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機械街の少年  作者: 神田 伊都
10/13

準備

 機械街に戻ってから、少年は旅に必要なものを集めることにした。

 まずは食料。ここから近い街に行くには、少なくとも二日はかかるそうだ。余裕を持って三日分の食料を確保しなければいけない。少年は仕事場である工場に向かった。

 周囲の視線が痛い。〝友達〟が仕事を無断で休んだことは、すでに工場中に知れている。少年をバカにするエサを手に入れた。〝友達〟の相方である少年に事の次第を問い詰めよう。ついでに虐めてやろう。ロボットたちはその機会を虎視眈々と狙っているようだった。

 五〇番さんも、この日は少し機嫌が悪かった。

「トモダチくんにね、こう言っておいてネ。休むなら、きちんと言いに来てって。無断で休まれると、隣のボクもてんやわんやになっちゃうかラ」

 少年は曖昧に頷いた。〝友達〟がこの仕事場に来ることはもう無いと知っていた。そして少年も、二度と仕事場に足を踏み入れることは無いだろう。

(五〇番さんには説明した方がいいかな)

 しかし、思いとどまった。五〇番さんは地下都市も外の世界も信じていない。説明しても、「夢でも見ているんじゃないの?」と言われるのがオチだろう。

 少年はいつも通り作業を進めた。コンベアから流れてくる食べ物を、傷んでいるものと傷んでいないものに選別する。そのときに周りの目を盗んで、傷んでいない食料を籠の中に入れた。珍しく籠いっぱいに食料を詰め込んでいるのを、五〇番さんだけが不思議に思ったのだった。


 少年が仕事をしている間、〝友達〟は機械街のあちこちを練り歩いていた。〝友達〟の頭では、この後必要なものが整理されている。バッグ。簡易コンロ。水。少年だけで集めるのは難しい。明日にでも出発できるように、自分が集められるものは集めておこう。

〝友達〟が目を付けたのは工場と工場の間の裏道だった。そこには『不良品』が置かれているだけではない。工場で使わなくなった道具や、壊れてしまった機械類も乱雑に捨てられてあるのだ。その上、工場で働くロボットたちは存外にずさんだ。使えるものまで遠慮なく捨てる。それを有効活用するつもりだった。

〝友達〟の目が光る。なんと、物資運搬用のカートが置かれていた。確認すると、後部車輪が錆びて動きづらくなっているだけでまだ使える。〝友達〟は集めた物資をカートに乗せて運ぶことにした。

 機械街は奇妙な明りで満ちている。赤も青も緑も、様々な光が不自然に交差し、絡み合い、得も言われぬ雰囲気を醸し出している。工場からは絶えず金属がぶつかる音が聞こえてくる。重苦しい音も軽やかな音も、ノイズのごとく混ざり合っている。異なる音から同じ声が聞こえる。「あぁ、忙しい忙しい」

 この街の人間(ロボット)は知らない。〝友達〟だけが知っている。彼らの仕事に、もう意味がないということを。

「オイ、お前!」

 通りを進む〝友達〟の後ろで、突然大きな声がした。がちゃがちゃと慌ただしい音が近づいてくる。どうやら〝友達〟を呼び止めたようだ。

「オ前、そのカートの上のものは何だ?」

体格のいい男のロボットがぬっと〝友達〟に顔を近づけた。

 ががが、と〝友達〟は首を傾げた。

「ドコに持って行くつもりだ? ソレは『ゴミ捨て場』に捨ててあったものだろう? 何をしようというのだ」

 どうやら、〝友達〟が物資を集めていたのを見られていたようだ。

〝友達〟は言った。

『ワタシ、ハ、焼却場デ、働イテ、イマス。コレカラ、ゴミ、ヲ、捨テマス』

「ナンだとぉ?」

 大男は言った。

「焼却場にゴミを運ぶときは、トラックを使うのがふつうじゃないのか。なぜチマチマ運ぶ必要がある?」

 なるほど、と〝友達〟は納得した。彼らの中身は規則的な動きをするように作られている。その規則から外れたものは嫌でも目立つのか。それならば……。

〝友達〟はうつむき、目の色を青く光らせた。

『焼却場、ノ、上司、ニ、言ワレテ。オ前ミタイナ、ノロマ、ニ、トラック、ハ、使ワセナイ。ダカラ、代ワリニ、コレヲ、使ッテ、イマス』

 男は、じっと友達をにらむ。その間、〝友達〟は目をゆっくりと点滅させた。

「フム」男が鼻息のような音を出した。「ソウいうことか。ソレなら、さっさと運ぶんだな。コレ以上鈍間(のろま)と思われたら、仕事が無くなっちまうぞぉ」と言い、どこか陽気な様子で〝友達〟から離れて行った。

 男が見えなくなってから、〝友達〟は目を元の黄橙色に戻した。機械とはなんて扱いやすいんだろう。

〝友達〟は踵を返し、再び物資集めに向かった。

隔日投稿予定

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