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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
6章 閉瞼と瞑目
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第74話 酔狂

「えっと、改めて。ルミナリスです! ルミって呼んでください」


 彼女は、私より一回り下の後輩のようで、年齢は13歳。

 私が16歳だから……3歳は下ということになる。

 体格は私と同じくらい。私は小柄なほうだから、まぁ年齢を考えれば、平均ぐらいといったところなのかな。まだ13歳ならもう少しは成長の余地があるはずだし。茶髪は短め……と言っても耳にかかるくらいだけれど。まぁ、鮮やかな茶髪と言っていい。


 どうしてそんなことを知っているのかと言えば、ルミナリスが懇切丁寧に教えてくれたからというのが、もっともらしい答えになるのだと思う。


「ミューリ先輩は何歳なんですか? ルミは13歳ですよー」

「先輩って身長、ルミと同じくらいじゃないですか? どっちが背が高いのか測ってみましょうよ、ほら、立ってくださいよ。えー、嫌なんですかー?」

「その青髪、綺麗ですね。すごく長いし。私の髪もどうですか? よく綺麗って褒められるんですよ」


 などと、賑やかに言うものだから。

 言いまくるものだから。


 私も必然的に、ルミナリスに関して多少詳しくなってしまった。

 あんまり誰かと関わるのは、やめた方が良いのに。

 まぁでも疑問はそれなりにある。


「ルミナリスはさ」

「む」


 彼女の名を呼ぶと、彼女は不満そうな顔で私を見る。

 何か間違えただろうか。


「ルミですよ、ルミ」

「あ、えっと……」

「折角、愛称で呼ぶことを許したんですから、ルミって読んでくださいよー」


 そこは大事なのだろうか。

 人を愛称で読んだことなどないのだけれど。

 まぁ……いいや。


「じゃあルミは、どうして私の名前を知ってたの?」


 彼女は入ってから、すぐに私の名を呼んだ。

 事前に知っていたのだと思う。けれど、学校からの部屋振り分け通知には部屋番号と同室の者の識別番号は書いていても、名前までは書いていない。


 予想はある。

 けれど、外れた場合の時を考えるとあまり口には出したくない。


「あー、はい。そういえば詳しい紹介がまだでしたね」


 ルミナリスは、こほんと一度咳払いをして、私を見据える。

 その目を見れば、私の予想はほとんど確信に変わる。


「私は魔法師管理機構秘匿任務用戦闘員です。まぁ数日前まで見習いでしたけれどね。ここには任務で来たんです」

「じゃあ……」

「はい。そうです。ルミが先輩の新しい護衛ですよ」


 あぁやっぱり。

 私の同室というのだからそうだと思った。

 この1年の護衛はこの部屋に一度も現れなかったけれど、今度の護衛はそうではないらしい。


「護衛がこんなに可愛い子で良かったですね」

「まぁ、うん。そうだね」

「あー、思ってませんねー! こんなに可愛いのにー」


 ルミナリスは不満を訴えるように頬を膨らませる。

 多分、場を和ませようとしてくれているのだろう。

 私は曖昧に笑うことしかできないけれど。


 実際、彼女は可愛い方なのだと思う。

 私はそういう判断に鋭い方ではないからあまりはっきりとしたことはわからないけれど。


「……まぁ、よろしくね。でもそんなに守ってもらわなくても良いよ」

「あれ、先輩、強いんですか? 資料を見る限りはそんなことはなさそうでしたけれど……」


 怪訝そうな目をする彼女だったけれど、もちろんそんなわけはない。

 私は限りなく弱いままで、何もできない私のまま。


「そういうわけじゃないけれど、まぁいいよ別に。誰かのために命を捨てるなんて馬鹿らしいでしょ?」


 こんなことを私が言うのは、酷い冗談のようなものなのだろうけれど。

 命を捨てて、誰かを蘇生する魔法を使うことが決められている私がこんなことを言うのは。


「そんなこと言わないでくださいよー。それに任せてください。私、結構強いんですよ?」


 まぁ。うん。そこを気にしているわけではないのだけれど。

 それに国属の魔法使いなのだから、強さは担保されている。


「前任者はそんなに弱かったんですか?」

「……ううん。そんなことは、ないよ」


 ルミナリスは多分強いのだろうけれど、きっとリナよりは強くない。リナは本当に強かった。強すぎたのかもしれない。


「前の、というか前の前かな。彼女に関してはどこまで知ってるの?」

「詳しくは知りませんよ。ただ、逃げ出したんですよね。先輩をつれて」

「……知ってるんだ。そのこと」


 当然とばかりに彼女は頷く。

 まぁ考えてみればそれはそうか。

 あれは結構重大な事案だったのだろうし、それが共有されていないはずはない。


「そうですよ。だから、この際言ってしまいますけれど、ルミの役目は護衛だけじゃなくて、お目付け役でもありますから」


 お目付け役。

 監視役みたいなものだろうか。

 多少、煩わしいけれど……まぁ、あれだけのことをしてしまって、この程度の仕打ちで済んだことは幸運と捉えるべきなのだと思う。


 というより、この程度なのかな。

 この程度で許されるのかな。


 正直、私はもっと拘束されるものだと思っていた。

 研究所の時のような、白い壁に囲まれた部屋にでも閉じ込められるものだと思っていたのに。


 そんなに彼女の監視に信頼を置いているのかな。

 それとも、私のことなどもう気にしていないというか……逃げられたところでどうにでもなると思っているのか……


「なので、ルミはいつでも先輩と一緒にいますよ」


 その言葉通り、彼女は次の日から授業が始まっても一緒にいた。一緒にというか、同じの部屋の中にいた。数日が過ぎても同じような感じで、私は授業に出なくてもいいけれど、彼女は出なくていいのかな。

 そう思ったけれど。


「ミューリ先輩を見張、いえ、守らないといけませんから!」


 そう言って、部屋から出ようとはしない。

 というよりも、私がいるから部屋から出ようとしないのだと思う。


 でも、ルミナリスは言わないだけで授業を受けてみたいらしい。

 毎日、授業開始時までには起きているし、『私に授業には行かないんですか』と聞いたのも一度や二度じゃない。


 どうしてそんなに授業を受けてみたいのだろう。

 そんな風にも思ったけれど、多分ルミナリスはどちらかと言えば、学校生活を送ってみたいのかな。


 ルミナリスがどういう人かはまだわからないけれど、彼女はまともに学校生活というものを送ったことがないのだと思う。それなら、多少なりとも学校生活というものに何かしらの期待をしていてもおかしくはない。

 それをこんな私が護衛対象だったからという理由で、何も経験しないというのは可哀想。そんな気がする。というのは多分建前に過ぎなくて。


 というよりも、またしても嫌われてしまうのが怖い。

 誰かから嫌われるのが。


 ルミナリスとは出会ったばかりだけれど、それでも嫌われても構わないなんて思えるほどに私の心は強くない。

 好かれたいかと聞かれれば、また別なのだろうけれど。

 

 だから私は、久しぶりに授業にでた。

 それも14歳向けの授業だから、場違い感はすごい。

 同じ世代の人は誰一人いない。


「どうしてこんなところに来たんですか?」


 ルミナリスにはそう聞かれてしまった。

 復習したいから。なんて言ってしまったけれど、正直私はこの辺りの内容すら理解できない。私がちゃんと復讐するのなら、11歳ぐらいの内容からやり直すべきな気がする。


「私のことはいいから。ルミも適当に授業受けてみたら? 面白いかもしれないし。同じ教室にいれば、見張っていることにはなるでしょ?」

「まぁ……それはそうですが」


 私と彼女は少し離れて座る。

 まぁ、どこでもいいと思ったのもあるけれど、私のような異物が一緒では、彼女も同世代と話しにくいかなと思って。


 突然現れた私達のような異物に周囲は奇異の視線を送る。

 それは当然の話で、もう授業が始まってから1週間程度が経っているし、私に至っては年齢から違うのだから。

 まぁ、それでもルミナリスのように見た目が良くて、愛嬌もあれば、すぐに奇異の視線は、興味の視線に変わり、そして友達への視線に変わっているように見えた。私はずっと教室の隅でぼんやりと景色を見ているだけだったけれど。


 授業が終っても、彼女は幾分が友人らしき人と話していた。

 すぐ終わるのかなと思ったけれど、それは意外と長引いて、私達が帰路に着いたのは、授業が終わってから随分と経ってからだった。

 先に帰えろうかなとも思ったのだけれど、多分そうしたらルミナリスも会話を切り上げてついてきてしまうのだろうし、それは申し訳ない。友達と話すのは、楽しいことなはずから。


「楽しかった?」

「なんですか、楽しかったって。授業にそんなのないですよ」


 そういう割には、ルミナリスは照れたように笑みを浮かべていた。

 まぁ意外と楽しめたらしい。それなら少しばかりは良いことができたような気もする。こんなの……私がリナにしてもらったことに比べれば、何かをしたの内には入らないようなことだけれど。


「あ、そうだ」


 ルミナリスが何か思い出したように足を止める。

 人気のない廊下で、私達は向かい合う。


「どうかしたの?」

「えっとですね」


 彼女はゆっくりと瞬きをして、私に一歩近づく。

 咄嗟に一歩引こうとしたけれど、そこには壁しかなくて。

 ルミナリスの鮮やかな茶髪が目の前をひらりと漂う。


「先輩、私と付き合ってください」


 ほんの一呼吸の内に、彼女は私の手を取り、そう囁いた。

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