第三十六話「星降祭の奇跡と新たな転移者」
フェリシア王都に到着したのは、星降祭の前日だった。
街全体が祭りの準備で活気に満ちている。色とりどりの飾り付けが建物を彩り、屋台の準備をする商人たちの声が響いていた。
「すごい賑わいだな」
俺が感嘆すると、宿の主人が笑顔で説明してくれる。
「星降祭はこの国最大の祭りですからね」
「星降祭って、どんな祭りなんですか?」
「古い伝説によると、年に一度、天から星の欠片が降ってくるんです」
宿の主人が楽しそうに語る。
「その星の欠片に触れた者は、特別な力を授かると言われています」
特別な力…あの占い師が言っていた通りだ。
「本当に星の欠片が降ってくるんですか?」
「さあ、どうでしょう」
宿の主人が肩をすくめる。
「でも、時々不思議なことが起きるのは確かです」
俺は部屋で一晩過ごし、翌朝早く起きて街を探索した。
転移者らしき青年を探すのが本来の目的だが、なかなか手がかりが見つからない。
「本当にいるのかな…」
そう思いながら街を歩いていると、ギルドの前で人だかりができているのを見つけた。
「何だろう」
近づいてみると、一人の青年が依頼掲示板を見つめていた。
黒い髪、日本人のような顔立ち。そして、腰に透明なガラス瓶をぶら下げている。
「あいつか!」
俺の心臓がドキドキと鳴る。
間違いない。あれが俺が探していた転移者だ。
俺は慎重に青年に近づいた。
「すみません」
青年が振り返る。
やはり日本人だった。二十歳くらいで、真面目そうな顔をしている。
「はい?」
「もしかして、日本から来られた方ですか?」
青年の顔が青ざめる。
「え…どうして…」
「俺もです」
俺が小声で答えると、青年が驚いた顔をした。
「本当ですか?」
「本当です。桐谷拓也と申します」
「僕は硝子透です」
硝子透…名前からしても間違いなく日本人だ。
「ちょっと、人の少ない場所で話しませんか?」
俺が提案すると、透が頷いた。
「はい、ぜひ」
俺たちは街外れの小さな公園に移動した。
「まさか、他にも転移者がいるなんて…」
透が感激する。
「僕、一人だと思ってました」
「俺もです。いつ、この世界に来たんですか?」
「三ヶ月前です」
透が答える。
「大学のキャンパスを歩いてたら、急に光に包まれて…気づいたらこの世界にいました」
「大学生でしたか」
「はい。工学部の三年生です」
なるほど、それで現代の技術に詳しいのか。
「ガラス瓶は自分で作ったんですか?」
「はい」
「転移した時に持っていたものを参考にしたんです」
透が腰の瓶を見せる。
「錬金術師の知識と現代の化学知識を組み合わせて」
やはり只者ではない。
「すごいですね」
「そんなことより…」
透が俺を見つめる。
「桐谷さんは、元の世界に帰る方法を知りませんか?」
その質問に、俺は困った。
実は俺も帰る方法を知らない。それに、今は帰りたいとも思っていない。
「すみません、わからないです」
「そうですか…」
透が落胆する。
「僕、早く帰りたくて…研究室で待ってる後輩たちがいるんです」
透は真面目な性格らしい。責任感が強そうだ。
「でも、この世界での生活には慣れましたか?」
「それが…」
透が困った顔をする。
「戦闘が全くダメで…」
確かに、透は線の細い体型をしている。戦士タイプではなさそうだ。
「何か特別な能力はありませんか?」
「錬金術と魔道具作成くらいです」
透が自分の能力について説明してくれる。
「現代の知識を活かして、この世界にない道具を作ることができます」
「それはすごい能力ですよ」
「でも、戦闘では役に立たないんです」
透がため息をつく。
「一人で冒険するのは限界があります」
俺は考えた。
この透という青年、味方につけておいた方が良さそうだ。
現代の知識を持った技術者なら、きっと仲間たちの役に立つ。
「もしよろしければ、俺たちのパーティーに加わりませんか?」
「え?」
透が驚く。
「パーティーがあるんですか?」
「はい。信頼できる仲間たちです」
俺がパーティーメンバーについて説明すると、透の目が輝いた。
「本当に…僕でも大丈夫でしょうか?」
「もちろんです」
俺が力強く答える。
「技術者は貴重な存在ですから」
「ありがとうございます」
透が深く頭を下げる。
「ぜひ、お願いします」
こうして、俺は新しい仲間を得ることができた。
だが、まだ星降祭が残っている。
「ところで、星降祭には参加するんですか?」
透が尋ねる。
「はい。占い師に勧められて」
「占い師?」
俺が昨日の出来事を話すと、透が興味深そうに聞いていた。
「それは興味深いですね」
「科学的に説明できそうですか?」
「わからないですが…」
透が考え込む。
「この世界は魔法が実在する世界ですから、現代科学では説明できないことがたくさんありそうです」
確かにその通りだ。
「一緒に星降祭を見に行きましょう」
「はい」
夜になり、街の中央広場で星降祭が始まった。
多くの人々が空を見上げ、星の欠片を待っている。
「本当に降ってくるんでしょうか?」
透が不安そうに呟く。
「さあ…でも、あの占い師は確信を持って言ってたからな」
その時、空に異変が起きた。
雲が渦を巻き始め、その中心から黄白い光が差し込んでくる。
「あれは…」
俺が見上げると、光の中から小さな欠片のようなものが降ってきた。
「星の欠片だ!」
群衆がどよめく。
光る欠片が俺の手の平に落ちてきた。
触れた瞬間、体に電流のような感覚が走る。
「うわっ!」
そして、頭の中に声が響いた。
『汝に新たな力を授けん』
神秘的な声だった。
『汝の魔力量を強化し、使用可能な魔法の幅を広げん』
使用可能な魔法を広げる…つまり、サポート以外の魔法も使えることができるかもしれない。
「これは…」
俺が驚いていると、透も星の欠片を受け取っていた。
「僕にも!」
透の手に光る欠片が落ちる。
『汝に魔道具創造の極意を授けん』
透の体が光に包まれる。
『現代知識と古代魔法を融合せよ』
二人とも、確かに力を得た実感があった。
「すごい…本当に力をもらえました」
透が感激している。
「頭の中に、新しい知識が流れ込んできます」
「俺もです」
俺も新しい能力の使い方が直感的に理解できた。
これで、仲間たちとの戦闘がもっと楽になる。
「ありがたいな」
俺が星の欠片を大切にしまうと、透も同様にした。
「これで、少しは役に立てそうです」
「十分役に立ちますよ」
俺が透を励ます。
「明日、ヴェリアント王国に行きましょう」
「はい」
透が頷く。
「早く皆さんにお会いしたいです」
祭りが終わり、俺たちは宿に戻った。
透と同じ部屋で一晩過ごすことになる。
「桐谷さん」
透が俺に話しかける。
「この世界に来て、怖いことはありませんでしたか?」
「最初は怖かったですね」
俺が正直に答える。
「でも、仲間ができてからは楽しくなりました」
「そうですか…」
透が安心したような表情を見せる。
「僕も早く仲間に慣れて、この世界を楽しめるようになりたいです」
「大丈夫ですよ」
俺が透を励ます。
「みんな優しい人たちですから」
翌朝、俺たちはフェリシア王都を出発した。
透は荷物が少なく、身軽だった。
「研究道具は現地で調達するんですか?」
「はい」
透が答える。
「基本的な材料があれば、必要な道具は作れます」
「頼もしいですね」
ヴェリアント王国への馬車旅で、俺は透から現代日本の話を聞いた。
「大学では何を研究してたんですか?」
「人工知能とロボット工学です」
透が目を輝かせる。
「将来は、人の役に立つロボットを作りたくて」
やはり真面目で責任感の強い青年だ。
「この世界でも、その知識が活かせそうですね」
「はい。魔法と組み合わせれば、現代地球では不可能なことができるかもしれません」
透の発想力に、俺は感心した。
きっと、とんでもない発明をしてくれるだろう。
一週間の馬車旅を経て、俺たちはヴェリアントに到着した。
「ついに着きましたね」
透が感慨深そうに呟く。
「はい。みんなが待ってる故郷です」
俺が懐かしい王都を眺める。
「透さんにとっても、新しい故郷になるといいですね」
「ありがとうございます」
透が頭を下げる。
「頑張ります」
俺たちは王都に向かった。
いつもの宿『緑竜亭』が見えてくると、俺の心が弾んだ。
「みんな、元気にしてるかな」
「どんな方たちなんでしょう」
透が緊張している。
「すぐにわかりますよ」
宿の扉を開けると、ロビーでエリカとルナが談笑していた。
「タクヤ!」
エリカが俺を見つけて駆け寄る。
「おかえりなさい」
「ただいま」
俺がエリカを抱きしめると、ルナも近づいてきた。
「タクヤさん、お疲れ様でした」
「ルナもありがとう」
俺がルナの頭を撫でると、二人が透に気づく。
「この方は?」
エリカが尋ねる。
「硝子透さん。俺と同じ世界から来た人です」
俺が紹介すると、二人が驚いた。
「同じ世界?」
「つまり、転移者?」
「はい」
透が丁寧に挨拶する。
「硝子透と申します。よろしくお願いします」
「エリカよ。よろしく」
「ルナ・ムーンライトです」
二人も挨拶を返してくれる。
「それで、どんな能力をお持ちなんですか?」
ルナが興味深そうに尋ねる。
「魔道具作成と錬金術です」
透が説明すると、二人の目が輝いた。
「すごいじゃない」
「とても貴重な能力ですね」
透が緊張しながら二人に挨拶する。
その時、工房からグロムが出てきた。
「おお、タクヤ! 帰ったか」
「ただいま、グロム」
「そちらの方は?」
「新しい仲間の硝子透さんです」
俺が説明すると、グロムが興味深そうに透を見た。
「魔道具作成ができるのか?」
「はい」
透が頷く。
「現代の…いえ、特殊な知識も持っています」
「それは頼もしい」
グロムが満足そうに頷く。
「俺の工房を使ってくれ」
「ありがとうございます」
こうして、透は俺たちの仲間として迎え入れられた。
転移者を探す旅は成功し、さらに星降祭で新しい力も得ることができた。
「これからよろしく頼むよ、透」
俺が透に言うと、彼が嬉しそうに頷いた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺たちのパーティーに、新しい技術者が加わった。
きっと、これからもっと面白い冒険が待っているだろう。
だが、俺はまだ知らない。
雪菜がこれまで以上に強大な力を身につけていることを…
平和な再会の時間は、もうすぐ終わりを告げようとしていた。




