第二十九話「泳げないクラーケンって…ただの雑魚じゃん」
この話でやっと第一目標であった十万文字に達成します!
毎日の大量投稿が功を奏したと思います。
次の目標は二十万字にしたいですね。
イラリア大陸から出発して二週間が経った。
ガルドが手配してくれた小型船『海鷹号』は、予想以上に快適だった。
「いい船ね」
ルビーが船首で海風を浴びながら呟く。
「でしょう? 俺の愛船だったんだ」
ガルドが誇らしげに答える。
「密輸稼業の時から使ってたが、もうそんなことには使わない」
「本当に更生したのね」
この二週間、ガルドは約束通り誠実だった。航海の知識も豊富で、頼りになる仲間になっていた。
「タクヤ、調子はどう?」
ルビーが俺に声をかける。
「おかげさまで。君の航海術のおかげで船酔いもしないよ」
「血を分けてもらってる相手が具合悪くなったら困るもの」
ルビーがいつものようにそっけなく答える。
だが、この二週間で俺とルビーの関係も良好になっていた。彼女なりに俺を気遣ってくれているのがわかる。
「それにしても、順調すぎるくらい順調ですね」
俺が海を眺めながら言う。
「あと二週間でセリア大陸か…」
「そう焦るなって」
ガルドが船の舵を取りながら笑う。
「この調子なら予定通り着けるさ」
その時だった。
船の後方から、黒い影が高速で接近してくるのが見えた。
「あれは…船?」
俺が目を凝らすと、それは船ではなかった。
海面を歩いている人影だった。
「まさか…水上歩行?」
ルビーが驚く。
「相当な魔力の持ち主ね」
その人影がどんどん近づいてくる。
黒いローブを纏い、顔は見えないが、明らかに人間ではない雰囲気を醸し出していた。
「魔族だな」
ガルドが舵を握る手に力を込める。
「間違いない」
黒ローブの人影が、ついに俺たちの船に追いついた。
そして、水面から軽やかに飛び上がり、船の甲板に着地する。
「ようやく見つけたぞ、人間どもよ」
低く、不気味な声が響く。
ローブを脱ぎ捨てると、そこには灰色の肌に赤い目、頭に角を生やした魔族が現れた。
「魔王軍第四軍団長『深海の支配者』だ」
クラーケン…海の魔物の名を冠する魔族か。
「何の用だ?」
ガルドが警戒しながら問う。
「決まっている。貴様らの命をもらいに来た」
クラーケンが不敵に笑う。
「特に、そこの小僧。貴様は我が軍の幹部を三名も倒した大罪人だからな」
俺のことを知っているのか。
「でも、どうして俺たちの居場所がわかったんだ?」
「魔王軍の情報網を舐めるな」
クラーケンが答える。
「貴様がイラリア大陸にいることなど、とっくに把握していた」
そうか、雪菜だけでなく魔王軍にも追われているのか。
「ルビー、ガルド、危険だ」
俺が二人に警告する。
「分かってるわ」
ルビーが戦闘態勢に入る。
「こんな狭い船の上じゃ、派手な血魔法は使えないけど」
「俺も手伝うぜ」
ガルドが巨大な拳を構える。
「三対一なら勝機はある」
だが、クラーケンは余裕の表情を崩さない。
「三対一? 面白い」
クラーケンが手をかざすと、海水が竜巻のように巻き上がった。
「『深海魔法・水竜の怒り』!」
水の竜が俺たちに向かって襲いかかる。
「うわああ!」
俺たちは慌てて回避する。
だが、船の上では逃げ場が限られている。
「『血魔法・血の盾』!」
ルビーが防御魔法を展開するが、水竜の勢いは止まらない。
「くそっ!」
ガルドが盾を破られ、海水に押し流される。
「ガルド!」
俺が駆け寄ろうとした瞬間、クラーケンが俺の前に現れた。
「隙だらけだな、小僧」
クラーケンの腕が鋭い刃のように変化し、俺に向かって伸びる。
俺は瞬間移動で回避しようとするが—
「させるか!」
クラーケンが俺の移動先を読み、そこに先回りしていた。
「読まれた!」
「『深海魔法・水刃乱舞』!」
クラーケンの周りに無数の水の刃が出現し、俺を包囲する。
「まずい…」
その時、ルビーが俺をかばって前に出た。
「させないわ!」
だが、ルビーの動きは油断していたのか、いつもより鈍かった。
水の刃がルビーの腹部を貫く。
「ぐあああ!」
ルビーの腹に大きな穴が開く。
「ルビー!」
俺が駆け寄る。
「大丈夫…吸血鬼は…死なない…」
ルビーが苦痛に歪んだ顔で呟く。
「でも…臓器が…やられた…血を…」
俺は迷わず首を差し出す。
「いくらでも飲んで」
「んっ…ちゅっ…あぁっ…んっ、ちゅるっ…はぁっ、ん…んっ…」
ルビーが俺の首に牙を立てる。
いつもより多く血を吸われる感覚がある。
だが、ルビーの傷が塞がり始める。
「ありがとう…でも…しばらく動けない」
ルビーがぐったりと船の端に座り込む。
「臓器を一度傷つけられると…負荷が大きいのよ」
つまり、しばらくはルビーは戦闘に参加できない。
「おい、小僧!」
ガルドが海から這い上がってくる。
「俺たち二人で何とかするしかないぜ!」
「わかりました」
俺は瞬刃を抜く。
「ほう、まだやる気があるか」
クラーケンが面白そうに笑う。
「だが、所詮は人間。我には勝てん」
「やってみなければわからない」
俺が瞬間移動でクラーケンの背後に回る。
だが、クラーケンはすぐに振り返り、水の鞭で反撃してくる。
「遅いな」
俺は間一髪で回避する。
「『鋼鉄拳・アッパーカット』!」
ガルドがクラーケンの顎に拳を叩き込む。
「ぐはっ」
クラーケンがよろめく。
「今だ、タクヤ!」
「『瞬間移動剣技・連続斬り』!」
俺が瞬間移動を繰り返しながら、クラーケンを斬り続ける。
「小賢しい!」
クラーケンが怒って『深海魔法・津波召喚』を発動する。
巨大な波が俺たちの船を襲う。
「やばい!」
船が大きく傾く。
俺とガルドは必死にバランスを取る。
「この野郎!」
ガルドがクラーケンに向かって突進する。
「『鋼鉄拳・メガトンパンチ』!」
全力の拳がクラーケンの胸を捉える。
「ぐおおお!」
クラーケンが後退する。
「今のうちに!」
俺が瞬間移動でクラーケンの真上に移動し、剣を振り下ろす。
「『瞬間移動剣技・天空斬り』!」
だが、クラーケンが手を上げて俺の剣を受け止める。
「甘いな」
クラーケンが俺を掴み、海に向かって投げ飛ばそうとする。
だが、その時ガルドが俺を引っ張った。
「危ねぇ!」
ガルドと俺が抱き合うような形になる。
「ありがとう、ガルド」
「どういたしまして」
だが、その瞬間にクラーケンが突進してきた。
「まとめて始末してやる!」
クラーケンが俺たちに向かって突っ込んでくる。
俺は咄嗟に瞬間移動を発動した。
だが、ガルドを抱えたまま移動してしまった。
「うわああああ!」
俺たちは船の外、海の上に瞬間移動してしまった。
そして、勢いでクラーケンも一緒に海に落ちた。
「しまった!」
三人とも海に落下する。
「泳げるか、ガルド?」
「任せろ!」
ガルドが力強く水をかく。
だが、クラーケンも海の中で俺たちを追ってくる。
「海は我の庭だ!」
クラーケンが水中で魔法を発動する。
だが、その時だった。
クラーケンの動きが急に鈍くなった。
「何だ…体が重い…」
どうやら、クラーケンの重装備が海中では負担になっているらしい。
「今だ!」
俺はガルドと一緒に船まで泳ぎ戻る。
クラーケンも浮上しようとするが、重い装備のせいでどんどん沈んでいく。
「くそ…このままでは…」
クラーケンの声が水中に消えていく。
「助けなくていいのか?」
「敵だぞ、敵」
ガルドが呆れる。
「情けをかける必要はない」
確かにそうだが、何だか複雑な気分だった。
俺たちが船に這い上がると、海面に何かが浮かんできた。
「あれは…」
黒い石に魔王軍の紋章が刻まれたペンダントだった。
「幹部の証だな」
ガルドがそれを回収する。
「これがあれば、魔王軍幹部討伐の証明になる」
「また偶然で勝ってしまった…」
俺がため息をつく。
「偶然だろうが何だろうが、勝ちは勝ちだ」
ガルドが俺の肩を叩く。
「そんなに気にするな」
「そうね…」
ルビーがようやく回復してきた。
「結果オーライよ」
こうして、俺たちは魔王軍第四軍団長を倒した。
またしても偶然の勝利だったが…
◇◇◇
それから二週間後。
「見えたぞ!」
ガルドが船首で叫ぶ。
「セリア大陸だ!」
俺は急いで船首に駆け寄る。
確かに、遠くに見覚えのある大陸の輪郭が見えた。
「本当だ…故郷だ」
俺の目に涙が浮かぶ。
ついに帰ってきた。エリカたちが待つセリア大陸に。
「よかったわね」
ルビーも嬉しそうに言う。
「約束通り、一ヶ月で着けたじゃない」
「ガルドのおかげです」
俺がガルドに感謝を込めて言う。
「ありがとう、本当に」
「こちらこそ、いい経験をさせてもらったぜ」
ガルドが照れくさそうに答える。
「俺も少しは更生できたかな」
港が見えてきた。
ヴェリアント王国の王都港だ。
懐かしい光景に、俺の胸が高鳴る。
「エリカ…ルナ…グロム…」
みんなに会えるのだ。
船が港に到着し、俺たちは下船した。
「それで、これからどうするの?」
ルビーが尋ねる。
「君はどうする?」
俺がルビーに聞き返すと、彼女が微笑む。
「しばらくはあなたについて行くわ」
「え?」
「だって、あなたの血の味が忘れられないもの」
ルビーがいつもの調子で答える。
「それに、面白そうな仲間たちがいるじゃない」
「俺はどうしようかな」
ガルドが悩んでいる。
「元犯罪者の俺が、王都にいても大丈夫かな」
「大丈夫ですよ」
俺が力強く答える。
「俺が保証します。ガルドは立派に更生したんだから」
「ありがとう、タクヤ」
ガルドが感激する。
「それじゃあ、俺も一緒に行こう」
こうして、俺たちは王都に向かった。
新しい仲間、ルビーとガルドを連れて。
エリカたちとの再会が楽しみだ。
でも、同時に不安もある。
雪菜はどうなったのか。
そして、エリカは俺を許してくれるだろうか。
両親の死の真相を話さなければならない。
重い気持ちもあったが、それでも俺は前に進む。
故郷に帰ってきたのだから。
仲間たちが待つ場所に。
夕日が王都を照らしている。
俺の新たな物語が、再び始まろうとしていた。




