第二十八話「不良キャラの更生って熱いよね」
竜の谷から三日後、俺とルビーはようやくイラリア大陸最大の港町ポートリアンに到着した。
「やっと着いたわね」
ルビーがほっと息をつく。
「ここならセリア大陸行きの船があるはずよ」
港町は想像以上に大きく、多くの船が停泊していた。商船、軍船、そしてセリア大陸との交易船らしき大型船も見える。
「あの大きな船がセリア大陸行きかな」
俺が指差すと、ルビーが頷く。
「たぶんそうね。でも、料金のことを考えると頭が痛いわ」
金貨一万枚…俺の全財産を合わせても、到底足りない額だ。
「とりあえず、港の事務所で詳しい情報を聞いてみよう」
俺たちは港の管理事務所に向かった。
だが、事務所の前には長い行列ができていて、みんな困った顔をしている。
「何だろう、この行列」
「苦情でも言いに来てるのかしら」
俺たちは列の最後尾に並んだ。
前にいた商人らしき男性に声をかける。
「すみません、何かあったんですか?」
男性が振り返り、疲れた表情を見せる。
「船が全部運行停止になってるんだ」
「運行停止?」
「港を不良どもが占拠しちゃってな」
男性が港の方を指差す。
「あそこの連中が暴れ回って、まともに船を出せない状況なんだ」
俺は港を見回す。確かに、所々で柄の悪そうな連中が群れている。
「不良って、どんな連中ですか?」
「『鋼鉄の牙』って名前の不良集団だ」
別の商人が教えてくれる。
「で一番凶暴な連中さ。リーダーのガルドって男が特にヤバい」
ガルド…聞いただけで強そうな名前だ。
「警備隊は何してるんです?」
「追い払おうとしたが、返り討ちにあった」
商人がため息をつく。
「もう一週間もこの状態が続いてる」
一週間…俺にはそんなに時間がない。雪菜がいつ追いついてくるかわからないのだ。
「どうする、タクヤ?」
ルビーが俺を見る。
「船が出ないなら、待つしかないけど…」
「待てない」
俺ははっきりと答える。
「雪菜がいつ来るかわからないんだ。一刻も早くセリア大陸に帰らないと」
「それじゃあ…」
ルビーが俺の考えを察する。
「その不良集団をどうにかするしかないわね」
「お願いします、ルビー」
俺が頭を下げると、ルビーがため息をついた。
「仕方ないわね。あなたの血の味が忘れられないもの」
ルビーが立ち上がる。
「でも、私一人じゃ厳しいかも。手伝ってもらうわよ」
「もちろんです」
俺たちは港の不良集団がたむろしている場所に向かった。
近づくにつれて、彼らの威圧的な雰囲気が伝わってくる。
筋骨隆々の男たちが、武器を持ってうろついている。
「あ、カタギじゃん」
不良の一人が俺たちを見つける。
「ここは俺たちの縄張りだ。とっとと失せな」
「すみません、船に乗りたいんです」
俺が丁寧に頼むと、不良たちが笑い出した。
「船? ここの船は全部俺たちのものだ」
「乗りたきゃ、通行料を払え」
別の不良が俺たちの前に立ちはだかる。
「通行料はいくらですか?」
「そうだな…金貨百枚ってところか」
法外な値段だ。しかも、それで船に乗れる保証もない。
「高すぎます」
「嫌なら帰れ」
不良が俺を小突く。
「あら、私に喧嘩を売るの?」
ルビーが前に出る。
その瞬間、ルビーの瞳が赤く光った。
「え?」
不良が戸惑った瞬間、ルビーが動いた。
「『血魔法・赤い鎖』!」
ルビーの手から赤い光の鎖が伸び、不良の体を拘束する。
「何だこれ!? 体が動かない!」
「血を媒介にした拘束魔法よ」
ルビーが説明する。
「しばらく動けないわね」
「おい、何してる!」
他の不良たちが駆けつけてくる。
だが、ルビーは動じない。
「『血魔法・血の刃』!」
空中に赤い刃が出現し、不良たちに向かって飛んでいく。
「うわあああ!」
不良たちが慌てて逃げ回る。
「すげぇ…ルビーって本当に強いんだな」
俺が感嘆していると、港の奥から大きな足音が聞こえてきた。
「誰だ、俺の部下に手を出したのは」
現れたのは、身長二メートルを超える巨漢だった。
全身筋肉だらけで、顔には無数の傷跡がある。
「お前がガルドか」
ルビーが挑発的に言う。
「そうだ。『鋼鉄の牙』のリーダー、ガルド・ストライクだ」
ガルドが俺たちを睨みつける。
「俺の縄張りで暴れるとは、いい度胸だな」
「暴れてるのはあなたたちでしょう」
ルビーが反論する。
「ここは公共の港よ。勝手に占拠しないで」
「うるせぇ!」
ガルドが巨大な拳を振り上げる。
「力こそが正義だ! 文句があるなら力で証明しろ!」
ガルドがルビーに向かって拳を振り下ろす。
だが、ルビーは軽やかにかわす。
「遅いわね」
ルビーがガルドの背後に回り込む。
「『血魔法・血の爆弾』!」
ガルドの足元に赤い光球が出現し、爆発する。
「うおおおお!」
ガルドが吹き飛ばされる。
だが、すぐに立ち上がった。
「効かねぇな」
ガルドがにやりと笑う。
「俺の体は鋼鉄並みに硬いんだ」
「そう。それなら…」
ルビーが本気の表情になる。
「『血魔法奥義・紅蓮の嵐』!」
ルビーの周りに無数の赤い刃が出現し、ガルドに向かって一斉に飛んでいく。
「うわああああ!」
ガルドが赤い刃に切り刻まれる。
だが、まだ倒れない。
「まだだ…まだ終わってねぇ!」
ガルドが血まみれになりながら立ち上がる。
「『鋼鉄拳・メガトンパンチ』!」
ガルドの拳に金属のオーラが纏われる。
「危ない、ルビー!」
俺が叫ぶ。
ガルドの拳がルビーに向かう。
だが、その瞬間—
「『血魔法・血の盾』!」
ルビーの前に赤い障壁が出現し、ガルドの拳を受け止める。
「なに!?」
ガルドが驚く間に、ルビーが反撃する。
「『血魔法・血の槍』!」
巨大な血の槍がガルドの肩を貫く。
「ぐはっ…」
ガルドがついに膝をつく。
「参った…参ったよ」
ガルドが降参の意を示す。
「お嬢ちゃん、強すぎるぜ」
「当然よ。吸血鬼を舐めないで」
ルビーが勝ち誇った表情を見せる。
その時、他の不良たちが一斉にひれ伏した。
「リーダーが負けた!」
「降参だ!」
「もう暴れません!」
港に静寂が戻る。
「これで船が出せるわね」
ルビーが満足そうに言う。
「ありがとう、ルビー。助かったよ」
「別に。あなたのためじゃなくて、血のためよ」
ルビーがそっぽを向く。
俺たちが船の手配をしようと港の事務所に向かおうとした時、背後から声をかけられた。
「ちょっと待ってくれ」
振り返ると、ボロボロになったガルドが立っていた。
「まだ何か?」
ルビーが警戒する。
だが、ガルドが突然土下座した。
「頼む! 俺も仲間に入れてくれ!」
「え?」
俺とルビーが驚く。
「急にどうしたんですか?」
「俺は今まで間違っていた」
ガルドが頭を下げたまま話す。
「力だけが全てだと思ってた。でも、お嬢ちゃんの戦いを見て分かったんだ」
「何が分かったって?」
「本当の強さは、仲間のために戦うことだ」
ガルドが顔を上げる。その目には、今までとは違う光が宿っていた。
「あんたは仲間のために戦ってた。俺はただの暴力だった」
「急に改心されても…」
ルビーが困惑する。
「信用できないわ」
「分かってる。でも、俺には恩返しがしたいんだ」
ガルドが立ち上がる。
「実は、俺はセリア大陸との航路に詳しいんだ」
「航路?」
「そうだ。普通の商船ルートなら半年かかる」
ガルドが説明する。
「でも、俺が知ってる隠しルートなら一ヶ月で着ける」
「一ヶ月!?」
俺とルビーが驚く。
「本当ですか?」
「本当だ。俺は元々、密輸業者だったからな」
ガルドが苦笑いする。
「隠しルートや秘密の港を知ってるんだ」
一ヶ月なら、雪菜に追いつかれる前にセリア大陸に着けるかもしれない。
「でも、どうして教えてくれるんですか?」
「更生のためだ」
ガルドがまじめな表情になる。
「今まで悪いことばかりしてきた。少しでも償いたいんだ」
「う〜ん」
ルビーが考え込む。
「確かに一ヶ月で着けるなら魅力的だけど…」
「信用できませんか?」
「だって、ついさっきまで敵だったのよ」
確かにルビーの言う通りだ。
だが、一ヶ月でセリア大陸に帰れるなら、リスクを取る価値がある。
「俺は信じてみたいと思います」
俺がガルドを見る。
「本当に更生する気があるなら、一緒に来てください」
「タクヤ!」
ルビーが抗議する。
「危険よ」
「でも、他に方法がない」
俺が説得する。
「このまま半年も船で過ごすより、一ヶ月で帰れる方がいい」
「う〜ん…」
ルビーがしばらく考える。
「わかったわ。でも、条件があるの」
「条件?」
「もし裏切ったら、血を全部吸い取るわよ」
ルビーがガルドを睨む。
「覚悟しなさい」
「もちろんだ」
ガルドが力強く頷く。
「俺はもう悪いことはしない」
こうして、俺たちの旅の仲間にガルドが加わることになった。
「それで、その隠しルートって具体的には?」
「まず、ここから小型船で無人島チェーンを経由する」
ガルドが地図を広げる。
「普通の商船は大陸沿いを回るから時間がかかるが、島伝いなら最短距離で行ける」
「でも、無人島って危険じゃないんですか?」
「確かに魔物はいる。でも、俺たちの実力なら問題ない」
ガルドが自信を見せる。
「それに、島々には補給ポイントもある」
「補給ポイント?」
「密輸業者が使ってた隠し倉庫だ」
なるほど、元密輸業者ならではの知識だ。
「いつ出発できますか?」
「明日の朝一番で出られるぜ」
ガルドが答える。
「船も手配済みだ」
「早いですね」
「一刻も早く更生したいからな」
ガルドの目に決意が見える。
本当に改心しているようだ。
「それじゃあ、明日の朝出発しましょう」
俺が決断する。
「やっとセリア大陸に帰れる」
「そうね。エリカちゃんたちも心配してるでしょうし」
ルビーが同意する。
「ありがとう、ガルド」
「こちらこそ、ありがとうございます」
ガルドが深く頭を下げる。
「必ずや、セリア大陸までお送りします」
その夜、俺たちは港町の宿で最後の夜を過ごした。
明日からいよいよセリア大陸への帰路が始まる。
一ヶ月という短期間で帰れるなら、雪菜に追いつかれる前に仲間たちと再会できるかもしれない。
「エリカ…みんな…」
俺は故郷の仲間たちを思い浮かべながら、希望に胸を膨らませていた。
だが、まだ知らない。
雪菜がどれほど近くまで迫っているかを…




