6 初ミーティング
「ミーティングか……」
冒険でもっとも重要なのは、下準備だとよく言われる。
ダンジョンをただ闇雲に探索すればいいわけではない。
その特徴や採取できるアイテム、出没するモンスターなどを事前に調べておき。
さらに、そこから必要になる消耗品や装備を用意しておく。
パーティー編成だって重要だ。各々の動きをきっちり決めてシミュレートする。
全員がバラバラに動いていては、パーティーにならない。
「まずはみんなと話し合いしなくちゃね。冒険はそこから始まるんだもの」
というわけで、私は待ち合わせ場所であるギルドに向かっている。
「ピンク。みんなにはちゃんと伝えてくれたのよね」
「うん。ギルドの広間に集まるように言ったよ」
「日時は?」
「朝の7時。遅れないようにって」
上出来だ。
それではギルドに行くとしよう。
「まだ6時30分だよ」
「いいの。みんなと冒険したくて待ちきれないの」
というより、みんなとお喋りしたい。
仲間同士でワイワイするのって、まさにパーティーの醍醐味って感じで好き。
――カランカラン
ドアを開けると、広間のテーブルでは冒険者たちが談笑や打ち合わせをしている。
やる気があっていいな。
さて、私も頑張らないと。
「……ん? あれは……」
テーブルに一人で腰かけている人がいる。
しかも、人気がある窓際の席だ。たぶん朝一番に来て座っているのだろう。
読書しているみたいだけど。
「ステラちゃん。彼女はブルー」
「ブルー?」
「うん。私たちの中で一番しっかりしてる子」
たしかに。落ち着いた雰囲気。
上着も綺麗にたたんで置いてあるし、几帳面な性格のようだ。
変な言い方だけど、私と同じ顔なのに私っぽくない。
「おはようございます」
「おはよう。早いね」
「ええ。時間にルーズなのは嫌いなので」
本当に私っぽくないな。
「ステラさんも十分早いですよ。待ち合わせの30分前。立派だと思います」
「あ、ありがと」
「緊張してます?」
「ううん。座るね」
私が向かいの席に座ると、ブルーは本を閉じた。
「ちょうどいいので、少し話しておきましょう。ステラさんは能力診断というものをご存知ですか?」
「知ってるよ。ギルドでできる奴だよね」
「やってみました?」
「うん」
「そうですか? 実は私も先ほど試してみました。結果を見せましょう」
名前 ブルー
職業 勇者
攻撃 B
防御 A
素早さ A
技量 S
魔力 SSS
魅力 A
「うん。高いね」
「ピンクさんにもやってもらいましょう」
「わかった」
名前 ピンク
職業 勇者
攻撃 A
防御 B
素早さ A
技量 A
魔力 S
魅力 SSS
「うん。高いね」
「ええ。高いですが。それ以外に何か気づく点はありませんか?」
ピンクが答えた。
「私は魅力が高いけど、ブルーちゃんは魔力が高い」
「そうです。どうやら、私たちはそれぞれ得意なことが違うようなのです」
おお。そう言えば、私は技量が高かったな。
「そこで、私たちは職業を変えようと思います。もちろん、勇者であるステラさんは例外とします」
転職するということか。
職を変えるには神殿に行くことになってる。
または、神官に変えてもらうか。
神官は大きな町には必ずいるので、すぐに会いにいける。
「勇者というのは、なんでもできる万能職ですが器用貧乏になりがちです。それに万能ですが、完璧というわけではありません」
ブルーが言っているのは、職業補正のことだろう。
例えば勇者は魔法を使うことはできるが、極めることはできない。
もしも極めたいなら、魔法の専門職、つまり魔法使いにならなければならない。
他の職業も同様だ。それぞれにメリットがあり、勇者には不可能なことができたりする。
「職業については各人の意見を参考に、バランスを考えた組み合わせにしていきましょう」
「すごい。今、私たち話し合いをしてる。ミーティングをしてるよ」
「……そうですね。というか、そのために、私たち集まってるんですよね?」
いい感じだ。私たちパーティーのこれからについて、真面目に話し合ってる。
あとは、これで全員揃えば、言うことなし。
「待ち合わせ時刻まで、もうちょっとあるし、隣でモーニング買ってこよう」
「モーニング?」
「そうなんだよピンク。ギルドの隣にはカフェがあってね。そこのメニューなら、ギルドに持ち込んでいいことになってるの」
「ええ。すごい」
「格安のモーニングセットがあるんだ。一緒に行こう」
「うん。行く」
「ブルーも何かいる?」
「では、私はコーヒーを」
それから、私たちはのんびりくつろいだ。
「もう、7時すぎてるよ。ステラちゃん」
「うーん。もう少しだけ待とうか」
「無駄だと思いますよ。あと、あそこの時計はずれてるので、本当は8時をすぎてます」
「……なんで、来ないの」
「さあ、私に聞かれても。彼女たちの保護者ではないので」
ダメだ。このまま、待ってても時間がつぶれていくだけだ。
「探しに行こう!」
私たちは仲間であり、みんなでパーティーなのだ。
誰一人、欠けることがあってはならないのだ。
「……そうですか」
「不満ある?」
「いえ。では、私はここで待ってます。いれ違いになると困るので」
そんなわけで私とピンクはギルドを出て、残りのメンバーを探すことにした。