第十三話「エリカへの贈り物」
新しい仲間ルナを加えて数日が経った。
俺たちは王都の宿で今後の作戦を練っているところだった。
「ユキナの居場所を突き止めるのが先決ですね」
ルナが魔法書を読みながら言う。
「でも、どうやって探すの?」
エリカが首を傾げる。
その時、俺はエリカの剣に目が留まった。
彼女の愛用の剣が、思っていた以上にボロボロになっている。
刃こぼれがあちこちにあり、柄の部分も擦り切れている。
よく見ると、ドラゴン戦の時についた焦げ跡も残っていた。
「エリカ、その剣…」
「ん? ああ、これね」
エリカが剣を見下ろす。
「確かにボロボロになっちゃったわね。でも、愛着があるから手放せなくて」
俺は胸が痛くなった。
考えてみれば、俺はエリカに何もしてあげたことがない。
彼女は俺のために危険な冒険に付き合ってくれて、いつも俺を支えてくれている。
なのに、俺は彼女に何一つ恩返しをしていない。
「そうだ…」
俺は決心した。エリカに何かプレゼントしよう。
でも、何をあげればいいのだろう?
「ルナ、ちょっと相談があるんだ」
夕食後、俺はルナを部屋に呼んだ。
「何でしょう? まさか、愛の告白ですか?」
ルナが期待に満ちた表情で見つめる。
「違う違う。エリカのことで相談があるんだ」
「エリカさんの?」
ルナの表情が少し曇る。
「彼女にプレゼントを贈りたいんだが…何がいいと思う?」
「プレゼント…ですか」
ルナが考え込む。
「どんな理由で?」
「いつも俺を支えてくれているから、感謝の気持ちを込めて」
「なるほど…それなら、誕生日プレゼントということにしてはどうでしょう?」
「誕生日?」
「はい。エリカさんの誕生日を聞いて、サプライズでお祝いするんです」
なるほど、それはいいアイデアだ。
「でも、誕生日がいつかわからない」
「それは私が聞き出しますよ」
ルナがウインクする。
「女の子同士の方が聞きやすいですから」
◇◇◇
翌日、ルナがエリカと親しげに話している。
「エリカさんって、いつお生まれなんですか?」
「誕生日? 来週の火曜日よ」
エリカが無警戒に答える。
「もうすぐじゃないですか! お祝いしないと」
「別に、特別なことはしなくてもいいのよ」
「そんなこと言わないで。女の子にとって誕生日は特別な日なんですから」
ルナが熱心に説得している。
来週の火曜日…一週間後だ。
準備する時間は十分ある。
「それで、何をプレゼントするんですか?」
ルナが俺に尋ねる。
「剣だ。エリカの剣、ボロボロだから新しいのをプレゼントしたい」
「剣ですか…いいですね」
「でも、普通の剣じゃダメだ。最高級の、エリカにふさわしい剣を贈りたい」
俺は決意を込めて言った。
「最高級となると…王都一番の刀鍛冶に頼むしかないですね」
「王都一番?」
「『マスター・ソード』の異名を持つ、レオ・シュミットという鍛冶師がいます」
ルナが説明してくれる。
「でも、彼に剣を作ってもらうには、国王陛下の紹介状が必要です」
「国王の紹介状…」
普通なら諦めるところだが、俺には実績がある。
魔王軍幹部討伐とドラゴン討伐の功績で、国王に顔を知ってもらっている。
「よし、国王陛下に相談してみよう」
◇◇◇
翌日、俺は王宮を訪れた。
「タクヤ殿、お久しぶりです」
国王が温かく迎えてくれる。
「今日は何のご用で?」
「実は、お願いがあるのです」
俺は事情を説明した。仲間への感謝の気持ちを込めて、最高級の剣をプレゼントしたいと。
「なるほど…仲間を大切にする心、素晴らしいことです」
国王が頷く。
「レオへの紹介状ですね。喜んで書きましょう」
「ありがとうございます」
「ただし…」
国王が少し困った顔をする。
「彼の作る剣は非常に高価です。金貨500枚はかかるでしょう」
「500枚…」
俺の所持金とほぼ同額だ。
でも、エリカのためなら惜しくない。
「わかりました。お願いします」
◇◇◇
レオ・シュミットの工房は、王都の職人街にあった。
『マスター・ソード工房』という看板が掲げられている。
中に入ると、壁一面に美しい剣が飾られていた。
どれも芸術品のような仕上がりだ。
「国王陛下の紹介ですか」
レオは髭を蓄えた初老の男性だった。
「光栄です。どのような剣をお求めですか?」
「女性用の剣を。軽くて扱いやすく、でも丈夫で美しいものを」
「女性用ですか…恋人への贈り物でしょうか?」
「仲間です。いつも俺を支えてくれる、大切な仲間への感謝の気持ちを込めて」
レオが興味深そうに俺を見る。
「その女性の特徴を教えてください。身長、体格、戦闘スタイルなど」
俺はエリカのことを詳しく説明した。
「なるほど…イメージが湧きました」
レオが頷く。
「美しく、軽やか。それでいて芯の強さを持つ剣。『月光剣』と名付けましょう」
「ルナライト…いい名前ですね」
「完成まで五日ほどかかります。金貨500枚、よろしいですね?」
「はい」
俺は所持金のほとんどを支払った。
これでエリカに最高の剣をプレゼントできる。
◇◇◇
工房を出ると、ルナが待っていた。
「どうでした?」
「頼めた。五日後に完成だ」
「良かった。私の方も準備があります」
「準備?」
「ケーキです。魔法で美味しいケーキを作りますよ」
ルナが得意気に言う。
「魔法でケーキが作れるのか?」
「もちろんです。『創造魔法』の応用ですから」
頼もしい限りだ。
「それと、当日はエリカさんを外に連れ出します」
「外に?」
「買い物に誘って、時間を稼ぐんです。その間に飾り付けをしてください」
「わかった」
計画は順調に進んでいる。
◇◇◇
五日後、ルナライトが完成した。
美しい銀色の刃に、淡い青色の装飾が施された柄。
月光のように美しく輝く、まさに芸術品だった。
「素晴らしい出来栄えです」
レオが満足そうに言う。
「きっとその女性も喜ばれるでしょう」
「ありがとうございます」
俺は大切に剣を受け取った。
そして、ついに誕生日当日。
「エリカさん、一緒に買い物に行きませんか?」
朝から、ルナがエリカを誘い出す。
「買い物?」
「はい。女の子同士で街を見て回りましょうよ」
「そうね…たまにはいいかも」
エリカが同意する。
「タクヤさんは今日はお休みですね?」
ルナが俺にウインクする。
「ああ、部屋でゆっくりするよ」
「それじゃあ、行ってきます」
二人が出て行くのを見送ってから、俺は準備に取りかかった。
まず、部屋の飾り付け。
色とりどりの布や花を使って、部屋を華やかにする。
それから、手作りクラッカーの制作。
前の世界の知識を活かして、紙と火薬で作る簡易クラッカーだ。
数時間後、ようやく準備が整った。
その時、ルナから魔法の通信が入った。
『もうすぐ帰ります。準備はどうですか?』
「こっちは完璧だ」
『ケーキも完成してます。それじゃあ、始めましょう』
俺は部屋の電気を消して、二人の帰りを待った。
「ただいま」
エリカの声が聞こえる。
「お疲れ様でした」
ルナも一緒だ。
「あれ? 電気が消えてる。タクヤ、寝てるのかしら?」
エリカがドアを開けた瞬間――
「お誕生日おめでとう!」
俺とルナが一斉に叫び、手作りクラッカーを鳴らす。
「えええええ!?」
エリカが驚いて飛び上がる。
部屋の電気がつくと、華やかに飾り付けられた室内が現れる。
テーブルの上には、ルナが魔法で作った美しいケーキが置かれていた。
「これって…まさか」
「エリカの誕生日パーティーだ」
俺が微笑む。
「サプライズ成功ですね」
ルナも嬉しそうだ。
「でも…どうして私の誕生日を?」
「ルナが聞いてくれたんだ」
「そうなんです。だって、大切な日ですもの」
エリカの目に涙が浮かんでいる。
「こんなことしてもらったの、初めて…」
「まだ終わりじゃない」
俺はルナライトの包みを取り出す。
「これ、誕生日プレゼントだ」
「プレゼント? でも、お祝いしてもらっただけで十分よ」
「遠慮しないで。開けてみて」
エリカが恐る恐る包みを開ける。
美しく輝くルナライトが姿を現すと、エリカの表情が変わった。
「これって…剣?」
「君の剣、ボロボロになってたから。新しいのをプレゼントしようと思って」
「でも、こんな美しい剣…高かったでしょう?」
「そんなことはどうでもいい。君にはいつも支えてもらってるから」
俺が説明すると、エリカの涙が頬を伝った。
「タクヤ…」
「『月光剣』っていう名前なんだ。君にぴったりだと思う」
「ルナライト…」
エリカが剣を手に取る。
軽やかで美しく、彼女の手に完璧に馴染んだ。
「ありがとう…本当にありがとう」
エリカが泣きながら俺に抱きついてきた。
温かくて柔らかい感触に、俺の心臓が激しく鳴る。
「こんなに嬉しいプレゼント、初めて…」
エリカが俺の胸で涙を流している。
その時、ルナを見ると、複雑な表情をしていた。
でも、すぐに笑顔に戻る。
「さあ、ケーキを食べましょう」
「そうね」
エリカが俺から離れる。
でも、その時にルナにだけ聞こえるような小さな声で呟いた。
「私の方が先よ」
ルナが小さく舌を出したのを、俺は見逃さなかった。
三人でケーキを食べながら、久しぶりに平和な時間を過ごした。
「本当にありがとう、タクヤ。ルナちゃんも」
エリカが心から嬉しそうに笑う。
「君が喜んでくれて良かった」
俺も素直に嬉しかった。
「これで雪菜との戦いでも、もっと活躍できるわね」
「ああ。君の力があれば、きっと勝てる」
俺たちの絆が、また一つ深まった気がした。
でも、同時に気づいてしまった。
エリカに対する俺の気持ちが、仲間以上のものになっていることに。
そして、ルナも同じような感情を抱いているようだった。
複雑な三角関係の始まりを、その時の俺はまだ理解していなかった。




