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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
6章 閉瞼と瞑目
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第81話 酔態

 魔法師管理機構。

 それはつまり、魔法使い達の統括管理をしているところで、一応私も魔法使いに分類されているのだから、そこに所属していることになっている。そういう意味では、私が魔法使い養成学校に通っているのは酷くおかしな話な気もしてくる。


 私は分類としては特別魔法師、つまりは特殊な魔法使いということになるらしい。私のように一芸しかできないようなものや、通常の規格では測れないようなものはこの分類になるとか。


 まぁ、あまり良くは知らない。

 分かっているのは、この機関が私を幽閉して保護してくれているということだけ。それが私にとって良いことなのか、それとも悪いことなのか。私にはまだわからない。


 ともかく私は魔法師管理機構本部に呼ばれた。

 その指令を断ることはできない。いや、正確には断ることはできるのだろうけれど、その時点で私は殺されることになる。殺されなくても、相当酷いことになる。リナと逃げて、そして捕まってしまった時のように。


 本部の27階。

 特別魔法師管理委員会第一会議室。


 そこに私は来ていた。

 用は恐らく、蘇生魔法の使用に関して。


 誰か蘇生してほしい対象が現れたのだろうか。

 誰であろうと、リナじゃない限り私は蘇生をする気は欠片もないのだけれど、それでもあまり管理機構の人たちが私の意思を気にするとは思えない。どうにかして、魔法を使わせようとするだろうけれど。


 実際、その手段はいくらでもある。

 脅迫とか、拷問とか、あとはそういう魔法を使うのもありなのかもしれない。

 けれど今、誰かが死んでいるとしても、私は蘇生魔法を使えない。


 使わないのではなく、使えない。

 使うための条件を満たしていない。彼らは条件を全ては知らないから。

 今回のことで秘密の条件を話すことになるとしても、現在死んでいる人では条件を満たせない。条件を話せば、酷い目には合うのだろうけれど、まだ蘇生魔法を使うことにはならない。


 だから、私はまだ猶予がある。何のための猶予なのかは、わからないけれど。それでも、まだ私は蘇生魔法を使わなくていい。

 そう思ってここまで来た。

 来たのだけれど。


 会議室に大勢いる人を見ると少し足がすくむ。

 ざっと10人はいる。その全員が見るからに歴戦の魔法師と言った風体で、あからさまに歳の差というか、それによる威圧感を感じる。今にも逃げ出したい。

 前に来た時は、隣に私の臨時監視役のような人がいて、その人が話してくれたのだけれど、今日は私1人だけ。扉の外にはルミがいるはずだけれど。


 鐘がなる。

 そして、一番奥に座る男の口が開く。


「時間だ。では、秘匿魔法99870に関しての通告を行う」


 ごくりと唾を呑む。

 誰を蘇らせて欲しいと言い出すのか。 

 そう思って、身構えていたのだけれど。


「協議の結果、蘇生魔法の扱いを変化する」

「秘匿は変わらないが、その扱いを変化する」

「封印から、再現へ」

「故に蘇生魔法の研究に協力してもらう」

「人員は容易した」

「設備も」

「それに協力せよ」

「学校は休学手続きを済ませた」

「その研究が完成次第、汝は自由となる」

「詳しい命令は第22特別魔法研究室で」

「別棟15階だ」

「以上」


 え?

 そんな間抜けな面をする間もなく、私は会議室を出ていた。


「先輩、大丈夫でしたか? 随分と早かったですけれど……」

「あ……うん。まぁ……」


 一気にまくしたてられただけで話はよくわからなかったけれど。

 蘇生魔法を使えとは言われなかった。

 それは意外だったけれど。


「なんか研究に協力しろって……」

「え、それだけですか?」

「うん、まぁ……」

「良かったですね! 私、先輩が死んじゃうのかって心配でしたよ」


 私も死ねと言われるのだと思っていた。

 けれど、そうは言われなかった。

 理由はわからない。


 代わりにいろいろやれと言われた。

 まずは確か……


「どこかに行けって言われたんだけれど。たしか、第22魔法研究室みたいな」

「あ、すみません。ルミは先に部屋に行きますね。この建物内であれば、安全ですから。私の護衛も監視もいらないらしいので」


 次の行き先を共有しておこうとルミに言葉をかけるのだけれど、彼女は申し訳なさそうに手を合わせる。

 どうやらここからは1人らしい。少し心細い。

 まぁ、どちらでもあまり変わらないか。


「少し、会いたい人がいるんです。今もここにいるかはわからないのですけれど」

「あ、うん。じゃあ、またあとで」

「はい。部屋の場所は覚えてますか?」

「うん。大丈夫、だと思う」


 私が返事をしたころには、ルミは軽く手を振ってどこかへと足早に消えた。

 どうやら会いたい人というのは、彼女にとって結構大切な人らしい。この場所にもそういう人がいることは、少しほっとする。


 私も目的地に行かないと。

 いつこの会議室からさっきの魔法師達がわらわらと出てくるかわからない。いや、別に鉢合わせになっても怯える必要はないのだけれど……でも、少し怖いし。


 そして私も逃げるように別棟15階、第22特別魔法研究室に向かった。

 そこはいかにも新しくできたといった風体で、まだあまり使われてなさそうな研究説場がたくさんあった。


 けれど、明かりがついている部屋は1つだけで、恐らくそこに入れということであろうことはすぐにわかった。

 その部屋のとびらをそっと開けて。


「うわ」


 私はすぐに扉を閉めた。

 ある人物を見つけたから。

 別に扉を閉めたところで逃げ切れるわけもなく、その人はすぐに近づいてきて、扉を開けた。


「酷いな。そんなに私が嫌いかね」

「……お久しぶりです。ラスカ先生」


 そこには不気味なほどに整った笑顔を張り付けた先生がいた。

 2年半ほど前、リナと逃げ出したときに協力してくれた人で、私とリナが一度離れる原因を作った人でもある。

 嫌い、というほどではなくても、得意な人ではない。


「どうして先生がここに?」


 その質問をしてから、答えは決まり切っているものだと気づく。


「私がここの主任者だから、それ以外にはないだろう? 特に君の魔法を研究するところなのだからね」


 ……まぁ、そうなのかもしれない。

 蘇生魔法を研究している人なんて、ほとんどいない。

 それに先生は私の魔力情報を全て持っている人でもある。そんな人はほとんどいないはずだ。


 でも、あれはこっそり行っている研究だったはずだけれど。

 国の機関である魔法師管理機構に研究成果を話して大丈夫なのかな。ばれたら、私を逃がした件に関わっていることが連鎖式に発覚してもおかしくはないと思うけれど。


「私の研究の仮発表を見たものが、どうやら私に目をかけてくれたようでね。それでこの研究室に移動してきたというわけさ。設備も資金も人員もあるようだからね。好きにやらせてもらうさ」


 私の疑問を読み取ったわけではないだろうけれど、先生は補足するように言葉を追加した。

 どうやら、私を逃がしたことがばれたわけではないらしい。わかっていてあえて言ってきてないだけかもしれないけれど。


「それで、私は何をするんですか」

「ふむ。いきなりだな。しかし、その心意気は助かるというものだよ。とりあえず君がすべきことは、魔法の発動条件に関しての話だろうな」

「それは、報告してあるはずです。対象が瀕死または死んでいる状態であることだと」


 正確にはもう一つあるけれど。

 それはまだ誰にも言ったことはない。

 だけれど。


「対象の魔力を読み取っていること。それも発動条件なんじゃないのかい?」

「な……」

「その様子だと知らなかったわけじゃないようだね」


 ラスカ先生は発動条件を言い当てた。

 言ったことはない。

 たしかに魔力情報を渡したけれど、そこから私の蘇生魔法の術式とその効果までわかるわけはないと思っていたのに。


「ずっと疑問だったからね。リナくんを助けた時の君の動きにはあまり迷いが見られなかった。まるで魔力を触れ合う方法を知っていたような……いや、魔力を一度触れ合わせたことがあるような動きだっただろう」


 それだけで。

 それだけでわかってしまうものなのだろうか。


 あの時に……2年半ほど前、リナを助けるために彼女に口づけをした時はそんなことを考えていたわけじゃない。と思う。あの時は、そんな余裕なんてなかった。でも、心の片隅でその知識があったからなのかもしれない。


「条件は、その2つ。そうだろう?」

「……はい。そうです。両方が揃わなければ、私の魔法は失敗します」


 2つ目の発動条件。

 対象の魔力を生前に記録しておくこと。

 記録の仕方は様々だけれど、対象の魔力に触れておく必要がある。方法は何でもいいけれど、例えば手を繋ぐとか、それこそ口付けをするとか。それをしておかなくては、蘇生魔法は正常に起動しない。


 現在記録されているのは、リナとルミのふたり。 

 だから、今の私はいきなり他の人を蘇生することはできない。


「……言いますか? 上に」

「まさか。そんなことはしない。私だって君が無理に汚されるのを見たいと思うほど非道でもないのだから」


 ほっと胸をなでおろす。

 上層部に報告されれば、蘇生対象者の魔力を記録しろと言われることは目に見えることだから。それは、できればもう少しばかり先延ばしにしたい。


「だが、これは大切なことだ。私の研究において、君の魔法に関しての情報は全て話してもらわなくてはならない。困るのだよ。秘密というのは。これ以降、秘密というのはやめてもらいたい」

「……はい」


 けれど、それ以外に秘密などないけれど。

 ……精々、私のちょっとした推測ぐらい。私が死にかけた時は蘇生魔法が自動発動しているのではないかという推測は話したことはない。


「よし。ならば、今日はもう休むといい」

「わかりました」


 それだけ言って、私は扉を開ける。

 なんだか疲れた。 

 ラスカ先生と話していると疲れる。早く独りにしてもらおう。


 ……明日から、また先生といるはめになるのか。

 そう思うと、なんだか酷く憂鬱に感じて、私は強めに扉を閉めた。

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