第十七話「王国騎士団採用試験」
王国騎士団採用試験の日がやってきた。
朝早く、俺は王宮に向かった。グロムが書いてくれた推薦状を大切に持ち、新しく作ってもらった瞬刃を腰に佩いている。
王宮の大広間に到着すると、既にたくさんの人が集まっていた。
「こんなにいるのか…」
ざっと数えて五十人はいる。みんな屈強そうな男性ばかりで、中には女性の姿も数人見える。
全員が武器を持ち、鎧を身に着けている。本格的な冒険者や傭兵といった風格の人々だった。
「俺、場違いかも…」
正直なところ、周りの人たちと比べて俺は見劣りする。体格も実戦経験も明らかに劣っている。
その時、玉座の方から声がかかった。
「皆、よく集まってくれた」
国王が現れる。
だが、その姿を見て俺は愕然とした。以前会った時と比べて、明らかにやつれている。頬はこけ、目の下にはクマができていた。
「あんなに…」
雪菜が脱獄してから、国王はあんな風になってしまったのかもしれない。国の治安に責任を感じているのだろう。
俺は罪悪感に襲われた。雪菜が強くなったのは、俺が瞬間移動を使い続けたからだ。間接的に、俺が国王を苦しめている。
「まず、採用人数について告知する」
国王が重々しい声で告げる。
「今年の王国騎士団採用人数は、三名のみだ」
ざわめきが広間に響く。
「三名って…こんなにいるのに?」
「厳しすぎる…」
受験者たちが動揺している。
「王国騎士団は王国最高の武力組織だ。簡単に入れるものではない」
国王が続ける。
「試験は三段階に分かれている。第一次試験は実戦形式。第二次試験は個人戦闘技術。第三次試験は面接だ」
三段階もあるのか。
「第一次試験について説明しよう」
国王の側近が前に出て説明を始める。
「王都近郊に根城を構える少数盗賊団の総称『ブラッドファング』の壊滅作戦だ」
実際の盗賊討伐が試験内容だった。
「四人一組のチームを編成し、盗賊団のアジトを襲撃してもらう。リーダー格の盗賊を捕らえるか討伐した チームのみが、第二次試験に進める」
「チーム戦か…」
俺は周りを見回す。みんな知らない顔ばかりだ。
「チーム編成は、今からくじ引きで決定する」
側近が箱を持ってくる。
「同じ番号を引いた四人がチームになります」
俺は箱に手を入れて紙を取り出す。
『7番』と書かれていた。
「7番の方、こちらに集まってください」
俺を含めて四人が集まった。
一人目は弓を背負った青年だった。金髪で、鋭い目つきをしている。
「俺はマルクス。弓兵だ」
簡潔な自己紹介だった。
二人目は僧侶服を着た青年。優しそうな顔立ちで、神官の杖を持っている。
「僕はフェリックス。回復魔法が専門です」
回復役がいるのは心強い。
三人目は…小柄な女性だった。長い桃髪で、大きな目をしている。だが、その目は不安そうに泳いでいた。
「わ、私はミア…剣士です…けど」
声が震えている。明らかに緊張して、というより怖がっている。
「よろしくお願いします。俺はタクヤです」
俺が自己紹介すると、マルクスが俺を見つめた。
「タクヤ…どこかで聞いた名前だな」
「魔王軍幹部討伐の英雄じゃないですか?」
フェリックスが気づく。
「そうか、あのタクヤか」
マルクスが納得したような表情を見せる。
「それなら心強い」
「えええ!? あの有名な…?」
ミアが驚いて俺を見る。
「そんな大したことは…」
「でも、それなら私たちのチーム、すごく強いんじゃないですか?」
ミアが少し元気になる。
「そうですね。バランスの良いチーム編成です」
フェリックスが分析する。
「タクヤさんが前衛、僕が回復、マルクスさんが遠距離攻撃、ミアさんがサポート」
「よし、それじゃあ作戦を立てよう」
マルクスがリーダーシップを発揮する。
俺たちは作戦会議を始めた。
◇◇◇
王都から1番遠い盗賊団『ブラッドファング』のアジトは、王都から南に二時間の森の中にあった。
廃墟となった砦を利用している。
「見張りが二人いるな」
マルクスが望遠鏡で確認する。
「どうやって侵入する?」
フェリックスが尋ねる。
「俺の瞬間移動で奇襲をかけるのはどうだろう?」
俺が提案する。
「瞬間移動? 本当にできるのか?」
マルクスが驚く。
「ああ。でも、一人ずつしか運べない」
「それでも十分だ」
嘘をついた。本当は複数に運べるが体力切れが怖い。
相手がわからない以上、体力は残して損はないはずだ。
作戦が決まった。まず俺が瞬間移動で見張りの背後に現れ、気絶させる。その隙にみんなが侵入するという流れだ。
「準備はいいか?」
「はい」
「お願いします」
「が、頑張ります…」
ミアの声だけ震えている。
俺は見張りの背後に瞬間移動した。
「何っ!?」
見張りが驚く間もなく、俺は剣の柄で後頭部を叩く。
ドスッという鈍い音と共に、見張りが倒れる。
もう一人の見張りが俺に気づき、剣を抜こうとした瞬間―
ヒュッ!
マルクスの矢が見張りの肩に命中する。
「ぐあああ!」
見張りが倒れ込む。
「侵入成功だ」
俺たちは砦の中に入った。
内部は薄暗く、松明の明かりが所々に灯されている。盗賊たちの話し声が奥から聞こえてくる。
「何人いるかわからないな」
マルクスが慎重に偵察する。
「とりあえず、奥に進もう」
俺たちは足音を殺しながら廊下を進んだ。
最初の部屋に到着すると、中で盗賊が三人、酒を飲みながら談笑していた。
「よし、一気に片付けよう」
俺が瞬間移動で部屋に突入する。
「何だ貴様!?」
盗賊の一人が立ち上がる。
俺は瞬刃で斬りかかる。軽い剣の感触が心地よく、思った以上に鋭く切れた。
「ぐはっ!」
盗賊が倒れる。
同時に、マルクスの矢が二人目の盗賊に命中。
「ギャアアア!」
三人目の盗賊が俺に襲いかかってくる。
だが、俺は瞬間移動で背後に回り込み、剣で切り付ける。
「ぐああああ!」
あっという間に三人とも倒した。
「すごいじゃないですか!」
フェリックスが感嘆する。
「瞬間移動、本当に便利ですね」
「でも、まだリーダーがいるはずだ」
マルクスが警戒を解かない。
俺たちはさらに奥へ進んだ。
大きなホールに出ると、そこには十人ほどの盗賊が集まっていた。そして、中央に座る大柄な男―明らかにリーダー格だった。
「おい、見張りの様子がおかしいぞ」
リーダーが部下に命令している。
「確認に行け」
「はい、ボス」
部下が立ち上がった時、俺たちが現れた。
「何者だ!?」
リーダーが立ち上がる。
「王国騎士団の試験官だ。大人しく投降しろ」
俺が宣言する。
「ハハハ! 小僧が何を言っている!」
リーダーが大笑いする。
「俺様は『ブラッドファング』の統括…ボス、ガロンだ! 貴様らごときに負けるものか!」
ガロンが巨大な斧を構える。
「みんな、来るぞ!」
俺が警告すると同時に、十人の盗賊が一斉に襲いかかってきた。
「うわああああ!」
ミアが悲鳴を上げる。
「ミア、下がってろ!」
俺は瞬間移動で盗賊の群れに突っ込む。
ブリンクが青白く光り、盗賊の一人を斬り倒す。
「ぐはっ!」
同時に、マルクスの矢が次々と盗賊を射抜いていく。
「させるか!」
盗賊の一人が俺に剣で斬りかかる。
俺は瞬間移動で回避し、背後から反撃。
「くそっ! こいつ、どこに現れるかわからん!」
盗賊たちが混乱する。
その隙に、マルクスがさらに矢を放つ。
「ぎゃああ!」
また一人倒れる。
「フェリックス、回復頼む!」
俺が叫ぶ。
「はい! 『治癒の光』!」
フェリックスの魔法で、俺の傷が癒される。
だが、その時ガロンが動いた。
「小賢しい!」
ガロンが巨大な斧を振り回し、俺に向かってくる。
俺は瞬間移動で回避しようとしたが―
「読めたぞ!」
ガロンが俺の移動先を予測し、斧を振り下ろす。
「やばい!」
間一髪で剣でガードするが、ガロンの力は凄まじく、俺は吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」
壁に叩きつけられ、激痛が走る。
「タクヤさん!」
フェリックスが駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「なんとか…」
俺は立ち上がる。ガロンは予想以上に強い。
「ふん、有名な英雄もこんなものか」
ガロンが嘲笑する。
「次は仕留めてやる」
ガロンが再び斧を構える。
その時、マルクスが叫んだ。
「タクヤ、俺の矢に合わせろ!」
マルクスが特別な矢を番える。矢じりが光っている。
「あの矢は…?」
「魔法の矢だ。爆発する」
なるほど、連携攻撃か。
「わかった!」
俺は瞬間移動でガロンの注意を引く。
「また同じ手を!」
ガロンが俺に向かってくる。
その瞬間、マルクスが矢を放つ。
光る矢がガロンの足元に着弾。
「何っ!?」
ドカーン!
大爆発が起こり、ガロンがよろめく。
「今だ!」
俺は瞬間移動でガロンの背後に回り、瞬刃を突き立てる。
「ぐああああああ!」
ガロンが絶叫して倒れ込む。
「やった!」
ミアが喜ぶ。
「お疲れ様でした」
フェリックスが安堵する。
「良い連携だったな」
マルクスが満足そうに言う。
俺たちは見事にブラッドファングを壊滅させた。
「これで第一次試験クリアだ」
俺がほっとした時、ガロンがまだ息をしていることに気づいた。
「まだ…終わってない…」
ガロンが最後の力を振り絞って立ち上がる。
「死なばもろとも!」
ガロンが懐から爆弾を取り出す。
「爆弾だ! みんな逃げろ!」
俺が叫ぶ。
「でも、みんなを一度に運べない!」
「だったら…」
その時、ミアが前に出た。
「私が止めます!」
「ミア、危険だ!」
「大丈夫です! 信じてください!」
ミアが剣を構える。その瞬間、彼女の雰囲気が変わった。
恐がりだった少女が、勇敢な戦士の顔になる。
「『聖剣技・光の一閃』!」
ミアの剣が光り、一瞬でガロンとの距離を詰める。
「何っ!?」
光の剣がガロンの手を切り落とし、爆弾が地面に転がる。
「すごい…」
俺は呆然とする。
ミアは恐がりなんかじゃなかった。本当はとても強い剣士だったのだ。
「爆弾の信管を抜きました」
ミアが冷静に報告する。
「これで本当に終わりですね」
こうして、俺たちのチームは第一次試験を見事にクリアした。
チームワーク、個人の技術、そして最後の機転。全てが噛み合った完璧な連携だった。
「みんな、お疲れ様」
俺が仲間たちに感謝を込めて言う。
「こちらこそ、タクヤさんと組めて光栄でした」
フェリックスが笑顔で答える。
「良い チームだったな」
マルクスも満足そうだ。
「私も…頑張れました」
ミアが恥ずかしそうに笑う。
第二次試験に進めるのは、今回の試験でどのチームなのかはわからない。
だが、俺は確信していた。きっとうまくいく。
王国騎士団への第一歩を踏み出せた気がした。




