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第三十九話「故郷の復興と小さな家族」


 朝食を終えて俺が部屋で休んでいると、宿の従業員がノックした。


「タクヤ様、お手紙が届いております」

「手紙?」


 俺が受け取ると、グロムからの手紙だった。

 封を切って読んでみる。


『タクヤへ

 元気にしているか?

 ついに故郷の復興が完了した。

 多くの元住民が戻ってきて、昔の賑やかな村が蘇った。

 時間があるときに、ぜひ見に来てほしい。

 みんなにも会わせたい。

          グロム』


「やったな、グロム」


 俺は嬉しくなった。

 あれだけ故郷のことを想っていたグロムの夢が叶ったのだ。


「エリカ、ルナ」


 俺が呼ぶと、エリカが顔を出す。


「どうしたの?」

「グロムから手紙だ。故郷の復興が完了したって」

「本当?」


 エリカが目を輝かせる。


「それは良かったわね」

「私たちも見に行きましょう」


 ルナも提案する。


「グロムさん、きっと喜びますよ」

「そうだな。でも、君たちは昨日から買い物の約束をしてたんじゃないか?」


 俺が思い出すと、二人が顔を見合わせる。


「あ、そうだった」


 エリカが手を叩く。


「新しいドレスを見に行く約束してたのよ」

「それに、トオルさんの歓迎会の準備もあります」


 ルナも思い出す。


「材料を買いに行かないと」

「それなら、俺は透とガルドと一緒にグロムのところに行こう」


 俺が提案すると、二人が頷いた。


「そうしましょう」


 エリカが同意する。


「私たちは買い物を楽しんできます」

「気をつけて行ってくださいね」


 ルナも微笑む。

 俺は透とガルドに事情を説明し、三人でグロムの故郷に向かうことになった。


「グロムさんの故郷、どんなところなんでしょう」


 透が期待を込めて言う。


「ドワーフの村って、初めて見ます」

「俺も楽しみだぜ」


 ガルドも興味深そうだ。


「以前は廃墟だったんだろう? どう変わったか見てみたい」


 俺たちは馬車で半日ほどかけて、グロムの故郷『鉄鉱の谷』に到着した。


 前回来たときとは全く違う光景が広がっていた。


「すげぇ…」


 ガルドが驚く。


「完全に生まれ変わってるじゃないか」


 確かにその通りだった。

 以前は廃墟だった村に、新しい家々が建ち並んでいる。ドワーフたちが元気に働き回り、子供たちの笑い声が響いている。

 煙突からは煙が上がり、鍛冶場からは金槌の音が聞こえてくる。


「まるで絵本の世界みたいですね」


 透が感動して呟く。


「こんなに美しい村があるなんて」


 その時、俺たちを見つけたグロムが駆け寄ってきた。


「おお、タクヤ! 本当に来てくれたか!」


 グロムの表情は、今まで見たことがないほど明るかった。


「おめでとう、グロム」


 俺がグロムと握手を交わす。


「本当に立派な村になったな」

「ありがとう」


 グロムが感激する。


「お前たちのおかげだ」

「こちらは硝子透さん」


 俺が透を紹介する。


「以前話した、新しい仲間だ」

「ああ、魔道具職人の!」


 グロムが興味深そうに透を見る。


「硝子透です。よろしくお願いします」


 透が丁寧に挨拶する。


「こちらこそ」


 グロムが透と握手を交わす。


「後で工房を見せてやろう」

「ありがとうございます」


 透が嬉しそうに答える。


「それより、村を案内してくれ」


 ガルドが提案する。


「どう変わったか見せてもらいたい」

「もちろんだ」


 グロムが先頭に立つ。


「こっちだ」


 グロムが俺たちを村の中心部に案内してくれる。

 広場には大きな噴水があり、その周りでドワーフたちが談笑している。


「立派な広場ですね」


 透が感心する。


「ええ」


 グロムが誇らしげに答える。


「みんなで力を合わせて作ったんだ」


 その時、俺はグロムの頬に光るものを見つけた。

 涙だった。


「グロム?」

「ああ、すまない」


 グロムが涙を拭う。


「何年ぶりだろう…こんなに幸せな故郷を見るのは」


 グロムの声が震えている。


「子供の頃以来だ…」


 俺たちは黙ってグロムの涙を見守った。

 彼がどれだけこの瞬間を待ち望んでいたかが伝わってくる。


「グロムさん…」


 透も感動している。


「本当に良かったですね」

「ああ」


 グロムが顔を上げる。


「みんなのおかげだ」


 俺たちは村を歩き回った。

 鍛冶工房、酒場、宿屋、商店…全てが活気に満ちている。

 ドワーフたちは皆、グロムを見ると深々と頭を下げる。彼らにとってグロムは英雄なのだ。


「立派な指導者になったな」


 俺がグロムに言うと、彼が照れくさそうに笑う。


「まだまだだよ」


 その時、俺は村の端にある一軒の家に気づいた。

 他の家と比べて少し大きく、窓が多い。


「あの家は何だ?」


 俺が指差すと、グロムの表情が少し曇った。


「ああ、あれか…」


 グロムが複雑な表情を見せる。


「特別な子たちが住んでいる」

「特別な子たち?」


 ガルドが首を傾げる。


「どういうことだ?」

「見てもらった方が早いかもしれない」


 グロムが俺たちをその家に案内する。


 扉を開けると、中には小さなドワーフたちがたくさんいた。

 全員が女の子で、年齢は八歳から十二歳くらいに見える。

 だが、彼女たちの表情は暗く、生気がない。


「この子たちは…」


 俺が呟くと、グロムが重い口調で説明する。


「奴隷として売られていた子たちだ」

「奴隷?」


 透が驚く。


「そんなことが…」

「ああ」


 グロムが頷く。


「故郷を奪われた後、多くのドワーフが散り散りになった」


 グロムが拳を握る。


「その中で、親を亡くした子供たちが人身売買の犠牲になったんだ」

「それで、あんたが買い取ったのか?」


 ガルドが理解する。


「そうだ」


 グロムが子供たちを見つめる。


「全部で二十三人。見つけられる限り、全て買い取った」


 俺は子供たちを見回した。

 みんな栄養不足で痩せており、服も古くてぼろぼろだ。

 そして、誰も口を聞かない。


「話せないのか?」


 俺が尋ねると、グロムが首を振る。


「心に深い傷を負っているんだ」


 グロムが悲しそうに説明する。


「長い間、奴隷として酷い扱いを受けていたからな」


 俺の胸が痛んだ。

 こんな小さな子供たちが、そんな目に遭っていたなんて。

 その時、俺は部屋の隅で一人だけ離れて座っている女の子に気づいた。


 他の子たちよりもさらに小さく、痩せている。ツインテールの髪型で、プニプニした可愛らしい顔をしているが、その表情は今にも消えてしまいそうなほど暗い。


「あの子は?」


 俺がその子を指差すと、グロムの表情がさらに暗くなった。


「一番状態が悪い子だ」


 グロムが小声で説明する。


「もう三日間、何も食べていない」

「三日間?」


 俺が驚く。


「どうして?」

「食べることを拒否するんだ」


 グロムが困った顔をする。


「まるで生きることを諦めているかのようだ」


 俺はその子に近づいた。

 子供は俺を見上げるが、すぐに視線を逸らす。

 その瞳には、絶望が宿っていた。


「名前は?」


 俺が尋ねると、グロムが首を振る。


「わからない」


 グロムが説明する。


「この子たちは皆、名前を奪われていた」

「名前を?」


 透が信じられないという顔をする。


「奴隷には番号しか与えられない」


 グロムが怒りを込めて言う。


「人として扱われていなかったんだ」


 俺は決断した。


「この子を俺が引き取る」


 俺の言葉に、その場にいた全員が驚いた。


「タクヤ?」


 グロムが戸惑う。


「でも、お前には既に家族が…」

「関係ない」


 俺がきっぱりと言う。


「この子を一人にはしておけない」

「でも…」

「俺が責任を持つ」


 俺が子供の前にしゃがみ込む。


「君、俺と一緒に来ないか?」


 子供は俺を見つめるが、返事はしない。

 それでも、その瞳に僅かな光が宿ったような気がした。


「本当にいいのか?」


 ガルドが心配そうに言う。


「子育ては大変だぞ」

「みんなで協力すれば大丈夫だ」


 俺が答えると、透も頷いた。


「僕も手伝います」

「俺もだ」


 ガルドも同意してくれる。


「それに、エリカやルナもきっと理解してくれる」


 俺が確信を込めて言うと、グロムがほっとした表情を見せる。


「わかった」


 グロムが俺の肩を叩く。


「お前になら安心して任せられる」


 俺は子供を優しく抱き上げる。

 軽い。あまりにも軽すぎる。


「大丈夫だ」


 俺が子供に語りかける。


「もう一人じゃない」


 子供は俺の胸に顔を埋める。

 小さく震えているのがわかった。


「名前を考えなくちゃな」


 透が提案する。


「可愛い名前がいいですね」

「そうだな」


 俺も同意する。


「みんなで考えよう」

「『ミミ』はどうだ?」


 ガルドが提案する。


「ツインテールが耳みたいで可愛いし」

「いい名前ですね」


 透も賛成する。


「『ミミちゃん』…響きも可愛いです」

「ミミか」


 俺が子供を見下ろす。


「君はミミだ。これからはミミという名前で生きていこう」


 ミミと名付けられた子供が、俺の服を小さく握った。

 それは、彼女なりの返事だった。


「よろしく、ミミ」


 俺が微笑むと、ミミの表情が僅かに和らいだ。


「教育はどうする?」


 グロムが尋ねる。


「言葉を覚えさせるのが先決だな」

「みんなで協力しよう」


 俺が答える。


「透の知識、ガルドの人生経験、グロムの技術…みんなの力を合わせれば、きっとミミを幸せにできる」

「そうですね」


 透が微笑む。


「僕も精一杯頑張ります」

「俺もだ」


 ガルドも同意する。


「可愛い妹ができたみたいで嬉しいぜ」


 グロムも感動している。


「ありがとう、みんな」


 グロムが涙ぐむ。


「この子にとって、最高の家族になってくれるはずだ」


 俺たちはミミを連れて、グロムの村を後にした。

 帰りの馬車で、ミミは俺の膝の上で小さく丸くなっている。


「大丈夫だ、ミミ」


 俺がミミの頭を撫でる。


「これから楽しいことがたくさん待ってる」


 ミミは返事をしないが、俺の手に頭を預けてくれる。

 それだけでも大きな進歩だった。


「エリカとルナは驚くだろうな」


 ガルドが苦笑いする。


「急に家族が増えるんだから」

「でも、二人なら理解してくれる」


 俺が確信を込めて言う。


「優しい人たちだから」

「そうですね」


 透も同意する。


「きっと、ミミちゃんを可愛がってくれます」


 王都に着く頃には、もう夕方だった。

 宿に戻ると、エリカとルナが買い物から帰ってきていた。


「タクヤ、おかえりなさい」


 エリカが俺を迎えてくれる。


「グロムさんの村はどうでした?」

「とても良かったよ」


 俺が答えると、ルナが俺の膝の上のミミに気づいた。


「あら、この子は?」

「実は…」


 俺が事情を説明すると、エリカとルナの表情が変わった。


「そんなことが…」


 エリカが涙ぐむ。


「可哀想に…」


「この子も家族にしましょう」


 ルナがすぐに決断する。


「私たちが守ってあげないと」

「本当に?」


 俺が確認すると、エリカも頷いた。


「当然よ」


 エリカがミミを見つめる。


「こんなに可愛い子を放っておけないもの」


 俺は安堵した。

 やはり、二人は理解してくれた。


「ありがとう」


 俺が感謝を込めて言うと、エリカがミミに近づく。


「よろしくね、ミミちゃん」


 エリカが優しく声をかけると、ミミが僅かに顔を上げる。


「私はエリカよ。タクヤの奥さんの一人」


 ルナも続ける。


「私はルナです。もう一人の奥さん」


 ミミは二人を見つめるが、まだ話すことはできない。


「無理しなくていいのよ」


 エリカが優しく言う。


「ゆっくりでいいから」


「私たちがずっと一緒にいますから」


 ルナも微笑む。


 ミミが初めて、小さく頷いた。


「進歩ね」


 エリカが嬉しそうに言う。


「きっと、すぐに話せるようになるわ」




◇◇◇




―ルナの視点―


 午前中、私とエリカは王都の商業区に買い物に出かけていました。


「今日は何を買いましょうか?」


 私がエリカに尋ねると、彼女が考え込みます。


「まず、トオルさんの歓迎会の材料ね」

「そうですね。それと、新しいドレスも見たいです」

「あら、おしゃれに目覚めた?」


 エリカが茶化すように言うと、私は頬を赤くします。


「タクヤさんに可愛いと言ってもらいたくて…」

「可愛いわね、ルナちゃん」


 エリカが微笑む。


「でも、その気持ちわかるわ」


 私たちは仲良く街を歩き回ります。

 結婚してから、エリカとの関係はとても良好になりました。

 以前は恋のライバルでしたが、今は同じ男性を愛する仲間として、お互いを理解し合っています。


「このお店、素敵ね」


 エリカが洋服店を指差します。


「入ってみましょう」


 店内には色とりどりのドレスが並んでいます。


「わぁ、綺麗」


 私が感嘆すると、エリカも目を輝かせます。


「このピンクのドレス、ルナちゃんに似合いそう」

「本当ですか?」

「ええ、試着してみて」


 私は試着室でピンクのドレスに着替えます。

 鏡を見ると、確かに可愛らしく見えます。


「どうかしら?」


 私がエリカに見せると、彼女が拍手します。


「素敵! とても可愛いわ」

「ありがとうございます」


 私は嬉しくなります。


「エリカさんも何か試着してみてください」

「そうね」


 エリカが水色のドレスを手に取ります。


「これにしようかしら」


 エリカが試着すると、とても上品で美しく見えます。


「さすがエリカさん」


 私が感心すると、エリカが照れます。


「ありがとう」


 私たちは二人ともドレスを購入しました。


「次は食材ね」


 エリカが提案します。


「トオルさん、何が好きかしら?」


「ニホン出身なら、お米料理が恋しいかもしれません」


 私が提案すると、エリカが手を叩きます。


「そうね! お米を使った料理を作りましょう」


 私たちは食材店でお米や野菜、肉を購入します。


「これだけあれば、豪華な料理が作れそうね」

「はい。みんなで協力して作りましょう」


 買い物を終えて、私たちはカフェで休憩することにしました。


「今日は楽しかったですね」


 私がお茶を飲みながら言うと、エリカも頷きます。


「ええ。こうして二人で出かけるのも久しぶりね」

「エリカさんと仲良くなれて、本当に良かったです」


 私が心から言うと、エリカが微笑みます。


「私もよ。最初はライバルだと思ってたけど」

「今では大切な家族ですね」

「そうね。タクヤを共有する仲間として」


 エリカが少し照れながら言います。


「変な関係だけど、これはこれで幸せよ」

「私もそう思います」


 私も同意します。


「三人で支え合っていけば、きっと幸せになれます」

「そうね」


 エリカが私の手を握ります。


「これからもよろしくね、ルナちゃん」

「こちらこそ、エリカさん」


 私たちは幸せな気持ちで宿に戻りました。

 タクヤがどんな表情で迎えてくれるか、とても楽しみでした。


 そして、新しく家族になったミミちゃんのことを知って、私たちの幸せがさらに広がったのでした。

 きっと、これからもっと賑やかで楽しい毎日が待っているでしょう。

 私は心からそう思いました。

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