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第8話「獣の闘法」

月水金で更新できたらいいな(希望的観測

 “隠遁のラピス”。赤青金の双眼を持つ三つ首の白い大蛇。赤と青はそれぞれ異常なほどの物理耐性とアーツ耐性を持つ。そして、中央にある金眼の蛇に睨まれると、特殊な状態異常“石化”に陥る。


「うおおおおおっ!」


 咆哮を上げながら、洞窟の中に散在する岩陰から岩陰へと走る。金眼に睨まれると動けなくなるけれど、その魔眼が効果を発動させるまでに視線を切ってしまえば問題はない。


「フレー♡ フレー♡ リーオ♡」


 レナちゃんの応援を受けて、私の足はいつもより更に早くなる。高鳴る鼓動と爽快感に身を任せ、一気に白蛇との距離を詰める。

 一定の範囲内に入ったことで、蛇の行動が対遠距離から対近接のパターンへと変化する。私の前に飛び込んできたのは、赤い眼をした大蛇の頭。


「お呼びじゃない!」


 道を阻むようにやってきたそれを思い切り蹴り上げる。〈格闘〉スキルの初歩的な蹴り技、『ハイキック』は若干のノックバック性能を持つ。赤眼は高い物理防御力を持つからほとんどダメージは入らないけど、それでも蹴り飛ばすことはできる。それに、『雪辱の精神』のダメージボーナスは奴のダメージカット能力を貫通するから、キックのダメージがゼロでもボーナス分の100はきっちり入るから無駄にはならない。


「そっちの首だ!」


 くの字に曲がって横へ吹き飛ぶ赤眼の真下を潜り抜けて、青眼の蛇頭に相対する。無効化と言って差し支えないほどの高いアーツ耐性を持つ青眼は、その代わりに物理攻撃にかなり弱い。


「うるあああああああっ!」


 『獣の喊声』。大きな声で叫べば叫ぶほど、その声量に応じて攻撃力が増す。


「ぶんどりゃあああっ!」


 拳に全身全霊の力を込めて、思い切り叩きつける。ボゴン、と気持ちのいい音がして、大蛇の白い鱗がバラバラと飛び散る。太い体の表面が滑らかに陥没し、青眼が悲鳴をあげる。


「ぅううがあああああっっ!!!!」


 だが、一撃では終わらない。

 〈格闘〉スキルの真骨頂は、全身を凶器に変えること。両腕を刀とし、両足を斧に変え、その牙、頭、全てを駆使して間断のない熾烈な攻撃を繰り出す。


「うるゔぉああああああっ!」


 LPに余裕がない私は、そう何度もテクニックを乱発することができない。でも、テクニックを使わないただの殴打、蹴撃、噛みつきならばLPは消費しない。だから私は、青眼の蛇をタコ殴りにした。


「はぎぃぃいい、ぐるうふぅっ!」


 そのギョロリとした眼に手刀を突き刺し、ぐるりと抉る。鱗が剥げ、露出した肌に思い切り噛み付く。口から赤くて細いリボンみたいな舌が出てきたら、すかさず掴んで引き摺り出す。


「うりゃああああっ!」


 素の〈格闘〉スキルがまだまだレベルの低い私の攻撃は、如何に青眼とはいえほとんどダメージが通らない。けれど私にはレナちゃんの応援と『雪辱の精神』によるダメージボーナスがある。百発殴れば、10,000ダメージになるのだ。


「うぎいっ!?」


 けれど、そう簡単に事は運ばない。私は左腕の肩から先の感覚が消失してバランスを崩す。生まれた隙にすかさず蛇の頭突きが飛び込んできて、大きく後方へと吹き飛ばされた。


「お姉さん!」


 レナちゃんの悲鳴。急いで自分のステータスを確認すると、左腕が損傷していた。青眼に気を向けすぎて、金眼の視線を切るのがおろそかになっていた。左腕を睨まれ続けて、石化してしまったらしい。そこに頭突きを受けて、呆気なく破壊されたのだ。


「大丈夫。まだ武器はあるから!」


 けど、それが何だと言うのか。

 私はすぐに立ち上がり、再び駆け出す。

 たかが刀が一本折れた程度で怯むわけがない。私はまだ、無数の武器を携えている。


「うおおおおおおおっっ!」


 回復していたLPを『獣の喊声』で消費する。“奮迅の首飾り”輝きを増し、攻撃力と移動速度が再び上がる。

 この戦いが終わったら、自然回復を止めるようなアクセサリーがないか探してみよう。戦っているうちにLPが自然回復してしまうと攻撃力も下がってしまうし、ダメージ計算が面倒くさくなる。


「お前は邪魔だって!」


 再び立ち塞がってきた赤眼の蛇を殴り飛ばす。左腕を失ったせいでバランスが取れず、足元がふらついてしまうけれど、なんとか転ばずに走り続ける。全身が石化してしまう直前、赤眼の胴体の下に潜り込んで金眼の視線を切る。


「こっち!」


 傷だらけ痣だらけ、鱗は剥がれ、片目の潰れた青眼の元へと舞い戻る。待たせてごめんね。もう一回遊ぼうね。


「いひっ!」


 地面を蹴り、蛇の体に飛び乗る。白く薄い鱗を引き剥がし、皮に手刀を突き込む。噴き出す血を顔面に浴びながら、思い切り皮を裂く。

 単純な攻撃でダメージが稼げないなら、状態異常を活用する他ない。“裂傷”は物理攻撃でも割と簡単に発生させられるうえ、傷が深ければ深いほどダメージが大きく治りも遅くなる。生きたまま皮を裂けば、蛇のHPがみるみるうちに減っていく。


「よっし、第一段階おわり!」


 満身創痍の青蛇が地面に倒れる。ラピス全体としてのHPが五割を切って、次の段階へと移行する。

 ここからは金眼が本格的に動き出す上、赤と青がタフになる。金眼と正面から衝突する必要があった。


「本当なら、赤と青は剪定しておくもんなんだけど」


 wikiに載っている安全な倒し方では、第二段階に入るまでに赤と青の首を切り落とすことが推奨されている。そうしておけば、第二段階で金眼と戦うことだけに専念できるからだ。

 けれど、あいにく私の拳は打撃属性。アーツ攻撃もできないから、どちらの蛇の頭を切り落とすことも叶わない。

 ならばどうするか?


「全部纏めてかかってこいや!」


 三つ纏めて殴ればいい。

 単純明快。シンプルisベスト。


「うおりゃああああっ!」


 けれど、引きこもりとはいえ流石はボス。私の行動は全て覚えて、臨機応変に行動を変えてくる。金眼に殴りかかった私の拳を、間に割って入ってきた赤眼が悠々と受け止める。奴の高い物理防御のせいで、渾身の一撃は不発に終わった。


「どけぃ!」


 その赤眼を殴り飛ばし、今度こそ金眼へと拳を向ける。しかし――。


「おわわっ!?」


 突然、全身から力が抜ける。

 バランスを崩して転がりながら慌ててステータスを確認すると、レナちゃんからの応援バフが消えていた。


「レナちゃん!?」

「お、お姉さ……」


 振り返ると、彼女は下半身が石化していた。それを見て、私は敵の賢さを過小評価していたことに気づく。


「こいつ、赤を囮に……」


 私が赤を殴り飛ばしている間に、金眼は後方に立っていたレナちゃんを睨んでいた。私しかヘイトを取っていないから、彼女には注目が向かないと踏んでいたのに、考えが甘かった。


「レナちゃん、大丈夫? アンプル飲んで――」

「大丈夫だから。お姉さんは構わず戦って!」


 一度引き返して、レナちゃんを岩陰に隠そうかと悩む。洞窟の中央に転がる彼女は、このままだと全身が石化してしまうだろう。

 しかし、首元まで固まりながら、レナちゃんは私に声を掛けてくれた。


「――わかった。ちょっと待ってて!」


 完全に固まってしまったレナちゃんから視線を外し、前を見据える。そこには爛々と目を輝かせる金眼の蛇と、それに付き従う赤と青の蛇。レナちゃんからのアシストは期待できない。私のLPは数ミリ無くす程度。


「いい条件じゃないの」


 これくらいが、ちょうどいい。


「その金眼の攻略法、見せてあげるわ!」


 ずびし、と指を差し向ける。

 私を嘲笑うかのようにこちらへ牙を向く三頭の蛇。大きく口を開けて笑う彼らを見て、私は思い切り走り出す。


「うおらあああああ!」


 そして、私は蛇に丸呑みにされた。

Tips

◇『獣の喊声』

 〈戦闘技能〉スキルレベル15のテクニック。大声を上げて気合いを入れ、戦意を高める。

 喊声の声が大きければ大きいほど、攻撃力が高まる。

 “戦いは、始まる前から始まっている。勝つと信じるものが勝つのだ。”


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