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第百四話「失われた希望」

 

 翌朝、俺たちはユナリアの父親を探すための準備を始めた。


 暖炉の火で温まった体に、借り物の厚手の服を着込む。

 ユナリアも探索用の防寒着に身を包んでいた。


「…行くわよ」


 素っ気ない声。

 だが、わずかに震える指先が不安を物語っていた。


「ああ、必ず見つけよう」


 とは言ったものの、正直この吹雪の中で人探しとか、不可能に近すぎるだろ…


 ヴァルも昨日の変身した姿のまま頷く。

 三人で小屋の外へ。


 相変わらず激しい吹雪。

 視界は数メートル先までしか見えない。


 ほら見たものか。

 やっぱり無理じゃないか。

 これでは人を探すのは至難の業だ。


「とりあえず、小屋の周辺から探してみよう」


 父親が狩りに出かけたなら、まず小屋の近くの狩場を調べるべきだ。


「…東の森」


 ユナリアが小さく呟く。


「お父さんは、そこによく行ってた。

 別に、心配してるわけじゃないけど…」


 いや、心配してるだろ。

 素直じゃない。


 東の森。

 それが最初の捜索場所だ。


 だが、歩き始めてすぐに問題が発生した。

 景色が真っ白すぎて何も見えない。

 雪と空の境界も分からない。

 

 完全なホワイトアウト状態。


 前に進んでいるのか、その場で足踏みしているのかも分からない。

 方向感覚が完全に麻痺してしまった。


 マジで何も見えない。

 こんなの探索じゃなくて遭難するために移動しているだろ…


「…やっぱりね」


 ユナリアの声が冷めている。


「最初から…無理だって分かってたわ。

 でも、探さないわけにはいかないでしょ…あんたたちが来てくれたし」


 諦めと感謝が入り混じった声。


 手探りで森を探す。

 だが、木々を見つけることすらできない。

 すべてが雪に覆われて、同じような白い塊に見える。


 本当に何も見えない。

 というか、これ木なのか雪の塊なのかも判別できないんだが。


「…もういいわ」


 力のない声。


「こんな天気じゃ、何も見つけられない。分かってた。

 最初から、分かってたのよ…」

「もう少し頑張ってみよう」


 だが、心の中では俺も諦めかけていた。


 いや、正直もう無理だ。

 この視界では、人を見つけるのは不可能に近い。

 父親が生きていても、俺たちが見つける前に凍死してしまうかもしれない。


 というか、一週間も極寒の中にいて生きてるわけがない。

 現実は厳しい…


 数時間かけて周辺を探し回る。


 だが、父親の手がかりは何も見つからなかった。

 足跡も、血痕も、何の痕跡もない。

 まるで、最初からいなかったかのように。


「…帰りましょ」


 虚ろな目。


「…無駄。全部、無駄。

 …あんたたちまで巻き込んで…ごめんなさい」


 ユナリアの諦めの言葉が辛かった。


 彼女なりに覚悟はしていたんだろう。

 それでも、最後の希望にすがりたかったんだろう。


「分かった。今日は一度戻ろう」



 小屋に戻り、暖炉の前で体を温めながら、今日の捜索を振り返る。

 結果は、完全な失敗。

 何の手がかりも得られなかった。


「…ありがと」


 小さく頭を下げた。


「…でも、もう…諦めた方がいい。どうせ…」

「そんなことはない。

 俺たちも、ユナリアの父親を見つけたいんだ」

「明日また探そう」


 とは言ったものの、明日探して見つかる保証なんてどこにもない。


 だが、ユナリアの表情は暗いまま。

 きっと、父親の身に何かが起こったことを、薄々感づいているのだろう。

 それでも、最後の希望にすがりたい気持ちもある。


 複雑な感情が、彼女を苦しめている。




 ◇ ◇ ◇




 夜になると、少し雪が収まった。

 窓の外を見ると、激しい吹雪が和らいでいるのが分かる。

 だが、まだ雪は降り続けている。


「…雪が弱くなった…わね」


 ユナリアが窓の外を見つめている。


「でも、夜に出かけるなんて馬鹿のすることよ。   あんた、まさか…」


「そうだな」


 曖昧に答える。


 バレている。

 俺の顔、そんなに分かりやすいのかな?


 夜の雪山は、昼間以上に危険だ。

 視界は悪いし、気温も下がる。

 遭難の可能性が高くなる。


 だが、俺の心は焦っていた。


 このまま何もしないで、父親が死んでしまうかもしれない。

 いや、もう死んでる可能性の方が高いだろうが…それでも、万が一の可能性に賭けたい。


 時間が経つほど、生存の可能性は低くなる。

 夜だからといって、捜索を諦めていいのだろうか。


「…馬鹿ね」

「あんたの顔…見ればわかる。

 行く気でしょ」

「…分かってるわよ」


 悲しそうな声。


「でも、勝手に死なれたら…困る。…あんたのことよ」


 冷たいようで、優しい言葉。


 ああ、そうか。

 ユナリアは俺が遭難することを心配してくれてるんだな。


 だが、俺は我慢できなかった。

 心の中で決意を固める。


 夜に一人で探しに行こう。

 ユナリアとヴァルには迷惑をかけたくない。

 俺一人なら、瞬間移動で危険を回避することもできるはずだ。

 多分。


 夜更けになり、二人の寝息が聞こえてきた。


 よし、今のうちに。


 静かに小屋を出る。

 足音を立てないように、慎重に扉を開ける。


 外は、昼間よりも静か。

 雪は相変わらず降っているが、風は弱い。

 だが、気温は昼間以上に低い。

 息が白く凍りつくほどの寒さ。


 さむい。

 マジで凍死するレベルだ、これは。


「『光魔法:ライトニング』」


 光魔法を発動する。

 柔らかい光が、俺の周囲を照らし出した。

 これで、数メートル先まで見ることができる。


 お、昼間よりも視界が良くなった。

 光魔法様様だ。

 リリーから教えてもらって良かった。


 昼間探せなかった場所を目指して歩き出す。

 東の森の、さらに奥の方。

 父親が、より獲物の多い場所を求めて奥に進んだ可能性がある。


 雪を踏みしめながら、慎重に歩く。

 光魔法の明かりを頼りに、足元を確認しながら進む。


 かなりの距離を歩いていると、後ろから足音が聞こえた。


 ん?

 誰だ?


 心臓が止まりそうになる。

 雪菜か、リリーか。

 俺を追ってきたのか。


 恐る恐る振り返る。

 そこにいたのは、予想外の人物。


「ユナリア?」


 マジか。

 起きてたのか。


 防寒着に身を包んだユナリアが、俺を見つめている。


「どうして」

「…起きたら、あんた…いなかったから」

「光を頼りに…ついてきた。

 …別に、心配したわけじゃない…けど」


 いや、心配してくれてるじゃないか。

 少しは素直になって欲しい。


 きっと、光魔法を目印にして追いかけてきたのだ。


「危ないから、小屋に戻った方がいい。

 夜の雪山は、昼間以上に危険だ」

「…怖いもの」


 小さく呟く。


「一人で…小屋にいるのも怖い。

 あんた…遭難するのも怖い。だから…ついてきただけ」


 ユナリアの気持ちは分かる。


 ああ、そうかもしれない。

 この極寒の夜に、一人で小屋にいるのは確かに心細いだろう。

 そして、俺が遭難したら、彼女は完全に一人になってしまう。


 それは怖い。


 でも、一つ見落としていることがある。

 ヴァルは数として見られていないのか?


「分かった。

 でも、危険だと思ったらすぐに帰るぞ」

「…言われなくても分かってる」


 少しだけ安堵の色。

 並んで雪原を歩く。

 光魔法が、二人の足元を照らしている。


 ユナリアが一緒にいることで、俺の心も落ち着いた。

 一人で歩いているより、心強い。


「…お父さんは、優しい人だった」


 突然、話し始めるユナリア。


「いつも…あたしのことを、大切にしてくれた。この厳しい環境でも…あたしを…守ってくれていた」


 深い愛情が込められた声。

 ああ、きっと本当にいい父親だったんだろうな。


「だから…見つけなくちゃいけないの。

 …お父さんがいないと…あたし、一人じゃ…生きていけない。

 …馬鹿みたいでしょ、こんなこと…言うの」


 切実な気持ちが、俺の心に響く。


 馬鹿じゃない。

 家族を大切に思うのは当たり前だ。


「必ず見つけよう。俺も手伝うから」

「…ありがと」


 小さな感謝の声。

 少しだけ明るくなった。




 ◇ ◇ ◇




 さらに奥へと進む。

 森の奥深くに入っていく。

 昼間は見えなかった場所も、光魔法のおかげで探索できる。

 木々の間を縫って歩きながら、父親の痕跡を探す。


 しばらく歩いていると、地面の様子が変わった。

 雪が少なくなって、岩肌が見えている。


 ん?

 これは…。


 どうやら、崖の近くまで来たよう。


「気をつけて。崖があるかもしれない」


 慎重に前に進む。

 光魔法で足元を照らしながら、一歩ずつ確認する。


 その瞬間だった。


 俺の目の前から、突然足場がなくなった。


 うおっ!?


 正確に言えば、元々そこは崖だったのだ。

 あと一歩踏み出していれば、真っ逆さまに落ちていただろう。


 慌てて立ち止まる。

 心臓が激しく鼓動している。

 やばい、本当で死ぬとこだった。


「…どうしたの?」


 ユナリアが後ろから心配そうに聞く。


「崖だ。

 かなり深そうな崖がある」


 光魔法を崖の下に向ける。

 深い谷底が、ぼんやりと見える。


 うわ、これ落ちたら確実に死ぬやつだ。


「下に何かないか探してみよう。

 父親が、崖から滑落した可能性もある」


 嫌な予感がする。

 いや、考えたくないが…。


 崖を迂回して下に降りる道を探す。

 幸い、少し離れた場所に傾斜の緩い斜面があった。

 そこから、谷底に降りることができそう。


「ユナリア、ここで待っていて。

 俺が先に下に降りて、確認してくる」


「…あたしも行く」


 だが、首を振る。


「危険すぎる。

 もし本当に父親がいたとしても、状況が良くない可能性がある」


 最悪のケースを想定していた。

 一週間も極寒の崖下にいたら、生きている可能性は非常に低い。

 というか、ほぼゼロだろう。


 ユナリアには、そんな光景を見せたくない。


「…でも」


 ユナリアが食い下がる。

 だが、譲らなかった。


「絶対にダメだ。

 俺が確認してから、安全だったら呼ぶ」

「…分かった。勝手に…して」


 不満そうだったが納得してくれた。


 一人で崖下に降りていく。

 斜面は思った以上に急で、滑りそうになる。


 これ、本当で危険だ。


 慎重に足場を確認しながら、少しずつ降りる。


 ようやく谷底に着いた時、息を呑んだ。

 そこには、黒い影があった。

 人の形をした、黒い影。

 そして、その周りには…複数の動物の死骸が散らばっていた。


 …嘘だろ。


 雪ウサギ、鹿みたいな生き物、狐のような生き物。

 少なくとも五、六体の獲物が、人影の周囲に転がっている。


 恐る恐るその影に近づく。

 光魔法で照らすと、それは確かに人間だった。


 だが、その状態は酷かった。


 崖から落ちた衝撃で、体が不自然な形に曲がっている。

 明らかに、即死だったと思われる。


 そして、その人物の首には、ペンダントがかかっていた。

 ペンダントを確認すると、そこには「ユナリア」という名前が刻まれていた。


 間違いない。

 この人は、ユナリアの父親。


 周囲の動物たちを見て、状況を理解した。

 ああ、そうか。

 父親は、ユナリアのために必死で狩りをしていたんだ。

 こんなに多くの獲物を捕らえて、娘を飢えから守ろうとしていた。


 だが、獲物を抱えて崖を渡ろうとした時、足を滑らせて――


 心が沈む。

 これは…辛すぎるだろ。


 ユナリアの父親は、娘のために命を賭けて狩りをしていた。

 そして、その優しさが、彼の命を奪ってしまった。


 ユナリアの最後の希望が、ここで潰えてしまった。

 父親は、もう二度と帰ってこない。

 彼女は、この世界で一人ぼっちになってしまったのだ。


 どうしよう。


 ユナリアに、どう伝えればいいのだろうか。

 こんな悲惨な現実を、受け入れることができるだろうか。


 その時、崖の上からユナリアの声が聞こえた。


「…何か見つかった?」


 心配そうな呼びかけ。

 くそ、どうすればいい。


「待って。まだ確認中だ」


 だが、ユナリアは待てなかった。

 きっと、心配になったのだろう。

 彼女は、俺が降りてきた斜面を降り始めた。


「来ちゃダメ」


 だが、すでに遅かった。

 ユナリアは、谷底に向かって降りてきている。


「危険だから戻って」


 必死に制止する。

 だが、ユナリアは聞かない。

 そして、ついに谷底に到着してしまった。


 まずい。本当にまずい。


「…何があるの?」


 ユナリアが近づいてくる。


 その目が、黒い影を捉えた瞬間。

 そして、周囲に散らばる動物たちを見た瞬間。


「お父さん…?」


 震え声。

 彼女は、父親の遺体に気づいたのだ。

 そして、その周りの獲物たちも。


「ユナリア、見ちゃダメだ」


 彼女を止めようとする。

 だが、もう手遅れだった。


 もっと早く止めるべきだった。


 ユナリアは、父親の悲惨な状態を目撃してしまった。

 そして、父親が最後まで自分のために狩りをしていたことも。


「…嘘」


 小さな呟き。

 信じられないという気持ちに満ちている。


「お父さん…これ、全部…あたしのために…?」


 ユナリアが遺体に駆け寄る。

 だが、父親はもう応えてくれない。冷たくなった体が、そこにあるだけ。


「…嘘よ。…嘘。

 こんなの…」


 現実を否定する。

 だが、現実は変わらない。


 父親は、確実に死んでいた。

 娘のために、命を賭けて。


「お父さん…起きてよ」


 遺体を揺さぶる。

 だが、父親が起きることはない。

 永遠に、眠りについてしまったのだ。


「…あたしのせいだ」


 自分を責める声。


「あたしが…あたしがいなければ、お父さんは…こんなに無理して…」


 ユナリアの絶望は、見ていて辛かった。


 違う。

 君のせいじゃない、


「ユナリア、違う。

 君のせいじゃない」

「…違わない」


 虚ろな目で俺を見る。


「あたしが…あたしがお腹を…空かせてたから…お父さんは、こんなに…」


 震える声。

 自責の念が、彼女を押し潰そうとしている。


 何て言えばいい。

 何て言えば、彼女を慰められるんだ。


「お父さんは…最後まで、あたしのこと…」


 ユナリアの目から、涙が溢れ出た。

 感情を抑えきれなくなっている。


「…お父さん」


 父親の遺体にすがりつく。


「ごめんなさい…ごめんなさい…」


 謝罪の言葉が、何度も繰り返される。

 だが、父親はもう聞いてくれない。


「…あたし、一人で生きていけない」


 絶望的な声。


「お父さんがいないと…何もできない…」

「あたしなんて…生まれてこなければ、お父さんは…」


 自責は、どんどん深くなっていく。


 やめてくれ。

 そんなこと言わないで。


「やめろ、ユナリア。

 君のせいじゃない」

「…嘘つき」


 その目は、完全に希望を失っていた。


「全部、あたしのせい。

 あたしが…あたしが…」


 そして、ユナリアは声を上げて泣き始めた。

 その泣き声は、魂を引き裂くような悲痛なもの。


 何もできなかった。

 何もできない無力な人間だ。


「…あたし、どうすればいいの…」


 誰かに縋るように。


「お父さんがいないと…あたし…」


 底知れない絶望。

 唯一の家族を失った悲しみ。

 自分のせいだという自責の念。

 一人では生きていけないという恐怖。


 すべてが、彼女を押し潰していた。


「…もう、やだ。全部、やだ…」


 生きる希望を失った人間の声。


「お父さん…ごめんなさい…ごめんなさい…」


 謝罪の言葉が、何度も何度も繰り返される。  

 そして、ユナリアの体が力を失い始めた。

 あまりの衝撃に、意識を保つことができなくなったのだ。


「ユナリア」


 慌てて彼女を支える。

 だが、彼女はもう俺の声を聞いていない。

 完全に意識を失ってしまった。


 まずい。このままじゃ凍死する。


 急いでユナリアを抱き上げる。

 このまま谷底にいては、二人とも凍死してしまう。

 小屋に戻らなければならない。


 瞬間移動する。


 一瞬で、俺たちは小屋の中に移動した。

 暖炉の火が、俺たちを迎えてくれる。


 だが、俺の心は冷たく重かった。


 ユナリアに、こんな悲劇を体験させてしまった。

 俺が、もっと慎重に行動していれば。

 彼女に、父親の遺体を見せずに済んだかもしれない。


 そして、あの動物たちも。

 父親が最後まで娘のために頑張っていた証拠も。


 俺のせいだ。

 俺が無理に探しに行ったせいで…。


 ユナリアをベッドに寝かせる。

 彼女の顔は、涙で濡れている。

 眠っている間も、悲しい表情を浮かべていた。

 

 そして、小さく呟いている。


「…ごめんなさい…お父さん…ごめんなさい…」


 きっと、悪い夢を見ているのだろう。

 父親との幸せな思い出と、今日の悲劇が混じり合った、複雑な夢を。

 そして、自分を責め続ける夢を。


「すまない」


 彼女には聞こえない。

 俺の謝罪は、空しく響くだけだった。


 暖炉の前に座り込んだ。

 今日一日の出来事を振り返りながら、深いため息をつく。


 ユナリアの父親は死んでいた。

 彼女のために、最後まで狩りを続けて。

 そして、その優しさが命を奪った。


 彼女の最後の希望は、無残に打ち砕かれた。

 そして、俺はその瞬間に立ち会ってしまった。

 彼女の絶望を、目の当たりにしてしまった。

 彼女が自分を責める姿を、見てしまった。


 俺にできることは、何もない。


 父親を生き返らせることはできない。

 ユナリアの悲しみを、完全に癒すこともできない。


 彼女の自責の念を、消すこともできない。


 魔法が使えるからって、万能じゃないんだ。

 上級治癒魔法でも人の死を覆すことなんて、できるわけがない。


 ただ見守ることしかできない。

 彼女が立ち直るまで、そばにいることしかできない。


 外では、相変わらず雪が降り続いている。

 この極寒のイラリア大陸で、俺たちは新たな困難に直面することになる。


 父親を失い、自分を責め続けるユナリアを、どう支えていけばいいのか。


 俺自身にも、雪菜との問題が残っている。

 複雑な状況が、取り巻いていた。


 だが、今はユナリアのことを最優先に考えよう。

 彼女が目を覚ました時、俺がそばにいることが重要だ。

 一人じゃないということを、伝えてあげたい。


 たとえ、彼女がそれを拒絶したとしても。


 ユナリアが眠るベッドのそばに椅子を置く。

 そして、彼女が目を覚ますのを、じっと待つ。


「…お父さん…ごめんなさい…」


 眠りながら呟くユナリア。

 その声は、苦しそうで、悲しそうだった。


 何もできない自分が情けなかった。

 ただ、そこに座って、彼女の寝顔を見守ることしかできない。


 暖炉の火が、パチパチと音を立てる。

 その音だけが、静寂を破っていた。


 長い、長い夜が、始まろうとしていた。


 この夜が明けても、ユナリアの絶望は消えない。

 彼女は、これから長い時間をかけて、この悲しみと向き合わなければならない。


 父親の死と。

 自分を責める気持ちと。

 一人で生きていかなければならない現実と。


 彼女の傍にいることしかできない。


 だが、それでも、俺は傍にいよう。

 彼女が一人じゃないことを、示し続けよう。


 たとえ、彼女が俺を拒絶しても。

 たとえ、彼女が俺を責めても。


 彼女の傍にいる。

 それが、今の俺にできる、唯一のことだから。


 そう信じたい。


 外の雪は、止む気配を見せない。

 まるで、ユナリアの悲しみを表すかのように、降り続けていた。

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