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三度目のお話し4

 レオは攻撃の手を緩めずさらに切りつける。

 グレーシオはなんとか致命傷を避けているが完全には攻撃をかわしきれない。


「くそっ! くそっ!」


 防戦を強いられたグレーシオは苛立ちの声を上げた。

 明らかに素人臭い動きが残っているレオに押されている。


 2回もレオのせいでバーミットを怒らせることになった。

 グレーシオそのものは無事だったものの怒りの矛先を向けられた部下が再起不能になるまで暴行を受けた。


 全てはいきなり現れたレオのせいで全て狂った。

 最初にレオが逃げたのもグレーシオのせいではないのだが二回の失敗でグレーシオの立場も危うくなっていた。


 バーミットは何回も失敗して許してくれるような優しい人ではない。

 もうグレーシオも引けなかった。


 前に出てきたグレーシオに左腕にざっくりと刃が食い込んでレオは思わずそのまま切り裂くことを躊躇してしまった。

 これまで平和な世界に暮らしてきたレオはまだどこかで人を殺すことにためらいの気持ちがある。


「くっ!」


 レオは突き出された右の拳をかわす。

 勢いよくかすめた拳がレオの頬を浅く切り裂き、風切り音が耳のすぐそばを通り過ぎていった。


 当たれば顔面が潰れていた。

 グレーシオはレオを殺すつもりできている。


 レオだったら痛みで動けなくなりそうな傷でもグレーシオはただひたすらにレオに向けて殺気を放っている。

 どちらかが死ななきゃ戦いは終わらないのだとレオは察した。


「もう俺とお前のお話しは終わりにしよう」


『モフポイントを10使い、身体能力を強化します』


「ぐ……」


 覚悟を決めた。

 レオはまたモフポイントを使って身体能力を強化した。


「まだ……力を隠していた…………のか」


 さらに一瞬速くなったレオにグレーシオの反応が遅れた。

 ガントレットで受けようとしたけれど間に合わず剣がグレーシオの胸を貫いた。


 ほんの少し速くなっただけだったがわずかな狂いがギリギリの状況では大きかった。

 驚くように見開かれたグレーシオの目がレオを見る。


 一度瞳が揺れたと思ったら口から血を吐き出して力なく地面に膝をつく。

 胸から剣が抜けて、人を突き刺した奇妙な手応えだけがレオの手に残された。


「……気をつけろよ。あのクソ野郎は絶対お前のこと許さないはずだ」


「バーミットのことか?」


「俺はあいつの部下だったけどあいつは最低のクソ野郎だ。だがそのくせに能力は高くて、諦めないクズみたいな性格してる」


 グレーシオは恨みでも吐き捨てるようにバーミットのクソ野郎と言って笑った。


「獣人を守ろうなんて気はないがお前が羨ましいよ」


「……どうして?」


「真っ直ぐに何かを守ろうとするその目……その心意気……眩しいぐらいだ。俺はいつからただバーミットの命令を聞くだけの人形みたいになっちまったんだろうな」


 バーミットが怖くて、バーミットの命令を聞くだけで日々を過ごしていた。

 自分なんてあってないようなものでグレーシオの座は誰がそこにいても変わりなかっただろうと思う。


 代わりのきくなんでもいい存在にしがみついてた。

 レオは自分のため、そして獣人のために自らの意思で戦っている。


 グレーシオは今更獣人につくつもりはないが、そうした自分のために戦うレオを羨ましいと思った。


「お前は変なやつだ……だから負けたのかもしれないな」


 ふっとグレーシオの瞳から光が消えた。

 グレーシオがゆっくりと地面に倒れる。


「みんなは……」


「オラァッ!」


 ラオナールがメラビの胸を全力で殴り飛ばした。

 背中を気に打ち付けたメラビは口から血を流しながらそのまま地面に倒れて動かなくなった。


「逃すな! 追いかけろ!」


 他の獣人たちもほとんどの人間を倒していた。

 不利になって逃げた人たちを追いかけていてもう勝敗は完全に決している。


「レオ、大丈夫!」


「俺は大丈夫だよ。ミカオとフーニャは?」


「だいじょぶ、でもご主人様大丈夫じゃない」


「フ、フーニャ?」


 ミカオとフーニャも無事だった。

 レオに駆け寄ってきたフーニャはレオの頭に手を添えるを頬を自分の方に向けさせた。


 そしてグレーシオの拳によって切れた頬をぺろりと舌先で舐めた。


「ほほぅ〜」


 ざらりとした舌の感触は少しばかり痛みもあるけれどレオは愛を感じた。


「もう、変態」


「別に俺がやっていったわけじゃ……」


「ぺろぺろ」


「フーニャ、あまり舐められるとちょっと痛い……」


「私も舐めてやろうかぁ!」


 猫系の舌はザリザリしているので舐められ続けると痛くなってくる。

 そうしているとラオナールもいつの間にかレオのそばにいた。


「……ひ、ひとなめだけ」


 フーニャとラオナールで舌の感じに違いはあるのだろうか。

 そんな好奇心がむくりと湧き起こる。


「もー! そんなことしてないでちゃんと消毒するよ!」


 舐めて治れば世話はない。

 医療品が入った小箱を持ってきたミカオがレオの頬をぐりぐりと消毒して治療してくれたのであった。

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