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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
4章 刹那と在処
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第48話 灯る

 曇りがかった星空の下をリナと歩く。

 雲の隙間からさす一筋の光が強く見える。

 その光が彼女を照らす。

 その光景はどこまでも綺麗で。

 

「ん?」


 不思議そうに私を見つめる彼女の瞳が私しか捉えていないことが嬉しい。

 リナの好意が私にしか向いていないことが嬉しい。

 その好意を信じられることが嬉しい。


 彼女を見ていると嬉しいことばかり。

 彼女がいないと嬉しいことなど何もない。


 それに不思議と安らぐ。

 リナがこうして私を見てくれているだけで。

 それはきっと彼女の肯定が、揺らぐ私を支えてくれる。

 彼女の言葉が私の心を助けてくれる。

 彼女の存在が私を許してくれる。 


 だから私にはリナが必要で。

 そんな風に彼女を求めるこの感情に名前を付けるのなら。


「好き」


 そう呟く。

 ただ言いたくて。

 リナにそう伝えたくて。


 その言葉を口にする。

 そう素直に言えることも嬉しい。

 それもリナのおかげなのだと思う。


「私も、好きだよ」


 ちょっと照れたように頬を染めて。

 けれども、星明りの下で確かに私だけを見つめて。

 彼女は私と同じ言葉を紡ぐ。

 同じ言葉でも、きっと同じ感情ではないのだろうけれど。


 でも、彼女が生きていくには私が必要で。

 私が生きていくには彼女が必要で。

 それはきっと同じなのだと思う。


 正直、能力だけでいえばリナは1人でも生きていけると思うのだけれど、でも彼女は私の前で首を切った

 リナの綺麗な首筋が目に入るたびに、あの時の情景が瞼の裏に浮かぶ。


 鮮やかな赤色が宙を舞い、魔力を内包した液体が床に広がる。

 彼女の命が溢れて消えていく。

 あの恐ろしい情景を。


 そしてその情景を生み出したのは、きっと私なのだと思う。驕りでなければだけれど。

 私が離れようとしたから、あんなことになってしまった。

 私がそれだけの影響力をリナに与えてることは嬉しいけれど、あんなことは2度とない方がいい。

 

 だからリナには私が必要なのだと思う。

 そして私を許してくれるのはリナだけで。


 私は彼女と繋いでいる手にほんの少し力を込める。

 呼応するように彼女も、私の手を強く握る。

 そして私達は見つめ合い、ちょっとはにかむように笑う。

  

 彼女の体温が近い。

 手のひらが触れ合って、指が絡め合っているからだろうからだろうか。

 多分、それだけではなくて。


 なんとなく、私は彼女の心を感じる。

 それは多分、リナが私に想いをくれているからなのだろう。

 リナの強い想いが私の寒さを取り払う。

 彼女の想いをここまでも感じ取れるのなら。

 この熱がずっと側にあるのなら。

 これが永遠になれば良い。

 永遠にこのまま、星明りの下、廃墟の道をリナと2人きりで歩き続けられたら、どれだけ素晴らしいだろう。


 なんて。

 思ってしまう。

 それほどまでに私は今が好きなのだと思う。


 リナと思いが通じ合っていると確信できるこの気持ちを。

 ずっと忘れないでいたい。

 永遠に彼女とこうしていたい。


 けれどまぁ、永遠というものはなくて。

 というよりも目的地があるからこそ、私達は歩いているのだから。


「あ」


 ふと、リナが呟く。

 私は夜景から目を外して、彼女が指さした方を見る。


 細長く伸びた指の先にはたくさんの明かりがあった。

 あれは街だろうか。

 この街のように廃墟じゃなくて、れっきとした街。


「あそこから来たんだよ。昔の知り合いがいてね。その人に助けてもらって」


 その言葉に少し嫉妬する。

 私にはリナを助けることはできないから。


 結局のところ、リナにはたくさん助けてくれる人がいるのが、私にはたまらなく苦しい。でも、それが彼女の強さの証なのだから、何も言えないし、私には何も言う資格はない。

 それに、彼女は私を選んでくれたのだから、別に文句などない。


 彼女の想いは私に向いているのだから。

 それぐらいのことは信じられるようになってきたし、同時に私の中の想いも信じてあげられるようになってきた。


 多分、ようやくといった感じで、私がもっとちゃんとした人だったならここまで拗れることはなかったのだろうけれど。

 まぁ、でもリナが私を好きだって言ってくれるのなら、なんだかそれで良いような気もする。


「その友達が宿をやってるから。とりあえずそこに泊まらせてもらおっか」


 その提案にただ頷く。

 私には代案もないし、別にどこに行ったって良い。


 もちろん学園からの追手は怖いけれど、でもきっと見つかっても後悔はしない。

 リナとなるべく長く一緒にいれる方が大切なんだから。


 そんな簡単なことに全然気づいていなかった。

 彼女が生きてくれれば、生きて私を想ってくれるだけで良い。


 明かりが近づいてきて、次第に周囲の廃墟は街へと様相を変える。

 もう夜だというのに、街というものは大きな明かりと喧騒を伴っていて、随分とおかしな場所だと思った。


 研究所にいる前は、私も普通に街で暮らしていたはずだけれど。

 あまり記憶はない。

 まだ子供だったからだろうか。


 本格的に街の中に入れば、そこには多量の人がいた。

 色々な年代の、色々な風体の人がいて。

 大通りには車が飛び交い、風が私の身体を揺らす。

 本当に未知の世界に来たみたいだった。


「危ないから、私から離れないでね」


 リナは私の手を強く握る。

 それにただ頷き、連れられるまま街の中を縫うように歩いていく。

 正直、圧倒されていた。


 街自体の明るさというか、人の量というか、物の量というか。

 情報量のせいかもしれない。

 そういったものに圧倒されていた。


 うるさくて、まぶしくて……

 別に閑散としている様子を想像していたわけではないけれど、ここまでだとは思わなかった。

 私には刺激が強すぎたのかもしれない。

 なんだかただ歩いてるだけで疲弊してきて。

 

「り、リナ……ちょっと、まって……」


 私が掠れた声を吐けば。

 リナの足が止まり、俯いた私の顔を覗き込む。


「ミューリ? 大丈夫?」

「う、うん……ちょっと、疲れた、だけ……」


 彼女に私の回答に、ほっとしたように息を吐く。


「ちょっと、休憩しよっか」


 私のせいで足を止めるのは悪いと思ったけれど、それを断る元気もなく、彼女に連れられて、脇道へと入る


 大通りから一度外れてしまえば、そこは街の喧騒からは遠い場所だった。

 星明りだけとは言わないけれど、明かりは少なく、薄暗い。

 人通りも多少はあれど、大通りに比べれば、断然少ない。


「ここ、座ろう?」


 言われるがままに、私は小さな腰掛けに座り込む。

 座ってみれば、思ったよりも疲れていたのか、深く息を吐く。


「ごめんね。ちょっとしんどかったよね」

「ううん。ちょっと……人が多かっただけ……も、もう大丈夫」


 そうは言ったものの、元の道に戻る元気はなくて。

 リナもそれを見抜いているのか、私の隣へと腰掛ける。


「街にくるのは初めてだっけ?」

「……子供の頃は、街に住んでたけれど。でも、もう覚えてないから」


 私が親に捨てられたのは5歳の時。

 もう10年も前。

 何も覚えてない……と言えば嘘になるけれど、ほとんど覚えていない。


「そっか。なら、ちょっとこの人混みはしんどいよね」


 私は俯いて、彼女は空を見て。

 でも、手を繋いで。

 身を寄せ合う。


「多分、裏道からでもいけるから。こっちから行こうか」

「うん」


 その言葉に頷いて、私は立ち上がる。

 そのままリナに手を引かれて、宿についてみれば、そこには小さくとも綺麗な宿があった。

 綺麗といっても、ところどころから歴史を感じる。改装でもしたのだろうか。


「お邪魔しまーす……」


 リナはゆっくりと扉を開ける。

 もう夜で、この辺りは静かだからだろう。

 みんなが寝ているのなら、あまり大きな声は出せない。

 

「リナさん! 帰ってきたんですね!」


 けれど、中は明かりがついていて。

 大きな声と共に誰かが駆け寄る音がする。

 私はリナが開けてくれた扉を抜け、中へと入る。


「カミラ、起きてたんだね」


 そこには橙色の髪をした女がいた。

 彼女はリナへと駆け寄り、高い声をあげる。その声は私でもわかるほどに歓喜に満ちていた。


「心配しましたよ! 丸一日以上帰ってこないから。いや、リナさんに限って、心配はいらないとは思ってたんですけれど……」


 けれど、その言葉は隣にいる私に気づけば、声は小さくなっていく。

 

「えっと……この人は?」


 その目は怪訝そうに私を捉えるものだから、私はなんだか気まずくて、半分ほどリナの背に隠れる。


「あ、人を探してるって言ったでしょ? それが彼女」

「みゅ。ミューリです……」


 一応、陰から挨拶をするけれど、カミラと呼ばれた彼女は相も変わらず怪訝そうに私を見ていた。


「この人ですか……えっと」

「ちょっと疲れてるから、部屋に行っても良いかな? また明日、詳しく話すよ」


 カミラはまだ何か言いたげだったけれど、リナは私を気遣ってか、私の手を取り、宿の奥へと歩き出す。私はそれに流されるままについていったけれど。

 カミラの強い視線が私を、いやリナを捉えていたのを、ずっと感じていた。

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