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脱走

 寒い冬の晩、ルベルの牢屋の鉄格子が揺れる。寝ていたルベルは体を起こして鉄格子の方に目をやると、そこにはミーティアが立っていた。


「ルベルちゃん、こっちへ来て逃げるわよ」


 突然のことでルベルは即座に反応できなかった。理解できずに固まっているルベルを見てミーティアは再度叫ぶ。


「早く!! 逃げるのよ!!」


 ミーティアの叫び声と共に大勢の足音と鎧のガチャガチャという音が聞こえる。


 ルベルは己の置かれている状況を理解した。ミーティアが何らかの手立てで脱出経路を確保してくれたのだろう。ならば、この場にとどまる理由はない。ルベルはミーティアのもとに走って向かう。


 事前にミーティアが牢屋のカギを手に入れていたのか、ルベルの牢屋の鉄格子はすんなり開いた。


「ミーティアさんどこに逃げるの? 階段は封鎖されていると思うけど」


 足を都は階段の方向から聞こえてきた。ならば、階段を使って地上に出るのは望み薄だろうとルベルは考える。


「大丈夫。付いてきて」


 何が大丈夫なのかとルベルは言いたかったが、兵士の足音が迫ってきている今、質問する余裕はなかった。


「わかった。案内して、ミーティアさん」


 ルベルとミーティアは牢屋を出て、階段と逆方向へ走り出した。


 突き当りに到着してしまい、ルベルは焦る。これでは袋の鼠だ。ミーティアを囮にして階段から逃げ出した方がよかったのではないかと考え、すぐにその考えをルベルは否定する。


 母を救出するのにルベルの力は必要だし、何よりミーティアはルベルを妹のように接してくれた。一人過ごした牢屋の中で正常な思考を保てたのはミーティアのおかげだ。


 ならば、見捨てるという選択肢はない。ミーティアが命に代えてでもルベルを地上へ逃がすと言ったのだ、ルベルはその言葉を信じる。


「この部屋の一番右側の壁に小さな窪みがあるの、そこに魔力を流すと壁全体が扉になって屋敷へつながる地下通路につながってるの」


 端に位置する牢屋を指さしながら、ミーティアは言う。


 ルベルは魔力を流すとは何か分からなかった。ミーティアから魔力と魔法の説明は受けていたが、それでも完全に理解したわけではなかった。


「私は首輪のせいで魔力を使えないから、ルベルちゃんが魔力を流して」


 ミーティアの首には首輪がついていた。それは、魔族の魔力と身体能力を封じるものらしく、本来魔族は人族よりも魔力、身体能力共に優れていた。


 人族は魔族を無力化する道具を複数有しており、首輪もその一つであった。


 そんな魔族にとって脅威になる首輪をルベルはしていなかった。それは、ルベルが危険視されていないからなのか、それとも単なるミスか知る由もないが今ルベルたちに有利に働いているのは間違いない。


「魔力の使い方など知らない。急いで説明してくれ。ミーティア」


 年相応の喋り方をする余裕はもうルベルにはない。今はいち早くこの場を抜け出さねばならない。


「ルベルちゃん、話し方が…… いいえ、そんなことはいいわ。説明するわね、まずお腹に力を入れて。すると、お腹の辺りが暖かくなってくるはず、それが魔力よ。そのお腹の熱を手の方に移動させるイメージで手のひらに魔力を集めて壁に触れると、魔力が壁の方に吸われる感覚があると思うの、そのまま集中して壁に魔力を吸わせると地下通路とつながるはずよ」


 ギリギリになって、感覚の話かとルベルは憤るが、時間がないことを思いだし留飲を下げる。


 ルベルがお腹に力を入れると確かにお腹が熱を持った。その熱を手のひらに集めるように集中する。


 数秒で、魔力の感覚を掴み、ルベルは壁に触れる。壁に触れると、熱を吸い取るように壁に魔力が移るのを感じる。


 壁に手を触れてから、一秒に満たない時間でガコンという音共に壁が扉のように開く。


「開いた。早く行こう、ミーティア」


 壁が開き後ろを振り返ると、すぐそこまで鎧を着た兵士が迫っていた。


「私が盾になるから、逃げてルベルちゃん」


 ミーティアが兵士たちに向き合ってルベルに言う。


 当然、今のミーティアは首輪のせいで本来の力が出せない状態だ。そんな状態で、ミーティアはルベルを逃がすために殿を務めるというのだ。


 ルベルは許容できない。


 ルベルはこれまで合理性を求めて生きてきた。合理的に考えれば、ミーティアを見捨てて逃げるのがルベルが取れる最善策だろう。だが、時に人は合理性に背き、不合理と戦わねばならない。それは、家族を守る時だ。ルベルにとってミーティアは家族も同然。脱出計画を立てた段階で、母の救出とミーティアとの脱出を計画に入れていた。


 前世の伊織は家族を知らなかった。ルベルとして生きて家族を知った。母が連れ去られたときルベルは家族を守ると胸に誓った。ならば、ミーティアは家族だ。見捨てる道理はどこにもない。


「何を言っているんだ、ミーティア。一緒に逃げるぞ、一人で死なせない」


 ルベルは魔力の感覚を完璧につかんでいた。魔力を流すのはパズルを解くようなもので、さっきの壁はパズルというよりも、アリの巣に水を流す感化に近いが、細かい回路の隅々まで魔力を行き渡させるイメージだ。


 魔力を封じる首輪は見た限り、なんの変哲もない鉄製の首輪に見える。ただの鉄製のものがそんな力があるとは思えない。なら、魔法のような超常的なにかが付与されていると考えるのが順当だろう。


 ミーティアから受けた魔法の説明は、魔力を消費して特定の事象を起こすのが魔法と教わった。首輪に魔法が付与されていると仮定すると、恒久的に魔法の効果が持続するのはおかしい。どこかから、魔力を供給していなければ説明がつかない。


 ルベルはミーティア自身がバッテリーの役割になっていると考える。ミーティアの魔力を消費して首輪の魔法を永続的に起こしているのではないかと推察した。


 ならば、首輪に必要以上の魔力を与えるとオーバーヒートを起こすとルベルは考える。どんなモーターでも許容以上の電力を与えると回路が焼き切れるように、魔法でも同じことが起こるのではないか。


 ミーティアの首輪を掴むと、壁に魔力を流した要領で魔力を流していく。


 自身に残存している魔力がどの程度か分からないが、首輪に魔力を流し続ける。


 全力疾走した後のような疲労感を感じながら、ルベルは魔力を流し続ける。


 ガチャンと言う音共に首輪が地面に落ちる。

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