第二十二話「新たなパートナー」
あの平和な夜から一週間後、俺は騎士団本部での定例会議に出席していた。
魔王軍第三軍団長討伐の功績により、俺の階級は正騎士に昇進していた。とはいえ、まだ新人の域を出ない。
「タクヤ騎士、お疲れ様」
会議を終えて廊下を歩いていると、聞き慣れた声がした。
振り返ると、エリカが騎士団の制服を着て立っていた。
「エリカ? その格好は…」
「合格したのよ」
エリカが誇らしげに胸を張る。
「王国騎士団の採用試験にね!」
「本当か?」
俺は驚いた。エリカは確かに実力者だが、騎士団の試験は相当厳しいはずだ。
「特別推薦で受験させてもらったの」
エリカが説明する。
「あなたのパートナーとしての実績が評価されたのよ」
確かに、俺とエリカは長い間一緒に冒険してきた。その連携は騎士団も認めるところだったのかもしれない。
「おめでとう」
俺が祝福すると、エリカが嬉しそうに笑った。
「これで正式に一緒に任務につけるわ」
「でも、ルナは?」
「それが…」
エリカの表情が少し曇る。
「魔法使いは騎士団とは別の組織になるから、一緒には入れなかったの」
「そうか…」
ルナは王国魔法協会に所属することになったらしい。直接的な連携は難しくなりそうだ。
「でも、魔法協会との合同任務もあるから、また一緒に戦える機会はあるはず」
エリカが希望的に言う。
「そうだな」
その時、騎士団長のアルバート卿が現れた。
「タクヤ騎士、エリカ騎士」
「お疲れ様です、団長」
俺たちは敬礼する。
「君たちにちょうど良い任務がある」
アルバート卿が任務書を差し出す。
「ペア任務だ」
「ペア任務?」
「そうだ。二人一組での作戦行動だ」
アルバート卿が説明する。
「王都北部の森で、ブラックウルフの群れが目撃されている」
ブラックウルフ…俺が初めて戦った(正確には偶然倒した)魔獣だ。
「かなり大きな群れらしく、商隊への被害が続出している」
「了解いたしました」
エリカが答える。
「討伐目標は群れのリーダー格を含む十匹以上。報酬は金貨200枚だ」
「承知いたしました」
俺も応じる。
「それでは、準備が整い次第出発してくれ」
◇◇◇
王都の宿でルナとグロムに任務のことを報告すると、ルナが少し寂しそうな表情を見せた。
「私も一緒に行きたかったです…」
「今度の合同任務で一緒に戦えるよ」
俺が慰めると、ルナが小さく頷いた。
「はい…気をつけてくださいね」
「当然だ」
グロムが言う。
「ブラックウルフは単体では大したことないが、群れで行動すると厄介だ」
「気をつけます」
エリカが答える。
「それに、今度は私がタクヤを守りますから」
「頼りになるパートナーができて良かったな」
グロムが満足そうに頷く。
「俺は武器の手入れをしておく。何かあったらすぐに駆けつける」
「ありがとう」
翌朝、俺とエリカは王都北部の森に向かった。
瞬間移動で一瞬で到着する。
「やっぱり便利ね、この能力」
エリカが感心する。
「疲れるけどな」
俺が苦笑いする。
「でも、これで連携の幅が広がるわ」
エリカが戦術を考えている様子だった。
「作戦は?」
「まず偵察よ。群れの規模と位置を確認する」
エリカがリーダーシップを発揮する。
「それから、リーダー格を特定して、集中攻撃」
「わかった」
俺たちは森の奥へ進んだ。
しばらく歩くと、遠くから狼の遠吠えが聞こえてきた。
「いたわね」
エリカが剣を構える。
「でも、まずは様子を見よう」
俺たちは茂みに隠れて観察した。
開けた場所に、十数匹のブラックウルフがいた。普通の狼よりも一回り大きく、毛色が真っ黒だ。
「あれがリーダーね」
エリカが群れの中央にいる特に大きなブラックウルフを指差す。
そのブラックウルフは他の個体より二回りも大きく、鋭い牙を剥き出しにしていた。
「あれは…アルファ級ね」
「アルファ級?」
「ブラックウルフの中でも特に強い個体よ。普通の冒険者じゃ太刀打ちできない」
エリカが説明してくれる。
「でも、私たちなら大丈夫」
エリカが自信を見せる。
「作戦は?」
「あなたが瞬間移動でリーダーの気を引いて、私が横から攻撃する」
「わかった」
俺は瞬刃を抜いて準備した。
「それじゃあ、行くわよ」
エリカの合図で、俺は瞬間移動でアルファの背後に現れた。
「うおおおお!」
俺が剣で斬りかかる。
だが、アルファは振り返って俺の攻撃を牙で受け止めた。
「硬い!」
アルファの牙は刃物のように鋭く、俺の剣を挟み込んでいる。
「ガルルルル!」
アルファが唸りながら俺を睨みつける。
その眼光は、以前戦見たブラックウルフとは比べ物にならないほど凶暴だった。
「今よ!」
エリカがアルファの側面から攻撃する。
だが、アルファは俺を突き飛ばしながら、エリカの攻撃も回避した。
「素早い!」
さらに、周りの群れも俺たちを取り囲み始めた。
「包囲されるわ!」
エリカが警告する。
十数匹のブラックウルフが俺たちを囲み、一斉に襲いかかってくる。
「うわあああ!」
俺は瞬間移動で回避しながら応戦する。
だが、数が多すぎる。
「『剣技・回転斬り』!」
エリカが回転攻撃で複数の狼を薙ぎ払う。
だが、アルファが彼女に襲いかかった。
「危ない!」
俺は瞬間移動でアルファとエリカの間に割って入る。
アルファの爪が俺の腕をかすめる。
「タクヤ!」
「大丈夫だ!」
俺はアルファと向き合う。
だが、アルファの実力は想像以上だった。攻撃が全く通じない。
「このままじゃ…」
その時、エリカが提案した。
「タクヤ、私と連携攻撃をしましょう」
「連携攻撃?」
「あなたの瞬間移動と私の剣技を組み合わせるの」
エリカが説明する。
「私が攻撃する瞬間に、あなたが相手の背後に現れて挟み撃ちにする」
「やってみよう」
俺たちは息を合わせた。
「行くわよ!『剣技・突進斬り』!」
エリカがアルファに向かって突進する。
アルファがエリカに集中した瞬間、俺は瞬間移動でその背後に現れた。
「今だ!」
俺とエリカが同時にアルファを攻撃する。
前後からの同時攻撃に、さすがのアルファも対応しきれない。
「ガオオオオ!」
アルファが苦痛の声を上げる。
「やったわ!」
だが、アルファはまだ倒れない。
怒り狂ったアルファが、残った力で反撃してくる。
アルファが高速で爪を振り回す。
俺は瞬間移動で回避するが、エリカが避けきれない。
「きゃあ!」
エリカが吹き飛ばされる。
「エリカ!」
俺が駆け寄ろうとすると、アルファが俺に向かってくる。
だが、その時エリカが立ち上がった。
「まだよ!『秘技・月光剣舞』!」
エリカのルナライトが美しく輝く。
月光のような軌跡を描きながら、エリカがアルファに斬りかかる。
その美しく、そして致命的な一撃がアルファの首を捉えた。
アルファがついに倒れる。
リーダーを失った群れは、散り散りに逃げて行った。
「やったあ!」
エリカが喜ぶ。
「すごい技だったな」
俺が感心すると、エリカが恥ずかしそうに笑った。
「新しい剣をもらってから練習してたのよ」
「月光剣舞…剣の名前にちなんだ技か」
「そうよ。ルナライトの特性を活かした技なの」
俺たちは戦利品を回収し、任務完了の報告をするために王都に戻った。
久しぶりのエリカとの連携戦闘は、思った以上にうまくいった。
「やっぱり私たち、良いコンビよね」
帰り道、エリカが嬉しそうに言う。
「ああ。君がいてくれて助かった」
「当然よ。私はタクヤのパートナーなんだから」
エリカの笑顔が輝いて見える。
王都に戻って任務報告を済ませ、宿に帰る途中、エリカが急に立ち止まった。
「どうした?」
「あのね、タクヤ」
エリカが少し恥ずかしそうに言う。
「久しぶりに村に帰ってみない?」
「村? カレン村のことか?」
「そう。私たちが初めて出会った村よ」
エリカが懐かしそうに呟く。
「お母さんやお父さんにも会いたいし、タクヤのことも紹介したいの」
俺の胸が少し温かくなる。エリカの家族に会えるのか。
「でも、騎士団の任務が…」
「大丈夫よ。しばらく任務はないし、休暇をもらえるはずよ」
エリカが説得してくる。
「それに、村のみんなもタクヤに会いたがってるかもしれないし」
確かに、あの村には良い思い出がある。俺が初めて「勇者」と呼ばれた場所でもある。
「そうだな。久しぶりに顔を見せるのもいいかもしれない」
俺が同意すると、エリカが飛び跳ねて喜んだ。
「やったあ! それじゃあ、明日休暇の申請を出しましょう」
「ああ」
俺も笑顔になる。
平和な村での休息。今の俺たちには必要かもしれない。
「お母さん、きっと驚くわよ」
エリカが楽しそうに話す。
「私が王国騎士団になったって聞いたら」
「そうだな」
俺は素直に嬉しい気持ちになった。
エリカの家族に騎士として認められるのは、確かに誇らしいことだ。
「それじゃあ、ルナちゃんとグロムさんにも報告しましょう」
「そうしよう」
俺たちは宿に向かった。
カレン村への里帰り。エリカの家族との再会。
きっと楽しい時間になるだろう。
俺はそう信じて、足取り軽く歩いていた。
まだ、あの村で起きた悲劇を知らずに―




