第三十八話「夫婦関係で悩んでたのに、挑戦者かよ」
今日は気分がいいので3本あげます。明日も3本あげると思います。
翌朝、俺は異様な緊張感で目を覚ました。
エリカとルナが、ベッドの両端で背中を向け合って座っている。
空気が重い。
「おはよう…」
俺が恐る恐る挨拶すると、二人が同時に振り返った。
「おはよう、タクヤ」
「おはようございます、タクヤさん」
表面上は普通だが、明らかに何かがおかしい。
「えっと…何かあったのか?」
俺が尋ねると、エリカがきっぱりと言った。
「あるわよ」
「大ありです」
ルナも続ける。
俺は嫌な予感がした。
「何の話だ?」
「私たちのこと」
エリカが俺を見つめる。
「結婚してから三ヶ月以上経つのに、まだ何もしてないじゃない」
俺の顔が赤くなる。
確かにその通りだった。結婚はしたものの、二人とも初心で、なかなかその先に進めずにいた。
「それは…その…」
「私だって同じです」
ルナも頬を染めながら言う。
「タクヤさんと結婚したのに、まだ夫婦らしいことを…」
俺はさらに赤くなる。
「だから、今夜こそは」
エリカが宣言する。
「私がタクヤの初めてを」
「待ってください」
ルナが割り込む。
「私の方が先です」
「何で?」
エリカが眉を顰める。
「私の方がタクヤと長い付き合いよ」
「でも、結婚したのは私が先です」
ルナが負けていない。
「結婚式も私の方が先でした」
「それは事情があったからでしょう」
エリカが反論する。
「私だって同じ日に結婚したかったわ」
「でも事実は変わりません」
ルナがきっぱりと言う。
「私がタクヤさんの正妻で、エリカさんは第二夫人です」
「正妻って何よ」
エリカが立ち上がる。
「私たちは同格のはずでしょう」
「それは違います」
ルナも立ち上がる。
「結婚順序は重要な意味を持ちます」
二人が睨み合う。
俺は完全にお手上げ状態だった。
「ちょっと待てよ、二人とも」
俺が仲裁しようとすると、二人が同時に俺を見る。
「どっちが先がいいの?」
エリカが詰め寄る。
「私? それともルナちゃん?」
「はっきり答えてください」
ルナも迫ってくる。
「私とエリカさん、どちらを選ぶんですか?」
「そんなこと言われても…」
俺は頭を抱える。
どちらを選んでも、もう一人が傷つく。
「俺には決められない」
俺がそう答えると、二人の顔がさらに険しくなった。
「優柔不断ね」
エリカが呆れる。
「男らしくないです」
ルナも厳しい。
俺は逃げ出したい気分になった。
「ちょっと…外の空気を吸ってくる」
俺は慌てて部屋を出る。
「逃げるの?」
エリカが呼び止めるが、俺はもう廊下を走っていた。
「どうしてこうなったんだ…」
俺は肩を落としながらロビーに降りる。
ガルドと透が朝食を食べていた。
「おはよう、タクヤ」
ガルドが挨拶してくれるが、俺の暗い表情に気づく。
「どうした? 顔色が悪いぞ」
「おはようございます」
透も心配そうに見る。
「何かあったんですか?」
「いや…家庭の事情だ」
俺は曖昧に答える。
こんなことを男同士で相談するわけにもいかない。
「そうか…」
ガルドが理解を示してくれる。
元不良だけあって、空気を読むのが上手い。
「何か相談事なら聞くぜ」
「ありがとう。でも、これは専門家に相談した方がいいかもしれない」
俺はふと思い出した。
王都には有名な相談所があると聞いたことがある。
「ちょっと出かけてくる」
「気をつけろよ」
ガルドが見送ってくれる。
◇◇◇
王都一番の相談所『賢者の助言』は、繁華街の一角にある立派な建物だった。
入り口には「どんな悩みでも解決します」という看板が掲げられている。
「本当に解決してくれるのかな…」
俺は不安に思いながらも、扉を開けた。
受付には中年の女性が座っている。
「いらっしゃいませ。どのような相談でしょうか?」
「あの…夫婦の悩みなんですが」
俺が恥ずかしそうに言うと、受付嬢が理解を示す。
「承知いたしました。マダム・ローズがお答えします」
俺は奥の部屋に案内された。
そこには豪華なソファと、派手な衣装を身にまとった中年女性が座っていた。
「ようこそ、マダム・ローズよ」
女性が優雅に挨拶する。
「どのような悩みかしら?」
「実は…」
俺は事情を説明した。もちろん、異世界や魔王軍の話は省いて。
「ほうほう」
マダム・ローズが頷く。
「一夫多妻の悩みね」
「はい」
「よくある話よ」
マダム・ローズが断言する。
「答えは簡単」
俺が身を乗り出す。
「じゃんけんで決めなさい」
「じゃんけん?」
俺が唖然とすると、マダム・ローズが真剣な顔で続ける。
「そう。公平で平等な方法よ」
「でも、それって…」
「もしくは、くじ引きでもいいわ」
マダム・ローズがさらに続ける。
「大事なのは、運命に任せることよ」
俺は頭が痛くなってきた。
「他に方法はありませんか?」
「そうね…」
マダム・ローズが考え込む。
「同時に済ませるという手もあるけど」
「同時?」
「詳しくは言えないけど、技術的に可能よ」
マダム・ローズが意味深に微笑む。
俺は完全に混乱した。
「もう少し…普通の解決法はありませんか?」
「普通って何かしら?」
マダム・ローズが首を傾げる。
「愛に普通なんてないのよ」
俺は相談料を払って、相談所を後にした。
全く参考にならなかった。
「どうしよう…」
俺は街を歩きながら悩む。
気づくと、ギルドの前まで来ていた。
「そうだ、酒でも飲んで頭を整理しよう」
俺はギルド併設の酒場に入った。
昼間だが、既に何人かの冒険者が酒を飲んでいる。
俺はカウンターに座り、ウイスキーを注文した。
「はい、どうぞ」
バーテンダーがグラスを差し出す。
「ありがとうございます」
俺は一口飲んで、深いため息をついた。
「どうして結婚って、こんなに難しいんだ…」
俺が呟くと、隣に誰かが座った。
「結婚の悩みか?」
低く、野太い声だった。
振り返ると、大柄な獣人が座っていた。
狼のような顔立ちで、筋肉質な体つき。明らかに強そうだ。
「え…はい」
俺が答えると、獣人が笑った。
「俺も昔は悩んだものだ」
「そうなんですか?」
「ああ。だが、今はもう気にしない」
獣人がビールをぐいっと飲む。
「ところで、あんたがタクヤ・キリタニか?」
俺は驚いた。
「どうしてご存知なんですか?」
「有名人だからな」
獣人がにやりと笑う。
「魔王軍の幹部を四人も倒した英雄だろう?」
「それは…偶然で…」
「偶然でも実力は実力だ」
獣人が俺を見つめる。
「俺はガルー。エストリア大陸から来た獣人だ」
「エストリア大陸?」
「ああ。獣人の国…アリーナス王国がある大陸だ」
ガルーが説明する。
「俺は武者修行でこの大陸に来た」
「武者修行…」
俺が呟くと、ガルーが身を乗り出してきた。
「そこで頼みがある」
「頼み?」
「俺と手合わせしてくれ」
ガルーが真剣な表情で言う。
「魔王軍幹部を倒した実力を、この目で確かめたい」
俺の血の気が引いた。
「無理無理無理」
俺が心の中で叫ぶ。
こんな強そうな獣人と戦うなんて、絶対に無理だ。
俺が魔王軍幹部を倒したのは、全部偶然だったのに。
「どうだ?」
ガルーが答えを求める。
「でも、僕は…」
「報酬も出す」
ガルーが金貨の入った袋を取り出す。
「勝敗関係なく、金貨五十枚だ」
俺の目が金貨に向く。
五十枚はかなりの金額だ。
「でも、俺は強くないんです」
「謙遜するな」
ガルーが笑う。
「魔王軍幹部を四人も倒した男が弱いわけないだろう」
「それは本当に偶然で…」
「じゃあ、その偶然を見せてくれ」
ガルーが立ち上がる。
「ギルドの訓練場で決着をつけよう」
俺は困った。
断りたいが、ガルーの迫力に押し切られそうになる。
「でも…」
「心配するな」
ガルーが俺の肩を叩く。
「手加減してやる」
手加減されるレベルなのか、俺は…
結局、俺は断り切れずにガルーに従うことになった。
ギルドの訓練場は地下にある。
広いスペースに、様々な訓練器具が置かれている。
「ここなら思いっきりやれるぜ」
ガルーが嬉しそうに言う。
「あの…本当に手加減してくださいね」
俺が懇願すると、ガルーが頷いた。
「もちろんだ。死なない程度にな」
死なない程度って何だ。
俺は瞬刃を抜く。
ガルーは素手だった。
「武器は使わないんですか?」
「俺の武器は拳だ」
ガルーが両拳を構える。
「それに、武器を使ったら手加減できない」
俺はさらに不安になった。
「それじゃあ、始めるぞ」
ガルーが宣言する。
俺は瞬間移動の準備をする。
とりあえず、逃げ回るしかない。
「いくぞ!」
ガルーが突進してくる。
俺は慌てて瞬間移動で回避した。
「おっ、早いな」
ガルーが感心する。
「だが、このくらいでは」
ガルーが再び突進する。
今度は俺の移動先を予測していた。
「まずい!」
俺は間一髪で回避するが、ガルーの拳が頬をかすめる。
「危なかった…」
俺が冷や汗をかくと、ガルーが笑った。
「面白い! もっとやろう!」
ガルーがさらに激しく攻撃してくる。
俺は必死に瞬間移動で逃げ回る。
だが、だんだんガルーの動きに慣れてきた。
「パターンが読めてきたぞ」
俺がガルーの攻撃を予測して回避する。
「ほう、やるじゃないか」
ガルーが嬉しそうに言う。
「だが、まだまだ」
ガルーの攻撃がさらに速くなる。
俺は瞬間移動を連続で使い、何とか回避し続ける。
そして、ふとした瞬間、ガルーの後ろに移動できた。
「今だ!」
俺がブリンクでガルーの背中を狙う。
だが、ガルーが振り返って俺の剣を掴んだ。
「甘い!」
ガルーが俺を投げ飛ばそうとする。
その時、俺の足がガルーの足に引っかかった。
「あっ」
二人とも一緒に転倒する。
そして、俺の剣がガルーの急所を狙う形になってしまった。
「うお!」
ガルーが慌てて止まる。
「参った、参った!」
俺も慌てて剣を引く。
「すみません!」
「いや、見事だった」
ガルーが立ち上がりながら笑う。
「最後のフェイントは完璧だったぜ」
「フェイント?」
俺が首を傾げると、ガルーが感心する。
「転倒を装って急所を狙うなんて、高度な技だ」
「いや、あれは本当に偶然で…」
「また謙遜か」
ガルーが俺の肩を叩く。
「俺の負けだ。約束の報酬を払おう」
ガルーが金貨の袋を俺に手渡す。
「でも、俺は何もしてないですよ」
「いや、十分すぎるくらいやった」
ガルーが満足そうに言う。
「瞬間移動を使った戦法、参考になったぜ」
俺は混乱していた。
また偶然で勝ってしまった。
「ところで」
ガルーが俺に向き直る。
「もしよかったら、エストリア大陸に来ないか?」
「エストリア大陸?」
「ああ。アリーナス王国では、強い戦士を歓迎する」
ガルーが説明する。
「あんたなら、きっと歓迎されるぜ」
「でも、僕には仲間が…」
「仲間も一緒でいいぞ」
ガルーが即答する。
「アリーナス王国は多種族に寛容だ」
俺は考えた。
エストリア大陸…新しい大陸への冒険も面白そうだ。
「考えておきます」
俺が答えると、ガルーが頷いた。
「そうしてくれ。いつでも歓迎するからな」
ガルーが名刺のようなものを渡してくれる。
「これを見せれば、エストリア大陸のどこでも通用する」
「ありがとうございます」
俺は名刺を受け取る。
獣人の言語で何かが書かれているが、読めない。
「それじゃあ、俺は他の大陸に修行に行く」
ガルーが手を上げる。
「また会おう、タクヤ」
「はい、ありがとうございました」
ガルーが去っていく。
俺は一人、訓練場に残された。
「また偶然で勝っちゃった…」
俺がため息をつく。
でも、報酬をもらえたのはありがたい。
「それより、エリカとルナの問題をどうしよう…」
俺は重い足取りで宿に戻った。
もう夕方になっている。
宿の前で、エリカとルナが待っていた。
「あ、タクヤ」
エリカが俺を見つける。
「どこに行ってたの?」
「タクヤさん、心配しました」
ルナも駆け寄ってくる。
二人とも、朝の喧嘩のことは忘れているようだった。
「ちょっと用事があって」
俺が答えると、エリカが俺の匂いを嗅ぐ。
「お酒の匂いがするわね」
「昼間から飲んでたんですか?」
ルナが心配そうに言う。
「体に悪いですよ」
二人が俺を心配してくれる。
やはり、優しい妻たちだ。
「ごめん、心配かけて」
俺が謝ると、二人が俺の両腕を取った。
「もう、無断で出歩いちゃダメよ」
エリカが説教する。
「私たち、とても心配したんですから」
ルナも同意する。
「そうですよ」
俺は二人の優しさに感動した。
朝は喧嘩していたのに、俺のことを心配してくれている。
「実は…」
俺が朝の件について話そうとすると、エリカが手を振った。
「朝のことは忘れて」
「そうです」
ルナも同意する。
「私たち、話し合って決めました」
「決めた?」
俺が尋ねると、二人が顔を見合わせる。
「自然に任せようって」
エリカが照れながら言う。
「無理に決める必要はないわよね」
「その通りです」
ルナも頬を赤くする。
「タクヤさんのペースに合わせます」
俺はほっとした。
二人がそう言ってくれるなら、焦る必要はない。
「ありがとう、二人とも」
俺が感謝を込めて言うと、二人が微笑んだ。
「私たち、夫婦なんですから」
エリカが俺の手を握る。
「お互いを思いやるのは当然よ」
「私もそう思います」
ルナも俺の手を握る。
こうして、俺たちの夫婦関係の危機は乗り越えられた。
そして、エストリア大陸への招待という新しい選択肢も手に入れた。
これからどんな冒険が待っているのだろうか。
俺は二人の妻と一緒に、宿の中に入っていった。
今夜は三人で、ゆっくりと過ごそう。
そう思いながら。




