第53話 救援要請
職業:勇者
備考:クエストよくできました。満点です。勇者としての活躍を期待しています。
「ミリアが……」
あのミリアが、女神ローザに褒められてる!
なんということだ。
ありえん。これは夢か何かか。
「現実ですよ」
ヨルクさんが補足する。
「『少し見ない間に、ずいぶんたくましくなった。成長したね(涙)』と言っています」
ドロップ品が『鏡の涙』だから、そこにかけているんだろう。
「おお。ありがたいお言葉……よかったね。ミリア」
「……ぐすっ……ひっく」
「こらこら。泣いちゃダメだよ」
「うわあああああん!」
まったく泣き止まなそうである。
――ドスン!
「……あたっ」
何か落ちてきた。
見ると、雫の形をしたブローチ。
私の頭にくっついている。
「これ『鏡の涙』ですよね。私、ローザ様に献上したはずだけど」
「『特に必要がないから、おまえにやる』と言っています」
「……い、いい加減すぎる」
言っても、神さまは要らないか。
涙なんて、縁遠そうな性格してるし。
「レイラントさん」
「冗談ですよ~。涙に濡れたローザ様、素敵です~」
もともとミリアのためのクエストだから、私もドロップ品には興味がない。
「ちなみに、効果はあるの?」
「持っていると、自動でリフレクを張ってくれるそうです」
ブルーが教えてくれた。
けっこう、良さそう。
「確率は80%です」
「100%じゃないのか。じゃあ、要らない。戦略に組み込めないし」
私は、確実なもの以外は信用しない。
というわけで、ミリアにあげておこう。
で、家に帰ってきた。
――キラキラ!
おお。さっそく胸のところにブローチを取り付けてる。
しかも、なんか顔を赤らめて……。
「どうですか? 似合いますか?」
「……いいと思うよ」
すると、彼女は満面の笑みを。
ほんと、子犬のような従順ぶりである。
「うーん。ここまでされると……」
やりにくい。
生意気だったミリアも、ちょっと恋しい。
あと、『鏡の涙』は適当にあげたものだから。
そこまで、大事にされても困る。
「ステラさん。ところで、私に聞きたいことがあったんじゃ」
「え……あっ、そう言えば」
吸血鬼ドラギドが『勇者戦線に向かうといい』と私に言い残した。
その言葉の真意について、彼女に教えて欲しかったのだ。
「勇者戦線?」
「うん。ミリア、知ってる?」
「はい。それは勇者と魔族が戦った最前線。おそらく、トラル渓谷を指してると思います」
さすがはミリアだ。
伝説の勇者に憧れてるだけあって、すらすら答えが出てくる。
「けど……」
「けど、何?」
「違うかも。その言葉にはもう一つの意味があって。勇者に詳しい人なら……」
ミリアは本棚をひっくり返して、何かを探している。
わりと難しい話だったのだろうか?
「……あった。これだ」
基地、と表題に書かれている。
「勇者戦線とは隠語で、本当の意味は『勇者の秘密基地』。ファンの間では『エリュシオン』って呼ばれています。楽園みたいな意味で」
「へえ。その基地はどこにあるの?」
「それが分からないんです。誰も居場所を突き止められなくて。そればかりか、形も大きさも分からない。中には、作り話だって言う人も」
勇者って秘密主義者だったんだろうか。
まさか、住居すら見つかっていないとは。
つまり、ドラギドは私に『勇者の基地』へ行かせたかったのか。
でも、場所が分からないから、向かうことはできないと。
どうすれば、いいんだ。
「ミリア。ありがとう。参考になったよ」
「はい。私でよければ、なんでも聞いてください」
この件は、保留だな。
「さて……」
それじゃあ、いつも通り働くとするか。
☆
ギルマスに呼び出された。
「ステラ。おまえに仕事を頼みたい」
「待ってました!」
「やる気だな」
「暇だったもので」
どんな仕事だ。
討伐か? 護衛か? アイテム収集か?
「救援要請が出ている」
救援? これまた変わった依頼だ。
「しかも、ステラ。相手はおまえを指名してきている。おまえ以外では意味がないと念を押されてな」
勇者だからか。
この世界では、勇者にしか開けられない扉や、入れないダンジョン。出られない大会。出会えないモンスター。ドロップしないアイテム。
その他、さまざまな特権がある。
転職には女神からの許可が必要なのだ。
それだけの利点はあってもいいだろう。
相手は、私の勇者としての力を欲していると。
「いや、そうじゃない。勇者なら他にもいる。相手は『ステラ・レイラント』を指名してるんだ」
「????」
「まあ、そうなるよな。正直、俺も戸惑っている」
「依頼者は? 要請を出してきているのは、どんな人物なんですか?」
「相手の名前は、『メアリ・クロフォード』と言う」
「……メアリ……」
はて? どこかで聞いたような……。
「……ああっ! なんだメアリか」
「知り合いか?」
「ええ。同じ釜の飯を食べた仲です」
メアリ・クロフォードは、賢者さまの一番弟子。
私にとっては、姉弟子にあたる間柄だ。
もちろん、顔なんて見知っている。
勇者としての修行中は、ほとんど隣にいたぐらいだ。
「それじゃあ、救援っていうのは……」
「ああ。だいぶ話が掴めてきたな」
要するに、彼女の職業に関することだろう。
メアリの職業といえば……。
「『聖女メアリ・クロフォード』からの救援要請だ。ステラ。おまえに頼みたい」
「はい。任されました!」
そうと決まれば、準備だ。
みんなを集めよう。
☆
(sideメアリ)
しくじった。
私としたことが、こんなヘマをやらかすなんて。
「……はあ……はあ」
しかも、下水路を走らされてる。
何もかも予定外だ。全て狂わされてる。
時間をかけて練った計画だって、このままじゃ破綻してしまう。
「クリーン!」
魔法を使って、服の汚れを落とす。
「……はあ……」
修道服が重い。
水を吸いこんだせいで、体に張り付いて、うっとおしい。
「……脱ぐか」
いや、やめておこう。
あの娘はおっとりしてるところがあるからな。
恰好が違うと、私だと気づかないかも。
出口はもう少しなんだ。
地上に出たら、そこで服を乾かして。
「スロロロッ!」
「……はあ……え?」
このおかしな笑い声は……。
「待ってたぜ。ずいぶんと遅い到着だったな」
「……」
「予想外って、顔つきだ。まさか、オレから逃げられるとでも?」
「……くっ」
こいつが悪いのだ。
こいつが、私の予定を狂わす最大の要因。
「もう! あんた、しつこいのよ!」
「スロロロッ! よく言われるぜ! 俺にとっては誉め言葉だ」
ああ、うっとおしい。
でも、太刀打ちできない。
全てにおいて、私の先を行かれている。
これが、魔族か。
「……諦めないわ」
少しでいい。時間を稼ぐ。
「テレポート!」
≪テレポート≫
難度 ★★★★★★
属性 光
使用回数 10/10
成功率 100%
説明 瞬間移動術。 着地地点は、ランダム。
私の体が光に包まれていく。
目の前にいる男が、ニヤリと笑みをこぼした。
「下水路の次はどこだ? 山か? 海か? 空か? どこに逃げようが同じだけどな。オレは地の果てまでおまえのことを追い続けるぜ」
「……」
「あと、五回だ。せいぜい、あがくんだな」
言われなくても。
――ブイイイイン!
「……ここは」
どこだろう。
テレポートは大した距離は移動できない。
ここもきっと近くの町だろうけど。
お店のようだ。
私の前では、店員が客の案内をしている。
「アミューズメントパークです。最近、建てられたのですが、ご存知ありませんか?」
「……アミューズ……」
これだ。
今、ピンと来たわ。
私に舞い降りた一つの希望。
このテーマパークを利用すれば、あの魔族の裏をかける!
「すみません。言伝をお願いできますか」
「はい」
「ステラ・レイラントという娘が来たら、このメッセージを」
ステラ。何をやってるの? 早く来なさい。
私には、あなたの力が必要なの。




