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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
3章 夢想と逃避
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第30話 夢の中で鳥が囀る

 第一国立魔法使い養成学校。

 それが私達の通う学校の名前である。


 最高峰の魔法教育を受けることができ、卒業後は国のお膝元で研究者、魔法使い、技術者、そういったものになる人も多いらしい。特に魔法使いになりたいなら、この学校に通うのが1番近道だと言われている。


 実際、魔法使いになることを夢見てこの学校の入学志願者は大勢いるらしい。

 まぁ厳しい入学試験を突破したところで、その先で魔法使いとしての才能が花開くかはまた別の話なのだけれど。


 けれど、魔法使いになれずとも、魔法的な知識や能力というのは現代魔法社会においてはどこでも必要とされるものだし、優秀な人を排出するという点においてはこの学校は良い学校なのだろう。


 それを実現するためになのかどうかは知らないけれど、この学校の全校生徒は寮に入ることが義務付けられる。

 そのため学校内だけで、生活に必要な物はすべて手に入る。

 研究設備や訓練設備も充実しているし、必要な物があれば外から取り寄せることもできる。


 逆に言えば生徒は外に出ることはない。その必要はないし、その許しもない。私達は基本的に学校という環境に閉じ込められている。


 もちろん長期休暇になれば家に帰る人もそれなりにはいるし、生徒のほとんどは申請が通りさえすれば外に出ることはできるのだけれど。


 でも、許可なく外には出られない。


 まず学校の内と外を繋ぐ門はふたつあるけれど、表門も裏門も普段は厳重に閉じられている。

 門を越えたとしても、物陰もほとんどない平原を監視用魔導機械が巡回をしているし、許可なく歩けば警告と攻性魔法が飛来するだろう。


 それは学校を守るために設置されたという名目らしいけれど、牢獄としての役目を強化するという見方の方がそれらしい気がする。特に私にとっては。


 正規の手段で外の出るのなら、外出申請を行うか長期休暇の始まりと終わりに何本か動いている魔導列車に乗るしかない。


 しかないとは言っても、大抵の生徒の申請は何の問題もなく通るだろうし、大体この学校に通いたくて通っている人がほとんどなのだから、そこまで積極的に外に出ようという人も少ないだろう。


 けれど、これが私のこととなると話が違う。

 蘇生魔法が使える私がここにいるのは、私を閉じ込めるためだ。


 蘇生魔法の流出は避けたい。

 けれど、蘇生魔法という可能性も失いたくない。

 その二つを解決するのが、学校での幽閉なのだろう。

 多分、学校という選択肢も満足のいくものではないのだろうけれど。


 だから、私が外出申請をしても絶対に通らない。

 どんな理由があったとしても。

 長期休暇時の魔導列車にも、乗ることはできない。

 まずこの学校の門からでることすらできないだろう。


 もしも一歩でも出てしまえば、力づくにでも戻されるだろう。

 その時に殺されてしまう可能性だってある。

 国の最低条件は蘇生魔法が流出しないことなのだろうから。


 だから私は外には出れない。

 もしもこの学校からでることがあるのなら、蘇生魔法を使えと命令される時だろう。もちろん私はリナ以外の人に蘇生魔法など使いたくはないけれど。

 でも、強制的に使わせる方法などいくらでもある。それこそリナを人質にされれば、私は魔法を使ってしまうかもしれない。


 だからもう二度と外の景色を見ることはないのだと思っていた。

 なのに。


「学校を出よう」


 リナはそう言った。

 それがどれほど困難なのかわからないわけじゃないはずなのに。


 私はその意図が掴めず、返事を詰まらせる。

 何故そんなことを言うのだろう。


「ミューリは学校にいたい?」


 黙りこくる私に彼女が優しく問う。


「い、いや、そういうわけじゃないけれど……でも、学校から出るなんて無理だし……」

「そんなことないよ。それに……」


 リナは軽く目を閉じる。

 その姿はとても美しくて、私は少しばかり見惚れてしまう。


「それに、ここにいたらミューリが危ないから」

「……ぇ、わ、私?」


 だから、彼女の言葉に反応するのも少し遅れた。

 てっきり私は、リナがどこかへ行きたいのかと思っていた。

 なのに、急に私の話が始まったから、ただ疑問をこぼすしかできない。


「うん。この学校にいたら、色々な人に狙われるみたいだから。それならいっそのことこの学校からでたほうがいいかなって」


 たしかにこれまで私の命を狙ったアオイも、ヘンリー先生もどちらも学校内部の人だ。私の警戒心が薄いこともあるのだろうけれど、学校内部に入り込まれれば、この学校の防衛機構はとても脆い。


「ほんとは私が全部守れたら良かったけれど……ごめんね。私が弱いから」

「い、いや……リナがいなかったら、私もう死んじゃってるし……」


 でも、たしかにそうなのだ。

 リナが来てからの数カ月で、既に2回も私は襲撃されている。

 去年までの5年間では、こんなこと一度もなかったのに。

 この学校がこんなに危ないとは思わなかった。


「それにね……」


 リナが言葉を区切る。

 何かを言うか悩んでいるように、またゆっくりと瞬く。

 そして、目を開く。


「この学校にいたままじゃ……どちらにせよミューリはいつか死んでしまう。そう、でしょ?」


 ぎくりとした。

 リナは既に気づいているのだろう。

 この学校は私を閉じ込める鳥籠の役割を果たしていることに。


 どれだけリナが私を守ってくれようとも、時が来れば私は蘇生魔法を使うことを強制されるのだから、私の未来に待つのは死であることは最初から変わっていない。

 彼女と共にいれば、そんなことも忘れられたけれど、忘れたところで、現実はいつだって無情にもそこにあるのだから。


 私はそれをリナに言いたくはなかった。

 だってそれは夢から覚める行為だから。

 そんなのは嫌だ。ずっと夢を見ていたい。

 けれど、リナは私の隠した現実を暴く。


「ミューリがここにいるのは蘇生魔法を使わせるため……でもあるんだよね?」

「……うん。多分だけれど」


 彼女の不安そうだけれど、確かな意思のこもった視線に嘘をつくことはできず、正直に白状する。

 それにあまり彼女に嘘をつきたくはなかった。

 

「だよね。やっぱり。なら、うん。早く外に出ないと」

「で、でも、そんなことしたら……多分すごい追われるっていうか……すぐ捕まっちゃうよ。最悪、リナが、その」


 言葉に詰まる。

 息を呑み、もう一度口を開く。

 

「リナが、死んじゃうことだって……」


 それは最悪の想像だ。

 そんな世界になれば、私は息をすることすらできないのだから。


「そうなる、かもね。でも、ここにいたらミューリが死んじゃうから。来た時からずっと考えてたんだ。ミューリが魔法を使わなくても良いようにする方法」


 リナは穏やかなれど、強固な意志を持って語る。

 でも、それは自らの安全を放棄した選択としか思えない。


 私が殺されるのならともかく、私がいなくなれば多くの人が私を追うだろう。

 蘇生魔法の情報が失われるならともかく、他の組織が手に入れることなどあってはならないと考えるだろうから。


 その時にはきっと手段などは選ばれない。

 あらゆる方策を用いて、私を取り返そうとするだろう。

 いや、私もろとも殺しに来る可能性のほうが高いか。


「もちろん簡単なことじゃないよ。きっと時間もかかるし、危険もあると思う。でも、一旦逃げよう? 私、ミューリに死んでほしくない」


 リナは心配そうに私を見つめる。

 彼女の心配は最もなことではある。

 どちらにせよ、ここにいたら私は死んでしまう。

 それは確実なことなのだけれど。


「でも……だからって……」


 リナを危険に晒していいのだろうか。

 私のせいで彼女が危ない目にあうのはやめてほしい。


 それに歯切れが悪くなる理由はもうひとつある。

 これはリナには言えないことだけれど、まだ少しだけ蘇生魔法を使いたいと思う私もいる。

 私の命をリナに捧げられたら、どれだけ幸せだろう。

 そんな想いがいつだって隣にあるから。


 だから、わからない。

 どうすればいいのか。


「まぁ、もう今日は遅いし。また今度、話すよ」


 言葉を詰まらせ続ける私に見かねたように、リナは会話の終了を宣言した。

 正直、助かったと思った。

 今の私には彼女の提案に対して明確な答えを出せそうになかったから。


「……うん。おやすみ」

「おやすみ、ミューリ」


 だって私は現実を見られない。

 リナがもたらした夢にまだ溺れているのだから。

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