第三十七話「やっぱり雪菜って強すぎるよ」
透が仲間として迎え入れられてから三日が経った。
俺たちは宿のロビーに集まり、これからの対策について話し合っていた。
エリカ、ルナ、透、そしてガルドが円になって座っている。
「そろそろ真剣に雪菜のことを考えないといけない」
俺が重い口調で切り出すと、エリカとルナの表情が緊張した。
「ユキナ…」
エリカが俺の手を握る。
「私の両親を殺した…」
「ああ」
俺がエリカの手を握り返す。
「もう逃げてばかりはいられない」
「でも、雪菜はとても強いんでしょう?」
透が不安そうに尋ねると、ガルドが腕を組んだ。
「俺も話には聞いたが、とんでもない力を持ってるようですが」
「それが問題なんだ」
俺がため息をつく。
「俺が瞬間移動を使うたびに、雪菜はどんどん強くなっていく」
「そんな能力があるなんて…」
透が青ざめる。
「でも、何か対策があるはずです」
「そうよ」
エリカが力強く言う。
「みんなで力を合わせれば、きっと何とかなるわ」
「私も同感です」
ルナも頷く。
「諦めるわけにはいきません」
「その通りだ」
ガルドが力強く言う。
「逃げてばかりじゃ、何も解決しない」
俺は仲間たちの心強い言葉に励まされる。
「そうだな。何か方法があるはずだ」
「あの…」
透が恐る恐る口を開く。
「もしかして、物理的な防御で何とかならないでしょうか?」
「物理的な防御?」
「はい」
透が説明を始める。
「例えば、とても硬い障壁を作って、雪菜さんの攻撃を防ぐとか」
「それは考えたことがなかった」
俺が興味を示すと、透が乗り出してきた。
「僕の現代知識を使えば、強化ガラスのようなものを作ることができるかもしれません」
「強化ガラス?」
エリカが首を傾げる。
「とても硬いガラスのことです」
透が熱心に説明する。
「現代地球では、普通のガラスの数倍から数十倍の強度を持つガラスがあります」
「すごいじゃない」
エリカが期待を込めて言う。
「それならユキナの攻撃も防げるかもしれないわね」
「でも、この世界でそんなものが作れるのか?」
俺が疑問を口にすると、透が自信を見せた。
「魔法と現代科学を組み合わせれば可能だと思います」
透が立ち上がる。
「ルナさんの協力があれば、きっと」
「私ですか?」
ルナが驚く。
「はい。魔法で材料の分子構造を操作できれば、理論上は可能なはずです」
「分子構造…」
ルナが考え込む。
「難しそうですが、やってみましょう」
「本当ですか?」
透が嬉しそうに言う。
「ありがとうございます」
「でも、どれくらい時間がかかるの?」
エリカが心配そうに尋ねる。
「数日から一週間程度だと思います」
透が答える。
「まずは理論を確立してから、実際に作業に入ります」
「わかった」
俺が頷く。
「やってみよう」
◇◇◇
翌日から、透とルナは工房にこもって研究を始めた。
ガルドも興味を示して、時々様子を見に来る。
「魔法で原子レベルの操作をする理論は…」
透が黒板に複雑な図表を描いている。
「こうなります」
「なるほど…」
ルナが真剣に聞いている。
「でも、これを実際に魔法で再現するのは…」
「確かに難しいですね」
透が認める。
「でも、不可能ではないと思います」
俺とエリカは時々様子を見に行ったが、二人の集中力は凄まじかった。
「すごい熱心ね」
エリカが感心して言う。
「ルナちゃんも透さんも、本当に頭がいいのね」
「ああ」
俺も同感だった。
「俺には全然理解できないよ」
三日目、ついに試作品ができあがった。
「完成しました!」
透が興奮して俺たちを呼ぶ。
「見てください、これが強化ガラスです」
透が手に持っているのは、透明だが普通のガラスよりも厚みがある板だった。
「これが?」
エリカが疑問に思う。
「普通のガラスに見えるけど…」
「試してみましょう」
透がハンマーを持ち出す。
「普通のガラスなら、これで簡単に割れるはずです」
透がガラス板を叩く。
ガン、ガン、ガン…
だが、ガラス板にはヒビ一つ入らない。
「すごい!」
エリカが驚く。
「本当に硬いのね」
「これならユキナの攻撃も防げそうですね」
ルナが満足そうに言う。
「すごいよ、透」
俺が感激して言う。
「こんなものが作れるなんて」
「いえいえ」
透が照れる。
「ルナさんの魔法があったからこそです」
「二人の協力の成果ね」
エリカが嬉しそうに言う。
「これでユキナに対抗できるわ」
俺も希望が湧いてきた。
これなら、雪菜の攻撃を防げるかもしれない。
「もっと大きなものも作れるのか?」
俺が尋ねると、透が頷いた。
「はい。シールドのようなものでも、壁のようなものでも」
「それじゃあ、早速…」
俺が言いかけた時、ふと疑問が湧いた。
「待てよ…」
「どうしたの?」
エリカが心配そうに尋ねる。
「雪菜の力って、どれくらい強いんだっけ?」
俺が考え込む。
そういえば、雪菜は素手で石の壁を破壊していた。
それも、かなり厚い壁を。
「確か…家の石壁を拳で破壊してたよな」
俺が思い出す。
「石壁を?」
透が青ざめる。
「素手で?」
「ああ」
俺が頷くと、透の表情が暗くなった。
「それは…」
「どうしたの?」
ルナが心配そうに尋ねる。
「石壁を素手で破壊できる力なら…」
透が震え声で言うと、ガルドも表情を曇らせる。
「それじゃあ…」
「この強化ガラスでも…多分…」
「多分?」
「簡単に破壊されてしまうと思います」
透の言葉に、その場が静まり返った。
「そんな…」
エリカが呟く。
「せっかく作ったのに…」
「クソッ」
ガルドが拳を握る。
「あの女、どこまで化け物なんだ」
「すみません」
透が申し訳なさそうに頭を下げる。
「僕が雪菜さんの力を過小評価していました」
「いや、透のせいじゃない」
俺が透を慰める。
「俺が最初に説明するべきだった」
「でも…」
ルナが悔しそうに言う。
「せっかく頑張ったのに…」
俺は改めて雪菜の強さを実感した。
物理的な防御では、もはや対処できないレベルなのだ。
「やっぱり、正面からぶつかるしかないのかな…」
俺が呟くと、透が首を振った。
「いえ、他にも方法があるはずです」
「他の方法?」
「はい」
透が考え込む。
「物理的防御がダメなら、魔法的防御はどうでしょう?」
「魔法的防御?」
ルナが興味を示す。
「例えば、バリアとか結界とか」
「なるほど」
ルナが頷く。
「それなら可能性があります」
「でも、雪菜は魔法も使えたよな」
俺が思い出す。
「確か、愛の魔法を」
「愛の魔法…?」
「よくわからないですが、まあいいです」
透がため息をつく。
「魔法も使えるなら、魔法的防御も破られてしまうかもしれません」
またしても行き詰まりだった。
「難しいのね…」
エリカが落胆する。
「でも、諦めるわけにはいかないわ」
「そうですね」
ルナも同意する。
「必ず方法があるはずです」
「でも、今日はもう疲れた」
俺が立ち上がる。
「明日、また考えよう」
「そうね」
エリカが俺の手を取る。
「今日は休みましょう」
透とルナも同意してくれた。
「はい。頭を休めて、新しいアイデアを考えましょう」
「そうですね」
◇◇◇
翌日の昼食時、俺たちは宿の食堂で楽しく食事をしていた。
昨日の失敗もあり、少し気分転換が必要だと思ったのだ。
俺、エリカ、ルナ、透、そしてガルドが一つのテーブルを囲んでいる。
「この料理、美味しいですね」
透が感激して言う。
「現代日本では食べたことがない味です」
「この世界の料理も悪くないでしょう?」
エリカが笑顔で答える。
「宿の料理なんて、美味しくてたまらないわ」
「僕も慣れてきました」
透が嬉しそうに言う。
「特に、この肉料理が気に入ってます」
「ワイバーンの肉よ」
ルナが説明すると、ガルドが笑う。
「懐かしいな。昔、船で運んでたことがあるぜ」
「密輸業者時代ですか?」
透が興味深そうに尋ねる。
「ああ。でも、あの頃は食べる余裕なんてなかった」
「この辺りでしか食べられない珍味です」
「ワイバーン?」
透が驚く。
「ドラゴンの仲間みたいなものかしら」
エリカが答える。
「でも、普通のドラゴンより小さくて弱いの」
「そうなんですか」
透が感心する。
「ファンタジーの世界って、本当に不思議ですね」
「透は、元の世界が恋しくないのか?」
俺が尋ねると、透が少し考え込んだ。
「恋しくないと言えば嘘になりますが…」
透が俺を見る。
「でも、この世界も悪くないです」
「そうか」
「特に、皆さんと出会えたことは幸運でした」
透が感謝を込めて言う。
「一人だったら、きっと挫折してました」
「それは俺も同じだ」
俺が答える。
「仲間がいるから、ここまで来れた」
「そうよね」
エリカが俺の肩に寄りかかる。
「みんなで支え合ってるから、強くなれるのよ」
「私もそう思います」
ルナも同意する。
「一人では絶対に無理でした」
俺たちは和やかに食事を続けた。
雪菜のことを考えるのは不安だが、こうして仲間と過ごす時間は本当に貴重だ。
「ところで」
エリカが突然思い出したように言う。
「グロムとルビーから連絡はないの?」
「グロムからは一度だけ」
俺が答える。
「故郷の復興は順調に進んでるらしい」
「それは良かった」
ルナが安心したように言う。
「グロムさんらしいわね」
「ルビーは?」
エリカが尋ねる。
「ルビーは…連絡なしだな」
俺が苦笑いする。
「彼女らしいけど」
「気ままな人ですものね」
ルナも笑う。
「でも、きっと元気にしてるわ」
「そうだな」
俺も同感だった。
「また血が恋しくなったら、勝手に帰ってくるだろう」
「その時は大歓迎ね」
エリカが明るく言う。
「みんなでパーティーしましょう」
「いいですね」
透も賛成する。
「その頃には、僕ももっと役に立てるようになってるといいのですが」
「透は既に十分役に立ってるよ」
俺が励ます。
「技術的な知識は、俺たちには絶対に必要だ」
「ありがとうございます」
透が嬉しそうに答える。
「頑張ります」
食事を終えた後、俺たちはロビーでゆっくりと過ごした。
透は魔法の理論書を読み、ルナは新しい魔法の研究をしている。
エリカは剣の手入れをし、ガルドは自分の拳に巻く包帯を交換していた。
「平和な時間って、いいものね」
エリカが俺の隣に座りながら呟く。
「ああ」
俺も同感だった。
「でも、いつまで続くかわからない」
「それでも、今を大切にしたいわ」
エリカが俺の手を握る。
「タクヤと結婚できて、本当に幸せよ」
「俺もだ」
俺がエリカの手を握り返す。
「君と出会えて良かった」
「私たちも同じ気持ちです」
ルナが研究を中断して振り返る。
「タクヤさんと結婚できて、本当に幸せです」
「ルナも大切な妻だ」
俺がルナに微笑みかける。
「二人とも、ありがとう」
透が本から顔を上げる。
「皆さんを見てると、結婚っていいものだなと思います」
「トオルも、いつかきっと」
エリカが励ます。
「素敵な人に出会えるわよ」
「そうだといいのですが…」
透が照れる。
「僕は恋愛に疎くて」
「大丈夫よ」
ルナも微笑む。
「その時が来れば、自然とわかります」
「そうかもしれませんね」
透が希望を込めて答える。
夕方になり、俺たちは夕食の準備を始めた。
宿の料理人に手伝ってもらいながら、みんなで協力して作る。
「トオルさんは料理できるの?」
エリカが尋ねる。
「一人暮らしが長かったので、それなりに」
透が答える。
「でも、この世界の食材には慣れてません」
「俺が教えてやろう」
ガルドが袖をまくる。
「密輸業者時代、船の上で自分で作ってたからな」
「本当ですか?」
透が驚く。
「ガルドさんの料理、食べてみたいです」
「私も教えるわ」
エリカが張り切る。
「この野菜はこうやって切るのよ」
「なるほど」
透が真剣に見ている。
「勉強になります」
「私も手伝います」
ルナも加わる。
「この肉の下処理はこうやって」
「皆さん、本当に上手ですね」
透が感心する。
「僕も頑張ります」
俺は少し離れて、みんなの様子を眺めていた。
こうして平和に過ごしている時間が、とても愛おしく感じられる。
雪菜の脅威はまだ去っていない。
むしろ、時間が経つにつれて強くなっているはずだ。
でも、今はこの瞬間を大切にしたい。
仲間たちと過ごすかけがえのない時間を。
「タクヤ、手伝わないの?」
エリカが俺を呼ぶ。
「あ、ごめん」
俺も料理に加わった。
「何をすればいい?」
「この野菜を炒めて」
ルナが指示してくれる。
「はい」
俺がフライパンを手に取る。
みんなで協力して作った夕食は、とても美味しかった。
「自分たちで作ると、より美味しく感じるわね」
エリカが満足そうに言う。
「本当ですね」
透も同意する。
「みんなで作ると、楽しいです」
「これも大切な思い出よ」
ルナが微笑む。
食事の後、俺たちはロビーで談笑していた。
「明日は何をしようか」
俺が提案する。
「雪菜対策も重要だけど、たまには息抜きも必要だ」
「そうね」
エリカが同意する。
「街を案内してもらいましょう」
「いいですね」
透が賛成する。
「この王都、まだ全然見て回ってないんです」
「それなら決まりね」
ルナが嬉しそうに言う。
「明日は観光日和です」
「楽しみだ」
俺も期待を込めて答える。
夜も更け、俺たちはそれぞれの部屋に戻った。
俺はエリカとルナと一緒の部屋だ。
結婚後は三人で同じ部屋を使っている。
「今日は楽しかったわね」
エリカがベッドに腰を掛けながら言う。
「ええ」
ルナも同意する。
「トオルさんも、すっかり馴染んでくださいましたね」
「いい仲間が増えたな」
俺も満足だった。
「技術的な知識だけじゃなく、人柄もいい」
「そうね」
エリカが頷く。
「真面目で誠実な人よ」
「私も同感です」
ルナも評価している。
「きっと、これからもっと活躍してくれるでしょう」
「そうだな」
俺がベッドに入る。
「でも、雪菜のことも忘れずに対策を考えないと」
「わかってるわ」
エリカが俺の隣に横になる。
「でも、今夜は考えるのはやめましょう」
「そうですね」
ルナも俺の反対側に寄り添う。
「今は、幸せな時間を大切にしましょう」
「ありがとう、二人とも」
俺が両手で二人を抱き寄せる。
「君たちがいてくれて、本当に心強い」
「私たちこそ」
エリカが俺の胸に頭を乗せる。
「タクヤがいてくれるから、頑張れるのよ」
「私もです」
ルナも俺の腕の中で微笑む。
「タクヤさんと結婚できて、本当に幸せです」
俺は二人の温もりを感じながら、静かに眠りについた。
明日はどんな一日になるだろうか。
平穏な観光日になるのか、それとも突然の危機が訪れるのか。
でも、どんなことが起きても、俺たちなら乗り越えられる。
仲間がいるから。
愛する人たちがいるから。
俺は安らかな眠りに包まれていった。




