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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
6章 閉瞼と瞑目
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第76話 沈酔

 というわけで。

 というより、どういうわけか。

 私は、課外活動紹介なんて行事に来てしまった。ルミと一緒に。


 もうこの学校も7年目になるというのに。まぁ6年目は半分以上行ってなかったけれど。ともかく、私は新入生ではないのに。

 この行事はどう見ても新入生向けだと思うのだけれど……まぁ、ルミは新入生なのだし、その付き添いと思えば、そんなに不自然でもない……かも。


 課外活動紹介というのは、課外活動棟で行われているらしい。

 普段行っている教室のある棟とは別で、結構隅の棟だった。

 そこに着けば、なんだか賑やかな装飾がなされた看板がある。多分、ここが入口なのかな。


 ぼんやりとした予想通り、そこは入り口で係から軽い説明と、小さな冊子を貰う。

 冊子には、今日説明会を開いている部活の教室と名前が書かれている。

 気になった教室に、新入生が脚を運んでみて、説明を聞く形式らしい。まぁそのための勧誘というものは廊下でも行われているようだけれど。


「いろいろありますねー」


 模擬戦部、魔導機械部、盤上遊戯部、生活魔法部、球技部、文芸部、美術部……少し珍しいもので言えば、天罰研究会というものもあった。


 多分現存しているほとんどの部活が参加しているのではないだろうか。でもまぁ、これはいわゆる新入生勧誘も兼ねているのだろうから、当然かもしれない。ある程度人がいないと、部活としての機能しない部活もあるだろうし。


「さて、どこから回りますか?」

「ルミの好きなところからで良いよ」


 正直、どの部活も特に興味は持てない。

 想像通り、どの部活も魔法を使えることは前提なのだろうし。


「ルミはどこに行きたいの?」

「そうですね……」


 てっきり私は、彼女がどこかの部活に興味があるからここに行こうと言ったのだと思っていたけれど。どうやらそういうわけでもないらしい。

 ルミはたっぷり数十秒ほど案内冊子と睨めっこしてから。


「ここに行きましょう!」


 笑顔でそう言った。

 彼女が指したのは、室内球技部。なんだか意外と人気がなさそうな部活に興味があるらしい。

 けれど、私も特に否定する理由はなく、私達は室内球技の教室の前に着いた。


「ももも、もしかして! 入部希望者ですか!」


 着いたとたん、どうやら受付らしい人に捕まってしまった。

 こんな風に声をかけられるのはどうにも慣れていない。けれど、今は隠れられる背中もない。心細い感情を抑えて、私は声を絞り出す。

 

「違いますけれど、見学希望です。どんな感じかなと思って」

「そーですか、そーですか! 是非是非、中を見てください! あ、ほら、4番室とか、もうすぐ試合が始まりますよ!」


 そう言われるままに、私達は教室へと入る。

 教室、といったけれど、そこらの教室よりは大きいつくりになっていて、中には小さめの部屋みたいな場所が6か所ほど設置されていた。多分、あそこが競技をする場所なのだろう。


「4番室は……あそこみたいですね」


 彼女が教室の一角を指さす。

 そこには硝子張りの小さめの部屋に2人の男女が入っていた。

 女の手には球がもたれている。部屋の上部には、大きな画面があって、0が2つある。多分得点を示しているのだろう。


「ちょうど始まるたいですね」

「……もう少し、近づく?」

「いえ、ここで大丈夫です。他のところも見たいですし」


 そういうのなら、まぁいいか。

 私はあんまり興味はないし。


 けたたましい音が鳴り、女が腕を振る。

 同時に球が飛び出し、何度か壁に跳ね返った後に、男が球に向けて何かしらの魔法を放った……と、思う。多分。この距離じゃ、私に魔法の感知は難しい。

 そんなことを何度かして、球が地面に落ちて、2つある0が1と0に変わる。どうやら得点が入ったらしい。


「へー、思ったより本格的なんですね」

「やったことあるの?」

「いえ、やったことはないですが、映像で見たことがあるんです。道具も、ほら、有名なところのやつみたいですよ」


 そう言って、彼女はどこからか拾ってきた球を見せてくれるけれど、あまりわからない。球なんて全部一緒のような気がするけれど……

 うーん。触ってみてもよくわからない。


「よう。君たち、見学かい?」


 そんな風にルミと2人で辺りを見ていると、またしても声をかけられる。どうやらこの部活の人らしい。

 咄嗟に返事もできない私を他所に、ルミが言葉を返す。


「はい。そうなんです。少し興味があって」

「そうか。この部活は人は少ないし、入ってくれると助かるよ。そうだ。体験してみないか? 簡単なものなら、すぐ覚えられるから」

「本当ですか? それなら、少しやってみたいです! 先輩は、どうしますか?」

「え、あ、う、うんっとね……」


 どうやら私がぼおっとしてる間に、見学から体験へと変わったらしい。

 うーん、そうなるといよいよ私にできることはなくなる。本当に、私がついてくる意味があったのかな……

 まぁ、付き添いみたいなものだし、彼女が規則もよくわからない競技を体験してるのを眺めていればいいのかな。それだけで一応、でーと、ということにはなるのだろうか……


「私は……」

「もしかして魔法が苦手なのかな? それでも大丈夫! ほら、こんな魔法しか使わないから。簡単だろう?」


 男は、ひょいと掌で魔法を展開する。

 その顔に敵意などは見えないけれど。


「いや、私は……魔法が使えないから」


 それでも私はこう答えるしかない。 


「使えない? 苦手じゃなくて?」

「おい、ちょっと」

「ん、なんだよ?」


 男は訝し気な目を向ける間に、隣から彼の友人であろう人が声をかける。

 この人は、どこかで見たことがある。どこかで私と同じ学級だった人だろうか。


「あれだよ特待生の」

「あ、あれか。魔法が使えないっていう……なら、どうしてこんなところ来たんだ? ここは運動部だぞ」

「知るかよ。いいから追い返せ。魔法が使えないやつ入れても仕方ないだろ」


 なんだかごにょごにょと話している。

 ……気づかれったぽい。私が魔法使えない人だって。

 そろそろ、私は消えた方がいいだろうか。


「あの、さ。ちょっと私、外出てるね。待ってるから。あ、ゆっくりでいいよ」

「せ、先輩? どうかしたんですか?」

「なんでもない。なんでもないよ」


 努めて明るく言って、私は逃げるように外に出る。


「はぁ……」


 まぁ、予想はしていた。

 知り合いもいる可能性を。

 特に、私は悪い方に有名であるようだし。


 今も奇異の視線を向けられているようで痛い。

 けれど、実際変なのだろう。

 魔法が使えない人が、魔法学校の部活だなんて。籍を置いてること自体も不思議にみられているはずなのに。


 予想はしていたけれど、それなりに恐ろしいものでもある。

 奇異の視線を向けられるたびに、この世界で孤立しているのだと思い知らされるから。前までは、その視線を向けられても、彼女が守ってくれたのだけれど。今はもう、彼女からの想いもない。


 とりあえず、と廊下の隅で座り込む。

 まぁ、ここで待っていればいいだろうと思ったいたのだけれど。


「先輩? どこですか?」


 意外とすぐにルミはでてきた。

 どうやら、もう体験は終わったらしい。あれから数分ぐらいしか経ってない気がするけれど。


「あ、こっちだよ。早かったね」


 立ち上がり、軽く手を振れば、ルミはにこにこな顔で駆け寄ってくる。


「お待たせしました」

「別に、大丈夫だよ。どうだった、体験は」

「……簡単な競技でした。ぼこぼこにしてやりましたよ」

「それはまぁ……良かったね」


 冷静に考えてみれば、ルミは国から遣わされた私の護衛。つまりは、少なくとも魔法使いぐらいの戦闘力はあるのだろうから、こんな学生の部活なんて、お遊びにもならないのかもしれない。


 ふと、遠目で教室の方をみれば、何人か床に伸びてる人がいる。その中には私と同じ学級だったはずの人もいて。なんだか気の毒に見えてくる。


「それにしても、ほんと、失礼な人たちです。先輩のこと、あんなふうに言うなんて」


 ……どんなふうに言ってたんだろう。 

 あまり聞きたくはない。


「帰りたいって言わないんですね」


 ルミがぽつりと呟く。

 多分、疑問を。

 返事が思いつかなくて、聞こえないふりをしてみる。


「先輩、楽しいですか?」


 彼女はまた疑問を呟く。

 今度は私の腕を掴んで。


「まぁ……」


 楽しいと言うべきなのだろうけれど。

 私はその言葉がでなかった。きっと嘘になってしまうから。

 嘘は、つけない。


「そう、ですよね。楽しくないですよね」

「でもまぁ、うん。私は魔法が使えないから」


 魔法が使えないのだから、部活見学などしても何もできないのだから仕方がない。そういう風に言おうとしたのだけれど。


「それだけじゃないですよ。先輩は、避けられてるというか……」

「嫌われてる?」

「まぁ……そうです。あまり良く思われてはいないんですね……そんなの、知りませんでした」


 知っている方が怖い。

 私が集めた奇異の視線と、それよる忌避は私と同じ学年でもなければ、知らないだろうから。


「でも……ミューリ先輩は、こうなるってわかってたんじゃないんですか? 来ても、楽しめないどころか、嫌な思いをするだけだって」

「……まぁ、そうだね。だから、正直、あんまり来たくなかったよ」

「なら……なら、そう言えばいいじゃないですか。どうして無理をしてまで、一緒に来てくれたんですか」


 一応、少しは抵抗したつもりなのだけれど。

 まぁ、はっきり否定の意思を示したわけじゃないか。

 どうしてか。

 どうしてだろう。


「ルミは、楽しい?」

「……さっきまでは楽しかったです。この教室にくるまでは」

「そっか。私は多分……ルミに楽しいって思って欲しくて来たんだと思う」


 多分、それは単純に助けたいというか……いや、ルミの邪魔になりたくないから。今まで、色々な人が私を助けてくれたけれど、誰一人、私は助けられなかった。だからせめて、次の護衛ぐらいは邪魔をしたくない。

 私のことなど気にしてほしくないから。

 無理をしてでも、ついてきたのだと思う。


「でーと、ってのはよくわからないけれど。多分、ルミはここに来たら楽しいと思ったんだよね? なら、まぁ一緒に行っても良いかなって思ったから、ここにいるんだよ」

「……ルミは、別にそんな、こんなことになるなんて知っていたら」


 ルミは今にも消えそうな声を出す。

 私はそんな風に思って欲しいわけじゃないのに。

 どうすればいいのかな。

 リナなら、簡単にわかるのだろうか。

 けれど、私はリナじゃない。

 私にできることは、拙い言葉を必死に絞り出すことだけ。


「ルミ、どうせ私はもう変な目で見られてるし、しょうがないよ。気にしてないわけじゃないけれどね」


 もうどうにもならないこと。

 私の評価というのは。

 けれど。


「でも、ルミは違うでしょ? 折角学校に来たんだから、楽しんで欲しいなって。私なんかの護衛もしないといけないわけだし、それぐらいの報酬があったっていいと思うよ」


 まぁ、そう思ったから、私は彼女とここに来た。

 私はきっと関わった人を不幸にしてしまうのだろうから。だから、こうやって、何かをしないといけない。今まで沢山貰って、奪ってきたものを、せめて誰かに返してあげないといけないと思ったから。


 私はここに来たのだろうし。

 ルミの邪魔もする気はない。したくない。


「……そうですか」

「うん、そうだよ。だから気にしないで」

「なら、気にしません。次は、ここに行きましょう!」


 彼女は笑顔でそう言った。

 多分、全く気にしていないわけじゃないのだろうけれど。

 それでも、少しは彼女の助けになっているのかな。なんて……自惚れをして、私はルミの後を追いかけた。


 こんなことで、贖罪になるとは思えないけれど。

 こんなことで、心中の酷い後悔が消えるとは思わないけれど。


 それでも私は。

 何かをせずにはいられない。

 ただ何かをしていないとあの時の記憶に苛まれるから。

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