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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
2章 傲慢と回顧
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第25話 炎は火種へ

 強大な魔法がぶつかり合い、小さな部屋をぐちゃぐちゃにしてゆく。


 衝撃の余波でたなびく髪を抑えながら、目で負えないほどの魔法の応酬を眺める。


 正直、私は驚いた。

 エレラがここまで魔法が使えるなんて。

 私にはよく見えないけれど、リナと互角に戦っているようで、勝負は長引き、なかなか決着がつかない。


 それだけの魔法技術があるようには見えなかった。

 ずっと隠していたのだろうか。

 

 けれど、リナは何も言わなかった。

 探索者時代と魔法技術明らかに差があれば、何かいう気もする。


 リナもこれだけの魔法技術があることは想定していなかったということかもしれない。元々の魔法技術はここまで高くなかったのなら、リナが何も言わなくてもおかしくはない。


 それなら、この魔法技術は復讐のために手に入れたものなのだろうか。

 もしもそうなら、リナが負けてしまうかもしれない。


 私は少し不安になる。

 このままリナがやられてしまえばどうしよう。

 エレラの復讐が果たされれば、私はまた独りになってしまう。


 それは嫌だ。

 でも、私にできることはない。

 助けることも、力になることもできない。

 

 ただ、見守ることしかできない。

 本当はリナを助けることができればいいのだけれど。

 でも、それが不可能なことを私は知っている。


 でも、本当にリナは復讐をしたいのだろうか。

 いや、復讐と言っても私から見れば逆恨みに近いのだけれど。


 でも、リナを傷つけたいだけなのなら、エレラの行動には違和感が残る。

 上手く言えないけれど、もっとうまくやる方法がある気がする。


「はぁ……はぁ……ぅ。やっぱり……そう上手くはいかないわね……」

「……っもう、いいよね? 話は後で聞くから」


 私が考えごとをしている間に、彼女達の戦いの決着はついていた。

 端的に言えば、リナが立っていて、エレラは倒れていた。


 互角なのかと思っていた戦いだったけれど、リナは息を切らしてはいても、ほとんど傷はない。

 対するエレラはぼろぼろになっている。回復魔法をかけさえすれば、すぐに治るのだろうけれど、エレラにはその魔力すらもうないのだろうか。


「後……? 後なんて、ないわ。これで、終わりよ……私が、どれだけ無理をしたと思ってるのかしら……」


 エレラは息をするのも辛そうにしながら語る。


「え、エレラ……」


 私はそんな彼女に声を掛けずにはいられない。そうしないと、エレラが消えていく気がしたから。

 アオイの時と同じ。あの時は、私のせいでアオイは死を選んでしまったけれど。

 それでもまた私は性懲りも無く声を出す。


「エレラは、何が……何をしたかったの?」

「何って……言ってるでしょ? リナへの復讐よ」


 私は首を横に振る。

 それは違う。

 少なくともそれだけじゃない。


「ミューリ、もう少し下がって。危ないよ」


 リナが心配するように、私の腕を掴む。

 けれど、私はその手をそっと払う。

 

「大丈夫。多分、エレラは、私に何かするつもりなんかない……そうでしょ?」


 エレラは私の言葉に小さく笑う。

 否定はしない。

 

「そ、そうなの?」

「そうだと思うよ。私をどうにかするつもりならいくらでも機会はあったし。リナと戦うにしたって、もっと色々できたはずだから」


 それこそ私を人質にとるとかすれば、それでリナに勝てるのかはわからないけれど、もっと勝負の結果は変わっていたかもしれない。

 少なくとも、私を殺して、リナを傷つけることはできる。


 けれどエレラはそうしなかった。

 私の方に魔法は飛んできていないし、それにふたりきりでいた時も結局のところ危害は加えられていない。


「なら、なんで……」


 リナが呟く。

 それは私もわからない。

 彼女のしたかったことが復讐じゃないにしても、けれど何をしたかったのか。私にはわからない。


「……そうね。なんでかしら。私もわからないわ……」


 エレラは小さく言葉をこぼす。

 それははぐらかしているのではなくて、本当に何故かわからないような様子で。


「最初は……憎かったわ。1人で白棘刃を倒せるのに、どうしてカーナ姉様を助けなかったのって……だから、復讐してやろうって……」


 リナの身体が強張る。

 やっぱり過去は怖いものだということに変わりはないらしい。

 私はリナに安心してほしくて、手を握る。


「でも、ここであなたたちを見てると……なんだか、そんな気も失せたわ」


 エレラは辛そうにしながらも何故か笑う。

 心底、おかしそうに。


「だって、とても理想なんですもの。私が姉様と成りたかった理想の関係……2人で助けあって生きているのを見たら、それを壊すなんて……私にはできないわ……」


 私はその言葉を直接受け止めきれず、俯く。

 別に私達は支え合っているわけじゃない。

 私が支えてもらっているだけのもっと一方的な関係なのに。


「特にミューリ……あなたを傷つけたくはなかった」

「わ、私?」

「そうよ。私と話してくれたでしょう? 嬉しかったわ。今まで、私の周りは姉様の友達ばかりで、私の友達なんていなかったから……あなたは初めての私の友達よ」


 私はそれになんと返せばいいのかわからない。

 最初の会話はエレラへの警戒からくるものだった。

 でも、友達というのも確かな事実ではある。


「友達を傷つけたくは、ないでしょう?」

「そう……だね」


 私も友達が傷ついているところなんてできるだけ見たくない。

 特に死んでしまうとかは辞めて欲しい。そんなところはもう二度と。


「なら、なんでこんなこと……」


 リナが呟く。

 けれど、彼女の言葉はエレラには届かない。


「無理よ。私は悪魔と取引したんですもの。今更、止められないわ」

「……違法の魔力増強剤を使ったんだね」


 リナの推測に、エレラは頷く。

 私は息を呑む。

 それは一時的に魔力演算領域や使用可能魔力を増やす最も有名な薬物の1つ。


 ただの増強剤なら多少調子が良くなる程度だろう。

 けれど、違法なものになれば、身の丈に見合わない魔法だって使えるようになる。

 それだけなら増強剤が違法になることはない。

 それが違法なのは、代償が大きいから。


 身の丈に合わない魔力は身体を壊す。

 寿命を縮め、肉体の魔力接続度を低下させる。

 どれぐらいの魔力増強剤かにもよるけれど、軽いものでも手足の麻痺、最後には息をすることすらできなくなると聞いたことがある。


「それだけじゃ、ないわ。協力者がいたのよ」

「協力者?」

「えぇ、この学校の先生よ」


 それでぴんとくる。

 リナをあの時に呼び出したのは、その先生なのだろうと。


「それって……」


 リナも気付いたようで、考え込むように頬をさする。

 でも、どうしてだろう。

 その先生は、どうしてエレラの復讐を手伝ったのだろう。

 その先生もリナに恨みがあったのだろうか。


「けれど、私は失敗したわ。もう、捨てられるでしょうね」


 それが文字通りの意味ではなくて、殺されるという意味であると察する。

 なんとなくそんな気がした。


「そんな……逃げたりは、できないの?」

「無理よ。それよりもあなた達が逃げるべきね。もうすぐ来るわよ」


 その言葉にリナは少し黙り込み。


「そうなんだ……なら、うん。逃げるよ」


 リナの言葉にぎょっとする。


「え、エレラは? 置いていくの?」

「……おいていく。もちろん後で助けに来るけれど、今はミューリの安全が最優先だから」


 リナは私の目を見てそう言った。

 その真剣な眼差しに少し怯みそうになるけれど。


「助けになんてこなくていいわよ。当然の報いだもの。それよりも早く行きなさい」

「そんなの……」


 私は納得できない。 

 私だけそんな……

 でも、それは言葉にならない。

 それよりも早く。


「もう遅いです」


 低い声が聞こえた。


「ミューリ!」


 そして私の視界が揺れる。

 衝撃と共に、遅れながら身体が宙を舞っていたことを知る。


「いた……ぇ」


 痛みをこらえながら、片目を開けるとそこには。

 血まみれの自分の身体がそこにはあった。

 腕は曲がってはいけない方向に。

 足は潰れ、腹はえぐれている。


 強烈な痛みと熱が全身を駆け巡る。

 言葉にできない音が聞こえて。

 一瞬遅れて、それが自らの悲鳴だと気づく。


「頭を狙ったのですが。外してしまいました。あなたのせいですよ、エレラさん。魔法でミューリさんの身体を動かしましたね」


 知らない男の声が聞こえるけれど、それに反応している余裕は私にはなかった。

 ただ自らの中にある痛みから逃れようとするけれど、それをする手段はない。ただ音を吐き出すだけ。


「私の邪魔をしないでください。あなたも殺しますよ」

「……ミューリには手を出さないって約束したはずですけれど」

「ミューリ!」


 たくさんの音が聞こえる。

 けれど、それが何かはわからない。

 あつい。

 けれど、さむい。


 この感覚は2度目だなと心のどこかで思う。

 2度目? 1度目はいつに……


 そこが限界だった。

 私の思考は痛みと熱に侵され。

 意識はそこで閉じる。

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