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ティーパーティーでパラパラを

 本日は水の歪みの浄化作戦、結果発表。


 あの日、水の歪みを浄化したリズとアルバート(とガイア)は救難信号を発見した王国騎士団の人間に救助され、そのまま王城へ運び込まれ、王家お抱えの医師の診断を受けた。

 色々な魔法的医学チェックの結果、無事全員健康体とのお墨付きをもらえた。

 それが一週間ほど前。


 そして今日、リズは王妃主催のお茶会に呼ばれていた。


 堅苦しいのが嫌いであろうリズのために、今回の水の歪みの浄化作戦の報告をこのお茶会で行ってもらいたいとの事だった。正式な報告はアルバートから受けているから、それの補強というか裏とりというか、報告に整合性があるかの確認らしい。その程度だから、また謁見の間で報告会を行って、第二妃スライとバトルが始まるのもつまらないだろうと考えた王妃の気遣いでもあった。


 本日のお茶会はガーデンパーティの趣向で城の中庭に支度がされている。

 大きな横長のテーブルに人が向かい合って座り、ホストは一番奥の上座に席が据えられているが、その主人たる王妃はまだ不在である。


 今日は空も冴え渡り、気温も高くないため、絶好のお茶会日和だった。

 風通りのいい中庭を初夏の風が駆けていく。

 それはご令嬢方の髪を揺らし頬を撫でる。

 リズは若草の匂いに混ざったスコーンやジャムの香りを鼻から吸い込んだ。


 王女は不在だが他の招待客は全員揃っており、その席には王妃派閥の貴族の子女たちが気まずそうに座っている。数にすれば十名程度。彼女たちがなぜ気まずそうにしているかといえば、リズとは貴族学院の同級生や先輩という立場ながら、学院では聖女リズは腫れ物扱いしているのだから面と向かえば当然気まずい。

 正直どう接したら良いのかが全くわからないのだった。


 そんな中で唯一リズに話しかけてくる奇特な人間がいる。


「リズさん? ワタクシとの約束、果たせまして?」


 それはジャッシー公爵令嬢のトゥラーちゃんだった。

 同じ家格の公爵家であるから二人は向かい合って座っている。


「あー! トゥラーちゃん! うれしーおひさー!」


 手持ち無沙汰でつまらなかったリズは話しかけてくれた正面の席に座っている姿勢正しき令嬢に、にへらと笑いかけ、ひらひらと手を振った。


「その様子ではまだ問題は解決できていないようですわね?」


 問いに答えないリズにトゥラーは呆れ顔。


「えー? できたよー! かんぺきー!」


 トゥラーちゃんに向かって手を波状に動かし完璧アピールをしている。

 効果があるかはわからない。


「あら、意外ですわね。あの王太子が大人しく言う事を聞くとわ思えませんわ」


 目を開いて少し驚いた顔でリズを見る。


「あ、アルバって貴族の中でもそういう扱いだったん?」


「どういう扱いかは分かりませんが、貴族(われわれ)の評価としては清廉ではあるが頑固で風変わりという評価ですわね」


「あーだよねー。マジであーしもアルバの頑固さをなめてたよー。おかげで今回チョー苦労したんですけどー」


 言いながらリズはテーブルの上に上半身をぐでえと伸ばした。

 その評判を知っていれば今回みたいに苦労しなくて済んだんだけどなー、と自分の失敗を反芻し、やっぱ情報収集って大事だよねー、などと考える。


「やはり解決したようには聞こえませんけど?」


「あーごめごめ、解決はしたんよー。今回の水の歪みの浄化でアルバはだいぶ痛い目にあったからねー。そこでちゃんと二人で話し合ったんよー」


「で、結果はどうでしたの?」


「うん、学院やら社交やらでアルバ以外の人とコミュとるのおっけーだってー」


「ん、ちょっと後半の言葉の意味がわかりませんわ。聖女語ですの?」


「あ、そだよねー。えっとー、簡単にいっちゃえば、アルバがあーしの交友関係を邪魔する事は無くなったってはなしー。だからこれからはちゃんと貴族のみんなと仲良くできるよー」


 言いながら、他の席の貴族に手を振れど、返ってくるの愛想笑いと会釈だった。

 道はまだまだ。


「それは重畳ですわね」


「そーなのー! と言う事で約束果たしたから、トゥラーちゃんはあーしと友達になってくれるんっしょ?」


「考えます、と言っただけですわ。貴女が貴族、王族としての責務が果たせていれば、自然とお友達になれましょう?」


「えーいけずじゃねー?」


「そこはご自身で精進なさいませ? 王太子妃とはそう言うモノですよ」


「んーわかったーがんばるー。トゥラーちゃんもたまに助けてねー」


 トゥラーはそれには言葉で応えず、小さく微笑み、ティーカップに口づけた。

 リズもそれ以上はなにも言わずに人好きのする微笑みを返す。


 この会話でお茶会の場の空気感がだいぶ穏やかになった所へ。

 静かに今日のホストである王妃が登場した。


 スッと場の空気が締まる。


 だけれどそれは決して悪い意味ではない。この場の人間の、王妃への尊敬が、自然とこの空気感を作っている。王妃は中庭の入り口からゆっくりと優雅に進み上座の席について、その場の全員に微笑みかけてから、小さくうなずいて口を開いた。


「皆さん、本日はありがとう。さ、楽になさって。今日はリズさんの報告会なのですから、お気楽に」


 その言葉に空気は緩み。

 皆が口々に招待の礼を述べる。それが一段落した所で、王妃がリズに話を振る。


「リズさん、今回の水の歪み浄化のお話を聞かせてくださる? それを私から王にも伝えておきますわ」


 王妃の言葉に。

 リズは今回の顛末を語った。


 歪みの浄化に出発してしばらくしてから目的を聞かされた事。

 そこでの意見のぶつかり合い。いったんの解決。裏切り。追跡。覚醒。歪んだアルバート。

 聖女の舞(パラパラ)。全ての浄化。


 包み隠さず全てを語った。


 その場の令嬢たちはあの王太子ならばそうなるでしょうねえと、したり顔で話を聞いたり、歪んだアルバートの姿を想像し恐怖したりと色々な反応だった。

 中でも皆の興味を引いたのは聖女の舞(パラパラ)の部分だった。


 王妃は事前に行われたアルバートの報告で、リズの聖女の舞は今までのモノとは全く違っていたと聞いている。

 音曲から舞からその浄化の範囲も妖精も全て風変わりで桁違いだと。


「リズさん、貴女の聖女の舞が変わっていると息子(アルバート)から聞いているのだけれど……どのような舞なのかしら?」


「あ! 王妃様! パラパラに興味ある感じ!?」


「え? えっと……パラパラ?」


「そのパラパラというものが、聖女の舞なんですの?」


 パラパラという聞き覚えのない単語に戸惑う王妃にトゥラー嬢、他の令嬢も同様だった。


「あ、ごめごめ。いきなりパラパラ言われてもわかんないよねー。そうそう、その聖女の舞ってのがパラパラっていうダンスなんだー。ってか、なんなら見てみる?」


「よろしいの?」


 王妃を筆頭に他の令嬢も聖女の舞が見たいようで口々にお願いしますわ。とリズに笑顔を向けてくる。令嬢方も少し現金な気がするが、やはりちゃんとこちらを向いてもらえる事がリズにはうれしかった。


 しかしお友達のトゥラーちゃんだけは違っていた。


「そんなに簡単に聖女の舞って踊れますの? ワタクシの記憶では、聖女が三日三晩の潔斎を行い、聖なる衣を纏って、妖精の補助を受ける、そこで初めて歪みを浄化する聖女の舞ができると、我が家に保存されている文献には書いてあったのですけれど?」


 王家の血筋の入った公爵令嬢という立場上、歴代聖女とも関係性があり、その時の聖女が残した文献にはそういう記述があったらしい。

 でもリズには過去の聖女の事はよくわからない。

 水の歪みの時には普通に出来たし。


 考えてわかんない事は補助妖精に補助してもらおうって事で。


「そなの? タヌっち?」


 肩口に呼びかける。

 姿を消していた補助妖精タヌっちがリズの呼びかけに応え、なにもない空間にくるんっと回転して毛を撒き散らしながら姿を現れた。

 リズに呼ばれたらうれしくてつい出てきちゃう狸はリズの問いに答える。


「別に補助妖精はいなくても聖女の舞自体に問題はないよう。そこは浄化の出力が変わるくらいだから。でも、そうだね。そこの人間が言うように、本当は聖女の舞は簡単に見せたりできないんだよう」


「えー! あーしもむりなのー!?」


「いや、リズはできるよう。特別だから」


「え? マッジ? ラッキー。だってートゥラーちゃん、できるってー」


 お気楽なリズとは違って。

 お茶会のメンバーはそれどころじゃない。


 目の前に突如狸が現れた。

 しかも人語を喋っている。

 話の文脈的に補助妖精らしい。


「リズさん? そちらは?」


「あ、この子はあーしの補助狸のタヌっちだよー。かわいいっしょー?」


「……妖精だってば」


「そだった、ごめんごめん、タヌっち」


 機嫌の悪そうに宙に浮いているタヌっちの腹を軽くモフってやれば嬉しそうに鼻がなるけれど、リズ以外の人間の前では威厳を保ちたい補助妖精はむふーと息を吐き出してそれを我慢した。


「よ、妖精……」


「はじめ、て見ました」


「本当におりましたのね」


「か、かわいい」


 その場の令嬢が口々に感動を口にする。

 それも当然で。

 妖精とは元来聖女にしか姿を見せない。聖女以外とコミュニケーションを取らない。

 聖女の話の中にしか登場しない想像上の生物に近い存在だった。


「ワタクシの家の伝承とは姿が違いますわ。妖精は人型をしていると書いてありました」


 ここでもトゥラーちゃんの家の文献とは違っていたらしい。


「あー、なんかーねー、歴代の聖女は妖精って言われたら羽の生えた小さな人間を想像するらしくってー。でもあーしは狸が好きだからこうなったみたいー」


「そ、そんな事……ありますの?」


 トゥラーちゃんはリズの肩口あたりに浮いている妖精に問いかけた。


「……リズは特別だからね」


 狸姿で威厳たっぷり含ませてタヌっちはトゥラーちゃんに答える。


「妖精様から直接のお言葉……ありがとうございます」


 どうやら公爵令嬢よりも妖精は位が高いようだった。


「もータヌっちー! 怖くしないでー! で? あーしはパラパラ踊ってもいいのー?」


「大丈夫だよ。変身する?」


「するするー! お願いタヌっち!」


 タヌっちはリズにうなずいて。


 天に呼びかける。


「誓願!」


 タヌっちの言葉に呼応して天から光が降り注ぎ、リズの体の部分部分がその光に包まれる。そしてその光がはじける毎にリズの姿は変わっていき。


 聖女は聖衣(制服)フォームに姿を変えた。


お読みいただきありがとうございます。

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