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機械街の少年  作者: 神田 伊都
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夜を知る

 少年は目元に涙の痕を残しているが、だいぶ落ち着いたようだ。〝友達〟は少年の具合が良くなったのを見届けて、布団の側に歩み寄った。そこには、少年が工場で見つけた紙束が開かれていた。

『ミナシ山。壮麗デ……雄大ナ景色』

 少年はぎょっとして、〝友達〟に近づいた。

「これ、読めるの?」

 トモダチがこくりと頷く。少年は驚きつつも感心して〝友達〟を見つめた。少年が読めなかった文字を、〝友達〟は読むことができるのだ。五〇番さんも文字を読めるが、ここにあるものは見たことがないと言っていた。人間によって、読める文字と読めない文字があるのかもしれない。

〝友達〟は次のページをめくる。

『夕日ニ、染マル、トラガムル平原。青空トハ違ッタ、趣ガ、アル。旅ノ勧メ』

 相変わらず変な声だが、つらつらと読んでいく。

少年は聞いてみた。

「ねぇ。アオゾラって、何?」

『頭上ニ広ガル。時間デ、様々ナ色ニ、変ワル。外ノ世界デハ、青イ。コノ街ハ、黒』

 少年はまたしても驚かされた。少年にとって、空とは暗いものだと思っていた。しかし、外の世界では、この絵のような、明るい青色をしているのか。透き通った青色。汚れを拭い去ってくれるような、鮮やかな青色。

 少年は続けて尋ねた。

「夕日って?」

『夜ニ近イ時間デ、空ガ、赤ク染マル。青カラ、赤ニ。ソノ後、暗ク、ナル』

「夜って?」

『一日ノ最後。朝ガ来テ、昼ニ。昼カラ、夜ニ。朝ハ、皆、起キル。夜ニハ、眠ル。ソシテ、次ノ朝ニ、目覚メル』

「……ぼくが眠るのは、夜だから?」

〝友達〟は頷いた。

(もしかしたら、五〇番さんより物知りかもしれない)

 少年はそう感じ始めた。もっと話したい。このぎこちない話し方をするトモダチと、もっとたくさん話したい。その想いに反するように、思い出したように眠気がやってきた。徐々に瞼を持ち上げるのが辛くなってくる。

「もしかして、今は夜?」

『ソウ、ダヨ』

「君の言っていた、一日の最後?」

『ソウ』

「じゃあ、寝ないとね」

『ソウ、ダネ』

 少年は布団の上に横になる。この一日ほど疲れた日は無いかもしれない。ひどく気を揉んだし、五〇番さんに心配を掛けたし、無心で仕事をしたし。もしかしたら、このまま寝たら目が覚めないかもしれない。それほどに疲れた。

〝友達〟は言っていた。夜には眠る。そして、次の朝に目覚める。それを信じよう。

 少年は傍らに立つ〝友達〟に手を振った。

「おやすみなさい」

 少年の瞳が閉じられる。眠りの世界へと落ちていく。その最中、〝友達〟の声が聞こえた気がした。

『オヤスミ、ナサイ』


隔日投稿予定

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