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第四十六話「新王の誕生」


 準決勝の前日、俺たちは宿で対戦表の発表を待っていた。


「明日で準決勝ね」


 エリカが紅茶を飲みながら言う。


「残ったのは四人だけよ」


 確かに、魔王軍幹部の出現で多くの参加者が棄権したため、異例の展開となっていた。


「俺たち三人とも残ったのは奇跡だな」


 ガルドが苦笑いする。


「でも、準決勝で当たる可能性もあるってことだ」

「それは…複雑ね」


 エリカが困った表情を見せる。


「仲間同士で戦うのは嫌よ」

「でも、トーナメントだからな」


 俺がため息をつく。


「仕方ない」


 その時、宿の従業員が対戦表を持ってきた。


「準決勝の組み合わせが決まりました」


 従業員が紙を俺たちに渡す。


 俺たちは恐る恐る対戦表を見る。


「第一試合 タクヤ・キリタニ 対 エリカ・ローゼン」


 俺とエリカが顔を見合わせる。


「やっぱり…」


 エリカが呟く。


「私たち、戦うことになっちゃったのね」

「第二試合 ガルド・アイアンハンド 対 ガルー・ファングロード」

「ガルーか」


 ガルドが相手を確認する。


「強敵だな」


 俺は複雑な気持ちだった。

 エリカと戦うなんて考えたこともない。

 しかも、エリカの実力は俺より遥かに上だ。


「どうしよう…」


 俺が悩んでいると、エリカが俺の手を握った。


「タクヤ」


 エリカが真剣な表情で俺を見つめる。


「私、手加減しないわよ」

「え?」

「これはトーナメントよ。夫婦だからって手を抜くつもりはないの」


 エリカがきっぱりと宣言する。


「全力で戦いましょう」

「でも…」

「でもじゃないわ」


 エリカが俺を遮る。


「お互いに全力を尽くしてこそ、意味がある戦いになるのよ」


 確かにエリカの言う通りだ。

 手加減された勝利ほど空虚なものはない。


「わかった」


 俺も決意を固める。


「俺も全力で行く」

「それでいいのよ」


 エリカが微笑む。




◇◇◇




 翌日、準決勝当日を迎えた。

 昨日のパニックで観客は激減していたが、それでも数千人は残っていた。


「人が少ないな」


 ガルドが観客席を見回す。


「まあ、魔王軍幹部が出たんだから仕方ないだろう」


 俺も同感だった。

 普通の人なら逃げ出すのが当然だ。


「でも、残った人たちは本当の武術愛好家ね」


 エリカが分析する。


「真剣に戦いを見てくれるでしょう」


 ついに俺とエリカの試合が始まる。

 俺たちはリングの両端に立つ。

 エリカは月光剣ルナライトを構え、俺は瞬刃ブリンクを抜く。


「準決勝第一試合、開始!」


 審判が試合開始を宣言する。


 エリカが一気に距離を詰めてきた。


「速い!」


 俺が慌てて瞬間移動で回避する。

 だが、エリカは俺の移動先を読んでいた。


「『月光剣技・新月斬り』!」


 エリカの剣が俺の脇腹を掠める。


「うっ」


 浅い傷だが、確実に当たっている。


「さすがエリカ」


 俺が感心する。

 俺の瞬間移動を読めるのは、長年一緒にいるエリカだからこそだ。


「まだまだよ」


 エリカが追撃してくる。


「『月光剣技・三日月連撃』!」


 連続攻撃が俺を襲う。

 俺は必死に瞬間移動で回避するが、エリカの攻撃は止まらない。


「くそっ」


 俺が反撃を試みるが、エリカは簡単に受け止める。


「甘いわ、タクヤ」


 エリカが俺の剣を弾く。

 そして、すかさず反撃してくる。


「『月光剣技・満月大斬り』!」


 強烈な一撃が俺を襲う。

 俺はかろうじて瞬間移動で回避するが、着地と同時にエリカが追ってくる。


「逃がさないわよ」


 エリカの剣が俺の肩を切る。


「ぐあっ」


 痛みで俺の動きが鈍る。


「これで決めるわ」


 エリカが最後の攻撃を準備する。


「『月光剣技奥義・満天星斗』!」


 無数の光の刃が俺を包囲する。

 もう逃げ場がない。


「参った」


 俺が降参を宣言する。


「勝者、エリカ・ローゼン!」


 審判が勝敗を告げると、観客席から拍手が起こる。

 エリカが俺のもとに駆け寄ってくる。


「タクヤ、大丈夫?」


 エリカが心配そうに俺の傷を確認する。


「大丈夫だ。たいした傷じゃない」


 俺が答えると、エリカの目に涙が浮かんだ。


「タクヤ…」

「どうした?」

「ありがとう」


 エリカが俺を抱きしめる。


「え?」


 俺が困惑すると、エリカが説明する。


「あなた、最後わざと負けてくれたのよね」

「は?」

「私に勝利を譲ってくれたのよね」


 エリカが感動している。


「なんて優しい夫なの」

「いや、違う」


 俺が慌てて否定する。


「俺は本気で戦った」

「謙遜しなくてもいいのよ」


 エリカが俺の言葉を信じない。


「私にはわかるの。あなたが手を抜いてくれたって」


 完全に誤解されている。

 俺は本当に全力で戦って、完敗したのだ。


「本当に…」

「素敵よ、タクヤ」


 エリカが俺にキスをする。


 観客席から歓声が上がる。

 俺はもう説明を諦めることにした。

 エリカが幸せそうなら、それでいい。


 俺たちがリングを後にすると、次はガルドの試合だった。

 ガルドの相手はガルーだ。


「頑張れ、ガルド」


 俺がガルドを応援する。


「ああ、やってやる」


 ガルドが闘志を燃やす。

 ガルーとの試合は激戦だった。

 両者とも一歩も譲らず、拳と拳のぶつかり合いが続く。


「いい試合だな」


 俺が感心する。


「ガルドも相当強くなったのね」


 エリカも同感だ。

 だが、最終的にはガルーの経験と技術が勝った。

 ガルドは惜敗してしまう。


「残念だったな」


 俺がガルドを慰める。


「いい試合だったよ」

「ありがとう」


 ガルドが悔しそうに答える。


「でも、負けは負けだ」

「次があるさ」


 俺が励ます。


 こうして、決勝戦はエリカ対ガルーとなった。


「決勝戦ね」


 エリカが緊張している。


「大丈夫か?」


 俺が心配すると、エリカが頷く。


「大丈夫よ。でも、ガルーは強敵ね」

「君なら勝てる」


 俺がエリカを励ます。


「絶対に勝てる」

「ありがとう、タクヤ」


 エリカが微笑む。


 決勝戦が始まった。

 エリカとガルーが対峙する。


「よろしく頼む、エリカ」


 ガルーが敬意を込めて挨拶する。


「こちらこそ」


 エリカも礼儀正しく応じる。


「決勝戦、開始!」


 審判の声と共に、両者が動いた。

 ガルーが素早い動きでエリカに迫る。

 だが、エリカも負けていない。


「『月光剣技・新月舞踏』!」


 エリカが美しい剣の舞を披露する。

 ガルーの攻撃を全て受け流していく。


「見事だ」


 ガルーが感嘆する。


「だが、これはどうだ」


 ガルーが闘気を纏った拳を繰り出す。

 エリカは剣で受け止めるが、その威力に押される。


「強い…」


 エリカが呟く。


「でも、負けないわ」


 エリカが反撃に転じる。


「『月光剣技・満月乱舞』!」


 連続攻撃がガルーを襲う。

 ガルーは必死に防御するが、エリカの攻撃は止まらない。


「すごい…」


 俺が見入る。

 エリカの剣技は芸術的ですらある。

 ついに、エリカの剣がガルーの急所を捉えた。


「これで決まりよ」


 エリカが最後の攻撃を放つ。


「『月光剣技奥義・星月夜』!」


 美しい光の軌跡がガルーを包む。

 ガルーは抵抗するが、エリカの奥義の前に膝をつく。


「参った」


 ガルーが降参を宣言する。


「勝者、エリカ・ローゼン!」


 審判が勝利を告げると、観客席が総立ちになった。


「やったわ!」


 エリカが喜びの声を上げる。

 俺たちも観客席から歓声を送る。


「すごいぞ、エリカ!」

「おめでとう!」


 エリカがリングから戻ってくると、俺たちが出迎える。


「やったな、エリカ」


 ガルドが祝福する。


「見事だった」

「ありがとう」


 エリカが涙を流している。


「信じられない…私が王になるなんて」

「当然の結果だ」


 俺がエリカを抱きしめる。


「君が一番強かったんだから」


 その時、現国王のレオナードが現れた。

 ライオンの獣人で、威厳のある風格だ。


「新女王よ」


 レオナードがエリカに向かって頭を下げる。


「おめでとう」

「ありがとうございます」


 エリカも丁寧に礼を返す。


「明日、正式な戴冠式を行う」


 レオナードが説明する。


「それまで、ゆっくり休んでくれ」


 こうして、エリカがこの国の新しい王となった。

 信じられないような展開だったが、現実だった。

 その夜、俺たちは豪華な晩餐会に招かれた。


「王妃になった気分はどう?」


 俺がエリカに尋ねる。


「実感が湧かないわ」


 エリカが正直に答える。


「でも、頑張るつもりよ」

「俺たちも協力する」


 ガルドが申し出る。


「新女王の側近として」

「アタシも手伝いするニャ」


 フェリス先生も協力を申し出る。


「ミミちゃんの教育も続けてやるニャン」

「みんな、ありがとう」


 エリカが感激する。


「一人じゃ何もできないから」


 翌日、エリカの戴冠式が行われた。

 多くの国民が集まり、新女王の誕生を祝った。


「エリカ・ローゼン」


 式典の司祭がエリカに冠を被せる。


「汝を、この国の新たな統治者として認める」


 エリカが正式に王となった瞬間だった。

 観衆から大きな拍手が起こる。


「新女王万歳!」

「エリカ女王万歳!」


 歓声が響き渡る。


 俺は誇らしい気持ちでエリカを見つめていた。

 俺の妻が王になったのだ。

 信じられないが、これが現実だった。

 式典の後、エリカが俺のもとにやってきた。


「タクヤ」


 エリカが俺を見つめる。


「これから忙しくなるけど、ずっと一緒にいてくれる?」

「当然だ」


 俺が答える。


「俺は君の夫だからな」

「ありがとう」


 エリカが俺にキスをする。


 こうして、俺たちのエストリア大陸での新生活が始まった。

 エリカは女王として国を治め、俺はその夫として支える。

 ルナも女王の側近として活躍し、ミミも王宮で健やかに成長している。


 雪菜の脅威から逃れるために来たエストリア大陸で、俺たちは新しい幸せを見つけた。

 まさか、エリカが王になるなんて誰が予想しただろうか。

 でも、これもまた俺たちの運命だったのかもしれない。


 新しい冒険の始まりだった。

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