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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
2章 傲慢と回顧
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第24話 炎に近づく

「ここよ」


 エレラに連れられ着いた場所は古い棟の一室だった。

 埃っぽくて、人気がない。おそらくもう使われてはいないのだと思う。


 のこのことついてきてしまったけれど、今更不安が立ち昇ってきた。

 今のところ、エレラから敵意を感じたりはしないけれど。

 それがただの勘違いで今から殺されてしまう可能性もあるわけで。そう思うと心が細くなる。


「適当に過ごしてくれれば良いわ。一通りものは揃っていると思うけれど」

「まぁ……」


 随分前は普通に部屋として使われていたようで、最低限はあるみたいだけれど。

 なんだか独房みたい。

 いや、監禁されるのだから独房と言った方が適切なのかもしれないけれど。


「端末は預かっておくわ。それと何か欲しいものがあったら、言ってくれれば用意するから。用意できるものはだけれど」

「そんなの急に言われても……」


 あまり思いつきはしない。多分色々考えれば、必要なものは多いのだろうけれど、それ以上に困惑のほうが大きくて。


 エレラは部屋の鍵を閉める。

 そして恐らく前の住人が使っていたであろう古びた椅子に腰かける。


「エレラもいるんだ」

「そうでないと逃げ出してしまうでしょう?」


 それはそうだけれど。

 私もどこかに座ろうかと、部屋の奥の硬くなってしまっている布団に腰かける。


 沈黙が続く。

 もう少し説明みたいなものがあるのかなと期待したけれど、そういうことはないらしい。


「あの、聞いても良いのかな。どうしてこんなこと?」

「さぁね。どうしてかしら」


 私は意を決して聞いてみるけれど、エレラはこちらを見ずには誤魔化す。

 けれど、何か目的があるはずだ。いや、ないとおかしい。そうじゃないと、こんなことはしないはずだから。


「まぁ、そんなに長くするつもりはないわ。すぐにおわるはずよ」


 エレラは何かを待っているように見えた。

 私を監禁することで、何かが起こるというのだろうか。

 それとも私を監禁している間に何が起こるのか。


 気になるけれど、それを聞いていいのだろうか。

 しかし、いつになれば帰れるというのだろう。


 それほど長くはならないと彼女は言った。

 彼女もここに居座るというのなら、実際それほど長くはならないのだろう。

 長くて1日か、それぐらい。

 それ以上だと、かなりつらい。


 正直、早くリナのところへ帰りたい。

 独りで行動したのは間違いだった。

 けれど、こんなことになってしまうなんて想像もしなかったし、どうしようもないことだったかもしれない。


「無言で待つのもあれよね。少し、お話でもしましょうか」


 待つ。

 やはり、何かを待っている。

 何を待っているのだろう。

 考えてもわからない。


「そうね。とある女の子のお話よ」


 私の疑問をよそにエレラは何かを話し始める。


「昔々、あるところに女の子がいたわ。その子に親はいなかったわ。物心ついたときには孤児院にいたのよ。けれど、辛くはなかったわ。女の子には、強い味方がいたの。双子の姉よ」


 その時点で私は薄っすらと察する。

 これはエレラの話なのだろうと。


「孤児院はあまり良い所ではなかったけれど、その子は不満なんてなかったわ。姉さえいれば、大丈夫……なんて、そんな風に思っていたのね」


 その過去はとても幸せなものなのだろう。

 それはエレラの横顔からもわかる。

 けれど同時に、その顔に影も見えてしまう。


「ある日、姉は孤児院を出ていくと言ったわ。仲間と共にね。女の子はもちろんついていったわ。それが正解だと信じていたもの。姉はその子を邪険にはしなかったけれど、仲間にはしなかったわ。きっとその子が頼りなかったのね。それだけ姉の選んだ仕事が危ないものであったというのもあるのだけれど」


 きっとそれは未開域探索のことで、仲間がリナのことなのだろう。そこまではリナから聞いた話を踏まえれば、なんとなくわかる

 でも多分、共に連れて行ってもらえなかったのは頼りないからではなくて、心配していたからだと思うのは、勝手な想像がすぎるだろうか。

 

「子供だけで生活するのだから、危険なことでもしないといけないのは当然かもしれないわね。多分、姉1人であればそこまで大したことはしなくてよかったのよ。でも、姉はその子の分も負担があった。だから、少しずつもっと危険な仕事に手を出していった。姉は、優秀だったから多少危険な仕事でもこなせたわ。けれど、ある時、帰ってこなくなった」


 いつの間にか、外では雨が降っていた。

 ぽたぽたという音が古びた窓から聞こえる。


「死んでしまったのね。それだけ危険な仕事だったから、そういう日が来ることはわかっていたはずなのだけれど。その女の子はわかっていなかったわ。姉が絶対の存在だとでも思っていたのかしらね。だから、姉が死んでその仲間が生き延びていることが……」


 エレラは言葉を区切る。

 その先の言葉はリナが推測していたはずで、私にも想像できるものだったけれど。

 でも、エレラは悩むように言葉を途切れさせた。


「恨んで……いたのかしらね。それとも、ただ現実が見えていなかっただけかしら……」


 どちらなのかはわからない。

 私には人の気持ちはわからないから。

 でも、リナと話しているエレラは楽しそうで、恨んでいるなんて思いもしなかった。もしも本当に恨んでいるのなら、随分と隠すのが上手いと思うけれど。


「なんてね。冗談よ。楽しんでもらえたかしら」


 ふっと重い空気を打ち消すように彼女はおどける。

 私はそれに何も言えない。

 何を言っても、意味はない気がした。


 酷くなる雨音の中に靴音が響く。

 廊下に誰かが来たのだ。


「静かにね。いやまぁ、音を出しても構わないけれど……関係のない人まで巻き込みたくはないでしょう?」


 彼女は私にそう釘を刺して、扉の外に出た。

 誰が来たのかを確かめているのだろうか。


 ここからではよくわからないけれど、足音は多分扉の前で止まった。

 そして、エレラと何かを話している。

 こっそりと聞き耳を立ててみるけれど、扉越しではよく聞こえない。


 計画がどうだとか。

 そんなことを話しているみたい。

 エレラの単独犯ではないんだ。

 それだと余計に怖くなってきた。本当に私は無事に帰れるのだろうか。


 あまり良い雰囲気じゃない。

 重いというか。盗み聞きしてる私までしんどくなってくる。

 結局、数言ほど会話して、足音はどこかへと去っていった。


 それからエレラは部屋に戻ってきたけれど、一言も話すことはなかった。

 私も何かを言う気にもなれなくて、ただ黙ったまま時を待つ。

 けれど、エレラの表情はさっきよりも苦しそうに見えた。

 どうにかできるのなら、どうにかしてあげたいけれど、私にはどうしようもない。


 そして雨音も小さくなったころ。

 再度、廊下から足音が聞こえた。

 

 今度の足音はさっきとは違う。

 もう少し軽くて、焦っているような。

 

「ようやくお出ましみたいね」


 その足音は扉の前で止まる。

 そして魔力が吹き荒れ、衝撃と共に扉が破壊される。


「ミューリ! いるの!?」

「リナ……!」


 煙の中から姿を現した彼女を見て、少し場違いながら、なんて幸運なのだろうと思う。あんなにも私のために必死になる彼女の顔を見れるなんて。

 けれど、そんなことを考えている場合ではない。


 息をつく間もなく、別の魔力が立ち昇る。

 それはエレラの魔力で、2つの大きな魔力が、私の眼前で相対する。


「エレラ……! 何をしてるの!?」

「わからないかしら。それともほんとに私はなんとも思ってないとでも?」


 リナが少し怯む。

 それは彼女が怯える過去からの刺客だから。


「けれど、ミューリは関係ないよね。私に用があるのなら、私に直接来れば良いのに」

「それじゃあ、だめだわ」

「どうして!」


 リナが叫び、エレラが少し言葉を溜める。

 それとも、迷っているのか。


「気が済まなかったのよ。少しでも同じ苦しみを感じてもらわないと」


 そこではたと気づく。

 私を誘拐、監禁した目的に。

 私とリナを引き離し、リナに自分の想いを追体験させる。

 それがエレラの目的だった。


 でも、おかしい。

 けれど、それなら。


「もしかして目の前で殺してしまえば、同じ苦しみを味わってくれるかしら」

「……そんなことはさせない。話なら、後でいくらでも聞いてあげるから」

「守りきれるのかしら。やってみると良いわ」


 私が上手く言葉にできない違和感に翻弄されているうちに、2人の魔力は最高潮を迎え、そして互いの魔法が起動する。

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