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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
1章 罪悪と神罰
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第10話 生見

「ぁっ。ぅ」


 声を出そうとするけれど、声にはならない。

 音が出ない。


 熱い。

 何が。


 なんで。

 何が起きて。


 どうなって。

 どうして。


 わからない。

 何が起こっているのだろう。


 ち。

 血が。

 だれ。

 だれの。


 私の。

 私の血が。


 これ。

 こんなに血が、でたら。

 どう、どうなるんだっけ。


 それになんで地面が傾いて。

 力。

 力が入らない。


 おかしい。

 こんなの。


 おかしいに決まってる。

 何がおきた?

 何もわからない。


 首。

 首が。


 熱い?

 冷たい?


 視界も。

 暗い。

 目が。

 見えない。


 いや、開かない。

 身体に力が。

 こわい。


「まだ息がある?」


 おと。

 音が聞こえる。

 こえ?


 何かわからない。

 何が。

 起きているの?


「致命傷なはず」


 なんだか。

 眠い。

 ねむたい。


 さむい。

 あつい。


「いや、死んだ」


 つめたい。

 ねつ。


 熱。


「……私が、殺した」

 

 熱なら前も感じたことがある。

 けれど、あれは暖かくて。


 今の苦しい熱とは違う。

 あの時の熱は息苦しくはならなかった。


 私が失った熱。

 別の熱が今目の前に来て。

 そして、私は冷えている。


 寒い。

 こんなにも寒い。


「……誰?」


 暗闇の中で独り。

 寒い。

 こんなにも寒いなんて。


 これが孤独にした私への罰か。

 この苦しみも。

 この痛みも。


「何、してるの?」


 声。

 声が聞こえる。

 懐かしい声。

 でも、この前も聞いていた声。


 だれ。

 だれだっけ。


 私にとってとても。

 わからない。

 上手く思考がまとまらない。


 でも。

 私に熱を教えてくれた誰かの声。


 誰だっけ。

 誰の声だっけ。


「……見なかったことにして欲しい。殺したくない」

「ミューちゃんから離れて!」


 息が、できない。

 魔力が抜け落ちる。

 何も力が入らない。


 このままじゃ。

 このままでは、死んでしまうんじゃ。


 ……それなら。

 それの何が、だめなのだろう。


 怖い。

 暗闇は寒くて怖いけれど。

 でも、こんなに怖い場所があるなら。


 はやく消えてしまえば、楽になれるんじゃ。

 楽になるために死ぬのなら。

 死が訪れるのなら。

 死に賭けても。


「おねがいおねがいおねがい……! あぁっ、ぁ……」


 私が孤独に耐えられないことはわかる。

 そして私が孤独で居る運命であることもわかる。

 なら、死んだ方が楽なんじゃ。


 生きていたって、知らない誰かのために命を捧げるのだから。

 ここで死んだって。

 何も変わりはしない。


 だから。

 いきている意味なんて。


「ミューちゃん……! ごめっ、ごめんね……ごめんなさい……」


 寒い。

 この寒さはいつ消えてくれるのだろう。

 死には、まだ辿り着かないのだろうか。

 もう嫌だ。


 何もかも嫌だ。

 早く消えてしまいたい。

 だから死んでしまいたい。


 こんな苦しいことばかりなら。

 ずっと孤独のまま生きるのなら。

 ずっと届かない夢を見るだけなのなら。


 早く消えた方がいい。

 早く死んだ方がいい。


 どうせすぐ死ぬのだから。

 今すぐに死のうと変わらない。


 死にたい。

 早く死にたい。


 過去にも未来にも希望はない。

 今も惰性の果てでしかない。

 ずっと諦めと後悔と絶望が私の側にあった。


 いつからだろう。

 いつからこんな風になっていたのだろう。


 思えばこの学校にきてからずっとそうだった。

 いや、もっと前からだろうか。


 ずっと死にたい気持ちが心のどこかにあった気する。

 それを忘れることができた瞬間はあれど、それが無くなったことは一度もなかったのかもしれない。


 死にたいだなんて。

 一度も言葉にしたことはないけれど。


 でも、死ぬことで発動する魔法なのだから。

 この魔法のことを考えれば、死を望んでいたのかもしれない。


 いや、死なんて、望んだことはない。

 でも、死ぐらいしか怖いことから逃げるしかできないのなら。


 本当は誰かに私の命を捧げることができたなら良かったけれど。

 でも、誰かはいない。


 きっと現れることはないのだ。

 誰かなんて、元より私の中の空想でしかないのだから。


 彼女も誰かではなかっただから。

 夢見た誰かがいないのなら、ここで死のうが、先で知らない他人のために死のうが変わらない。


 私は孤独なまま。

 寒いままなのだから。


 何も得られないまま。

 何も残せないまま。

 何も為せないまま。

 何も知らないまま。


 ずっとそうなら。

 今ここで、死んでしまえばいい。


 首から血を流して。

 息を失い。

 生を失い。

 そして命を失えばいい。


 赤い血の暖かさが、私の冷たさを酷くさせる。

 できなくなった息が、私の孤独を思い出させる。

 見えなくなった視界が、私の世界の終わりを告げる。


 命が漏れる。

 誰かに捧げたかった命が。

 私の死が。

 あっけなく訪れようとしている。


 でもこんなものなのだろう。

 死なんて。

 そんな大層なものじゃない。


 ここで私の命は潰える。

 ただそれだけ。

 そして何も変わらない。


 ただ私はずっと死ぬために生きてきて。

 上手く死ぬことができなかっただけ。

 そんな人生だったのだから。


 消えてしまえばいい人生だった。 


 きっとあの瞬間以外は。

 あの瞬間……?

 いつだっけ。


「ぅうっ……みゅー、っ」


 泣いている。

 誰かが。

 

 なんでだろう。

 泣かなくてもいいのに。

 私はもういいのに。


 もう死んでも構わないのに。

 だから。


 こんなに熱など、くれなくていいのに

 もう死ぬのだから、寒いままでいいのに。


 小さな希望などいらないのに。

 どうせすぐに全て消えてしまうのだから。


 でもなぜだろう。

 ほのかに暖かいこの熱は。

 この熱の側にいるのが、こんなに心地良いのは。


 なぜ。

 どうして。


 でも。

 私が死んで彼女は悲しんでいる。


 それなら。

 そんなの。


 そうだ。

 私が幸せだと思えた瞬間は。

 ずっと彼女が隣にいて。


 彼女……? 

 誰……?


 でも、それがなんだと言うのだろう。

 幸せな瞬間も、ずっと不幸な時期の中にあるだけだと言うのに。


 けれどもしもそれが。

 本当に真の幸せだと言うのなら。


 そんな淡い期待を抱いてしまう。

 この期待は毒なのだろう。

 また私は苦しむことになる。

 でも、きっと。


 彼女が泣いているのだから。

 彼女には笑顔は似合うのだから。


 リナが笑ってくれるのなら、もう少しぐらい。


 そして光が目に入る。

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