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名無しの貴方の英雄譚  作者: 疲労男
1章『絶望大君の謎』
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2-1.『発明少女と新たな絶望』

11月1日12時30分川下公園近く森林

「死体は回収、そこの男は病院で治療をして、なんとしても助け出して」


森林内で、黒焦げになった化け物を、複数人の警察官が運び上げる。

否、警察官だけではない、消防隊や救急隊の格好をした人間も存在している。


「博士、この男は何者なのですか?」


警察官のうちの一人が、そう発信機に問いかける。


「何って、一週間前入った兵士君だよ。君たちにも話しただろう?」


発信機の向こうで、少女がそう警察官にいう。だが警察官はいぶかしんだ顔をし、鎧をした死体のほうへと視線を向ける。


「...私は、彼と話をしたことがあります。彼の歓迎会も開きました。彼の顔は覚えています。私たちが運んでいる男ではない」


「いいことを教えてあげる。私がそいつだといえば、そうなるんだよ。言っておくけど他言はしないようにね?首が飛ぶことになるから、文字通り」


通信機がぷつんと切れる。警察官は少し停止した後、鎧をした死体の前で屈み、手を合わせた。


「いいんですか隊長!こんな蛮行を許して!」


救急隊の格好をした男が、警察官にそう問いかける。

警察官は手を合わせたまま救急隊の男に話しかける。


「彼女は天才だ、悲しいことにな。結果も出して、今じゃ最高幹部の一人だ」


「だからって!」


「新人よ、こことは言わず、社会全体での常識を話しておこう。

いつの時代だって、結果を出したものは正しいんだ。いくら倫理観が外れていようと、どれだけ外道だったとしても、実績があればそいつは正義なんだよ」


「だからって!」


「大丈夫だ、お前の言うことは正しい。沢山の人に否定されようと、俺はお前を信じてやる。だから、今はやめろ」


救急隊の男は血が出るほどこぶしを握り締めたあと、血まみれの手を合わせ鎧をした死体を弔う。


黙々を作業を進められる中、男たちは立ち上がり、鎧の死体を運び出した。


「...ひどいなぁ」


ドローンで部屋からそれを見ていた少女は、パソコンの前で椅子に寄り掛かる。真っ暗く狭い部屋で、ただひたすらにだらけていた。


「僕にも僕の正義があるのにさ、本当にうわべだけしか見ないんだから」


少しだらけたあと、少女はパソコンの操作し、現場の写真をまとめ始めた。


「...カラスは液体状だった」


化け物の写真を見ながら、彼女は事件の全容を整理する。


「カラスと最初に対峙した雑魚兵士君は、すぐに銃を出し化け物に撃った。だが、それは効かなかった」


少女はチェスの番をテーブルの下から取り出し、個まで状況を整理する。

これは少女がいつもやっている頭の整理術である。


「そこからカラスがつららを3発同時に発射、雑魚兵士君は早すぎて躱せずに被弾、いのちからがら逃げだす。そうつららは躱せないはずだ」


少女は鎧の男、一番最初に戦っていた彼の映像をパソコンで再生する。

つららが出てくるタイミングで、解析を行った。


「映像を分析する限り、つららの速度は時速270km、到底、人間が躱しきれる早さじゃない。だからこそ、雑魚兵士君は逃げ出した」


チェスの駒を移動し、状況を整理する。


「だが、カラス自体も早かった。カラスの移動速度は時速60km、雑魚兵士君はあっけなく追いつかれ、全身の穴だらけにされる」


少女はチェスの駒を一つ日本指で割り、盤上にぽいっと投げる。

そして少女は、ルークの駒を一つ、新たに盤上に置いた。


「問題は、彼だ。こいつはおかしい」


少女は、またパソコンの画面を操作し、今度は青年レナのムービーを取り出した。


「スピード型のカプセルロッドを使っていたら、躱せるのは分かる。だが、こいつは生身の状態でも躱している」


少女は生身の映像を取り出し、再生する。

レナは完全につららを躱し切っていた。そして、躱しながら通信と話している。


「そもそもだ、プロトタイプアルファは言ってしまえばただの鎧だ、ちゃんと重いし、動きが鈍る。なぜこいつはそんな状態で時速270kmもあるつららを躱せる?」


少女は、戦っているムービーを再生しながら考える。


「こんなもの、タンク職なのにスピードアタッカーより早いようなもんだ。異常すぎる人間業じゃない」


次に少女は工藤レナのことについて調べた資料を見る。


「工藤レナ、役所の情報を調べてみたが、”戸籍がない”。どこかで働いていたという痕跡もない、学校にも行っていないのか?偽名という可能性があるか?いやない、シグナルメイカーは”本名を言わないと動かない”」


少女は、青年レナのある一言を思い出す。


『?俺は一般人だ。軍や組織には所属していない』


「...何が一般人だ。だよ、普通の人間は一般人じゃないといわれて、軍や組織なんて言葉は出てこないんだよ」


少女が資料をあさっている時だった。


『博士、青年の治療が完了いたしました。ですが体に穴が開いた怪我です。治療できたとは言えそんなに早く復帰してはほかの人間が違和感を抱くかもしれません。違和感がないように病室内にて1週間程度入院させようと思うのですが、どうしましょうか』


そんな通信が入り少女はいったん手を止め、マイクをオンにする。


「任せる、だが病室にカメラを設置するのを忘れるな、そいつは私のモルモットで、正体不明の妖怪だ」


そう言って通信を切る。その時だった。今度は携帯電話の着信の音が鳴り響いた。少女は少しびくっとした後、電話の画面を確認し、少し悩んだ後に電話に出る。


『...今日は出るのが速かったな』


電話越しから、厳しそうな女性の声が聞こえる。

少女は、ただ笑顔で彼女の声を聴いている。


「教育係さんが何か御用でしょうか?僕は忙しいんだけど」


『お前のことなどどうでもいい。金沢はどうしてる。今日は初任務だろう』


少女はそう言われ、やっと無能兵士の名前を思い出した。


「元気にやってるよ、死にかけたけどね、病院で一週間程度入院だよ」


『本当か、見舞いに行きたい。どこの病院だ』


「おっと残念だったね。彼はもう私の管轄だ、君と会うことは許可できない。君に会ったら泣き言をいうかもしれないからねー」


『奴に限ってそんなことはないだろう。奴は私に大見得を切って出て行ったのだ。だが、そうだな、会わないでおこう。奴の決心が鈍るかもしれん』


「まあさ、ほかの人にかまってあげなよ?こっちはこっちでどうにかするから」


そう言って少女は電話を切った。少女はため息をつき、椅子に腰かける。


「まあどうにしても、こんなに都合のいいモルモットが手に入ったんだ」


少女は、パソコンの画面に映った青年レナに手を合わせ、


「頑張ってくれよぉ?正体不明の妖怪君」


そう言葉を放った。


11月4日12時30分札幌医協病院3階病室


レナは、ゆっくりと目を覚ます。目を開けた先に見えたのは、どこか懐かしい景色だった。


「病院...?」


『目が覚めたようだね』


声がして、辺りを見渡す。病院特有のテーブルの上に、変身アイテムと言われた腕時計が置いてあった。


『君はけがをしてしまったからね、少しだけ病院のベッドで寝てもらっていたんだ。ああ大丈夫、3日もすれば出れるから、それまでゆっくりと休むことだね』


レナは、声を聴き、一瞬だけ思考が停止する。

そして、目をつぶり、深刻な顔を浮かべた。


「...俺、保険に入っていないんだが入院っていくらくらいかかる」


『え?あー、1週間だからー...10万円くらい?』


レナは少しだけ下を向く、ため息をついた後、青年は腕時計を腕につけて地震についてた点滴を思いっきり抜いた。


「逃げる。俺は今口座にしか現金がない。取り出す手段がない」


少年は早歩きで階段のほうへと向かう。


『ちょっとなにしてる!?入院費なんて組織がとっくに払っている!だから病室に戻れ!』


「よくよく考えたら化け物と戦える力を開発できるお前が運んだ病院だ。信用できない」


『お前忘れたのか!?僕の言うことには絶対服従だって!』


「...そうだったな」


2階まで降りようとした足を止め、上の階へと戻る。

その時、レナは誰かに声をかけられた。


「お兄ちゃん!!」


レナが声がした方向へと振り向くと、何かが体に飛び込んできた。


「お兄ちゃん!無事だった!!よかったぁ...」


そこにいたのは、レナが助けた少女だった。

少女はレナを抱きしめながら、服で涙を拭いている。


「レナさん、無事でよかった...」


後ろから、少女の母親が近づいてくる。少女の母親もまた涙を流していた。


「うちの娘を助けていただいて、ありがとうございます」


少女の母親は、深く、深くお辞儀をする。


「いや、顔を上げてください!そんなたいそうなことはしていませんから」


「お兄ちゃん化け物から助けてくれた...ごめんなさい...ありがとう」


服に顔を埋めながら、少女はレナにお礼をいう。レナは、ただ困った顔で立ちすぐんでいた。


11月4日20時00分札幌医協病院3階病室


『いやー!あの子かわいかったねー!何ー?狙ってんのー?』


「...お前はいつまで話している」


17時00分まで少女たちと雑談をしたあと、レナは病室まで戻っていた。

病室に戻ってきた瞬間、この腕時計はずっとしゃべり続けている。

任務などではなく、ただひたすらに一方通行の会話を


『いやさー、気になるじゃんータイプの女性とか?あ、男性でもいいよ?私そういうの気にしない女だからー』


少女の声でそう言う話題を出され、レナは少し参ってきていた。


『さてと、そろそろ20時だねー、じゃ行こうか?』


「?どこへだ」


『言ったでしょう?化け物が現れたらすぐに化け物と戦えってだから』


レナは時計を確認する。そこには、東苗穂北公園の位置が乗っていた。


『戦う時間だよ?少年』

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