第十八話「髪を下ろすと豹変する人」
第一次試験から一夜が明け、俺は王宮の控室で第二次試験の開始を待っていた。
昨日、別のブラッドファング討伐戦では、他のチームも健闘したようだが、結果的に第二次試験に進めたのは十二人だった。四チーム中、三チームが成功したことになる。
俺のチームメンバーであるマルクス、フェリックス、ミアも全員が通過している。昨日の連携が評価されたのだろう。
「皆さん、第二次試験について説明します」
王国騎士団の試験官が現れた。歴戦の勇士といった風格の、傷だらけの男性だった。
「第二次試験は個人戦闘技術の評価です。一対一の模擬戦を行い、勝者のみが第三次試験に進めます」
個人戦か。昨日はチーム戦だったから、今度は純粋に個人の実力が試される。
「対戦相手はくじ引きで決定します」
また運次第か。俺は内心で祈る。できれば知らない相手と戦いたい。
試験官が箱を持ってくる。俺は恐る恐る紙を取り出した。
『A-6』
同じ番号の相手を探すと…
「あ、タクヤさん」
振り返ると、ミアが同じ紙を持って立っていた。
「ミア…」
昨日一緒に戦った仲間と対戦することになるなんて。
「よろしくお願いします」
ミアが深く頭を下げる。
「こちらこそ…でも、昨日は一緒に戦った仲間じゃないか」
「はい。でも、これは試験です」
ミアの表情が少し変わる。
「私も王国騎士団に入りたいんです。手は抜かないでくださいね」
その言葉には、昨日の臆病そうな雰囲気とは違う強い意志が込められていた。
「第一試合、タクヤ対ミア。訓練場まで移動してください」
俺たちは広い訓練場に案内された。周りには他の受験者や審査員が見守っている。
訓練場の中央で、俺とミアが向き合った。
「武器は実戦用を使用します。ただし、致命傷を与えることは禁止。相手が戦闘不能になるか降参した時点で勝負が決まります」
試験官が説明する。
「準備はよろしいですか?」
「はい」
俺とミアが同時に答える。
俺は瞬刃を抜き、構える。軽やかな剣の感触が心地よい。
ミアも剣を構える…が、なぜか髪を結んでいるリボンに手をかけた。
「ミア?」
「ごめんなさい、タクヤさん」
ミアがリボンを解く。
瞬間、彼女の髪がサラサラと流れ落ちる。そして…
「本気で行かせていただきます」
ミアの雰囲気が完全に変わった。
昨日の恐がりで控えめな少女は消えていた。代わりにいるのは、鋭い眼光を放つ剣士だった。まるで別人のようだ。
「え…」
俺が戸惑った瞬間、ミアが動いた。
「はあああああ!」
信じられない速度で俺に向かってくる。
俺は咄嗟に瞬間移動で回避する。
ガキィン!
俺がいた場所の地面に、ミアの剣が深々と突き刺さった。
「すごいスピードだ…」
俺は冷や汗をかく。
ミアが振り返る。その目は戦いの興奮で光っていた。
「逃げないでください、タクヤさん」
その声には、昨日の弱々しさは微塵もない。
「『連続剣技・疾風斬り』!」
ミアが連続攻撃を仕掛けてくる。
一太刀、二太刀、三太刀…
俺は必死に剣で受け止める。だが、ミアの攻撃は止まらない。
「うわあああ!」
俺は瞬間移動で距離を取る。
「はああああ!」
だが、ミアはすぐに追いかけてくる。その速度は俺の瞬間移動に匹敵するほどだ。
「『剣技・回転斬り』!」
ミアが回転しながら斬りかかる。
俺は剣でガードするが、強烈な衝撃で後退する。
「ぐっ…」
腕が痺れる。こんな力、昨日はどこに隠していたんだ?
「まだまだです!」
ミアがさらに攻撃を続ける。
俺は必死に応戦するが、完全に押されている。ミアの実力は昨日とは比べ物にならない。
「『剣技・昇竜斬り』!」
ミアが下から上に向かって斬り上げる。
俺は瞬間移動で回避しようとしたが…
「読みました!」
ミアが俺の移動先を予測し、剣を突き出す。
「しまった!」
俺の脇腹をミアの剣先がかすめる。
痛みが走り、俺は体勢を崩す。
「勝負あり!」
ミアが勝利を確信したような表情を見せる。
だが、その瞬間に俺は気づいた。ミアの攻撃パターンに、わずかな隙がある。
「まだだ!」
俺は倒れるふりをして、ミアを油断させる。
「え?」
ミアが困惑した瞬間、俺は瞬間移動で彼女の真上に現れた。
「『瞬間移動剣技・天空斬り』!」
上から下へ、全力で剣を振り下ろす。
ミアが慌てて剣で受け止めるが、重力と瞬間移動の勢いが加わった俺の攻撃は強烈だった。
「きゃあああ!」
ミアが後退し、ついに体勢を崩す。
「今度こそ勝負あり!」
俺は瞬間移動でミアの背後に回り、剣を首筋に当てる。
「…参りました」
ミアが静かに降参の意を示す。
「勝者、タクヤ!」
試験官が勝負の決着を宣言する。
観客席から拍手が聞こえる。
「お疲れ様でした、ミア」
俺が剣を収めると、ミアが髪を結び直し始めた。
リボンで髪を結んだ途端、彼女は元の恐がりな少女に戻った。
「あ、あの…ごめんなさい」
顔を真っ赤にして謝るミア。
「何で謝るんだ?」
「髪を解くと…性格が変わってしまうんです」
ミアが恥ずかしそうに説明する。
「まるで別人みたいに攻撃的になって…」
「なるほど、そういうことか」
俺は納得する。昨日の最後に見せた強さも、きっと同じ現象だったのだろう。
「でも、すごい強さだった。本当に驚いた」
「ありがとうございます…でも、負けちゃいました」
ミアが残念そうに俯く。
「いい戦いだったよ。胸を張っていい」
俺がミアの肩を軽く叩くと、彼女が少し笑顔を見せた。
「タクヤさんも、お疲れ様でした」
◇◇◇
その後、他の対戦も続いた。
マルクスは弓兵の相手に勝利し、フェリックスは惜しくも敗北した。
見知らぬ受験者の中からも、一人の女性剣士が勝ち上がった。彼女の名前はセレナといい、俺より年上の凛とした雰囲気の人だった。
「第二次試験の結果を発表する」
試験官が試験結果を告げる。
「第三次試験進出者は、タクヤ、マルクス、セレナの三名です」
ちょうど三人。採用予定人数と同じだ。
その時、国王が現れた。
「皆、よく戦った」
国王が三人の前に立つ。
「実は、第三次試験は中止とする」
「え?」
俺たちが驚く。
「君たち三名の実力は、既に十分確認できた。第三次試験の面接は必要ない」
国王が微笑む。
「よって、タクヤ、マルクス、セレナ、君たちを王国騎士団の正式メンバーとして迎え入れる」
「本当ですか!?」
マルクスが喜ぶ。
「光栄です、陛下」
セレナが丁寧にお辞儀する。
「ありがとうございます」
俺も深く頭を下げる。
ついに王国騎士団のメンバーになれた。これで雪菜と正式に戦える立場を手に入れた。
「君たちには、特別な任務を与える予定だ」
国王が続ける。
「詳細は後日、騎士団本部で説明する。まずは今日はゆっくり休みなさい」
「はい」
俺たちは新人騎士として、王国騎士団の一員となった。
セレナという新しい仲間もできた。まだあまり話していないが、相当な実力者であることは確かだ。
「タクヤ、よろしく頼む」
マルクスが握手を求めてくる。
「こちらこそ。一緒に頑張ろう」
俺もマルクスと握手を交わす。
「私もよろしくお願いします」
セレナも控えめに挨拶してくれる。
「こちらこそ」
新しい仲間たち。きっと雪菜との戦いでも、頼りになるだろう。
王宮を出ると、ミアが待っていた。
「タクヤさん、本当におめでとうございます」
「ありがとう、ミア。君も十分強かった」
「いえ…でも、またいつか一緒に戦えるといいですね」
ミアが希望的な表情を見せる。
「きっと機会があるよ」
俺は宿に戻り、仲間たちに報告した。
「おめでとう、タクヤ!」
エリカが飛び跳ねて喜ぶ。
「これでタクヤさんも立派な騎士様ですね」
ルナも嬉しそうだ。
「ふん、当然の結果だな」
グロムがぶっきらぼうに言うが、満足そうな表情をしている。
「ありがとう、みんな。でも、これからが本当の戦いだ」
俺は決意を新たにする。
王国騎士団として、雪菜との最終決戦に挑む準備が整った。
そして、グロムの故郷を取り戻すという目標も、現実味を帯びてきた。
新たなスタートライン。俺たちの本格的な戦いが始まろうとしていた。




