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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
2章 傲慢と回顧
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第20話 火が灯る

「リナ……?」


 起きた時、何かがおかしいと思った。

 どこか静かすぎる。


 ぼやけた目を擦り、耳を澄ます。

 けれど、何の音もない。


「ぇ」


 焦る。

 私はあまり朝が強い方ではない。

 だからいつもなら彼女が先に起きているのに。


 飛び起きて、部屋中を見渡す。

 けれど、リナの影はそこにない。


 昨日の情景が蘇る。

 昨日の俯き、諦めた様子の彼女を思い出す。


 嫌な予感が広がる。

 彼女はどこにいってしまったのだろう。

 どこに消えてしまったのだろう。


 まさか。

 エレラのところに行ってしまったのだろうか。

 リナはエレラが復讐に来たと言った。


 エレラと話してもそんな感じはしなかったけれど、リナがそう言うのならそうなのかもしれない。

 復讐というものがどういうものかはわからないけれど、でも良いものじゃないはずだ。


 リナの身が危ないかもしれない。

 そう思えば。


 身体を動かして。

 行かないと、と思い。

 扉を開けようとするけれど。

 でも。


 どこに行けば良いというのだろうか。

 リナがどこへ行って、何をしに行ったのか、私にはわからない。


 後者は多少想像がつくとはいえ、それも所詮想像の範疇でしかない。正確にはわからない。

 私はリナのことを何も知らない。


「ぅ」


 そう思えば泣き崩れそうになる。


 結局、私は彼女のことを何も理解できていない。

 他人に興味がないと言われたあの日の私のままなのだろう。


 リナのことが好きになっていると思っていたのに。

 リナへと心が傾いていると思っていたのに。

 それはただの錯覚で。

 自分への盲信でしかなくて。


 私は私を救ってくれた彼女にすら興味を持てていない。

 そんなふうにしか思えない。


 昨日の問いは。

 昨日は確かにリナのことが知りたかったけれど。


 でも、あれも違う。

 あれも身勝手な問いでしかないのだから。

 私が不安になって、それを解消するための癇癪でしかないことくらいは私でもわかる。


 結局、自分のことしか考えていない私なのは変わらない。

 そんな現実を突きつけられて。


 後悔するでもなく、ただ泣いてしまう私なのだから。

 やっぱり生きている価値などないような気がする。

 こんな私が何かを成せることなどあるのだろうか。


 息をするのが辛い。

 もう死んでしまいたい。

 そんな思いが溢れ出る。


 もう少しだけ、リナといたいのに。

 でも、私は彼女のような人とはいてはいけない。


「ぅぅ……」


 涙が止まらない。

 けれど、願わくば。


 こんな私に願うことが許されるのなら。

 リナの身が無事であることぐらいは。

 私にも祈ることが。


 その時がちゃりと音がする。


「ぇ」


 扉が開く。

 ぼやけた視界を持ち上げれば、そこにはリナがいた。

 それは当然のことではある。

 この部屋の扉を開ける者は私とリナの2人だけなのだから。


 帰ってきたんだ。

 そう思って、思わず笑みがもれそうになるけれど。

 私の笑みは失せる。


「リナ? どうかしたのかしら?」


 リナの後ろから、エレラがひょこと顔を出したから。

 私は心をがきゅっとなる。


 リナの言葉通りなら、エレラはリナを恨んでいるはずで。

 もしもこの場で、リナを傷つけるのなら、私はそれを止めないといけない。

 私はリナを助けたいのだから。


「ぁ……」


 でも、声はでない。

 あれだけ、何かをしようと行けないと思っていたのに、いざ目の前にしてみれば、私は何もできずに固まってしまった。


「あ……ちょっと待っててくれる?」

「ええ、まってるわ」


 リナは軽くエレラにそう言って、扉を閉じる。

 その様子に私は困惑を覚えざる負えない。


 だって、エレラはリナを恨んでいて。

 エレラは敵で、攻撃してくるはずなのに。

 でも、彼女達の雰囲気は、とても穏やかそうで。

 まるで、友達みたいな。


「ミューリ、どうかした? 大丈夫?」


 床に座り込む私に、彼女は心配そうに声をかけてくれる。

 そんなリナを見上げて気づく。

 もう大丈夫なのだろうと。

 

 私が寝てしまっている間にも、リナとエレラの間にあった過去の確執は、消えてしまったか、もしくは納得のいく形へと変質した。

 つまりは解決したのだろう。

 ここ最近、彼女を困らせていた過去の問題が。


 今の彼女の顔を見れば、それがわかる。

 それがわかってしまったから。

 また私は泣き出してしまった。


「ミューリ? ど、どうしたの? ね、大丈夫?」


 私は力なく首を横に振る。

 もうわけがわからなかった。


 自分がどうして泣いているのか、想像はできても、理解はできない。

 多分、たくさんの理由があるから。

 私という弱い人間には処理できなほどの情報が私の中から溢れ出てくるから。

 私はただ泣いているのだと思う。


「大丈夫だよ。大丈夫」


 リナが優しい声と共に私の背中をさする。

 それが嬉しくて。

 そして、少し辛い。


 彼女が助かったことはとても嬉しい。

 何があったのかはわからないけれど、でも。

 彼女は立ち直り、エレラとの関係に一定の決着をつけた。


 それは私が心配していたことで。

 それが解決したのだから、嬉しくないわけがない。

 でも、それは同時に私が助けたいことでもあった。


 リナのことを助けたいなんて。

 あの言葉が嘘だったとは思わないけれど、それがどこまでも非現実的な妄想に似た何かであったことはあまり考えるまでもない。


 だって、こうして彼女は自らの意思で立ち上がり、立ち直れる人なのだから。

 そんな特別な彼女を、私のような醜い怪物が助けようだなんて。


「……ぅぁ」

「大丈夫だよ。落ち着くまで、こうしてるから」


 穏やかな声が耳元で囁かれる。


 対して私は。

 傲慢にもほどがある。


 きっと私が泣き出してしまった最もらしい理由はそれだろうから。

 自らが傲慢なだけの怪物であると突き付けられたから。


 知っていたこと。

 知っていたことのはずだけれど。

 でも、私は。


 私は忘れていたのだろうか。

 それを覚えていたら、息をすることも辛いから。


 だからこれは発見ではなくて、再確認なのかもしれない。

 私は助ける側じゃない。

 助けることのできる人じゃない。

 リナを助けることのできる人じゃない。


 そしてリナは、自分で自分を助けられる人で。

 私の手助けなしで立ち上がることのできる人なのだから。


 私とは違う。

 私は彼女に支えられなければ、息をすることもできないのに。


 リナと互いに支え合えればなんて。

 互いに助け合って、なんて。

 そんなことを、思ってたけれど。

 でも。


「ここにいるよ。私はここにいるからね」


 でもそれは傲慢すぎる考えだと思う。

 私には彼女を支えることなどできないのだから。

 

 リナが私を支えて、助けてくれて、引っ張ってくれることはあっても。

 その逆はない。私にはできない。


 だから私は、泣き止めない。

 きっといつか終わってしまう。

 そんな気がしてしまうから。


 これが私達だというのなら。

 どこまでも続いて欲しいこの関係の形が、こうまで偏っているものなら。こうまで歪なものなら。

 いつかは崩れてしまうだろうから。


「怖かった? 不安だった?」

「……どっちも」

「そっか……ごめんね。でも、もうどこにもいかないよ」


 リナは優しく、夢のような言葉をくれるけれど。

 でも。


 涙は止まらない。

 リナと私は長くは一緒にはいられない。

 そんな予感が、心の内から離れないから。


 今が夢のようだから忘れていた。

 夢はいつか覚めるものだということを。

 その日が来ないことを心底祈る。


 せめてもう少しだけでいいから。

 一緒に居させて欲しい。

 私を夢に留まらせてほしい。

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