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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
5章 双極と境界
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第67話 みあんせりん

 最初の列車には1日ほど乗っていた。

 正確な時間は正直よくわからない。

 人工洞窟、リナは隧道と言っていた、の中はずっと暗いままで、あまり時間間隔が掴めない。


 生憎、部屋の中に時計はなくて。

 リナは時計を持っていたようだったけれど、私はそれを見ようとしなかったし、リナも時間をあまり気にしている様子はなかったから。

 何日ほど電車の中にいたのかはわからない。

 でも、そう長くはないとは思うけれど。


 大きな駅で私達は降りた。

 駅はとても大きくて、多分この辺りの中心地というか、交通の中心なのだかなと思う。その証拠に、駅からはたくさんの路線が伸びている。 


 それを見れば、リナは適当に列車を乗ったわけではなくて、ここを選んできたのだと悟った。ここを経由すれば、経路が大きく分岐する。私の追手も、多少は混乱してくれるかもしれない。

 そういう狙いがあると彼女が言ったわけではないけれど、多分、そういうことなのだと思う。


 次に乗る列車の発車時刻までは数時間ほどの余裕があって。

 私達は駅の近くの宿へと入った。


 宿ではただ休んでいただけだったけれど、周りからは絶えず喧騒が聞こえていて、とても賑わっている街だと感じた。

 まぁ、交通の要所だというのなら、当然なのかもしれないけれど。

 ともかく、大きな街だった。ここに比べれば、先日までいた街も意外に小さかったらしい。私には前の街も十分すぎるほどに大きすぎたのに。


「もっと大きい街もたくさんあるよ」


 リナはそう言っていた。

 多分、そういう場所にも彼女は言ったことがあるのだろう。

 その時には、多分、探索者の仲間が隣にいて。


 私はそこにはいない。

 当然だけれど。


 でも……リナが私以外の人との思い出があると言うのは少し。

 ほんの少しだけれど、心がちくりとした。

 そんな私のことを察したわけではないのだろうけれど。


「今度また、ここも一緒に見て回りたいな。ミューリと一緒に」


 リナは宿で呟いた。

 私も、そうなればいいなと少し思ったけれど。

 何故か、そうなる日を上手く想像はできない。


 そして時間が経ち、次の列車に乗り込む。


「この列車はどこへ行くの?」

「北方かな」


 北。

 さっきまで、南西付近にいたはずだから、そこと比べれば寒い所なのだろう。

 行く道でも雪が積もっていたし。

 けれど、どうしてわざわざ寒いところへと行くのかな。

 見つかった場所から距離をとるためとか……?

 そんな疑問を口にしたわけではなかったけれど。


「色々理由はあるんだけれどね。一番はやっぱり……綺麗な景色が見れるからかな。魔極光って知ってる?」


 私は微かな知識を辿る。

 たしか……魔力が高高度で光る現象だっけ。

 写真か何かでは、七色に光る魔力が移っていたような。


「私もちゃんと見たことはないんだけれどね。北では見られるみたいだから。一緒に見たいなって」


 その言葉に頷く。

 私はリナといられたらそれでいいのだけれど。


 でも、彼女と花火をしている時は、自分でも驚くほどに楽しかった。

 きっと、魔極光を見た時も同じように楽しめる。

 多分、それはリナが一緒にいてくれるから。 


 そこから5度の乗り換えと、いくらかの徒歩(悪路だったので、リナに抱き抱えてもらった)を経て、私達は小さな町についた。

 これまでの旅路で、何個か町を通ることはあったけれど、そこはとびきり小さい。村と言った方が良いかもしれない。


 もしかしたら、大抵の町というのはこれぐらいなのかもしれない。交通の便が良い所を今までは通ってきたのだし。これぐらいが普通というか。


「しばらくここにいようか。そろそろ魔極光の季節だし、せめてそれまではね」


 駅近くの小さな宿で、彼女はそう言った。

 私は思い浮かんだ小さな疑問を零す。


「で、でも。追手は?」


 今も誰かが私を追っているはずで。

 その恐れから、疑問を吐いてしまうのだけれど。

 そんな私の頭をリナがそっと撫でる。

 それだけで、私の中の恐怖は多少薄れていくような気がした。


「えっとね。ここまで来たら、多分そう簡単に見つからないと思うよ。5つ乗り継いできたし、多分過程でも見つかってないはずだし、私達がどこにいるのかわからないと思うから」


 たしかに、これまで色々な路線を乗り継いできた。

 監視装置もたくさんあるはずだけれど、そういうのには映ってないのかな。


 リナはそこまで道を選んでる様子はなかったけれど……そういう見つからない道を見つけるのは、彼女は得意なのかもしれない。そういう技術というのは、探索者であったときに身に付けるものなのかな……あまり必要には思えないけれど。


 どちらかと言えば、私のような誰かに狙われがちな人に必要な技術に思える。私にはそんな技術はないのだけれど。


「それに、これ以上移動したらかえって危ないかなって」


 そう、なのかな。

 私にはわからない。

 あまり詳しくはないけれど、移動し続けていた方が補足されにくいのかと思っていた。

 

「もう冬だから。この辺の雪は怖いからね。まぁ今なら多少は大丈夫だろうけれど……道なりでそうなんでもしたら、危ないからね。どこかで待った方がいいかなって」

「そういうこと……」


 言われてみればそうかもしれない。

 北にくるにつれて、雪の頻度は増えて、その強さも酷いものになっていた。寒さもすごい。

 こんな状態で遭難でもしたら、リナはともかく私は生きていける気がしない。


 この辺りも最北端というわけじゃないけれど、寒さという点においてはあまり生身で外に出ていけるほどじゃない。現代の防寒着がなければ、どうなってたか。

 実際今も、この部屋の温度管理は現代魔導の恩恵にあやかっているのだし。


「あとはね。この辺りにはちょっと詳しいんだ」

「そうなんだ……来たことがあるの?」

「昔ね。遠征で」


 昔。

 多分それは未開域探索者をやっていた頃の話なのだろう。

 明言はしなかったけれど、それぐらいは察した。


 言われてみれば、この辺りは結構未開拓領域に近い。

 多分、その辺りの関係でこの町に来たのかな。


「だから、うん。任せて。きっと大丈夫だから」


 リナはそう言って、私を見つめる。

 別に私は心配はそこまでしていないというか……リナのすることに不安を感じはしないけれど。


「任せるよ。ごめんね、頼りっきりで」


 何もかもリナ任せになってしまうのは、申し訳ない。一緒にいられることは素晴らしいけれど、やっぱりつり合いは取れていない。


「全然。えっと、今日はもう、寝よっか」

「うん、おやすみ」


 つり合いが取れていないことを気にするのなら、私は彼女にもう少し何かを返さなくてはいけないのかもしれないけれど……でも、それ以上に、リナと離れてしまうのは怖い。

 私が追手に捕まりたくないのも、そういう理由が大きい。

 捕まれば、彼女と一緒にいることはできないのだろうから。


 前に追手が来た時も、カミラとポニリリアの助けがあったとはいえ、なんとか逃げられたし……意外と大丈夫なのかもしれないけれど。怖いものは怖い。

 リナが失われてほしくない。

 そんな想いが日に日に強くなっているのを感じる。


 共に旅をしているだけで。

 共に過ごしているだけで。

 ただ一緒にいるだけで。

 本当に、大切な人がそこにいるのだと思う。


 リナは私と出会ったのを幸運だと言ってくれたけれど。

 多分、私のほうが幸運だったのだと思う。


 だって、きっと私は最初に出会ったのがリナじゃなかったら、こうはなっていないのだから。

 やっぱり私にとってはリナでなくてはいけなかった。そんな気がする。

 彼女でないと、いけない。


 そんな想いは強い。

 リナに私は何かできないのかな。

 もっと助けてあげられたらいいのに。

 

 それが何もないことが本当に悲しい。

 リナは一緒にいるだけで嬉しいって言ってくれるけれど……


 私にできることはいくら探したって1つしかない。

 蘇生魔法を使う。

 それしかない。


 でもそれは。

 それをしても、リナはあまり喜んではくれない。


 でも、本当にリナにだけは、死んでほしくない。

 彼女を失いたくない。

 ずっと私を好きでいて欲しい。


「リナ……死なないで……」


 だから、思わずそう呟いでしまう。

 彼女は嬉しそうに笑って。


「大丈夫だよ。もっとミューリと一緒にいたいもん」


 そう言ってくれるけれど。

 でも、私にはなんとなくわかる。

 もしも私を守るためなら、リナは無茶をするだろうことぐらい。


 だから、私の中の不安は消えないのだと思う。

 こうしてリナに抱きしめられていれば、不安は薄れても。

 完全に消えることはないのだと。

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