獣人の隠れ家1
目には見えない国境を越えて隣の国に入ってきた。
森が深くて魔物も出てくるために人間はあまり入ってこない場所にまでレオたちは進んできた。
もちろん途中魔物に襲われることもあったけれど獣人たちが連携して戦って問題なく倒していた。
「解放軍ケシタニモ国支部長のトブルだ。作戦を成功させて獣人たちを連れてきた」
突如として武器を持った獣人に囲まれた。
歓迎の雰囲気ではないが敵対している雰囲気でもない。
トブルが解放軍の証であるコインをブチ柄の犬の獣人に投げて渡す。
よくみるとトブルが持っているコインはレオが持っているものと材質が違う。
国の支部長ともなるとそれにふさわしいものになるのかもしれない。
「トブル支部長ですね。失礼しました」
ブチ柄の犬の獣人が深く頭を下げると周りで包囲していた獣人たちも警戒をやめて頭を下げた。
レオは思った。
あのブチ柄の犬の獣人、ダルメシアンだな。
「あれは洞窟?」
ダルメシアンの獣人についていくとそり立つ崖があって大きな穴が空いている。
「そうだ。あそこが俺たち解放軍の秘密拠点の一つとなっている」
近づいてみると洞窟の穴は意外と大きく、横には見張りの獣人が立っている。
外から見た時には暗いように思えたのだけれど中に入ってみると松明が壁に設置されていて意外と明るく感じる。
ただやはり人間の姿はなくすれ違うのは獣人ばかりでレオは好奇の目にさらされた。
「ここはなんなんだ?」
思っていたよりも中は広い。
人工的に広げたような痕跡もあるが元々かなり広い洞窟だったようにレオの目には見えた。
「ここは元々ダンジョンだったんだ」
レオとしては隣を歩くクロウルに質問したのだけど話を聞いていたトブルが答えてくれた。
「だいぶ昔にここに逃げてきた獣人がいた。その時に逃げ込んだのがこの洞窟で、当時はダンジョンだったんだ」
今は秘密拠点となっている洞窟は偶然発見されたものだった。
人間から逃げてきた獣人が逃げ込んだもので、当時はダンジョンだったために魔物が中にいて獣人を追いかけてきた人間は全滅してしまった。
獣人はなんとかその場を切り抜けて生き残り、のちに解放軍に加わってダンジョンがあることを仲間に伝えたのである。
何か資金になりそうなお宝でもないかとダンジョンは攻略されたのだが、ダンジョンがなくなった後も不思議なほどの広さを持つ洞窟が残されたのだ。
現在は解放軍が秘密の拠点なっていて、それなりの数の獣人が居住している。
「へぇ……」
「周りには魔物もいるし植物も豊かで食料には困らない。魔物は少し多いが狩猟だと思って倒していればさほど問題にならないんだ」
元より狩猟民族でもある獣人にとって魔物は食料でもある。
魔物が多いことも食料には困らないぐらいに考えている。
最近では森の一部を開墾して農業も始めているらしい。
「よく来てくれたね。トブル、ご苦労だった」
ダルメシアンの獣人の案内のもとで洞窟の奥に進むとテーブルが並べられた部屋に着いた。
そこで一人の獣人が待ち受けていた。
「デカ……」
フーニャやラオナールもデカいのだけどそれよりもさらに大きな獣人。
顔は丸みを帯びたシカのような顔をしていて頭には立派な二本のツノがある。
「ヘラジカか……?」
レオは昔動物図鑑で見たヘラジカの姿を思い出した。
巨大な体躯と立派なツノはまさしくヘラジカだ。
「過酷な戦いだったろう。ここまで来てくれたからには我々は仲間を保護しよう。まずは体を回復させることが必要だ」
どうしても大きなヘラジカの獣人に目が行ってしまっていたけれど周りを見てみるとテーブルの上には料理が並べられている。
「好きに食べるといい。ここは安全だ」
先に解放軍の獣人たちが動いて席についた。
そして料理を食べ始めると脱獄して連れてこられた獣人たちも我先にと席について料理に手をつけていく。
「ご主人様もいこ」
「ああ、そうしようか」
レオは少し出遅れてしまった。
それでも席はまだ空いているのでフーニャに手を引かれて座る。
フーニャがレオの右隣に座ってミカオは左隣に座った。
「ん、美味しい!」
肉中心の料理をレオは一口食べた。
普通に美味しい。
逃げている間は持ち運びしやすい簡易的な食事だった。
人数もいたし温かいものを食べたくてもなかなか用意もできない。
テーブルに並べられた料理はレオたちが来ることをわかっていたかのように出来たてで温かい。
それだけでもかなり美味しく感じられるのだろうけど料理人の腕もかなり良さそうである。
ようやく訪れた平穏に泣きながら食べている獣人もいた。
レオが直接聞いた話ではなく漏れ聞こえたものであるが、アルモフトラズに収監されていた獣人でも悪人ではない獣人というのも意外多くいたのだ。
濡れ衣、裏切り、誰かの罪を着せられたなんて人もいる。
獣人に厳しい人間に捕まれば申し開きの機会なんてあってないようなもの。
なんの罪もなく捕まって人生を諦めていた獣人は久々に食べる温かい料理に感情が抑えきれなかったのである。