第九話「遺跡と青白い石」
「遺跡はここから北に三日の場所…」
俺は地図を見ながら呟く。
「でも、瞬間移動を使えば一瞬で着くわね」
エリカが期待に満ちた表情で言う。
「ああ。でも、正確な場所がわからないから、少し手前に移動して歩こう」
俺たちは街外れの森で手を繋ぎ、遺跡の近くまで瞬間移動した。
着いた場所は、うっそうとした森の中だった。
古い木々が立ち並び、苔むした石が所々に転がっている。
「あ、あそこに遺跡の入り口があるわ」
エリカが指差す先に、確かに古い石造りの建造物が見えた。
入り口には古代文字が刻まれている。
「これが千年前の遺跡か…」
俺は感嘆する。
入り口は開いていて、中から微かに光が漏れている。
例の奇妙な光だろうか。
「中に入ってみましょう」
俺たちは慎重に遺跡内部に入った。
中は思ったより広く、石の廊下が奥へと続いている。
壁には古代文字で何かが書かれていた。
「読めるかしら…」
エリカが壁の文字を見上げる。
その時、奥の方から声が聞こえた。
「誰かいるのか!?」
男性の声だった。
俺たちは慌てて声の方向に向かう。
広い部屋に出ると、そこには一人の青年が座り込んでいた。
年は俺と同じくらいで、茶色の髪に緑の瞳。冒険者の格好をしている。
「あ、人が! 本当に人間ですよね!? 幻覚じゃないですよね!?」
青年が飛び上がって駆け寄ってくる。
「大丈夫、俺たちは人間です」
俺が答える。
「よかった…もうダメかと思った…」
青年がほっとした表情を見せる。
「僕はカイン。冒険者です」
「俺はタクヤ、こちらはエリカです」
「エリカです。よろしくお願いします」
「こんなところで何をしていたんですか?」
エリカが尋ねる。
「実は…一週間前にここに調査に来たんです。でも、入り口が突然封印されて出られなくなってしまって」
カインが困った顔で説明する。
「封印?」
「はい。何か古代の魔法のようで、僕の力では破れませんでした」
なるほど、それで閉じ込められていたのか。
「でも、今は入り口が開いてましたよ?」
「え? 本当ですか!?」
カインが驚く。
「ということは、封印が解けたんでしょうか…」
「わかりませんが、俺には瞬間移動能力があります。万が一出られなくても、外に脱出できますから安心してください」
「瞬間移動!? それはすごい!」
カインが目を輝かせる。
「それなら安心ですね」
「それより、この遺跡で何か発見はありましたか?」
「はい。奥の方に、とても不思議な石があるんです」
石…まさか。
「どんな石ですか?」
「青白く光る石で、とても神秘的なんです。でも、近づくと不思議な感覚になって…」
俺の心臓が跳ね上がる。
間違いない。あの石だ。
「案内してもらえますか?」
「もちろんです」
カインが先頭に立って案内してくれる。
遺跡の奥へ進む途中、何匹かの魔獣に遭遇した。
スライムやゴブリンといった、比較的弱い魔獣だった。
「魔獣よ!」
エリカが剣を構える。
「僕も手伝います!」
カインも武器を取り出す。
俺も一応武器を構えたが、戦闘経験がないため全く役に立たない。
剣を振り回すだけで、魔獣には全く当たらない。
「タクヤ、後ろにいて!」
エリカが俺を庇いながら戦う。
エリカとカインの連携で、魔獣たちは次々と倒されていく。
「やっぱり戦闘はダメだな…」
俺は自分の情けなさにため息をつく。
「大丈夫よ、タクヤには瞬間移動があるじゃない」
エリカが励ましてくれる。
「そうです。それに、戦闘が全てじゃありませんよ」
カインも優しく言ってくれる。
魔獣を倒しながら奥へ進むと、ついに最深部の部屋に着いた。
そこは円形の大きな部屋で、中央に石の台座があった。
そして、その台座の上に…
「あった…」
青白く光る石がポツンと置かれていた。
間違いない。俺と雪菜を異世界に転移させ、俺に瞬間移動能力を与えたあの石だ。
「これがその石ですか?」
「はい。一週間ずっと見てましたが、飽きることがありません」
カインが感嘆して言う。
「不思議な力を感じますね」
エリカも興味深そうに見つめる。
俺は石に近づいた。
心臓がドキドキと鳴る。
もしかしたら、この石に触れば元の世界に帰れるかもしれない。
雪菜の脅威から逃れられるかもしれない。
俺は恐る恐る手を伸ばし、石に触れた。
しかし…何も起こらなかった。
「あれ?」
前回触れた時は、激しい光と共に異世界に転移したのに、今度は全く反応がない。
「どうしました?」
カインが尋ねる。
「いえ…何でもありません」
俺は諦めて手を引っ込める。
それなら、この石を持ち帰って詳しく調べてもらおう。
俺は石を持ち上げようとした。
だが…
「重い…というか、動かない」
石は台座にしっかりと固定されているようで、びくともしない。
「無理みたいですね」
エリカが言う。
「僕も試してみましたが、全く動きませんでした」
カインが苦笑いを浮かべる。
俺は石の周りを詳しく観察した。
台座には古代文字が刻まれている。
「この文字…何か意味がありそうですね」
「古代語は読めませんが、重要な意味があるのでしょう」
俺は石の位置と台座の文字を記憶に刻み込んだ。
いつか再び来る必要があるかもしれない。
「とりあえず、今日のところは帰りましょう」
俺が提案する。
「そうですね。カインさんも一緒に来ませんか?」
エリカがカインに声をかける。
「ありがとうございます。ぜひお願いします」
カインが嬉しそうに答える。
「それでは、瞬間移動で外に出ますね。手を繋いでください」
俺たちは三人で手を繋いだ。
三人同時の瞬間移動は、やはり疲労が大きい。
でも、前回よりは慣れているようで、気絶するほどではなかった。
遺跡の外に出ると、カインが安堵の表情を見せる。
「ああ、外の空気は気持ちいいですね」
「一週間も閉じ込められていたんですもの」
エリカが同情する。
「本当にありがとうございました。お二人のおかげで助かりました」
「いえいえ、お互い様です」
俺が答える。
その時、ふと疑問が浮かんだ。
「カインさん、一週間も食事はどうしていたんですか?」
「ああ、それが不思議なことに…あの石の近くにいると、あまりお腹が空かないんです」
興味深い話だった。
「それに、疲れもあまり感じませんでした」
やはり、あの石には特別な力がある。
俺の瞬間移動能力も、きっとあの石が源になっている。
「とりあえず、クレアタウンに戻って報告しましょう」
俺たちは遺跡を後にした。
瞬間移動でクレアタウンまで戻る途中、俺は考えていた。
あの石は、もしかすると雪菜の強化とも関係があるのかもしれない。
もう一度詳しく調べる必要がある。
でも、今度行く時は、十分な準備をしてからだ。
そして…雪菜に見つからないよう、細心の注意を払わなければならない。




