第四十四話「獣人の国―アリーナス」
エストリア大陸への船旅は二か月に及んだ。
途中、嵐や海賊に遭遇することもあったが、俺たちは無事にエストリア大陸の港町に到着した。
「ついに着いたな」
俺が甲板からエストリア大陸の景色を眺める。
港町はセリア大陸とはまるで違う雰囲気だった。建物の様式が独特で、街を歩く人々の多くが獣人だ。
少し内陸部の方に行くとより獣人が増えた。
「すごいニャン」
フェリス先生が興奮している。
「こんなにたくさんの獣人がいるなんてニャン」
「タクヤにぃ、みみ、いっぱい」
ミミが街を歩く犬や猫、狼の獣人たちを指差して喜んでいる。
「本当にたくさんいるな」
俺もミミに答える。
エリカとルナは珍しそうに街並みを見回している。
「建築様式が独特ですね」
ルナが感心している。
「とても興味深いわ」
エリカも同意する。
透は技術者らしい興味を示している。
「この国の技術レベルはどの程度なんでしょうね」
ガルドとグロムは実用的なことを考えているようだ。
「まずは宿を探さないとな」
ガルドが提案する。
「そうだな」
グロムも頷く。
「それと、この国の情報も集めないと」
俺たちは下町を出て、街の中心部に向かった。
街を歩いていると、遠くに巨大な建造物が見えてきた。
「あれは何だ?」
俺が指差すと、みんなもその建物に注目する。
円形で、とても大きい。まるで古代ローマのコロッセオのような形をしている。
「コロッセオみたいですね」
透が俺と同じことを考えているようだ。
「でも、なぜこんなところに」
「あれはバトルアリーナだニャン」
フェリス先生が説明する。
「この国の中心的な施設ニャン」
「バトルアリーナ?」
俺が聞き返すと、フェリス先生が頷く。
「この国では毎年、王座を懸けたトーナメントが開催されるニャン」
「王座を懸けた?」
エリカが驚く。
「どういうことニャン?」
「この国の王は、世襲制じゃないニャン」
フェリス先生が詳しく説明する。
「毎年開催される『王座トーナメント』で優勝した者が、一年間王になるニャン」
「一年間?」
ルナが首を傾げる。
「そんなに短いんですか?」
「そうニャ。だから毎年新しい王が誕生する可能性があるニャン」
「面白い制度だな」
グロムが感心する。
「実力主義ということか」
「その通りニャン」
フェリス先生が頷く。
「ただし、現在の王が連続で勝ち続けることもあるニャン」
「今の王は何年やってるんだ?」
ガルドが尋ねる。
「三年連続で勝ってるニャン」
フェリス先生が答える。
「ライオンの獣人で、『雷帝』と呼ばれてるニャン」
「雷帝…」
俺が呟く。
いかにも強そうな名前だ。
「それで、そのトーナメントには誰でも参加できるのか?」
ガルドが興味深そうに尋ねる。
「もちろんニャン」
フェリス先生が答える。
「種族は問わないニャ。人族でも参加できるニャン」
「へぇ」
ガルドが考え込む表情を見せる。
「面白そうじゃないか」
「まさか参加する気か?」
俺が驚くと、ガルドがにやりと笑う。
「悪くないと思うぜ」
「でも、相手は獣人だぞ」
俺が心配になる。
「人族が勝てるのか?」
「やってみなければわからんだろう」
ガルドが闘志を燃やしている。
「それに、優勝すれば王になれるんだぞ」
「王になんてなりたくないよ」
俺が首を振る。
「責任が重すぎる」
「タクヤは消極的ニャンね」
フェリス先生が苦笑いする。
「でも、タクヤなら勝てる可能性があるニャン」
「え?」
俺が驚く。
「なぜですか?」
「タクヤは魔王軍の幹部を四人も倒してるニャン」
フェリス先生が説明する。
「その実績なら、獣人たちも認めるニャン」
「でも、あれは全部偶然で…」
「偶然でも実績は実績ニャン」
その時、エリカが突然俺の腕を掴んだ。
「タクヤも参加しなさい」
「え?」
俺が戸惑う。
「なんで?」
「面白そうじゃない」
エリカが目を輝かせる。
「それに、タクヤが王になったら素敵よ」
「でも…」
「私も賛成です」
ルナも同意する。
「タクヤさんなら、きっと立派な王になれます」
「ちょっと待てよ」
俺が抗議する。
「俺は王になんか」
「決まりニャン」
フェリス先生が手を叩く。
「タクヤとガルドは参加するニャン」
「勝手に決めないでくれ」
俺が困るが、ガルドは乗り気だ。
「いいじゃないか、タクヤ」
「よくない」
「エリカも参加したらどうだ?」
ガルドがエリカに提案する。
「私も?」
エリカが驚く。
「もちろんだ。お前も相当強いだろう」
「そうね…」
エリカが考え込む。
「面白そうかも」
「おい」
俺が慌てる。
「みんな正気か?」
「正気ニャン」
フェリス先生がきっぱりと言う。
「せっかくエストリア大陸に来たんだから、思い出を作るニャン」
「思い出って…」
「それに」
グロムが口を開く。
「もし優勝すれば、この国での地位も確保できる」
「地位?」
「王になれば、ユキナから身を守るのも楽になるだろう」
グロムの言葉に、俺は考え込む。
確かに、王になれば護衛もつくし、安全かもしれない。
「でも、俺が勝てるとは思えない」
「やってみなければわからないニャン」
フェリス先生が励ます。
「タクヤの瞬間移動は強力な武器ニャン」
「そうよ」
エリカも同意する。
「タクヤの戦い方を見てきた私が保証するわ」
俺は悩んだ。
確かに、みんなの言うことも一理ある。
でも、獣人相手に勝てる自信がない。
「わかった」
俺がついに折れる。
「参加してみる」
「やったニャン」
フェリス先生が喜ぶ。
「それじゃあ、早速登録に行くニャン」
「登録?」
「明日が締切りニャン」
フェリス先生が説明する。
「トーナメントは一週間後ニャン」
「そんなに早いのか」
ガルドが驚く。
「準備期間が短いな」
「大丈夫ニャン」
フェリス先生が自信を見せる。
「一週間あれば十分ニャ」
俺たちはバトルアリーナに向かった。
近くで見ると、その巨大さに圧倒される。
「すげぇ…」
ガルドが感嘆する。
「本当にコロッセオみたいだな」
建物の入り口で、受付が設置されていた。
多くの獣人たちが列を作って登録をしている。
「すごい人数ですね」
透が驚く。
「みんな参加するんですか?」
「そうニャン」
フェリス先生が頷く。
「この国最大のイベントニャン」
俺たちも列に並ぶ。
周りは大柄な獣人ばかりで、俺たちは明らかに目立っている。
「人族が参加するのは珍しいニャンね」
フェリス先生が呟く。
「毎年何人かはいるけど、今年は多い方ニャン」
「プレッシャーだな」
俺がため息をつく。
ついに俺たちの番が来た。
受付の係員は熊の獣人で、とても大きい。
「参加者の名前と種族を教えてください」
係員が言う。
「タクヤ・キリタニ、人族です」
俺が答える。
「ガルド・アイアンハンド、人族です」
ガルドも続ける。
「エリカ・ローゼン、人族です」
エリカも名乗る。
係員が驚いたような顔をする。
「人族が三人も?」
「問題ありますか?」
エリカが尋ねる。
「いえ、問題ありません」
係員が首を振る。
「ただ、珍しいので」
登録が完了すると、俺たちは番号札を受け取った。
俺は「第127番」、ガルドは「第128番」、エリカは「第129番」だった。
「連番ですね」
エリカが番号札を見る。
「これで正式に参加者ニャン」
フェリス先生が満足そうに言う。
「あとは一週間、特訓ニャン」
俺たちは宿を探して、その日は早めに休むことにした。
翌日から、本格的な特訓が始まる。
ガルーにも連絡を取って、協力してもらうことにした。
◇◇◇
一週間の特訓期間は、あっという間に過ぎた。
ガルーは快く協力してくれて、俺たちに獣人との戦い方を教えてくれた。
「人族が獣人と戦うコツは、スピードを活かすことだ」
ガルーが説明する。
「力では敵わないが、機敏さでは負けない」
「なるほど」
俺が頷く。
「瞬間移動を使えば、さらに有利になる」
俺は一週間で確実に強くなった。
瞬間移動のタイミングも上達し、剣技も向上した。
ガルドも格段に強くなっている。
「拳法の基本を見直せてよかった」
ガルドが満足そうに言う。
「ガルーの指導はためになる」
エリカも剣技に磨きをかけた。
「月光剣との連携も完璧よ」
エリカが自信を見せる。
一般的に見れば、俺たちは確実に「強い」部類に入るレベルになっていた。
そして、ついにトーナメント当日を迎えた。
朝から街は祭りの雰囲気に包まれている。
「すごい賑わいニャ」
フェリス先生が興奮している。
「年に一度のお祭りニャン」
「緊張するな」
俺が呟く。
「大丈夫よ、タクヤ」
エリカが俺を励ます。
「私たち、一週間頑張ったじゃない」
「そうです」
ルナも同意する。
「きっとうまくいきます」
「タクヤにぃ、がんばって」
ミミも応援してくれる。
「頑張るよ、ミミ」
俺がミミの頭を撫でる。
「みんなで応援してるから」
透とグロムも見送ってくれる。
「気をつけて」
透が心配そうに言う。
「無理は禁物だぞ」
グロムも忠告してくれる。
俺たち三人は、バトルアリーナに向かった。
朝の街は昨日までと全く違っていた。至る所に旗や横断幕が掲げられ、屋台が立ち並んでいる。
「本当にお祭りみたいだな」
ガルドが感心する。
「この国の人たちにとって、どれだけ大切な行事かがわかるな」
「そうね」
エリカも同意する。
「私たちも気を引き締めないと」
バトルアリーナに近づくにつれて、人の数が増えていく。
そして、参加者用の入り口が見えてきた。
そこには多くの獣人たちが集まっている。
狼、ライオン、虎、熊、豹…様々な種族の獣人たちが、それぞれ準備を整えている。
みんな筋骨隆々で、戦闘に慣れている様子だ。
「うわ…」
俺が冷や汗をかく。
想像以上に強そうな参加者ばかりだ。
「大丈夫か、タクヤ?」
ガルドが心配そうに尋ねる。
「顔が青いぞ」
「ちょっと…緊張してる」
俺が正直に答える。
「みんな強そうで」
「確かに強そうね」
エリカも獣人たちを見回す。
「でも、私たちだって負けてないわ」
「そうだな」
ガルドも気合を入れ直す。
「やってやろうじゃないか」
俺たちが参加者用入り口に近づくと、周りの獣人たちが注目してきた。
「人族だ」
「珍しいな」
「今年は人族が多いな」
ざわめきが起こる。
俺の冷や汗がさらに増える。
「注目されてるな」
ガルドが苦笑いする。
「まあ、仕方ないか」
「堂々としてましょう」
エリカが胸を張る。
「私たちも正式な参加者なんだから」
俺たちは参加者用入り口に向かう。
いよいよトーナメントの始まりだ。
果たして、俺たちはどこまで勝ち進めるだろうか。
そして、獣人たちの実力はどれほどのものなのだろうか。
不安と期待が入り混じった気持ちで、俺たちはアリーナの中へと歩いていった。




