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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
6章 閉瞼と瞑目
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第78話 酔然

「えー、先輩も入りましょうよー!」


 ルミはあの日以降、風景画同好会に入ることを決めたようで、それは非常に結構なことだと思うのだけれど、どうやら彼女は私にも一緒に入って欲しいらしい。


「……まぁ、うん一緒には行くよ。そうしないと任務が果たせないもんね」

「そうですけど、そうじゃないです! 一緒に入りましょう? きっとその方が楽しいですよ」


 ルミは部屋の中を駆け回って、私に一緒に入ろうと言うのだけれど。

 私は曖昧に笑うしかない。


「どうしても、嫌ですか?」

「嫌ってわけじゃ……ないけれど」


 部活に入る。というのは少し重たい。

 何かそれらしいことをしないといけないとなっても、私には何かをできる自信がないから。


「お願いです……これでもだめですか……?」


 ルミが私を上目使いで見つめる。

 そんなことをされると、断りづらい。


 大体、どうしてそこまで私も入ってほしいのだろう。

 風景画同好会というのは、別に少数でも成り立つのだろうし。一応部活の人数という問題はあるのだろうけれど、それもルミが入ればなんとかなるはずだし。


 でもまぁ、考えてみれば、そこまで私にも断る理由はないかもしれない。自信はないけれど……でもそうしたほうがルミが喜んでくれるのなら、そうしたほうが良いのかもしれない。


「……わかったよ。私も入るから」

「本当ですか! ルミ、嬉しいです!」

 

 ルミはその場で飛び跳ねる。

 なんだかそんなに喜ばれると、まぁいいかなという気もしてくる。

 不安はあるけれど。まぁ、なんとかなる気もするし。


「けれど、実際何するの? 風景画同好会だっけ。絵を描けばいいのかな」

「んー、そうですね。別に決められた何かがあるわけじゃないと思いますよ。ただ一緒にあの部屋に行きましょうってだけです」


 それだけなら私でもできるのかな。

 あれ、でもそれなら……


「それなら私が入会しなくてもよかったんじゃ……」

「そういうことじゃないんです! 同じところに籍を置いてるのが大事なんじゃないですか!」


 そういうものなのかな。

 あまりわからない。


「そういえば、先輩。リナって誰ですか?」


 どきりとした。

 思わず目を伏せてしまう。

 小さな指先を合わせて、そっと自らの手をなぞる。


「前の護衛の人ですか?」

「……うん。そう」

「仲、良かったんですか」

「まぁ」


 肯定を返そうとした。けれど、息が詰まる。

 リナのことになると、私はいつも息を詰まらせている。

 無理に息を吐いて。


「良かったよ。本当に、仲は良かった……」


 はずなんだけれど。

 ううん。はずなんかじゃない。

 本当に私達はあの頃、想いが通じていた。 

 けれど、最後はぶつかりあって、割れてしまった。

 もうあの時の想いがどこにあるのかはわからない。


「リナさんのこと、聞きたいです。どんな人だったんですか」

「……ごめんね。今日はもう寝るよ。また、今度ね」

「あ、先輩……」


 話を断ち切って、私はルミから背を向ける。

 これ以上、リナのことを思い出したくなくて。


 思い出が溢れるたびに、あの頃がもう戻ってこないことが。

 リナの想いを壊してしまったことが。

 私を苛むから。


 私はルミの問いから逃げた。

 それにそこまで話す気にならなかったのもある。

 私は彼女のことを何も知らない。

 ……一応、そろそろルミと出会って1カ月ほどが経つのだけれど、未だに彼女のことはよくわからない。

 

 私といることを望んでいるようだけれど、未だにその理由は見えない。

 護衛、って理由だけではないような気がする。蘇生魔法に関することというのも、それなりの理由としては存在しているのだろうけれど、それだけではないような。

 

 本当に私のことが好きなのかな。

 ……流石に自惚れが過ぎる。

 そんなことがあるわけがない。ルミは私のことを何も知らないのに。


 私達は互いに互いのことを話していない。

 何も話してはいない。


 ルミは私のことを、護衛に着くとき知った初期情報以上には知らないし、私もルミのことを詳しく聞いたことはない。


 彼女がどうしてこの歳で私の護衛なんてやってるのかとか。

 彼女はどうして私のことを好きだと言ったのかとか。


 たくさん疑問はあるけれど、わざわざ聞くまでのことでもないような気がするから、何も聞いたことはない。

 それに、聞かなくてもルミは楽しそうに学校生活を送っているようだし、それで良いような気ががする。友達と話している時なんか、とても楽しそうだし。あれが演技だとは思えない。


 私にはそういう欺瞞を見抜く能力はないから、嘘の可能性が消え去ったわけではないけれど。

 でも、なんとかルミとは上手くやれている。多分。

 少しほっとした。最初に私の護衛兼監視役でついた先輩のように、嫌われてしまうことも覚悟していたから。


 それから数カ月経っても、それは変わらなかった。

 互いのことを何も知らないまま、日々は過ぎていく。


 ルミはリナのことを再度聞いてきたりはしなかったけれど、私とルミは大体一緒にいた。監視と言っても、そこまでべったりしなくても良いような気がするのだけれど。


「付き合ってるんですよ、私達。一緒にいるのは当たり前じゃないですか」


 ルミはそんな風に言うから、好きにしてもらうことにした。

 未だにあのよくわからない冗談から始まった関係は続いているらしい。

 だから、 大体一緒にいて、ルミの授業をぼんやりと聞いたり、共に食事を食べたり、時折絵を描いてみたり。そういうことをした。


 最初は入るのを躊躇った部活は、思ったより……なんというか、拍子抜けだった。

 風景画同好会と名がついていたけれど、実際のところ、特に何か活動方針とかがあるわけでもないようで、週に二回か三回ほど、顔を出してメルティとルミが話しているのを眺めているぐらいだった。


 一応、絵も描いた。

 雪景色を。あの頃の景色を。

 あまり上手く描けたとは言いづらいけれど。


「どこかの景色? ここらへんじゃないよね」

「北の町だよ。少し行ったことがあって」


 メルティはよく私の絵を覗いた。

 あまり面白いものだとは思えないけれど、彼女にとってはそうでもないらしい。


「へー、綺麗だけれど……人は? 誰もいないの?」

「……まぁ。うん。あんまり人はいなかったよ」

「そういうことじゃないけれど……まぁいいか」


 わかっている。どうして家も描くのに人は描かないのか。

 本当は人も描いた方が正確なのだろうけれど、あまり描きたいとはおもわなかった。私はあの町でリナ以外の人のことなど認識していないし、リナを描きたいとは思わないから。


「ルミナリスは何を描いてるの?」

「私はこれですよ」 


 ルミは風景画よりはなにか生き物を描く方が好きなようで、魔法生物の絵を描いているらしい。

 それもかわいいものというよりは、すこしおどろおどろしいものを描いているらしい。最近はあまり見せてくれないけれど。


「先輩には秘密なんです」


 そんな風に言っていた。

 メルティには見せているようなのだけれど……


 思えば、最近のルミは少し秘密が多い。

 例えば、時折ルミは夜中に起きていて、何かをしているようだけれど、それに関して何をしているのかはわからない。すぐ帰ってくることもあれば、朝まで帰ってこないこともあるようだけれど。


 まぁ多分、彼女にも1人になりたい時ぐらいあるのだろうし、私以外の人との人間関係もあるはずだから、特に気にしてはいない。ちょっと心配なのは、たまにしんどそうにしていることがあるぐらいだけれど。


 多分、私が気にすることじゃない。

 ルミは所詮、同室の者でしかなくて、友達ではあっても、全てを話す仲でもない。

 そう、私は彼女と友達らしい。


 友達なんて、なっていいのだろうか。そんなことを思ってしまうのだけれど。

 でも、これだけ一緒にいて、たくさん話した人を友達だと言わないのは、それこそおかしなことのような気がするし。 


 そういう意味で友達だというのなら、メルティとも友達ともいえるかもしれない。

 彼女は風景画同好会の部屋に行くたびに会う。どうやら、いつもあそこにいるらしい。授業にも出ていないらしい。私と同じで。


「授業はね……うん。ちょっとしんどくて」


 いつかにそう呟いていた。

 それ以上は知らない。けれど、そのおかげで私のことを疎ましく思ったりはしていないようだった。

 あの教室では、私は腫れ物だろうけれど、この部室でなら話してくれる。それは少し、嬉しい。


 絵のことも多少聞いたりしたけれど、実際のところ私達はそこまで話すわけでもない。もっとぼんやりとしたことばかり話していた。

 大体、あの部屋で3人集まれば、ルミばかり話している気がする。彼女は話すのが好きらしい。それぐらいのことは分かるようになってきた。


 けれど、私はルミのことを何も知らない。

 知りたいとも思うことは、未だにない。

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