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4 勇者、仲間をもらう


「ええええええっ! 勇者さま凄すぎですううううううっ!」


 このリアクション、毎回やらないといけないんだろうか。


「何もすごくありませんよ」

「いえいえ。謙遜しないでください。ドラゴンですよ、ドラゴン。あのドラゴンをソロで倒したっていうんですよ。やばくないですか」

「やばくないですよ」

「いえ。やばいですよ。断言します。ドラゴンはやばいです!」


 本当はドラゴンじゃなくて、ドラゴンに化けていた賢者さまだったんだけど。

 説明が面倒なので、省いている。


「問題はそこではなくて、パーティーの件」

「はい。オーク顔のおじさんにふられちゃったわけですね」


 私なりに頑張ったつもりだったんだが、ロディにははっきりと断られてしまった。


「もう一度、新しいパーティーを紹介してください」

「それだと、コボルト顔のショタになっちゃいますが」

「構わないです」

「年上の包容力より、生意気系のショタの方がいいと」

「ええ。なんでもいいです」


 今の私に必要なのは、とにかく訓練を積むこと。

 いろんなパーティーに入って、協調性を磨いた方がいい。


「私に提案があるのですが、よろしいですか」

「え? はい。どうぞ」

「賢者さまに相談しちゃったら、いいんじゃないでしょうか」

「ダメです!」


 いきなり、何を言い出すんだ。

 そんなもの、ダメに決まってる。


「賢者さまなら、どんな難題でもあっさり解決しちゃえると思うんですが。それに弟子である勇者さまの頼みなら、まっさきに応じてくれるでしょう」


 正論のように聞こえる。

 だが、私は知っている。

 それは悪手。やっちゃいけない手なのだ。


「受付嬢さんは、何もわかっていないんです。いいですか。賢者さまは魔法使いとしては優秀でも、人間としてはクズ。他人のことを玩具か何かと勘違いしているんです。あの人に悩みを打ち明けて、かつて私がどんな目にあったか。それはもう語るに恐ろしい……」


 受付嬢が私の後ろを指した。


「あっ、あんなところに賢者さまが」

「きゃああああああっ!」

「かなりのトラウマなんですね。よくわかりました」


 まったく驚かせないで欲しい。

みっともなく叫んじゃったじゃないか。


 わざわざ先生がいないときを狙って、ギルドまでやってきたのだ。

 その辺りで盗み聞きしているということはないだろうけど。


「でも、私には賢者さまは優しそうに見えますけどね。天使のように、かわいらしいし」

「見た目だけ! あくまで見た目だけはね! 化けの皮がはがれたら、ひどいものですよ」


 受付嬢さんは誤解しているようだ。

 釘を打っておこう。


「絶対に言わないでくださいよ。もしも、私が仲間が欲しいことが賢者さまに知れたら、大変なことに」

「わかってます。こう見えても、口は固い方なんです」

「頼みますよ」


 これでよし。

 私は肩を撫でおろす。

 すると、受付嬢がクスッと笑った。


「それに、もう知っちゃいましたし」

「……は?」


 言ってる意味がわからない。


「あれ? まだ気づかない? 鈍いなあ。こんな鈍い子に育てたつもりはないんだけど」


 これって、ひょっとして。 


 ――ドロドロン!


「そう。わしじゃ。大賢者カルネさまじゃ」


「きゃあああああっ!」


 しまった。

 すでに受付嬢に化けていたなんて。


「そうか。パーティーを追放されたか。それで仲間が欲しいと。よーくわかったぞ」

「いいえ! 欲しくないです! 嘘です! 冗談です!」


 先生がにやりと笑った。

 怖い。何をするつもりだ。


「そうおびえるな。ちゃんとおまえにぴったりの仲間を用意してやる」

「嘘ばっかり。どうせろくでもない人だ」

「嘘じゃないぞ。もうすでに目星はつけてある」

「ウソ」

「わしは賢者じゃぞ。交友関係は広い。さらに、おまえのことは小さいころから知っておる。おまえの好みなんぞとっくに把握しておる」


 信頼できる仲間。

 私の実力に見合った私にふさわしい仲間。


 本当にそんな人がいるなら、うれしいけど。

 いや、だまされるな。絶対に危ないことだ。


 ★


 といっても、私が先生に逆らえるはずもなく。


 ギルドの奥にある控室。


「このドアの先に仲間が……」

 

 先生は5人の仲間を紹介すると言っていた。

 その5人は私にぴったりの相手で、最初は動揺するかもしれない。


 でも、そのうちきっと分かり合える。

 そして、最後には大好きになれる。

 理想的な仲間なのだと。


 正直なところ、期待はしていない。

 部屋の中が化け物の巣窟になっていても別に驚かない。


 けど、興味はある。

 ちょっと話して良い人そうだったら、お試しで仲間になってもいい。


「……ふう。緊張するな」


 ――ガチャ


 私はゆっくりとドアを開けた。


「失礼します」


 椅子が五つ並んでいて、それぞれに人が座っている。

 体型からして、みんな女の子のようだ。


 よかった。とりあえず、化け物ではないようだ。

 でも、こちら側からだと顔が見えないな。


「……」


 みんな黙り込んでいる。

 わたしのように、賢者さまにムリヤリ連れて来られたんだろうか。


 私は後ろから話しかけた。


「今日は集まってくれてありがとう。先生から聞いてるかもしれないけど、私の名前はステラ・レイラント。よければ、みんなも自己紹介してほしいな」


 五人とも動かない。

 一人が隣に話しかけた。


「ほら、呼ばれてますよ。自己紹介ですって」

「はあっ! なんで、あたしに振るんだよ」

「それは……あなたが左端に座ってるから。この場合は左端から順番に自己紹介していくのが正しいと思います」

「知るか。それなら、そっちの右端の奴でもいいだろ」

「…………ん」

「なんか喋れよ」

「じゃあさ、じゃあさ、ここは私がやるー」

「いえ。ダメです。ここは左端のあなたからやるべきです。それがもっとも正しいんです」

「しつこい奴だな。なら、言い出しっぺのてめーがやれよ」

「だから、それがダメだと何度言わせれば」

「あわあわ。ケンカはよくないよう。いつまでも待たせるのはよくないし。とにかく、みんな立ち上がろうよ」

「そうですね。同時に立ち上がりましょう。そして、自己紹介はあなたから」

「ちっ。分かったよ」

 

 五人は一斉に立ち上がった。

 それから、一斉に振り向くと、各自であいさつを始めた。


「あたしはステラ・レイラントだ。よろしく」


 一人目が言った。


「私はステラ・レイラントです。 よろしくお願いします」


 二人目が言った。


「やっほー。ステラ・レイラントだよー。よろしくねー」


 三人目が言った。


「ステラ・レイラントと言います。これから仲良くしましょうね」


 四人目が言った。


「…………ステラ・レイラント」


 五人目が言った。


「……なっ」


 私は開いた口が塞がらなかった。

 なぜなら、五人ともそろってみんな同じ顔。ステラ・レイラントの顔をしているのだ。


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