8 職業を決める
ギルドに戻ってきた。
「ああ、みなさん。ブラックさん来てますよ」
ブラックは私を見ると、ぺこりとお辞儀をした。
よかった。ブルーがいたおかげで、入れ違いにならずに済んだようだ。
「ブラック。どうして、遅れたの?」
「…………迷った」
え? 迷った?
いや、でも、そういうこともあるか。
賢者さまも、案内されるまでギルドの位置がわからなかったし。
とにかく、これで全員が揃ったわけだ。
本題であるミーティングを始めなければならない。
私たちはテーブルを囲んで座った。
隣にはブルーとブラック。向かいにはレッドが座っている。
「…………ジュース」
「あっ、ありがとブラック。買ってきてくれたんだ」
ご丁寧に全員分のを用意してくれたのか。
すごく冷たい。歩きまわってたから、おいしく感じるな。
「でさ。これから、何を話すんだ? わざわざ集まって、話すことがあんのか?」
「ブルーの話では、私以外は転職した方がいいって」
「ふーん。勇者じゃダメなのか?」
ブルーが答えた。
「その前に、レッドさんには能力診断をやってもらいたいんです。あと、グリーンさん。それから、ブラックさんにも」
私やピンクもやったやつだ。
あくまで診断だから、完全に信頼できるわけではないけど。
何か目安があった方が、自分に合った職も選びやすい。
「ほへー。こんなのがあんのか」
「面白そー。やるやるー」
「…………ん……」
名前 レッド
職業 勇者
攻撃 SSS
防御 S
素早さ A
技量 S
魔力 B
魅力 B
レッドの診断結果だ。
まあ、予想通り、彼女はアタッカー気質だ。
ちなみに、グリーンは素早さ、ブラックは防御がもっとも高かった。
「レッドさんは私たちの中で一番の攻撃力を持っています。この能力を活かすには剣士がおすすめです」
勇者はすべての能力が平均的に伸びていく。
一方、剣士は攻撃力に補正がかっており、非常に伸びやすい。
さらに、使用できるスキルも違う。
剣士のスキルは攻撃的なものが多い。彼女の得意な剣術ともかみ合っている。
「そうか……剣士。うん。そうだな」
「わかってもらえました?」
「ああ」
「そうですか。では、他の人もおねがいします」
というわけで、職業を選択していく。
レッド:剣士 ブルー:魔法使い
グリーン:ローグ(盗賊・狩人)
ブラック:重騎士 ピンク:踊り子
「ローグってなんだ?」
「ならず者のことですね。グリーンは感知能力が私たちの中でトップ。あと、弓が使えるので。少し特殊な枠です」
「へー」
個人での職業選択はだいたい決まった。
次はパーティーのバランスだけど。
「ねー。ちょっといい? これだと、回復は誰がやるの?」
「私も思いました。ヒーラーがいませんね」
ピンクが立ち上がった。
「ごめん。たぶん、私がやるべきだったんだよね。衣装がかわいいから、踊り子にしちゃった」
「大丈夫だよ。好きなの選んで」
「でもー」
踊り子なんて、まさに彼女の天職だろう。
私には恥ずかしくて、あんな衣装は着れない。
着たら、もだえ苦しむ自信がある。
「回復役は私がやるよ。勇者だから、回復魔法はだいたいできる」
「お願いします」
「任せて」
「それでも足りない場合は、私が魔法使いと兼任することにします。ヒーラーも魔力が高い方が有利なので」
★
≪マジックガード≫
難度 ★★
属性 無
使用回数 5/5
成功率 100%
説明 盾職の技。魔法によるダメージを8割まで、カットできる。
「データを見て分かるとおり、実はスキルは使用回数が決まっています。上のデータだと、戦闘中に使用できる回数はたったの5回。この5回をどう使っていくかが、戦闘では重要で……」
「ちょっ、ちょっと待って、ブルー」
「なんですか、ステラさん。今は大事な部分を解説中なんですが」
「レッドを見てよ!」
「レッドさん……」
みんながレッドに注目する。
すると。
プシュウウウウウゥッ!
「……スキル……シヨウ……」
「頭から湯気が出ちゃってる! レッドは難しい話をすると頭がパンクしちゃうんだよ!」
「え? 今、私、難しい話をしてましたか?」
「レッドにとっては難しいんだよ!」
「……スキ……スキ」
ダメだ。壊れかかっている。
「ブルー。なんとかしてあげて」
「これ以上、私にどうしろと」
「もっと、かみ砕いた説明を」
「ここから、さらにかみ砕くのですか? その場合だと……う……」
ブルーが考え込んでいるが、何も案が出てこないようだ。
いったい、どうすれば。
クイクイッ!
誰かが、私の袖を引っ張っている。
見ると、ブラックが私に何かを渡してきた。
「どうしたの?」
「……ん……」
「これを見れば、いいの?」
こくこくと頷いた。
仕方ないから、見てみよう。
紙には絵が描かれていて、それが四角い枠で区切られている。
もしかして、これは漫画というやつかな。
ストーリー仕立ての四コマ漫画になっている。
しかも、けっこう長い。
「もう、ブラック。遊んでちゃダメでしょ。今はブルーが解説中なんだから」
「……ん……」
「何? レッドに渡してくれって?」
ふたたび、こくこくと頷く。
まあ、がんばって描いたみたいだし、渡してあげよう。
「なんだよ、これ」
「ブラックが見てくれって」
「しょうがねえな、どれどれ……これは」
レッドの手がプルプルと震えている。
何があったんだ。
「……すげえ」
「レッド?」
レッドの瞳がうるんでいる。
本当に何があった。
「そうか! スキルの使用回数か! はははっ! なんだ、簡単じゃねえか! ここに全部、答えが書いてある!」
どういうこと?
まさか、あの漫画って。
「ブラック。あなたはレッドに解説したくて、この漫画を」
「……ん……」
「おまえ天才だよ。マジで助かった!」
「……ん……」
いやあ、お世辞抜きですごいな。
というわけで、ブルーの解説が再開された。
「以上で、一区切りですが、ここまでで、何か質問はありますか?」
手が挙がった。
「はいはーい」
「グリーンさん。なんですか?」
立ち上がって、意見を述べる。
「ねーねー。いつまで、こんなつまんない話を続けるつもりなのー。もう、飽きたんだけどー。こんな部屋の中にいないでさー。早くダンジョンに連れっててよー」
うん。はっきり言いすぎだ。
「……うぅ。私の話って、つまらないんでしょうか」
「そ、そんなことないよ。面白いよ。でも、さすがに長いかな」
たしかに、転職もしたのに、まだ一度もダンジョンに潜っていない。
早く試してみたい気持ちはわかる。
「わかりました。明日はダンジョンに行きましょう」
「やったー」