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機械街の少年  作者: 神田 伊都
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外の世界

 空は暗い。暗いのに、明るい。あれは何だ。黒の天幕にぽっかりと穴が開いたように浮かぶ、白く丸い球体は。それに光っている。その光が、少年たちを照らしている。

『月。夜ヲ、照ラス。朝ハ太陽ガ、照ラス。月ト、太陽。ソレゾレ、朝ト夜ニ、交代シナガラ、現レル』

「ツキ……月」

 あれが、月。あの紙束の中に、同じものを描いた絵があった気がする。そう思っていると、〝友達〟がそのページを開いた。月明かりで良く見える。紺色に塗り潰されたところにぽっかりと浮く月。今見ているものと同じだった。

 月にばかり見惚れていたせいで、辺りのことを全く気にしていなかった。見渡すと、少年は柔らかい芝生の上にいた。青緑色の草原……五〇番さんの言っていた噂は、真実だったのだ。空気が澄んでいる。少年は街の空気より、今いる場所の空気の方が好みだった。

 少年たちが立つ場所は丘のような小高い場所だった。眼下を見ると、緑の草むらを分けるように一本の道が走っている。道に沿って視線を移動させていくと、少年たちが出てきた洞窟の近くまで続いていた。

 さらに視線を移動させて洞窟の入り口の方を見ると、何やらずんぐりとしたものを見つけた。灰色の半球。あのような見た目のものを何と言ったか。少年は考えを巡らせて、やっと「ドーム」という単語を思い出した。

『アレ、ガ、壁。機械街ヲ、覆ウ』

 あの壁の中に街があるのだ。全てがあの街の中で完結している――あくまで、ロボットたちの中ではの話だが。

 ロボット。彼らは人間ではなかった。〝友達〟の話では、人間は地下都市にいるそうだ。

「ねぇ。ぼく、本物の人間に会ってみたい。キミは外の世界を見せてくれた。それだけで、キミの言葉を信じるには十分だ。地下都市は存在する。そこに行けば、人間に会えるんだよね。さっきみたいに、どこかに地下都市への入口があるはずだ。探してみよう」

 少年は勢い込んで洞窟に戻ろうとする。

〝友達〟がそれを止めた。

『無理。無駄。人間、ハ、モウ、居ナイ』〝友達〟は言う。『オヨソ、六九八年前。地下都市ノ人間、ガ、滅ンダ。疫病ノ、セイ、デ。地下都市ニ、逃ゲ込ンダ、研究者ガ、誤ッテ、毒瓶ヲ落トシタ』

「そんな……」

 つまり、もう、人間に会うことは出来ないのか。少年と同じ人間に。ロボットではない、本物の人間に。

『デモ、世界ニハ、人間ガ、イル』

「世界?」

『外ノ、世界。アラユル土地、デ、人間ガ、暮シテ、イル』

 少年は〝友達〟の言葉を疑わなかった。少年の知らなかったこと、噂でしかないと思っていたものを全て真実に変えたのだ。もう、彼を疑う必要はない。

「どこに行けばいいの?」

〝友達〟は何かを考えるように、ががが、と首を動かした。

『近ク、ニハ、イナイ。少シ、遠イ』

「歩くしかないよね。どれくらいで着くかな」

『……二日、ト、三時間』

「そっか」

 今度は少年が考える番だった。機械街に人間はいない。外の世界に出ないと人間は存在しない。それも、会うためには二日もかかる。「散歩に行く」なんて次元の話ではない。

 少年の中では今までの常識が崩れ去っていた。

 人間は眠くなる。お腹が空く。一日中動き続けられる存在ではない。そんなことができるのは、工場で働いている「ロボット」だけだ。

 ぼくは変じゃない。こんな気持ちになるのも、不良品だからじゃない。不安も、期待も、夢も、脳の回路が欠陥した結果生まれるものじゃない。

「ねぇ、ぼくの〝友達〟」少年は言った。

「旅をするのに必要なものって、何がある?」

隔日投稿予定

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