第三十話「廃人となったエリカとルナの条件」
ここからが第三章です!
現在、世界地図を作っています。
世界地図は第二章に入れたいと考えているため、割り込み投稿されますがご了承ください。
初めての挿絵なので楽しみです。
4日かけて、ヴェリアント王国についた。
王都の街並みは変わらず美しく、人々の暮らしも平和そうに見えた。
だが、俺の心は重かった。
一か月以上も仲間を置いて旅に出てしまった。エリカは両親を失った悲しみの中、俺まで突然いなくなってしまったのだ。
「大丈夫かな…」
俺が不安そうに呟くと、ルビーが肩を軽く叩いた。
「心配しても仕方ないわ。早く会いに行きましょう」
「そうだな」
ガルドも同意する。
「俺たちも一緒だ。きっと大丈夫だ」
俺たちはいつもの宿『緑竜亭』に向かった。
宿の看板が見えた瞬間、俺の胸が高鳴る。
「ただいま…」
宿の扉を開けると、ロビーにルナが座っていた。
だが、その表情は今まで見たことがないほど暗い。
「ルナ」
俺が声をかけると、ルナがゆっくりと顔を上げた。
「タクヤさん…」
その瞳に涙が浮かんでいる。
「おかえりなさい…」
「ただいま。みんなは?」
「グロムさんは工房にいます」
ルナが小さな声で答える。
「エリカさんは…」
そこで言葉を切る。
「エリカは?」
俺が急かすと、ルナが俯いた。
「部屋にいます。でも…」
「でも?」
「もう一か月以上、ほとんど何も食べていません」
俺の血の気が引く。
「何も食べていない?」
「お水は飲みますが、食事を拒否して…」
ルナの声が震える。
「話しかけても、ほとんど反応しません」
「そんな…」
俺は慌てて階段を駆け上がる。
エリカの部屋の前で、俺は一度深呼吸した。
扉をノックする。
「エリカ、俺だ。帰ってきた」
返事はない。
俺は恐る恐る扉を開けた。
部屋の中は薄暗く、カーテンが閉め切られている。
ベッドの上に、エリカが座っていた。
「エリカ…」
俺が近づくと、エリカがゆっくりと顔を向ける。
その顔は、別人のようにやつれていた。
頬はこけ、目の下には深いクマができている。いつも輝いていた瞳は、光を失っていた。
「タクヤ…」
エリカが小さく呟く。
「帰ってきたのね」
でも、その声には感情がこもっていない。まるで機械のような話し方だった。
「エリカ、大丈夫か?」
俺が手を伸ばすと、エリカが僅かに微笑んだ。
だが、すぐに表情が戻り、再び虚ろな目でどこかを見つめる。
「エリカ?」
俺が呼びかけても、もう反応しない。
まるで魂が抜けてしまったかのようだった。
「これは…」
俺は愕然とする。
エリカが完全に心を閉ざしてしまっている。
俺がドアの外に出ると、ルナが心配そうに待っていた。
「どうでしたか?」
「ひどい状態だ…」
俺は頭を抱える。
「あれは…」
「廃人状態ですね」
ルナが辛そうに答える。
「お医者様にも診てもらいましたが、精神的なショックが原因だと」
両親の死と、俺の失踪。
二重のショックがエリカを壊してしまったのだ。
「全部俺のせいだ…」
俺が自分を責めると、ルナが首を振る。
「タクヤさんのせいじゃありません」
「でも、俺がいなくなったから…」
「確かにそうかもしれません」
ルナがはっきりと言う。
「でも、今は過去を悔やんでも仕方ないです」
俺たちは一階のロビーに戻った。
ルビーとガルドが心配そうに俺を見る。
「どうだった?」
「最悪だ…」
俺がエリカの状況を説明すると、二人とも暗い顔になった。
「それは…大変だな」
ガルドが呟く。
「何か治療法はないのか?」
「それが…」
ルナが口を開く。
「一つだけ、方法があるかもしれません」
「本当か?」
俺が身を乗り出すと、ルナが複雑な表情を見せる。
「でも、条件があります」
「条件?」
「はい」
ルナが俺をまっすぐ見つめる。
「私と結婚してください」
その場が静まり返った。
「結婚?」
俺が聞き返すと、ルナが頷く。
「はい。私と結婚してくだされば、エリカさんの精神を安定させる薬がある場所を教えます」
「おい、ちょっと待てよ」
ガルドが割り込む。
「それって脅迫じゃないか」
「私もそう思うわ」
ルビーも同意する。
「友達が苦しんでるのに、それを利用するなんて」
「利用じゃありません」
ルナが強く否定する。
「私だって…私だって辛いんです」
ルナの目に涙が浮かぶ。
「エリカさんがあんな状態になって、一番近くで見ていたのは私です」
「ルナ…」
「でも、これは私にとって最後のチャンスなんです」
ルナが続ける。
「タクヤさんは、きっとエリカさんを選びます」
その通りだった。俺の心の中で、エリカは特別な存在だ。
「だから、今のうちに…」
ルナの本音が見えた。
彼女も苦しんでいるのだ。エリカへの罪悪感と、俺への想いの間で。
「でも、それって卑怯じゃないか?」
ガルドが憤る。
「仲間の弱みにつけ込むなんて」
「卑怯だと分かっています」
ルナが泣きながら答える。
「でも、他に方法がないんです」
俺は悩んだ。
確かにルナのやり方は卑怯かもしれない。だが、エリカを救うためなら…
「その薬は、本当に効くのか?」
「効くと思います」
ルナが答える。
「『心の癒しの秘薬』という、古代から伝わる薬です」
「どこにあるんだ?」
「『嘆きの森』の奥にある『癒しの泉』で作ることができます」
嘆きの森…聞いたことがある。相当危険な場所だ。
「でも、その場所は一人では到達できません」
ルナが続ける。
「特殊な魔法の知識が必要なんです」
つまり、ルナの協力が不可欠ということか。
「タクヤ、こんな条件飲む必要ないぞ」
ガルドが説得してくる。
「他にも方法があるはずだ」
「でも、エリカを救えるかもしれないんだ」
俺が答えると、ガルドが困った顔をする。
「それは分かるが…」
その時、俺は一つの疑問を思い浮かべた。
「ルビー、この世界は一夫多妻制は認められているのか?」
「え?」
ルビーが驚く。
「急に何を言い出すの?」
「いや、もしルナと結婚したとして、後でエリカと結婚することも可能なのかと思って」
「あ…」
ルビーが理解する。
「宗教によって違うけど、基本的には可能よ」
「本当か?」
「ええ。この世界の主流宗教では、男性の一夫多妻は認められてる」
そうか、それなら…
「でも、タクヤ!」
ガルドが抗議する。
「そんな理由で結婚するなんて」
「でも、他に方法がない」
俺は決断した。
「ルナ、分かった。君と結婚しよう」
「本当ですか?」
ルナが驚く。
「ああ。でも、条件がある」
「条件?」
「必ずエリカを治してくれ。そして、治った後は、彼女にも事情を説明して理解してもらう」
「分かりました」
ルナが頷く。
「約束します」
「それと…」
俺がルナを見つめる。
「俺は君のことも大切に思っている。決して利用するつもりはない」
「タクヤさん…」
ルナが涙を流す。
「ありがとうございます」
「おい、本当にいいのか?」
ガルドが心配そうに尋ねる。
「ああ」
俺が答えると、ルビーがため息をついた。
「まあ、あなたの決断なら仕方ないわね」
「でも、急に結婚なんて準備が…」
ルナが慌てる。
「簡単な儀式でいい」
俺が言うと、ルナが嬉しそうに頷いた。
「はい」
こうして、俺とルナの結婚が決まった。
エリカを救うための、苦渋の決断だった。
でも、俺はルナのことも嫌いではない。彼女なりに俺を想ってくれているのも分かる。
複雑な気持ちだったが、今はエリカのことが最優先だ。
「それじゃあ、準備を始めましょう」
ルナが張り切っている。
「明日にでも式を挙げて、すぐに嘆きの森に向かいましょう」
「分かった」
俺が頷くと、ルナが俺の手を握った。
「タクヤさん…本当にありがとうございます」
その手は温かく、少し震えていた。
ルナも緊張しているのだろう。
「こちらこそ、エリカを救ってくれてありがとう」
俺がルナの手を握り返すと、彼女が幸せそうに微笑んだ。
その時、階段から足音が聞こえた。
グロムが降りてくる。
「おお、タクヤ! 帰ってきたか!」
グロムが俺を見つけて駆け寄る。
「元気そうで何よりだ」
「ただいま、グロム」
俺が挨拶すると、グロムがルビーとガルドに気づく。
「こちらは?」
「旅の途中で仲間になってくれた人たちです」
俺が紹介すると、グロムが二人と握手を交わす。
「よろしく頼む」
「こちらこそ」
ガルドが答える。
「ところで…」
グロムが俺を見る。
「エリカの様子は見たか?」
「ああ…ひどい状態だった」
「そうか…」
グロムが重いため息をつく。
「あの子には本当に辛い思いをさせてしまった」
「でも、治療法があるかもしれません」
ルナが説明する。
「嘆きの森の『癒しの泉』で作れる薬があるんです」
「本当か?」
グロムが期待を込めて尋ねる。
「ああ。でも、その代わりに…」
俺がルナとの結婚について説明すると、グロムが目を丸くした。
「結婚? 急すぎないか?」
「急だけど、エリカを救うためです」
「う〜ん…」
グロムが悩む。
「まあ、お前が決めたことなら反対はしないが…」
「ありがとう」
「でも、ルナ」
グロムがルナを見る。
「お前も本当にそれでいいのか?」
「はい」
ルナがはっきりと答える。
「私の本心です」
グロムが納得したような表情を見せる。
「分かった。それなら祝福しよう」
「ありがとうございます」
ルナが嬉しそうに礼を言う。
こうして、俺たちの新しい冒険が始まることになった。
ルナとの結婚、そしてエリカを救うための旅。
複雑な想いを抱えながら、俺は新たな決意を固めた。
必ずエリカを元の彼女に戻してみせる。
そして、みんなで幸せになるのだ。
たとえどんな困難が待っていても。
一夫多妻の話、[この国]から[この世界]に変更致しました。(2025年9月15日)




