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世界救っちゃうよー!

 聖女のお披露目は第二妃の暴走によりケチがついた形になった。


 そのため、一旦この場は終了解散となり、聖女の役割や今後のスケジュール説明などは、必要な人間だけを集めて王家の談話室で行う事となった。


 この王家の談話室というのは、元来王族のみのプライベート空間であるのだけれど、聖女であるリズは第一王子、アルバートの婚約者であるから問題ないだろうという判断で通されている。集まったのは、この国の王であるココ・ブルームーンと、その正妃、ルルー。それと聖女の守護騎士となる、第一王子、アルバートに、聖女リズを加えた四人であった。公爵家の面々や第二妃なども通されていない。

 きわめつけに、侍女や騎士なども入室は一切許さず、完全なプライベート状態となっていた。


「さて、さっきはすまなかったな」


 そんな状況もあってか、王が気安くリズに頭を下げてきた。


 通常であれば王が頭を下げる事などない、王は最高権威であり、常に正であり、間違いなどはないのだから。その王が非公式の場とはいえ謝罪をするという行為からも聖女という存在の重要性が垣間見える。

 王は年の頃であれば、中高年であろうが、衰えの見えないその姿は壮年と言っても差し支えなく見える。それは座っていながらもまっすぐに伸びた背筋と、引き締まった体躯によるものだろう。

 行動も見た目も賢王と言われるに値する存在なのだろうけれど、リズの感想としては精々が小綺麗でうるさくないおっさん程度の感想にしかならない。


「いっすよー。あーしもあのババアにキャン言わせすぎたしー」


 言葉とは裏腹に上半身だけのファイティングポーズからシュッシュと可愛らしいパンチを繰り出す。やんならやんよの戦闘体制は万全アピール。


「クカカ、すまんな。あいつは自分の息子の婚約者が聖女に至らなかったせいで気が立っていたのだ」


 アルバートにリズがいたように。第二王子のセシルにも聖女候補の婚約者がいたようだった。それもそうだろう。聖女候補は数多いて、有力候補が王族の仮婚約者として設定される。リズだって聖女に至っていなければ婚約は取り消しとなり、聖女に至った女性がどちらかの王子の婚約者に再設定されただろう。


 聖女の婚約者になる。それはつまり王に至る道なのだから。


 とはいえリズにはそんな事はどうでもいい。ギャルに政治はわからない。

 そんな事より、王子の婚約者の聖女なんて修行中にいたっけ? とリズは少し疑問に感じていた。

 記憶を探っても思い出せないので、それをポイっと放り投げ、改めて王に向かい合う。


「ふーん、まー人生、色々あるよねー。あーしも異世界で聖女になるとは思わなかったもーん」


 リズは懐かしき前世を思い返し、腰掛けていたソファの背もたれにドスンっと体を投げ出した。


「この世界の事情で、重ね重ねすまないな。だが、聖女がいなければ国だけでなくこの世界そのものが滅ぶのだ」


「ま、いいよいいよ。こーなったらもーしゃーないしねー。バッチリ世界救っちゃうよー! ぴーす!」


 ヨッと、背もたれから体を起こして、王にピースサインを向けながら、軽く世界の救済を請け負うのがまたギャルらしい。平成ギャルの魂をもっているリズだが、髪は金色、肌は白くて、雰囲気は甘いので、見た目だけでいえば、トップクラスの白ギャルである。


 そんな美に正面から殴られてしまってはこれには王も少しどきりとする。


「うむ、ではこれからの予定だがな……」


 王はあまりにも美しいリズの姿に対して緩んだ己の頬に、王妃の目が厳しくなったのを悟ってか、咳ばらいを一つして、表情を引き締めてから、リズのこれからを説明しはじめた。


 王の語った聖女リズの今後の予定は、ふたつの軸で構成されていた。


 まずは聖女としての役割。

 世界の歪み。これはこの国に一定周期で現れる世界を分断する存在。

 火、水、天、地、人。

 これら五種の歪みが存在し、これらの歪みに侵食された世界からは歪んだ存在が生まれる。それらは世界に蔓延して、天地を歪ませ、火と水を人から分断し、最後は人までが侵食され、すべての生命を別存在へと至らせるという。そしてそれを浄化するのが聖女の役割で、歪みから生まれたる存在から聖女を護るのが守護騎士の役目だという。その歪みはどこからどの順番で発生するかは分からず、王家の調査部隊が目下調査中だという。


 次は王太子妃としての役割。

 これはリズが聖女になったと同時に婚約者であるアルバートが立太子する事に起因する。聖女と守護騎士は世界の歪みを浄化し、ブルームーン王国を繁栄へ導く王と王妃になる。


 王族であるアルバートは生まれた時から王になるための教育を受けているから問題ないが、聖女であるリズは六歳から十年間、聖女に至る教育しか受けていない。もちろん貴族としての基礎的な教養や所作は叩き込まれているが、もちろんそれでは王妃になるには足りない。


 だから貴族学院に通ってもらうのだという。


 ここまで聞いて、リズはポンっと一つ手を打ってから口を開いた。


「んっと、て事はさ、あーしはがっこに通いながら歪みが出てきたらやっつけに行くって事でおk?」


「ああ、それで合っている。さすが聖女だ理解が早いな」


 あけすけな世辞ではあるが、リズは褒められて悪い気はしない。

 ふふんと鼻が鳴る。

 ちょろいのだ。


「その貴族学院にはこのアルバートも通っている。何かにつけ頼るといい。婚約者としての交流を深めてもらう狙いもあるからな」


 王はニヤリと笑って片眉をあげる。


「いやいやーそういう狙いは言っちゃだめっしょー?」


 ウケるー。と付け加えながら王を指差す。


「なに、そなたは変に気をまわされる方が好きではないだろう?」


 王もそれを不敬などと言わず、クカカと笑った。


「たしかにー! 王様わかってるー!」


 そんな王を指差した手をそのままに、リズが軽く指を鳴らすと、その指先から美しい光が煌めいた。

 それを見て王とリズは驚き目を見開いた後に笑った。


「クカカ、聖女の力が指先からも溢れかえっているようだな。この分なら世界は安泰だな。ほれ、聖女の守護騎士であるお前も黙ってないで、少しは婚約者殿と会話をしろ」


 そう言って王が隣に座っている王太子アルバートの背中を叩いた。

 ボンっと鈍い音で父親に背中を押され、会話中は無言でずっとリズに熱視線を送っていたアルバートがやっと口を開いた。


 アルバートのターン!


お読みいただきありがとうございます。

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