完成だ」
「本当にこれで捕まるの?」
「多分…うまくいけば」
実際のところ、俺も確信はなかった。
でも、やらないよりはマシだろう。
初日は何も起こらなかった。
二日目も同じ。
「タクヤ…本当にこの方法で大丈夫?」
エリカが不安そうに尋ねる。
「もう少し待ってみよう」
三日目の夕方、俺は一人で罠の様子を確認しにいくことにした。
エリカは宿で休んでいる。
「瞬間移動で確認すれば楽だな…」
俺は罠の場所に向かって瞬間移動した。
その瞬間――
ドスン!
何かにぶつかった。
いや、何かの上に落ちた。
「ぐはっ!」
下から悶絶の声が聞こえる。
慌ててみると、俺の下に黒いローブを着た人物が倒れていた。
そして、その人物は俺の作った落とし穴に落ちて、網に絡まっている。
「な、何者だ!」
ローブの男が怒鳴る。
だが、その声に俺は戦慄した。
人間の声じゃない。低く、不気味に響く声だった。
ローブが取れて、その正体が明らかになる。
灰色の肌、赤く光る目、頭に角が生えている。
魔族だ。
「ま、魔族…?」
「貴様、何者だ! このような卑劣な技を仕掛けるとは!」
魔族が網から抜け出そうともがく。
でも、前の世界の知識で作った網は思った以上に丈夫で、簡単には破れない。
「く、くそ! この網、何でできている!?」
「え、えっと…普通の麻縄ですけど…」
「麻縄だと? 馬鹿な! 我の魔力でも切れぬとは!」
どうやら、偶然にも魔族に効果的な網だったらしい。
その時、魔族の胸元から何かが落ちた。
黒い石に奇妙な紋章が刻まれている。
「それは…」
俺は震える手でその石を拾い上げる。
「貴様! それに触るな!」
魔族が必死に暴れる。
「これは一体…?」
「それは魔王軍の階級章だ…」
突然、後ろから声がした。
振り返ると、アレンが立っている。
「アレンさん? どうしてここに?」
「君の瞬間移動の魔力を感知したのだ。何事かと思って駆けつけたが…」
アレンが穴の中の魔族を、見下ろす。
「まさか、魔王軍の幹部を捕らえているとは」
「幹部?」
「その階級章は、魔王軍の上級幹部『影の将軍』のものだ」
ダークシャドウという名前を聞いて、魔族がビクッと体を震わせる。
「貴様…なぜその名を知っている…?」
「王国騎士団はお前を長い間追っていた。数多くの村を襲い、多くの罪もない人々を殺してきた許してはいけないものだ」
アレンの表情が厳しくなる。
「だ、ダークシャドウって…そんな有名な悪役を俺が捕まえたって?」
「つかまえたも何も…偶然落っこちてきただけなんですけど…」
「謙遜するな、タクヤ。魔王軍の幹部を捕えるなど、並の冒険者にできることではない」
偶然だって言ってるのに…
「この功績は王都にも報告せねばならん。君は間違いなく英雄だ」
英雄…また英雄扱いされる。
「と、とりあえずギルドに報告しないと…」
「そうだな。この件の報酬は相当なものになるぞ」
報酬…そういえば俺たち猫を探しに来たんだった。
「あ、そうだ! ミーちゃんは見つかったんですか?」
「ミーちゃん?」
アレンが首を傾げる。
「にゃーん♪」
突然、可愛らしい鳴き声が聞こえた。
見ると、白い猫が木の影から出てきて、俺の足元へ擦り寄ってくる。
「あ、この子がミーちゃんだ!」
首輪に『ミー』と書かれている。
「にゃーん♪」
ミーちゃんが甘えるように鳴く。
「なんと…猫捕獲の罠で魔族軍幹部を捕え、さらに目的の中まで見つけるとは」
アレンは感嘆する。
俺は頭を抱えた。
何もかもが偶然すぎる。
◇◇◇
ギルドに戻ると、大騒ぎになった。
「魔王軍の幹部を捕獲!?」
「ダークシャドウを!?」
「しかも、たった三日で!?」
冒険者たちがざわめく。
「タクヤさん、これはとんでもない功績です!」
受付嬢が興奮して説明する。
「ダークシャドウの捕獲賞金は金貨1000枚です!」
「1000枚!?」
エリカが目を丸くする。
「それに、迷子の猫探索も無事に完了。こちらは約束通りの銀貨5枚ですね」
グラハムも駆けつけて、涙を流してミーちゃんを抱きしめる。
「ありがとうございます! ミーちゃんが無事で…!」
「よ、良かったです」
俺は苦笑いを浮かべる。
その時、ギルドの扉が勢いよく開いた。
入ってきたのは立派な騎士の格好をした男性だった。
「タクヤ殿はいらっしゃいますか!」
「え? 俺ですか?」
「王都からの使者です。国王陛下がタクヤ殿にお会いになりたいとのことです」
ギルド内が静まり返る。
「国王陛下が…?」
「はい。ダークシャドウ捕獲の功績によ。特別に謁見を賜りたいとのお言葉です」
頭の中が真っ白になる。
国王? 謁見?
「ちょ、ちょっと待ってください…俺なんかが…」
「明日の朝一番の馬車で王都にお越しください。お供の方もご一緒にどうぞ」
使者がそう言い残して去って行く。
「タクヤ…すごいじゃない! 国王陛下様に会えるのよ!」
エリカが興奮している。
でも俺は震えが止まらなかった。
王都…雪菜が投獄されている場所だ。
もし雪菜が脱獄していたら?
もし俺が王都へ行くことを知ったら?
「だ、大丈夫かな?」
「何が? 陛下様は優しい方で有名よ。心配いらないわ」
エリカは俺の本当の心配事を知らない。
その夜、俺は一睡もできなかった。
明日、俺は雪菜がいるかもしれない王都に向かうことになる。
窓の外を何度も確認しながら、俺は震え続けていた。
「雪菜で本当に牢獄にいるんだろうな…」
心の中で呟きながら、俺は長い夜を過ごした。




