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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
第8章 統合と愛性
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第96話 雪の中、道に迷い

 リナの幸せとは何か。

 私にはわからない。

 私がそれを生み出せる自信はない。


 今のリナは私といることを望んでくれている。それは知っているし、わかっている。

 けれど、明日も同じなのかはわからない。

 明日が同じでも、明後日は? その次の日は? 


 いつか私といる理由がわからなくなる日が来るかもしれない。

 だって私はリナに何も与えていない。


 蘇生魔法を使ったのだって、貰ったものを返しただけで。

 この数日だって私は彼女に頼りきりで、奪ってばかりだから。


 私には彼女を幸せにする自信がない。

 愛している……なんて、そんなことも言えない。


 そんな私がリナのそばにいる資格があるのかな。

 今の彼女はきっと許してくれると思う。私がこんなことを言っても、傍にいて欲しいって言ってくれると思う。


 けれど、それは……リナのためになるのかな。

 もしも私じゃなくてエミリーがいるなら。エミリーならきっとリナを助けることもできる。私にはできない。


 私がリナと一緒にいた時と、エミリーがリナと一緒にいた時、どちらかがリナにとって幸せな生活になるのだろう。 


 ……驕りかもしれないけれど、きっと1年ぐらいは私といたほうが楽しいと思う。今のリナがそれを望んでくれているから。

 けれど、10年……いや、20年もすれば、エミリーといた方がリナは幸せになれる気がする。実際のところはわからないけれど……でも、私といても身も心も貧しくなっていくだけれど、エミリーといたらそうはならないだろうから。


 エミリーは私と違い、愛を持っているらしいから。

 私は愛というものが何かは知らないけれど、でも、きっと愛があれば、エミリーがリナを傷つけることはないのだろう。


 実際、これまでの生活は2人でやってきたのだろうし。

 何年ぐらい一緒にいるのかは知らないけれど。

 でも、私が共に暮らした期間より長く共に過ごしていても驚かない。だってあれから5年も経っているのだから。


 それに今回のリナを助けたのだって多くの人に助けを求めたエミリーの功績みたいなものだろう。私の蘇生魔法なんかただの結果でしかない。


 それに比べて、私はリナを傷つける。

 何度も傷つけてきた。

 そしてしまいには、彼女を一度殺している。


 あの時の感触は、今も目を閉じれば思い出す。

 そうしないと蘇生魔法が使えなかった……なんてのは言い訳でしかない。私はリナに命を捧げたかった。どこかでそれをずっと望んでいた。

 

 リナの想いなんて知らない。

 ただ、私の全てを彼女にあげたい。そうすれば、許される気がするから。

 だから、蘇生魔法を使った。リナがそれを望んでいないことは知っていても。


 何故か私はまだ生きているけれど、あの時から、私の全てはリナのものなのだと思う。いや、ずっと前から……彼女が私の心を救ってくれたあの日から、私はリナのものだと思う。


 だから、彼女のために動かないといけない。彼女の幸せのために。

 でも……彼女の幸せに私は必要なのかな。ただ、邪魔なだけなんじゃないのかな。


 エミリーと2人のほうが幸せになりやすい気がする。

 だって、私がエミリーに勝っているところなど何もない。

 能力も想いも全部、負けている。


 なら、やっぱり私は身を引いた方がリナのためになるのかな。


 無数の思考の渦の中でいくら考えても、結論は大体同じだった。

 リナが私といるよりも、エミリーといた方が良い。


 その理由はたくさんあるけれど。

 やっぱり愛という要素は大きいものだと思う。


 あれだけ自信を持って自らの心を定義して、そして愛を語る人を見ると、どうにも私の想いなんか意味のないものに見える。実際形を成してはいないのだし。

 もしも私がリナを愛していると自信を持って言えたなら、別の結論にもなったかもしれない。でも、愛してはいない。


 正確には愛しているかはわからない。

 愛ってなんなのかな。


 考えても答えは出ない。

 知らないものを答えることはできない。

 愛情は親が教えてくれるものらしいけれど、そうでなくても自分で気づけるものらしいけれど、私は未だに愛がどのようなものかわかっていない。

 私の渦巻く感情の中に愛はあるのかな。


 自信はない。

 リナを好きな自信もないのだから。


 確かにそんな私ならリナの隣にいる資格はないのかもしれない。

 愛も知らず、恋も知らない私には。


 リナは私に恋をしてくれているのかな。

 愛していると、言ってくれるのかな。

 分からないけれど。


 でも、もしもそう言われても私は愛を返すことはできない。

 きっとその愛を感じることも上手くできる自信がない。


 私の感情は、きっとあまりにも乏しくて、恋も愛も上手くわからないようになっている。


 ずっとそうなのかもしれない。

 そんな私がリナと一緒にいていいのかな。

 あまり、そうは思えない。


 ……昔も、同じようなことを思った気がする。

 同じように考えて、そしてリナと話した気がする。

 リナはそれでも私といたいと言ってくれた。

 けれど、結局それはリナを傷つけるだけの形で終わっている。


 今回も同じようになってしまうかもしれない。

 それだけじゃない。

 今回は手に入るはずの幸せすら奪ってしまうかもしれない。


 エミリーとの幸せを奪ってしまうことになる。

 そんなこと、許されるのかな。


 許されるわけがない。

 元より、私はリナと一緒にいていい存在なわけではないのだから。リナが許してくれても、私は許せそうにない。

 

 こうして彼女と数日間だけでも過ごせたことは、幸運だった。酷い後悔が解消されたわけではないけれど、それでもましになった。

 多分、この辺で思い出にしておくべきなのだと思う。


 これ以上一緒にいたら、私はきっとまたリナから離れたくなくなる。私の勝手な願いを押し付けてしまう。

 前はそれで、リナに嫌われてしまったのだから。


 ……今回も同じかな。

 幸せになってほしいって願いを押し付けてしまうのだから。

 リナはまた私を嫌うのかな。


 それでも良いとは、思えないけれど。 

 でも、それでリナが幸せになってくれるのなら、悪くはない。

 

 幸せ。

 幸せかー……

 私が幸せにしてあげられたら。

 何かそういうものがあれば、きっともう少し話は綺麗だったのかもしれない。そうだったら、よかったけれど。


 どうしようもない。

 私は何も持っていないのだから。

 本当にどうしようもない。


「はー……」


 外に出て、そして長く白い息を吐く。

 相変わらず寒い。

 吹雪は大分弱まったけれど、それでも寒いことには変わりない。


 それになんだか息を吐くたびに、リナがくれた熱も出ていくようで。

 余計に寒く感じる。


 リナは、まだ寝ているのかな。

 起きて私が居なくなったと知れば、追ってきてしまうのかな。きっと、追ってきてくれるのだろうけれど。

 どうだろう。今度は私を嫌いになってしまうかもしれないから、来てはくれないかな。それなら、それでいいんだけれど。


 とにかく私は歩き始めた。

 また独りらしい。

 もう何度目だろう。

 けれど、違うのは、これが何かに強制されたわけではなくて、私の意思で私はリナから離れるということ。


 リナの幸せを願って、私はリナから離れる。

 多分、本当は彼女と話すべきなのだと思う。

 けれど、きっと話してしまえば、彼女から離れるなんて選択肢、失くなってしまいそうだったから。


 私は逃げるように歩き出すしかない。

 愛を知らず、恋も知らず、私はまた孤独に戻っていく。

 逆なのかもしれない。

 孤独だから、私は愛を知らない。恋も知らない。


 だから、私は人と関わる資格なんて、本当はないのだから。

 こうして寒いけれど。

 でも、これが本来の私なのだと思う。独りで、誰からの想いも受け取る資格のないのが、私なのだから。元いた場所、本来の場所に戻るだけ。

 だから、悲しむことはない。

 ないんだけれど。

 でも。


 どうにも、上手く前が見えない。 

 視界がぼやけて。

 そして、私は息を詰まらせる。

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