1.『一般人と鴉の絶望』
それは、ただ悪趣味な配信だった。
血の匂いと笑い声がこだまする場所で、椅子に縛られた男の子は目をつぶることも許されずに、かつて大切だった人が人じゃなくなっていくのを見た。
必死にそれを止めようとも、機械はただ自分に与えられた命令を実行する。
男の子は、ただ目の前で見ていた。
数時間が立った時だった。
血まみれになった扉が開き、スーツを着た男達が入ってくる。
「はっ、生きてやがったか。クソガキ」
男は、少年のほうを向くと指を鳴らし、かつて大切だったものを丁寧に運び始めた。
「約束は約束だ。お前を開放する。だがな、俺達のことを外に喋るなよ、俺達がせっかく温情をかけてやったのに死ぬなんて俺達への冒涜になるからな」
少年は、ただただうつむいて、話を聞いていた。
「まあ、せいぜい生きてろよ。安心しろよ、こいつもお前も被害者でしかないお前に罪はない。せいぜい俺達を恨んで生きろよ」
少年は、何かを注射されて倒れた。薄れゆく意識の中で、少年は
ただ、それを見つめていた。
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2024年11月1日 7時30分
「んっ!んんーー」
日差しが入るワンルームマンションで、太陽の光を浴びながら青年は目を覚ました。青年はベッドから起き上がり時計を確認する。
「今日もいい感じの時間に起きれたな」
青年はそうつぶやくと、キッチンへと向かい、冷蔵庫から昨日買った缶コーヒーを取り出すと、ゆっくりとコーヒーに口をつけた。
その後、青年は歯を磨き、顔を洗い、朝食を作り、ベランダで少し風にあたる。青年がやっているルーティーンである。
ルーティーンを終わらせた後、青年は時計の時間が9時になったのを確認すると、動きやすい格好に着替え玄関へ向かう。
「よし、行ってきます」
青年は玄関の妹の写真に手を振り、外に出た。
11月1日10時00分川下公園
青年が向かったのは、町のごみ拾いのボランティアであった。
今日も青年は、いろいろな人にあいさつをして回っている。
「こんにちは、佐藤さん今日もいい笑顔ですね」
「はっは!笑顔だけは若いもんに負けたくないわい」
「こんにちは、香苗ちゃん今日も来て偉いね」
「...お兄さん今日も来てる。無職なの?」
少女の心ない発言に少し傷づく青年である。
「ぐっ...今はちょっと休んでいるんだよ、香苗ちゃんだってそうでしょ?」
「私は世界で一番の才能を持っているから学校なんて行かなくていいんだもーん」
少女は自信満々であった。その時、少女の母親が近づき声をかける。
「もうこの子は!ごめんなさいねレナさん、この子ちょっと自信がありすぎるところがありまして」
「ははっ...いいんですよ、この子が元気な証拠ですから」
青年はまだ少しだけ傷ついていた。とその時、初老の男性が用意された台の上に立った。
「ではこれから、町内会主催の公園のごみ拾いを行います!集まってくれた方々に感謝を申し上げます!」
初老の男性が声を上げると、集まっていた人々は一斉に男性のほうへと向いた。全員が無言になり一瞬で静かになる。
「今回は公園にある道を2チームに分かれて逆側から回ってもらいます!くれぐれも公園を出て森や近くの川に近づかないようにお願いします!」
初老の男性が説明をしていると、青年は誰かに袖を引っ張られる。
「ねえ、さっきあっちで変なのいたよ」
少女は公園の外にある森のほうへと指をさした。
「変なのって?」
「なんかね、変なの、黒くてドロッとしてるの」
「んー後で一緒に見に行こう、今はごみ拾いをしに行こうね」
「えー!!逃げちゃうよー!!」
少女と話している間に、説明が終わってしまったようだ。
青年は、少女の手をつかみ、初老の男性のほうへと向きなおす。
「チーム分けは手渡された紙をご確認下さい!それでは、皆さん頑張りましょう!」
初老の男性の指示で、人々が散り散りになった。
人混みが解消されたからなのか、母親が子供を見つけて駆け寄ってくる。
「またこの子は!本当にごめんなさいね!」
「ねえーお兄ちゃん、見に行こうよー!」
母親は、青年にしがみつく娘を引きはがし、ただひたすらに頭を下げる。
「本当にこの子は...ごめんなさいね。レナさんは何チームですか?」
青年は配られたメモを見る。そこにはAチームと書いてあった。
「Aチームですね」
「Aチームなら、あちらのグループですね。私たちはBチームなのでレナさんとは逆方向へと向かう形になると思います」
「えー!!!お兄ちゃん一緒にごみ拾いしようよー!そんでもって抜け出して森にいる変なのみにいこー!」
「あんたこれ以上レナさんに迷惑かけないの!ほら行くわよ!」
「あー!!お母さんー!ひっぱらないでー!」
引きずられて行く少女に手を振りながら、青年は森へと視線を向けた。
「黒くて...どろどろの変な奴か」
少女がチームに合流するのを確認すると、青年は自分のチームへと向かった。
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11月01日11時00分川下公園近く森林
「クソ...クソ!」
とある青年は、全力で何かから逃げている。
球が切れた銃を投げ捨て、青年は通信機へと手をかけた。
「おい博士!"これ"であいつらを倒せるんじゃなかったのか!」
青年が通信した瞬間、つららのようにとがった黒い氷が青年の脇を貫いた。
"青年が信頼していた装備"はあっけなく貫かれてしまったのだ。
「まあ倒せはするよ、でも最低限の装備しかつけてないからね。"資格"もいらない完全な"量産型"攻撃もあんまり防げないし、ダメージも少ししか与えられない」
「ふざけんなよ!俺がこれを受け取ったとき!どんな思いであんたに忠誠を誓ったと思ってんだ!」
「お国のために犠牲になりますだろ?私にじゃなくて国にだ。言っておくが、私は国なんて嫌いでね。君には私のデータ収集のいけにえになってもらうよ」
「ふざけんな...おい、おい!!」
青年が叫んだ瞬間、ぷつりという音が鳴る。通信終了を意味する音だ。
「ふざけんなよ...俺がどんな思いで...」
うなだれた青年に、"そいつ"は容赦なんてしない。
黒いつららは、青年の足を貫いた。
青年は、そこに倒れこむ。青年は、ただただ涙を流していた。
「やめてくれ...頼む」
青年は命乞いをする、だがそいつには何も聞こえない。聞けない。話せない。
「嫌だ!いやだあああ!!!」
青年は、ただ叫んでいた。
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11月1日11時10分川下公園
「...なんだ!?」
ごみ拾いをしていた青年...いや、レナは声をしたほうへと視線を向ける。
「どうしたんじゃお兄さん。何か聞こえたのか?」
「いや、何か聞こえたような気がして」
レナがそういうと、老人たちは彼の視線の先へと向けた。
だが、そっちにはただただ森があるだけで、何もなかった。
とその時だった。一周して合流しただろう。Bチームの人々の中から、少女の母親が青年に向かっていった。
「ごめんなさい!こちらに娘は来ていませんか!?」
「神崎さん、娘さんはこっちには来てないよ」
「もうあの子はどこに行ったのよ!いつもどこかに行って!」
その会話を聞いて、青年は一つの出来事を思い出す。
『ねえ、さっきあっちで変なのいたよ』
「...まさか」
「レナさん!何か知っているんですか!?」
「あの子、森のほうへと行ったかもしれません。何か変なものを見たって言ってましたから」
「...森!?またあの子は!」
母親は森のほうへと歩こうとした。だが、老人たちは道をふさぐ。
「待ちなさい。あそこはキツネやカラスなどの野生動物もいるし、広くて道が悪い。女性一人に行かせるわけにはいかない」
「だったらなおさら大変じゃないですか!!早く連れ戻さないと!」
「レナさんやわしらと一緒に森の中に探索に行ってくれんか。今ここにいる人で一番若いのはあんただからの」
「もちろんです」
青年は答えると、老人は人々のほうへと向きなおす。
「Bチームの人たちは公園の中をもう一度探してみてくれ、Aチームの人たちは公園の外を川沿いや道路に出てないかの確認に行ってみてくれ。万が一のことがないように、神崎さんの娘さんを助けるんじゃ!」
老人が言うと、人々は散り散りに探し始めた。
青年は老人たちと一緒に森へと向かう。
「レナさんや、あんたは先に行ってくれ。わしらはあんたほど早く動けない。レナさんがわしらに合わせてくれた結果、娘さんが手遅れになったらかなわんからな」
老人の言葉に、うなづき、青年は全速力で森のほうへと向かった。
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11月1日11時20分川下公園近く森林
青年が森に入ると、背筋が凍るような嫌な気配が身を包んだ。
「...何が起こっている」
青年は、全速力で森の奥へと進む。森林といっても、川下公園は工場地帯の近くにある少し大きな公園だ。森林などとっくに伐採されそこまで広くないはずである。だが、青年はいくら進んでも、森林の最奥にはたどり着けない。
「広すぎる。どうなっている。ありえるのかこんなことが」
青年は5分ほど走っていると、汚れた銀色の何かが目に入った。
「...鎧?」
それは、鎧であった。鎧が穴だらけになって倒れている。
穴の中からは、赤黒い何かが噴出していた。
「これ人の死体か?なんだってこんなところに」
その時であった。死体の右腕にはめられていた腕輪から何か声が聞こえた。
『...ん、あーあー聞こえてるかな?見慣れぬ一般人君』
青年の耳に声が入る。大人びているような、それでいて親しみが持てない女性の声だった。
「なんだ、お前」
『んー、ただのマッドサイエンティストだよ。動かないでねー今からそっちに私の仲間が向かうから』
「救助に来てくれるのか?」
『救助ー?何言ってんの、こんな状況見られたんだから首ちょんぱするに決まってるでしょ』
「...な!」
『警察に言おうとしても無駄だよー?ここ私の装置以外での通信はできないからー』
「...」
青年はただ、考えていた。今優先するべきは何なのか。大切にすべきは何なのか。
「わかった。俺だけならそれで構わない」
『俺だけー?ほかに人がいるみたいないいぶりだねー』
「老人たちがこの森に近づこうとしてる。彼らを止めてくれ。彼らはいい人たちなんだ。ここで死んでほしくない」
青年は、そう懇願しながら、少女がここにいないことを確認し、安堵した。
『...んーやっぱいいや、老人たちは来ないようにしてあげる。それにあんたも殺さない』
「...なぜだ」
『あんたが"一般人"じゃないから』
「?俺は一般人だ。軍や組織には所属していない」
『それはわかってるよ、顔調べても反応しなかったし、そうじゃなくて、あんた死体見ても驚かないし、私に何かカマ仕掛けたでしょ。メンタルがおかしいんだよ。その度胸に免じて捕らえるだけで許してあげる』
そのころ場を聞いて、青年は自分の境遇がどうなるかを考えながら、少しだけ安堵した。
とその時だった。
カラスの鳴き声が何重も重なったような不協和音が響き渡る。
青年が耳をふさいでもそれを突き抜けてくるような爆音で森全体が揺れ動いた。
『...なるほどあんたが隠したかったのはそれか』
青年は周りを見渡す。遠くから何かが走ってきていた。
いや、青年がよく知っている人だった。
「お兄ちゃん!」
それは、神崎さんの娘さんであった。
見たことのないようなおびえた顔で、こちらに駆け寄ってくる。
「助けて!お兄ちゃん!」
少女がそう叫んだ瞬間だった。
上空から、それは現れた。
それは、鳥であった。黒く、どろどろしたそれの翼は2枚ではなかった。
何重にも重なった羽が、どろどろになりながら変形を繰り返している。
それは、カラスであった。だが、ただのカラスではない。
顔が重なったそいつの目には、黒目はなく、白眼であった。
それは、カラスを人と同じくらいのサイズにし、何個も重ねたような生物であった。
「なんだ、あいつは」
『絶望の残党』
通信の先の女性は、ただ淡々と説明を始めた。
『かつて"世界"に絶望し、人の根絶を望んだ者達のなれの果て、負け犬になった人の最終形態ってところかな』
突然の状況に青年は困惑していた。だが、すぐに意識を自分に戻した。
「悩んでいる場合じゃない!」
青年は少女のもとへと走り出した。
「お兄ちゃん!」
少女は安堵した。いや、してしまった。
「あっ!」
少女は、化け物に追われてしまっているにもかかわらずあっけなく転んでしまった。その瞬間、化け物の翼が一翼どろどろに溶けたかと思うと、一本のつららのようなものへと変化した。
「危ない!」
青年は、とっさに少女の体を突き飛ばした。その瞬間、青年の腕をつららが貫いた。
「がああ!!」
痛みで声が出る。涙目になりながらも、少女のほうへと顔を向けた。
「逃げろ!!!!」
少女にそういうと、少女は泣きながら全力で逃げていく。青年は安堵し、化け物のほうを向き、立ち上がった。
「来いよ!化け物!」
青年は、化け物のほうへとこぶしを構える。
化け物は、また翼を一翼、つららへと変形させ放った。
「見えてんだよ!!」
青年はそれをかわし、化け物のほうへと蹴りを入れた。
だが、化け物はピクリとも動かない。
「...クソ!」
化け物は、翼で青年を薙ぎ払った。青年は受け身をとったが、すさまじい力で数10m吹き飛ばされ、木に追突する。
「ぐはっ!!」
青年はよれよれになりながらも、何とか立ち上がる。
カラスは青年のほうへと顔を向けていた。
「あいつを何とかしないと!」
青年は焦っていた。彼がやられてしまっては、化け物は少女のほうへと向かうだろう。それは青年にとって一番何とかしなければならない状態であった。
『君、タフだねーでもただのタフさじゃない。受け身や、痛みの流し方をわかってる。技術のあるタフネスだ』
気が付けば、青年は元の場所へと戻っていた。
通信機の先で女性は青年に話しかけている。
『やっぱり、君普通じゃないね...よし!ねえ少年、契約をしないかい?』
通信機の先にある女性は、青年に沿う提案した。青年は化け物のほうを見ながら通信機の声を聴く。
『その化け物は、人間ではダメージを与えられないんだ。人間を殺す為の化け物だからね。だけれど、ダメージを与える方法はある。それは君の近くに転がっているものさ』
「...その鎧か、だが着ている余裕はないぞ」
『着る必要なんてないさ、僕の声が聞こえている通信機と、彼の腰に掛けられているものがあればいい』
話している間に、化け物はつららを放つ、主人公はそれをしゃがんでよけながら、通信機と腰に掛けられているキーホルダーのようなものを引きちぎった。
『それは変身アイテム、誰だってヒーローになれる革新的なアイテムだ!それはスマートウォッチになっていてね!色々な機能を使えるんだ!まだアルファ版なんだけどね!これが使えるようになったら!』
「御託はいい。さっさと使い方を教えろ」
『まあまあ、まずは契約内容を言っておかないとね』
通信機と話している青年に、カラスはつららを何本も放ってくる。青年はそれをすべてかわしながら、女性の話を聞く。
『契約は3つ、一つ、化け物が現れた時その時計に位置情報を送る。君は必ずそれに目を通し、その通知から20分以内にその地点へと向かい、化け物と戦闘をすること』
「わかった、はや」
『ちゃんと聞きなよぉ!僕は親切心で言ってんだよ?』
『2つ目、君はこの力と私のことを誰にも公言してはならない。言ってしまったら、僕は君を終わらせないといけない』
つららのでるペースはどんどんと早くなっていく。青年は木や物を使いながらなんとかつららを防いでいる。
『三つー!お前は僕の言うことを何でも聞くこと。それが守れるなら、使えるようにしてやる』
「守る。絶対だ、だから早く!」
青年は通信機の先にいる女性が、にやりを笑った気がした。
『契約成立だ、時計の機能を初期化した。起動したいなら、自分の名前のあとにログインと叫ぶんだ』
青年は少しいぶかしみながら、声を上げる。
「工藤レナ、ログイン!」
その瞬間、つららが青年のほうへと飛ぶ、だが青年の目の前ではじき返った。
「なっ...」
青年は驚き、後ずさる。
『気を付けなよー?そのバリア、1分しか持たないから。さて使い方だ、時計の上の部分に、充電口があるだろう。それに君が持ってるキーホルダーを差し込むんだ』
青年はキーホルダーに目をやる。キーホルダーだと思っていたそれは、鉄でできた板に、ガチャガチャのカプセルが真ん中に浮き出ているようなデザインだった。
青年は、キーホルダーを差し込む。その瞬間、時計の画面が灰色に光輝き、ロボットのような頭のアイコンが浮かび上がった。
『アイコンが浮かび上がったら、気合を入れて自分なりのポージングをするんだ!そして大きな声でこう叫べ!』
青年は、覚悟を固め、手を前に突き出す。そして体をひねらせ、自分のこぶしとこぶしを思いっきりぶつけ、そして
『装甲と!!』
「装甲!!!」
と叫んだ、その瞬間、バリアは実体化し、ガチャガチャのカプセルの見た目に変わった。バリアは少しずつ光り輝きあたり全体を照らすほどの光になると、弾け飛んだ。
カラスの化け物は少しだけ吹き飛ぶ。だが、すぐ体制を立て直すと、主人公のほうへと体を向けた。だが、そこにいたのは、生身の人間ではなかった。
いわく彼は、鉄の鎧をしていた。
色はなくシルバーであり、所々が擦り切れている。
頭は完全に鎧である。だが、体はまるでヒーローショーのスーツのような見た目であった。
体の灰色のアーマーに灰色の光を反射する体のラインが見えるスーツ、腕には先ほどの腕時計がついており、腰にはキーホルダーが3つとラジオのようなものがぶら下がっていた。
『これこそ!私が作り上げたヒーロー!その名も"プロトタイプアルファ"だ!』
化け物は一瞬たじろぐ、だがすぐに攻撃を再開した。
青年はつららをかわそうとする。だが、ワンテンポ遅れて鎧につららが当たった。青年は少しだけ吹き飛ばされる。
「...つららが鎧を貫通していない?というかこれ結構重いぞ」
『そりゃ鎧なんだからね、硬いし重い、当たり前でしょ?』
「...OK、ワンテンポ早くだな!」
青年は勢いよく化け物へと近づく。その間、化け物がつららで攻撃してきたが、青年はすべてかわした。
化け物は声を荒げる。さきほどと同じ鳴き声のはずだが今度は青年が苦痛に感じることはなかった。
化け物は突進をしてくる、青年はそれを躱し、思いっきりカラスを蹴った。
カラスはまたも少し吹き飛ぶが、何事もなかったかのようにまた突進する。
青年はそれをかわしながら、少しずつこぶしで打撃を繰り返す。
だが、化け物には少しダメージが伝わっているようだが、それでも攻撃の手はやまない。
青年は化け物と距離を取る。だが、化け物は距離を取られた瞬間にまたつららの攻撃へと切り替える。
「おい!きりがないぞ!何か決定打になるものはないのか!」
『ないわけではないよ、君の腰にキーホルダーがついているだろう?』
そういわれ青年は腰を確認する。青年の腰には3つのキーホルダーがついていた。鉄の板にそれぞれ『剣』『銃』『炎』のアイコンが描かれている。
『"剣"は文字通り剣を呼び出せる。"銃"も同様だ。"炎"は君の鎧を熱して熱で攻撃できる断熱材がダメになるほどの超高熱だ。だが一度しか使えないし継続時間も短い、せいぜい20秒が限界ってところかな。20秒たったら、君の鎧は役目を終えて消える。”装甲が解除”される。そのキーホルダーは、君の腰についてるラジオの中に入れれば使えるよ。さて、どれを使う。』
「銃はどんな種類だ」
『ライフル銃で一発ずつの発射、装弾数は12発』
「じゃあだめだ、あいつと相性が悪すぎる。あいつは装弾数は無限で、バンバン打ってくる。剣はどんな感じだ」
『打刀だよ、完全に、”一般人”の君に伝わるかな?』
青年はにやりと笑い、”剣”のキーホルダーをラジオに差し込んだ。
「伝わってるよ!」
そして、化け物に走り出す。
化け物は、まだつららを青年に放ってきた。つららを出す速度は上がり続ける。つららを躱しながら青年は全力でジャンプした。その瞬間、刀が手に持っているように生成される。化け物はそれでもなおつららを発射し続けた。
「おらよ!くらいやがれ!」
青年は刀を思いっきり化け物のほうへとぶん投げた。化け物は刀を落とそうとつららを充てるが、つららはまったく刀に当たらない。
化け物が奇声を上げると、翼で刀を払いのけようとした。だが、刀は翼に突き刺さり、化け物は大きな奇声を上げた。
「今だ」
主人公は、"炎"のキーホルダーをラジオにセットする。その瞬間、鎧が赤く熱されていく。鉄でできた鎧が赤くなっていく。
「終わりだ」
主人公は化け物の前に立つと、化け物を思いっきり殴りつけた。
「かああああああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
化け物の翼は燃え盛り、その炎は全身を包み込む。大きな奇声をあげた後、化け物は動かなくなった。
それを見つめていた瞬間、赤くなった鎧は魔法のように一瞬で消えた。
「はぁ...はぁ...終わった」
レナはそこに座り込む。ただ、燃え盛る化け物の前で、
『いやはや!君すごいね!まさかここまで戦えるとは、それでよくもまあこいつを討伐したものだ』
「...かのじょは」
『ああ、あの少女のこと?うまく逃げられたらしいよ』
「そうか...よかった...いやお前はかのじょのことをどうする気だ..」
『ああ大丈夫だよ、あの子のことは首ちょんぱしないよ、何言っても子供の戯言で片づけられる。大人は子供の言うことなんて聞かないだろうしね』
「そうか...!よかった!」
その言葉にレナは心底安堵した。
『まあ、君は大丈夫じゃないだろうけどね』
「...はぁ?」
『気づいてないの?君腕を貫かれたでしょ。そのうえであの運動量だ。出血は大変なことになってるだろうね』
そういわれ、レナは自分の右手を確認する。貫かれた部分しか出血してないはずだが、血は彼の右半身を真っ赤に染め上げていた。
「...あぁ」
レナは森の中で倒れこんだ。意識が少しずつ薄れていく。
『まっ、君はいい実験材料だ。死なせたりしない』
その声を聴き、レナは完全に意識を失った。