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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
第8章 統合と愛性
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第92話 雪の先、暗がりの中で

 結局、どうして、私は生きてるのか。

 蘇生魔法を使ったのだから死んでいなくてはおかしいのに。

 その疑問の答えは単純なことだと思う。


「リナが助けてくれたんだよね?」

「まぁ、そうなるのかな。でも、ほんとに焦ったよ。見つけた時のミューリは本当に死にかけで……」


 まぁ、うん。

 それはそうだと思うというか、死んでないことが奇跡……というと大袈裟かもしれないけれど、でも私が魔法を使っても生きていること自体が予想外だった。


 蘇生魔法は私の命を使い尽くして発動する魔法だと思っていたけけれど、意外とそこまででもなかったのか……それとも別の要因なのかはわからないけれど。


「でも、もうどうしようもなかった。回復魔法で助けられる状態じゃなかったし……本当に恨んだよ」

「……私を?」

「蘇生魔法を、かな。もちろん本当に使って欲しくなかったよ。でも、それより嫌だったのは、それを止められなかった私自身」


 白い息を吐いて、リナは呟いた。


「でも、ちょっと……ううん、すごく嬉しかった。ミューリと会えたことも、蘇生魔法を使ってもいいと思う程度には私をまだ想ってくれていることも、すごく嬉しかった」

「……うん。たくさん助けて貰ったから。少しは返さないとって」


 それだけなのかは、今となってはわからないけれど。

 正直、自分の心は未だによく分からない。こうして彼女と話しても、わからないことだらけなのは変わらない。


「助けて貰ったのは私なんだけど……ともかく、ミューちゃんは死にそうだった。だからね」

「え、もしかして」

「うん、私も蘇生魔法を使ったんだ」


 確かにそれなら、私を治すこともできるかもしれない。

 でもそれは、おかしい。命を救うには対価がいるのだから。蘇生魔法を使ったら、死んでしまうのだから。

 それにリナが蘇生魔法を使えるはずがない。蘇生魔法の術式はそこまで単純なものでもないはずなのに。


「まぁ、完全な蘇生魔法じゃないよ。どう言えばいいのかな……ミューリ対して限定的な蘇生魔法だよ」

「私、だけ?」

「そうだね。確かめたわけじゃないけれど。でも、多分そうだと思う」


 どうして私だけに対する蘇生魔法なのか。

 それを疑問に思ったことをリナも察したのか、答えを続ける。


「ミューリ、私に蘇生魔法を使ったよね。蘇生魔法って、魔力干渉魔法の性質があるから、その時にできた私とミューリの魔力的繋がりのおかげで、私も蘇生魔法を発動できたんだと思う」


 たしかに蘇生魔法は他者の魔力に干渉する魔法ではある。

 他者の魔力に強制介入するというのは、蘇生魔法の難易度を大きく引き上げている要因のひとつで、その工程が楽になるというのなら、蘇生魔法を発動できる可能性は確かにある。


「で、でも……術式だって、わからなかったはずでしょ?」

「あー、まぁね。だから、うん。そこは賭けだったよ。たまたま上手くいっただけかな。一度、私に向けて使ってくれたから、多少解析はできたけれど、それでも成功率は低かったかな」


 たまたま上手くいった。

 そのおかげで私はこうしてリナと話せている。

 こうなったことが良かったのかはわからないけれど。でも、上手くいってなければ、またこうしてリナの想いに触れることはなかった。


「……運が良いのかな」

「そう、だね。ほんとに幸運だと思う。蘇生魔法を使って生きていられるのも、そのおかげなのかな。きっと私達は幸運で守られているんだよ」


 そういう話を、あの吹雪の中の雪洞でした。

 そして時間は流れて、吹雪もいつの間にか止んで、私達は白い雪の中を歩く。


 吹雪のせいでよくわからなかったけれど、時間は夜のようで、辺りはとても暗い。星明りも、かろうじて足元が見える程度しかない。それでもリナに手を引かれていれば、何も怖くはない。

 まるで、昔に戻ったみたい。

 昔も、こうして歩いた気がする。色々なところを。


 リナに手を引いてもらって、連れて行ってもらった。

 懐かしい。

 この手から感じる熱も。

 全部が懐かしい。


 けれど、なんだか同時に少し変わったとも感じる。

 それはまぁ、当然なのだけれど。5年も会ってなかったのだから、何かは変わる。突然、あの時と同じ想いだと知っても、あの時まで時が戻るわけじゃない。


 私は、言えなかった。

 蘇生魔法なんて使わないで欲しかったなんて。


 リナにまた会えて、彼女の想いを感じれたことは嬉しい。

 それは本当なのだけれど、でも、彼女に蘇生魔法を使って欲しくはなかった。

 そこまで彼女に命を粗末にしてほしくなかった。


 どの口が言っているのか、という話ではあるのだけれど。

 でも、私はリナに生きて幸せになってほしいのだから。

 蘇生魔法という自ら死を選ぶ魔法なんか使って欲しくなかった。


 でも、本当にどうしてなのだろう。

 私はここに来て、死ぬと思っていた。

 蘇生魔法を使って死ぬんだって。

 

 でも、実際はかろうじて生き延びた。リナが目覚めるまで。

 そして、何故か彼女の蘇生魔法で助かった。彼女の命を使うことなく、私は生き返ることになった。


 わからない。

 どうしてそんなことになったのか。


 幸運。

 そう片付けることは簡単だけれど、そんな何度も奇跡なんて起こらないはずなのに。


 今、隣で歩く彼女を見ると、少し思うことがある。

 蘇生魔法の発動過程において大きな負荷をかける他者への魔力干渉だけれど、私とリナに限れば、これはそこまで大きなものじゃなかったのかもしれない。


 だって、私はリナに魔力干渉をしたことがある。

 今日の……いや、もう昨日か。昨日の蘇生魔法が初めてじゃない。5年前、彼女が私の前で首を斬った時、私はリナに魔力干渉をした。


 あの時は、ラスカ先生の魔導機を使ったんだっけ。

 それでリナの魔力に触れた。繋がった。


 それはもちろん、魔法による一時的な効果だったけれど。

 でも、そのおかげで少し……その、なんというか。


 慣れていたのかもしれない。

 初めての魔力干渉じゃないのだから、他の人に比べれば簡単に魔力干渉権を確立できたのかな。


 まぁ、こういうことはラスカ先生じゃないと正確にはわからないのだろうけれど。

 でも、それぐらいしか私が辛うじて生き延びた理由には説明ができない気がする。

 もちろん、これだけじゃ全てを説明できるわけじゃないけれど……

 まぁでも、何でもいいような気もしてくる。こうして彼女の暖かな熱に触れていると。


「あっ、流れ星」


 不意に彼女が空を指さす。


「え、ど、どこ?」

「えっとね、あの辺かな? どう、見える?」


 彼女が顔を近づけて、同じ目線で彼女の指し示す空を見る。

 白い息が舞い上がる。その先に、長れゆく光を見つける。


「あ、あった。すごい……綺麗……」


 橙色の光が流れて、そして空の彼方へと消えていく。

 1つ、消えていったかと思えば、少し隣にまた1つ現れ、そしてまた消える。

 なんだか、儚い。


「流れ星って、魔神様の使いってなんだって」

「そう、なんだ」

「願いを叶える魔人だったかな。流れ星に願えば、叶えてくれるらしいよ」


 私も少し思い出す。

 確かに言われてみれば、そんなお伽話をあの白い部屋でリナと読んだ気もする。

  

「ずっと一緒にいられますように」


 それが彼女の願い。

 それは知っている。

 私もそうなればいいと思っているけれど。


 でも、私は何を願えばいいのだろう。

 リナの想いが私に向いていて、それ以上何を望むことがあるのかな。


 こんなふうに彼女と過ごせること自体、想像することお叶わなかったことなのだから。何も願うことはない気もする。


「もう見えないね。終わっちゃったのかな。ミューリは、何か願い事した?」


 首を横に振る。

 けれど、でも寒さのせいか、頬を赤くした彼女を見ると少し思う。


「願い事はしてないけど……でも、また一緒に流れ星、見たい……」

 

 それぐらいだろうか。

 過ぎた願いかもしれないけれど、でも、それが叶えばどれほどか。

 

「うん。そうだね。きっと見れるよ」


 そしてまた私達はリナの家へと歩みを進める。

 随分と遠くまで歩いたような気がしていたけれど、意外とそうでもなく、家はすぐに姿を現した。


 この辺りに家はいくつかあるけれど、私の記憶が正しければ、リナの家以外に誰かが住んでいる家はなかった気がする。


「はー、帰ってきたね。そうだ。部屋は、どうしようか。前と同じで良い?」

「あ、うん。いいよ。大丈夫」


 前と同じ。

 つまりそれは、リナと同じ部屋ということだろう。

 まぁ別に断る理由はない。一緒にいると決めたのだから。

 望むところなのかもしれない。

 まだ私は自分の心をとらえきれてはいないけれど。


「でも、3人だとちょっと手狭かな……部屋は足りてると思うんだけれど」

「……3人?」

「あ、うん。その、今は友達も住んでて。エミリーっていうんだけれど」


 私は返事を忘れてしまう。

 彼女のことを忘れていた。


 帰ったら、リナの家にはエミリーがいる。

 リナのことを愛しているとまで言っていたエミリーが。


 この様子だとエミリーはまだリナに想いを告げていないようだけれど。

 でも、そんなところに私が入っていても……なんだかあまり綺麗なことにはならない。そんな気がした。

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