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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
第8章 統合と愛性
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第99話 腕の中、想いを確かめて

「何かあったの? 大丈夫?」


 リナがとことこと近づいてくるのがわかる。

 辛うじて目を開けば、酷く不安げな顔で私に手を伸ばしていた。

 彼女の手を縋るように掴む。


「ほんとに、大丈夫?」

「う、うん。ちょっと疲れちゃっただけで」

「……吹雪だったもんね。少し、休もうか」


 リナがひょいと私の身体を持ち上げる。

 彼女の温かな手のひらが私を包む。


「あわ、りゃ」


 唐突に抱き抱えられて驚きのあまり変な声がでる。

 けれど、彼女に優しく頭を撫でられれば、なんだか動転していた気も落ち着いてくる気がする。気づけば、私は部屋の中へと運ばれていた。


「ね、エミリーと何かあった?」


 彼女は穏やかに私に問う。

 それにどう答えるか悩む。

 どう答えるのが正解なのかな。


「……エミリーさんは、出ていったよ。帰ってこないって」

「あ、そうなんだ」


 リナはほんの少し言葉を返した。

 まるであまり興味のないことのかのように。


「り、理由とか聞かないの?」


 意外だった。

 もう少し、リナならエミリーのことを気にするかと思った。けれどリナは彼女のことをそこまで気にしている様子はない。

 ……私が散歩に行った時には、あれだけ不安そうな顔をしてついてきたのに。


「まぁ、うん。理由なんてなんでもいいよ。エミリーにはたくさん助けてもらったから、自分のために生きてくれるなら、それで」


 ……どうだろう。

 エミリーは自分のために生きていたのかな。多分、彼女が出て行ったのは自分のためにではなくて……ただ諦めて出て行っただけのような気もする。


「それにいつかはその話もしないといけないと思ってたんだ。だからちょっとほっとしてるかも」

「その話?」

「エミリーに出て行って欲しいっていう話。もちろん、私1人ならいくらでもいてくれて構わないけれど、ミューリがいるから。ミューリとふたりきりが良いから。出て行って欲しいって言わないといけないと思ってたんだ」


 リナの言葉は、端的に言えば私を選ぶという話だった。

 エミリーとの時間ではなくて、私との時間を選ぶって。


 昔も同じようなことを言っていたのを聞いた気がする。

 リナは私を選んでくれる。それは初めからわかっていた。知っていた。

 でも、それが彼女にとって最も良いのかはわからない。


「我儘……だと思うけれど。でも、ミューリとの時間はなるべく大切にしたくて」

「そう、なんだ。その、嬉しい。そう思ってもらえるの」


 エミリーの言葉通り、リナは私といることを選ぶ。

 私から離れない限り。


「もう、寝る? 今日は疲れたよね」


 でも。 

 だから、私は話さないといけない。


「あの。あのね」


 息を吸う。

 声が出るだろうか。

 私は言葉を紡げるのかな。

 わからないけれど、でも、話さないと。

 ここで話さなければ、どうして戻ってきたのかもわからない。


「少し話があるんだけれど。いいかな」

「……うん。何?」


 意を決して言葉を選ぶ。

 リナは少し驚きと不安の混じったような、けれどもそれを悟らせまいとするようにして私の言葉を促す。


「えっと、出ていく前にエミリーと少し話して」


 くいと息が詰まる感じがする。

 緊張する。こんな話をするのは。

 言葉が詰まる。


 でも、リナは静かに、そして穏やかに私の言葉を待っている。

 だから私も言葉を紡ぐ。


「それで、えっと。リナを愛しているかって話をしたんだけれど」

「……ぇ、え? えっと。その、わ、私?」

「あ、うん。それでね」


 リナは顔を赤くする。

 私は話を続けようとしたけれど、リナはそれを少し遮る。


「ちょ、ちょっと待って。その話をエミリーとしたの?」

「うん。そうだよ」

「な、なんで……? なんでそんな」


 それは端的に言えば、エミリーと私が恋敵だったからだけれど。

 でも、これは言っていいのかな。勝手にエミリーの想いを告げるのは、エミリーの決意を無下にするようなことな気がする。


「ええっと。エミリーはリナのことを心配していたみたいで。それで私に聞いてきたんだと思う」

「そう、なんだ……えっと、それで?」


 恐る恐るというふうに彼女が問う。

 どう話を繋げればいいのかな。

 考えても正解はわからない。私が聞きたいことをそのまま聞くしかないのだろうから。


「リナは愛されていると幸せなのかな」

「……え、ど、どうかな。わからないけれど……ミューリが愛してくれるなら嬉しいよ」

「そ、っか。えっと」


 でも、私は愛していない。

 それでも、いいのかな。

 わからないけれど。


「り、リナは今、幸せ?」

「え、う、うん。幸せだよ。ミューリがいてくれるから」


 多分、私の話は要領を得ていない。

 それに惑っていても、リナは私の話を正面から聴いてくれている。きっと、ずっとそうしてくれていたのに。私は同じようにできていなかった。

 そんな私といて、いいのかな。

 ……それを確かめるために、少なくとも今だけは話さないと。


「幸せなら、良かったけど……でも、明日は? その先は? リナは幸せ? 私といて、幸せでいられると思う?」

「幸せだよ」


 リナはそう即答してくれる。

 けれど私はその言葉を心から信じられない。


「そう、だといいけれど。でも……でもね。私は何もできない。リナに迷惑をかけることしかできない。足を引っ張ってばかりだし、リナの力になることだってできない。それに私は」


 言葉を詰まらせる。

 けれど、これは告白しなくてはいけないことだから。


 多分これが怖いことなのか。

 私は怖がっているとルミは言った。

 これを話すのは確かに怖い。けれど、きっと話さなくてはいけない。


「私はリナのこと、殺してるんだよ。それでもいいの?」

「そ、え? そうなの……?」

「うん。蘇生魔法のために、私は一度殺してる。そんな人でも、いいの?」


 リナは考えるように、頬に指をあてる。

 かわいらしい動きだけれど、私はそれどころじゃなかった。審判を待つ罪人の気分で。 


「えっと、私を助けるためにやってくれたんだよね? なら嫌がる理由なんてないけれど……」

「そうだけれど、でも、多分、私はリナに蘇生魔法を使いたかった。ずっと。リナがそれを望んでないとわかっていても、私は蘇生魔法を使いたかった……だから、私は」


 リナの想いを踏みにじっている。

 それが許されることだとは思えない。

 それは罪で、罰があるべきなのだろうけれど。


「許すよ。確かに蘇生魔法を使っては欲しくなったけれど、でも、今一緒にいてくれてるから」


 そういって、彼女は罰をとりあげる。

 私への罰はなく、代わりとばかりに髪を撫でる。


「それに私も同じだよ。私も、ミューリが私の命を削ることが嫌だったのを知ってた。でも、私はどうして自分のことが大切にできなかった。でも、ミューちゃんは私の事嫌いになった?」

「それは……嫌だったけれど……嫌いになんか」


 そんなことでリナを嫌いになったりはしない。

 それ以上のことを彼女は私にくれているのだから。


「そうだよね。私もミューちゃんが何をしても嫌いになんかならないよ。私を傷つけても、私を殺しても、私のことを嫌いになっても、ミューちゃんのこと嫌いになんかならない」


 リナは私を見つめる。

 この前の雪洞の時と同じような目で。


「……もし、嫌いになってもすぐ好きになる。絶対。このミューちゃんへの想いが消えることなんてない」


 前も同じようなことを聞いた。

 それは私にとって救いだったけれど。

 でも、同時に彼女の想いの大きさを表していて。

 それを見れば私は。


「でも、リナは私を好きだって言ってくれたけれど、きっと、リナの想いには応えられないと思う。自信がなくて。リナの想いは私に分不相応なほどに大きくて、私にはそれに応えられるだけの心がない」


 対等ではない。

 能力だけならまだしも、想いすら対等に成れない。


「私は弱くて、自分の心もよくわからない。リナの事、嫌いじゃないよ。それはわかる。多分、好き……なんだと思う。きっと」


 ルミもそう言っていたけれど、私にも正直よくわからない。

 でも、少なくとも嫌いではない。そして好いてないわけでもない。

 なら、好きってことで良いと思う。多分。こんな推測めいた形でしか、私の心が把握できないのはどうかと思うけれど。でもこれが私にできる最大の方法だった。


「そ、そう? 嬉しい」

「でもね。それだけ。リナみたいに大きな感情なのかはわからない。愛しているのかも、わからない。ううん」


 これはずるい言い方になる。そんな曖昧な言い方じゃなくて。

 向き合うのなら。


「きっと、多分、私は愛してはいないと思う。リナのこと」

「そっ、か……そう、なんだ」


 そういう言い方になってしまう。

 リナは少し目を伏せる。声が震えていて、少し辛そうだけれど。

 その傷は私がつけたもの。でも、嘘をつくわけにはいかない。


「だから、もし。リナが私を愛してくれても、私はリナに同じ感情を返せない……私は、心が枯れているから。きっと、どれだけ強く想ってもリナの想いには届かない……と思う」


 一番の問題は、結局のところ、それなのかもしれない。

 リナの想いに同じだけのものを返せないのが一番引っかかれているのかもしれない。でも。


「でも、リナと一緒にいるとなんだか……安心する。穏やかで、温かい。そんな気持ちになれる。から、できたら……一緒にいたい」


 ずるいと思う。

 自分勝手だと思う。

 対等ではないとわかっているのに、愛することができないとわかっているのに、共にいたいと望むなんて。

 でもそれが。


「それが私の願い。それでも、いいかな」


 必死に言葉にした想いを、リナは受け止めて、そして一呼吸の後に言葉を返す。


「うん。それでもいい。一緒にいたい。ずっと」


 彼女は口角をあげて、言葉を返してくれる。

 それはわかっていた。

 わかっていたけれど、でも。


「ね、リナ。リナは本当にそれで良いの? それで幸せ? 後悔ないって言える?」

「ぇ?」


 きっとその答えも嘘じゃないと思う。

 でも、リナの答えは全てじゃない。だって、彼女はあの吹雪の中で言った。


「……リナは、私の全てが欲しいんじゃないの?」

「そ、それは……」


 彼女は少し狼狽える。

 多分、あの時言った彼女の願いはまだ消えてはいないから。


「そう、だけれど。でも、でもっ、そんなの……だめだよ。ミューリを困らせちゃう」


 リナは自分の白く長い髪を弄る。

 私は少しだけ、彼女へと身を寄せる。


「もし、私が全部をあげるって言ったら、リナは幸せ?」

「え……」


 リナは言葉を詰まらせる。

 ずっと考えていた。

 リナの望みは、私ができることなんじゃないかって。私の全部をあげることなら、私だってできるって。逆にそれぐらいしか、私にはできないのだから。


「ど、どうかな……わかんない。今でも私、幸せだから。でも、わかんないけど……嬉しい、のかな。うん。嬉しいと思うけど……でも。い、いいよ。別に。こんなの過ぎた願いだよ。ミューちゃんの全部が欲しいなんて、おかしいもん。こんな欲望、おかしいんだから」

 

 彼女は困ったよう悩みながら答える。

 彼女も自分の心をとらえきれていないのかもしれない。多分、願望を手放そうとしているせいで。


「そうかもね。おかしいかも」

「そう、だよね。だからね」

「でも、私は」


 けれど、それが幸せだとは思わない。 

 きっと、望みが叶わないよりは叶うほうが幸せだと思う。


「リナが幸せになるのなら、全部あげてもいいよ」

「え、ぇ? え?」

「リナが幸せになるならだよ。リナが命を投げ出したりせずに幸福を目指すって約束してくれるなら。私の全部。なんでも好きにしていいよ」

「え、そ、それ。でも。ぇ。え?」


 リナは理解が追い付いていないのか、言葉が意味をなさない。


「私はその願い、嫌じゃない。私の全部が欲しいって言われても、嫌じゃないよ。リナになら、全部あげてもいい。ううん、全部あげたい」

「みゅ、ミューちゃん、わかってる? 全部って、え、全部だよ?」

「わかってる。私の持ってるものなら、なんでもあげる」


 説明しても、彼女はやはりわかっていないようだった。

 理由がわからない、そう言いたげな顔をしている。


「だって、私がこれまで生きてこれたのはリナのおかげだもん。それに、私のものなんか全部リナがくれたものだよ。だから、私の全部をあげたって、ただそれは返しただけだから」

「そんな、そんなことない……と思うけれど」

「ううん。全部リナのおかげ。私をここまで連れてきてくれたのは。だから、私の全てを捧げたかった」


 だから蘇生魔法も使えたのかもしれない。

 蘇生魔法を使う時、どこかあの時を待ち望んでいる気がしたのは、結局ただそれだけのことだったのかもしれない。

 リナに全てを捧げられたら、少しは彼女に何かを返せた気がするから。


「私もずっとそうしたかったんだと思う。きっと私もリナのものになりたい。だからね。おかしな願いだとしても、嫌じゃない。ううん、嬉しい。そう言ってくれて。私を求めてくれて、嬉しい」


 それは私の素直な言葉だったと思う。

 私なんかを求めてくれることがどれだけ幸運なことかということぐらいわかっているから。

 多分私がもっとも恐れていたことは、私の願いを彼女が否定してしまうことだった。身を捧げても、リナにこんなものはいらないと言われることだった。


 あの雪洞の中で彼女は、全てを求めるなんて気持ち悪いことだと言った。私の願いもそう言われるかもしれない、それが怖さの正体だった。

 まぁこれも今思いついた推測でしかないのだけれど。それに実際のところ、私もこの恐怖の正体の全てを把握したわけではなくて、ただそれが一要素ではあると思う。


 でも、その一つの恐怖を受け入れてでも、私の願いを伝えたかった。

 それがきっと話し合わないといけない理由で、それがリナの幸せとは何かということを私が知るための手段だろうから。


「そう、なんだ……えっと」


 リナは私の言葉を予想はしていなかったのか、言葉を詰まらせる。

 けれど、そして


「じゃ、じゃあ。なんでも聞いてくれるの? なんでもしてくれる?」

「うん。私にできることなら」


 できることなんかほとんどないけれど。

 でも、リナは悩ましそうに、けれども嬉しそうに私でもできる願いを言う。


「じゃあ、私の傍にずっといて。どこにも行かないで」

「うん。わかった」


 そんなの願うまでもない。

 私が願ったことなのだから。


「それに、私のこと嫌いにならないで」

「嫌いになんて、ならないよ」


 いくら私の心がわからないと言ってもそれぐらいのことはわかる。私はリナを好きになることはあっても、嫌いになったりはしない。


「私の事、求めて欲しい。私に……触れて欲しい」


 リナが頭を差し出す。

 それを軽く撫でる。

 彼女のくすんだ輝きを持つ白い髪が揺れる。


「も、もっと。もっと触って」


 少し怖い。踏み込むのは。

 けれど、それが彼女の願いなら。

 私は彼女の頭を包み込むように抱きしめる。


「あとね……ねぇ、ほんとに全部くれるの?」


 私の小さな胸の中で彼女は問う。


「うん。全部あげるよ」

「じゃ、じゃあね。あの、他の人とあんまり話さないで」

「ぇ?」

「……だめ、かな。その、なら、いいんだけれど」

「あ、えっと、そうじゃなくて」


 私が疑問を零したのは、ただどうしてそんなことを言ったのかわからなかったから。


「いいけど、どうして?」

「……だって、ミューリと話したら、みんなミューリのこと好きになっちゃう。だから、あんまり好きじゃない……から、かな……」


 たしかに前もそんなこと言っていた気がする。

 けれど、嫌だとは思わなかった。ほのかに嫉妬していたぐらいだと思っていたけれど。


「……ずっと、嫌だったの?」


 リナがこくりと頷く。


「でも、別にミューリの事縛りたいわけじゃないから……そんなことしたら嫌われちゃうと思って……言わなかった」

「そういうこと……うん、じゃあわかったよ。あんまり他の人とは関わらないようにする」

「え、い、いいの?」

「もちろん。だって私はリナのものなんだから」


 けど、そんなの元からじゃないかな。

 私、リナ以外にそこまで友人はいないし。ルミとエレラぐらいか。

 だから、リナが心配するようなことは本当にないと思う。ルミは……ちょっとあれかもしれないけれど。


「え、じゃ、じゃあ、ずっと私を好きでいてくれる?」


 彼女はもじもじとしながら、今日一番の期待を込めて、次の願いを口にする。


「えっとね」


 その答えに迷う。

 私はリナをずっと好きでいられるのかな。

 自信はない。だって愛しているわけではないのだから。いや、もしも愛していたって自信はなかったと思う。

 でも、私は。


「好きでいられるかはわからない。けど、好きでいたいと思うよ。私の心も全部あげられたらよかったのに、でも私も私の心がわからない。わからないことばかり、考えてる」


 わからない。本当にわからない。

 感情がよくわからなくて、想いを捧げようにも私は私の想いを上手く掴めない。


「だから、リナへのこの感情が何かわからない。恋とか愛かもしれないけれど……でも、そうじゃないかもしれない。好きって感情も、どれぐらいあるかわからない。なくなっちゃうかもしれない。だから、約束はできないけど」


 わからないことを、確実なことは言えない。

 でも、それでも。


「でも、私はリナを好きでいたい。ずっと好きでいたい」


 私の答えにリナは涙を流していた。


「ご、ごめん。だめ、だったかな。でも、私にはこれぐらいしか」


 また泣かせてしまった。

 どうすればいいのかと、焦るけれど、リナの口元は笑っていて。


「ち、違うの。ただ。嬉しくて。ミューリにそこまで言ってもらえるのが嬉しくて。それで」


 彼女は私を抱き寄せる。

 私はされるがままに彼女の腕の中にはまる。

 さっきまでと逆だけれど、やっぱり私はこうされている方が落ち着く。彼女に包まれて、触れられているほうが良い。


「触っても、いいんだよね。私の、なんだよね」

「うん」


 彼女の手が私に触れる。

 その手は優しくて、けれどもどこかいつもと違う。

 髪に触れ、耳に触れ、首に触れ、腕に、指に、脚に、足に触れる。

 なんだかくすぐったいけれど、悪い気はしない。触れているのがリナだからかな。あたたかくて、安心するような、そんな熱を帯びているからかもしれない。


「なんか……夢? 夢みたい。でも……夢じゃないんだよね」


 これぐらいなら今までだってやっても良かったのに。

 そう思えば結局は私の言葉は彼女の願いを引き出しただけなのかもしれない。でも、それはきっとリナの幸せを知るためには必要な事だったと思う。


「そんなに、楽しいかな。あんまり面白いものでも、ないと思うけれど」

「楽しいっていうか……嬉しい」

「それなら、いいけど」


 ひとしきり触って、そしてリナは私の頬を撫でる。

 私も彼女に腕を回す


「ミューちゃん、大好きだよ」

「うん。きっと、私も」

「傍にいてね」

「ずっといるよ。リナが望むなら。」


 なんだかすごく甘い時だった。

 穏やかで甘い。

 きっと、今のリナの顔は忘れられない。これから何があっても。

 そんなことを思った自分に驚く。


 でも、不思議じゃない。

 だって今のリナはすごく、笑っていて。

 それで幸せそうだから。

 私といても幸せでいてくれるから。

 だから。


「ずっとこうしてたい」


 思わず、そう呟く。

 

「うん。そうだね。私も」


 そして私達は、もう少し身を寄せる。

 まるでひとつになったようだった。

 ずっと側にあった孤独感が消えていく気がした。


 リナに包まれていると、とても安心する。

 だから私は腕に籠める力を強くした。

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