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第二十七話「竜の谷の試練」


 街を出発してから三日後、俺とルビーはついに竜の谷に到着した。

 その光景は、想像以上に壮絶だった。


 深い谷間には硫黄の匂いが立ち込め、所々から地熱による蒸気が立ち上っている。岩肌は黒く焼け焦げ、まるで地獄の入り口のような雰囲気だった。


「うわあ…すごい迫力ね」


 ルビーが感嘆の声を上げる。


「本当にここにドラゴンがいるんですか?」

「いるわよ。あそこを見なさい」


 ルビーが谷の奥を指差す。

 確かに、巨大な洞窟が見える。その入り口は、まさにドラゴンが住んでいそうな大きさだった。


「でも、今は昼間だから寝てるはず」

「ドラゴンって夜行性なんですか?」

「古代竜は基本的に昼間は眠ってるのよ」


 ルビーが説明してくれる。


「だから、今がチャンス」


 俺たちは慎重に谷を降りていく。

 足場は悪く、一歩間違えれば滑落しそうな険しい道だった。


「気をつけて。ここで音を立てたら、すぐにバレるわよ」

「わかってます」


 俺は瞬刃ブリンクを抜き、いつでも戦えるように構える。

 もし古代竜が起きてしまったら、全力で戦うしかない。


 谷底に着くと、硫黄の匂いがさらに強くなった。


「くさい…」

「我慢して。あと少しよ」


 洞窟の入り口が目の前に迫る。

 中からは、低い唸り声のような音が聞こえてくる。


「あれが…古代竜の寝息?」

「そうね。ぐっすり眠ってるわ」


 ルビーが小声で言う。


「でも、油断は禁物よ」


 俺たちは洞窟の中に入った。

 内部は想像以上に広く、天井も高い。まるで地下神殿のような空間だった。


 そして、洞窟の奥で巨大な影がうごめいている。

 古代竜だ。

 その大きさは、以前戦ったレッドドラゴンの三倍はある。全身が黄金色の鱗に覆われ、翼を広げれば洞窟全体を覆えそうな大きさだった。


「でかい…」


 俺が呟くと、ルビーが俺の口を押さえる。


「静かに」


 古代竜の周りには、大量の宝物が積み上げられている。

 金貨、宝石、魔法のアイテム…まさに竜の宝物庫だった。


「あそこに星の欠けら(ステラピース)があるはず」


 ルビーが宝物の山を指差す。


「赤白く光ってる石よ」


 俺は目を凝らして探す。

 宝物の山の中に、確かに赤白い光を放つ石が見えた。


「あった」

「でも、古代竜のすぐそばね」


 星の欠けらは、古代竜の前足のすぐ近くに置かれている。

 取りに行くには、眠っているドラゴンのすぐそばまで行かなければならない。


「私が取りに行くわ」


 ルビーが提案する。


「吸血鬼は足音を消すのが得意だから」

「でも、危険すぎる」

「大丈夫よ。任せて」


 ルビーが俺に微笑みかけ、静かに古代竜に向かって歩いていく。

 その足取りは本当に音がしない。まるで影のように、洞窟の床を滑るように移動していく。


 俺は固唾を飲んで見守る。

 ルビーが古代竜に近づく。あと数メートルで星の欠けらに手が届く。


 その時だった。

 古代竜の目がカッと開いた。


「グルルルル…」


 低い唸り声が洞窟に響く。


「しまった!」


 ルビーが慌てる。


「何者だ、我が宝物庫を荒らす愚か者は」


 古代竜が立ち上がる。

 その威圧感は、今まで戦ったどの敵よりも桁違いだった。


「逃げろ、ルビー!」


 俺が叫ぶ。

 だが、古代竜の動きは思った以上に素早かった。


「『古代魔法・炎の嵐』!」


 古代竜が口から巨大な炎を吐く。

 ルビーが必死に回避しようとするが、間に合わない。


「きゃああああ!」


 炎がルビーを包み込む。

 そして、俺の目の前で信じられないことが起きた。

 ルビーの左腕が、炎で焼き切られて地面に落ちた。


「ルビー!」


 俺は瞬間移動でルビーの元に向かう。

 だが、瞬間移動が封印されていることを忘れていた。


「くそっ!」


 俺は走ってルビーの元に駆けつける。


「大丈夫か?」

「痛い…でも死なないわ」


 ルビーが苦痛に歪んだ顔で答える。


「吸血鬼は不死身だから」

「でも、腕が…」

「血を飲めば再生するのよ」


 ルビーが俺の首筋を見る。


「お願い、血を分けて」


 俺は迷わず首を差し出す。


「いくらでも」

「んっ…ぁ、ちゅっ…ん、んくっ…」


 ルビーが俺の首に牙を立てる。

 血を吸われる感覚と共に、俺の体力が奪われていく。

 だが、その間にもルビーの切断された腕が再生し始めた。


「すげぇ…」


 見る見るうちに、新しい腕が生えてくる。


「ありがとう、タクヤ」


 ルビーが俺から離れる。

 完全に再生した左腕を動かして確認している。


「でも、まだ古代竜が…」


 俺が振り返ると、古代竜が俺たちを見下ろしていた。


「ほう、吸血鬼か。久しぶりに見たな」


 古代竜が話しかけてくる。


「そして、お前は人間か。珍しい組み合わせだ」

「あの、俺たちは…」

「星の欠けらが欲しいのだろう?」


 古代竜が俺の言葉を先読みする。


「大陸間移動のための」

「ご存じなんですか?」

「当然だ。その石は我が宝物の一つだからな」


 古代竜が星の欠けらを見る。


「だが、簡単には渡せん」

「やはり、戦わなければならないんですか?」

「いや」


 古代竜が首を振る。


「貴に一つ、質問がある」

「質問?」

「その石を使って、本当に大陸間移動ができると思うか?」


 俺とルビーが顔を見合わせる。


「できるんじゃないんですか?」

「昔はできた」


 古代竜が重々しく答える。


「だが、それは千年も前の話だ」


 俺の心臓が嫌な鼓動を刻み始める。


「千年前?」

「転移門は既に機能を停止している」


 古代竜が爆弾発言をする。


「古代魔法文明の衰退と共に、大陸間の転移網は失われた」

「そんな…」


 ルビーが青ざめる。


「でも、私の情報では…」

「お前の情報は古すぎる」


 古代竜がルビーを見る。


「吸血鬼は長寿だから、情報の更新を怠りがちだ」


 絶望的な事実だった。

 星の欠けらを手に入れても、転移門が機能しないなら意味がない。


「じゃあ、どうやって大陸間を移動すれば…」

「船しかない」


 古代竜がはっきりと言う。


「現在、大陸間を結ぶのはその一つの手段のみだ」


 俺は頭を抱えた。

 結局、振り出しに戻ったのか。


「でも、お前たちの勇気は見事だった」


 古代竜が俺たちを見下ろす。


「褒美として、星の欠けらはやろう」

「え?」

「転移門には使えないが、強力な魔力を秘めた石だ。他の用途があるかもしれん」


 古代竜が星の欠けらを俺たちの前に転がす。


「ただし、条件がある」

「条件?」

「我の住処を荒らした償いとして、吸血鬼の血を少し分けてもらおう」


 古代竜がルビーを見る。


「吸血鬼の血は滋養に富んでいるからな」

「私の血?」


 ルビーが困惑する。


「大丈夫だと思う、ルビー」


 俺がルビーを励ます。


「君が俺の血で回復したように、すぐに再生するだろう」

「そうね」


 ルビーが古代竜に近づく。


「少しだけよ」


 古代竜が小さな爪でルビーの腕を軽く切る。

 数滴の血が、古代竜の舌に落ちる。


「うむ、良い味だ」


 古代竜が満足そうに頷く。


「これで取引成立だ」


 俺は星の欠けらを拾い上げる。

 手のひらサイズの石だが、確かに強力な魔力を感じる。


「ありがとうございます」

「礼には及ばん。それより、早く帰った方がいい」


 古代竜が忠告してくれる。


「お前を狙う者が近づいてくる」

「狙う者?」


 俺の心臓が跳ね上がる。

 まさか、雪菜がもう戻ってきたのか?


「黒髪の美しい女だ。だが、その瞳には狂気が宿っている」


 間違いない。雪菜だ。


「ヤバい、もう見つけられたのか」

「我でも警戒するほどの力を持っている。気をつけろ」


 古代竜の警告に、俺とルビーは慌てて洞窟を出た。


「急がないと」

「でも、転移門が使えないなら、どうやって帰るのよ」


 ルビーが不安そうに言う。


「船しかないのかしら」

「いや、待て」


 俺が星の欠けらを見つめる。


「この石、他の用途があるって古代竜が言ってた」

「他の用途?」

「もしかしたら、瞬間移動の能力を強化してくれるかもしれない」


 俺は石を握りしめる。

 すると、石が温かくなり、俺の体に魔力が流れ込んできた。


「これは…」


 俺の瞬間移動封印が、少し緩んだような気がする。

 ただ、石は心なしか色褪せた。


「どうしたの?」

「瞬間移動の制限が、少し和らいだ」


 俺が実験として、短距離の瞬間移動を試みる。

 成功した。まだ大陸間移動は無理だが、通常の瞬間移動は可能になったようだ。


「それなら、とりあえず港町に向かいましょう」


 ルビーが提案する。


「船の便を調べて、最短でセリア大陸に帰る方法を考えるのよ」

「そうですね」


 俺たちは港町に向けて移動を開始した。

 だが、背後から雪菜の気配が近づいてくるのを感じる。


「急ごう」


 俺とルビーは、必死に港町を目指した。

 星の欠けらを手に入れたが、転移門という希望は絶たれた。


 残された選択肢は、船による長期間の旅路のみ。

 果たして、雪菜に追いつかれる前にセリア大陸に帰ることができるのだろうか。

 俺の心は、再び不安に包まれていた。

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