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変態とは才能かもしれない2

 途中でカリカリに焼かれたパンが出てきたりとさほどお腹が空いているわけでもなかったのに綺麗にビーフシチューを平らげてしまった。

 美味いものというのは不思議な力を持っている。


「さて、美味しいと褒めてもらったところであるし君について話をしよう」


 相変わらず裸エプロンの男は居住まいを正した。


「君は死んだ」


「………………はぁ?」


 言われた通りにビーフシチューを食べてこんなことを言われてはレオも理解が追いつかなかった。


「覚えていないか? 君は刺されて、そして亡くなったんだ」


「刺されて……」


 そういえばと思い出す。

 腹部にはナイフが突き刺さっていて、熱いような痛みを感じていた。


 ふと手をお腹にやってみるが当然そこにはナイフなど刺さっていないし痛みもない。


「死んだ?」


「そうだ。君はあの場で死んだ」


「でも……今俺はここにいる!」


 血も出ていないし怪我もない。

 たった今ビーフシチューだって食べた。


 死んでるなんて到底思えない。

 仮に死んでいるのだとしたらこの状況がなんなのか理解ができない。


「今の君は……いわゆる魂の状態だ」


「なら、あんたはなんなんだよ?」


 死んで魂だけの状態だというのならうっすらと察しはついているが、否定してほしくてレオは質問をぶつけた。


「私は神様だ」


「ウソだろ……ウソって言ってくれ」


「ウソではない」


「じゃあ、そこは死後の世界、天国とかってやつなのか? それとも地獄なのか?」


 椅子に座ってなかったら衝撃で倒れていたかもしれない。

 それぐらいレオは顔を青くして頭を抱えた。


「ここは天国でも地獄でもない。言うなれば神の世界。その中で私が住んでいる場所だ」


「どうして、こんなところに?」


 とりあえず死んだことは受け入れる。

 最後の状況からして助かる可能性が低いことはレオ自身も理解している。


 ただどうして神様なんかと向かい合ってビーフシチューを食べることになったのか疑問で仕方ない。

 もうこの際ビーフシチューもどうでもいい。


 神様とこうして話している理由が分からない。


「信賞必罰という言葉を知っているか?」


「はい、知っていますが」


 ざっくりといえば賞すべき人には賞を与え、罰すべき人には罰を与えるというような意味である。


「君は身をていして人を助けた。本来ならばこうした行いには相応の褒美を与えることになっている。しかし残念なことに君はなくなってしまった。生きている間に行った行いには生きている間に賞を与えるべきなのだ」


「つまりはどういうことですか?」


 結局死んだからご褒美無しということにしか聞こえない。


「死んでしまえば賞は与えられない。しかしその勇気を買って君に賞を与えたいという神がいるのだ」


「死んでるのに何を貰えるのですか?」


「それはその神に聞くといい。きっと悪い話じゃないはずだ」


 神様がスッと手を上げて手を打ち鳴らす。

 その瞬間レオの視界が歪んだ。


「えっ? ……なっ、ここは?」


 ほんの瞬きの間にレオがいる場所は変わっていた。

 良い一軒家のような場所が急に古代ローマの神殿のような場所になった。


「ようこそ、ミナモリレオ。歓迎するよ」


「あ、あなたは!?」


 振り返るとそこに女性が立っていた。

 ただし普通の女性ではない。


 女性の顔は獅子であったのだ。


「ケ、ケモッ娘!?」


 全身黄金色の美しい毛で覆われていて、口元にはチラリと牙がのぞいている。

 ただ完全に獅子なのではなく体つきは四足の獣ではなく人の体つきをしていて、頭もやや髪の毛っぽい感じになっている。


 100%獣人というよりも90%獣人という感じの人間っぽさもあるのだ。

 100%も良いけれど若干の人っぽさがあるのもまたよくてレオは思わず口を手で覆ってキラキラとした目を女性に向けた。


「娘とは久しぶりに言われたな!」


 獅子の獣人は口を大きく開けて笑った。


「こんな年寄り捕まえて娘ではないだろう」


「いえ、いくつになってもケモッ娘はケモッ娘です」


「くくく……その豪胆さは気に入った。私が生娘だったらほだされていたかもしれないな」


「あ、あなたは一体何者なのですか?」


 仮にご褒美がもらえるのだとしたらもうもらったようなものであるとレオは思った。

 憧れのケモッ娘を生で拝むことができた。


 これ以上幸せなことがあるだろうかと思った。

 強いて言うなら少しモフらせてもらったり、匂い嗅がせてもらったり、堪能させもらえればいいのだけど。


「はっはっはっ! 私相手にそんなこと思うのはお前ぐらいだろう!」


 レオの考えを見透かしたように獅子の獣人は大笑いした。


「まさか神になってそんな目で見られることがあるとはな」


 獅子の獣人は笑いすぎて出てきた涙を拭う。


「私はレイラ。誇り高き獣人の英霊にして神だ」


「獣人の……神様?」


「そうだ。こんなところで立ち話もなんだ。そこに座れ」


 見るとふかふかのじゅうたんが敷いてあるところがあって、低いテーブルが置いている。

 呆けたようなレオはレイラに言われるがままじゅうたんの上に座った。


 少し離れていると分からなかったが近づいてみるとレイラはレオよりも大きかった。

 良い! とレオは思った。

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